【プレシア・テスタロッサ】
第97管理外世界で発生した、指定遺失物『ジュエルシード』を巡る次元干渉犯罪の容疑者。違法研究者としての余罪も多々あり、真相究明が待たれる。旧暦時代に放棄された筈の移動要塞『時の庭園』を再稼働させて拠点としていたが、自らの手で崩壊させると共に虚数空間へと消えて行った。
Side:なのは
目を覚ますと、何故だか知らない天井を見上げる形となっていました。不思議に思って周囲を見渡せば、アースラ内の隊員用個室と思われる場所のベッドで寝かされており、【レイジングハート】に事情説明を求めたところクロノさんが寝易い様にと気を利かし、魔法で空き部屋へ牽引してくれたとの事でした。
紳士的で大変有難いのですが、牽引される図が非常にシュールなので素直に背負って欲しかったような、残念なような……?
まぁ、何はともあれ。クロノさんに感謝をして、そろそろ自宅の方にも戻らないといけません。気配察知能力に長けた、お兄ちゃんやお姉ちゃんなら深夜(もしくは早朝)の緊急出動に気付いていると思いますが、お母さんやレンちゃん、晶ちゃんには予定とは違って早めに且つ何も告げずに飛び出したので、今頃は心配している様子が目に浮かびます。
[> クロノさん、少し宜しいでしょうか? <]
[> 如何したんだ、“なのは”? <]
感度良好。念話に支障は無いようです。
[> その前に、まずは御礼の方を……。ベッドへ運んで頂き、有り難う御座いました。とてもよく眠れました <]
[> 嗚呼。如何致しまして <]
[> 次に御願いなのですが、一度帰宅しても構わないでしょうか? <]
[> ん……? 済まない。まだ伝えてなかったな………… <]
クロノさん曰く、先の中規模次元震や虚数空間の影響で次元空間が歪んでおり、安定するまでは物質転送や次元間通信すら
えぇ、はい。早くも詰んでしまいました。
もしかしなくても、無断外泊となるので説教は免れないでしょうし、怪我もしてしまった為、それはもう
取り敢えず、暫くの間はフェイトさんと何時でも会えるという事で前向きに考え直して、雑念は思考の片隅へと追いやる事にしました。如何しようも出来ない事よりも、如何にか出来る事をやった方が有意義でしょうから。
[> 申し訳無いが、転送ポートが使える様になるまでは其の部屋で寝泊りして貰いたい。食事は食堂で、なるべく僕かエイミィが付き添うようにするつもりだ。それと、着替えに関してはエイミィが見繕うと言ってたから、あとで本人に聞いてみてくれ <]
[> 了解です <]
それから折角なので、フェイトさんとの面会時間の都合を聞いてみると、仕事の切りが丁度良いという事でトントン拍子で話が進み、10分後にはクロノさんがスクライアさんを連れた状態で迎えに来てくれました。
何故、スクライアさんもなのか?
………
……
…
そして訪れたのは隔離病室のような場所で、中央のベッドにはフェイトさんが横たわっており、アルフさんがその傍らの椅子に座っていました。今現在、監視役の女性隊員には席を外して貰っているので、この部屋に居るのは関係者のみとなります。
「アルフさん。其処を代わって貰っても良いですか?」
「嗚呼、構わないよ」
こうして椅子を譲って貰い、私はフェイトさんの傍らへ。アルフさんは、クロノさんとスクライアさんの元へと向かいました。さて、まず初めは無難に体調でも聞いて、次に魔法に関する雑談とか、色々と話し合いたい等と考えていますと、何時の日かの様に機先を制されてしまいました。
「ミス高町」
「はい。何でしょうか、フェイトさん?」
「また……、私の邪魔をしに来たんですか?」
~~
Side:フェイト
ミス高町が私に会い来るという事は、つまりはそういう事でしか無く、本当はもう邪魔される事など無いと知っていても、溢れ出る言葉は自然と辛辣な物となってしまいました。彼女が為した事は正しく、私が為した事は間違っていて、正義が為されただけだと言うのに虚しくて堪らなかった。
リニスから託されていた『ドクターを支えて欲しい』という願いは果たせず、私は傷が癒えれば
こんな筈じゃ、無かったのに……。
ずっと寂しかった。幸せになりたかった。叶うのならば、リニスとアルフと私の三人だけで生きて行けたら、どんなに良かった事だろう。たったそれだけの、有り触れた幸せにすら手が届かないのに、私は何で生きているの…………?
「うんん。もう邪魔はしないから、思いっきり泣いちゃっても良いんじゃないかな?」
鋭く。重く。痛みすら覚えるのにとても嬉しくて、苦しくて、受け入れて良いはずが無いのに。抑えていた嗚咽が漏れ出してからは、もう如何しようもありませんでした。
「っ…………あぁ……」
思考が更に鈍って行く。今はただ、この熱に焼かれていたかった。
~~
Side:なのは
辛そうだったから、ちょっと
10分程経って、落ち着いた頃。
視線で止めるのも疲れたので、フェイトさんに駆け寄りたがっている挙動不審なアルフさんからは目を逸らし、「それじゃ、またね」とフェイトさんに告げて部屋を後にしました。泣き止んだとはいえ、心情を安定させる為にも日を改めた方が良いと思ったのです。
「――――なので、近日中の再面会をどうか宜しく御願いします」
そして、一緒に廊下へと出て来たクロノさんに其の様な御願いをしてみたところ、条件付きの返答を頂きました。
「それなら近日と言わず、明日にでも面会が出来るように調整しておこう。……但し、なるべく努力はするが、今後も連日だったり数時間に渡るような面会は難しいという事は承知して貰いたい」
「分かりました。有り難う御座います」
それからクロノさんは、職務へと復帰する為に小走りで何処かへと去って行き、程無くしてスクライアさんが部屋から出て来ました。後の事は監視役の女性隊員が対処するとの事で、目的を無くした私達は、取り敢えずスクライアさんが寝泊りしている部屋へ立ち寄ることにしました。
「備え付けの物だけど、『飲み物』をどうぞ」
「有り難う御座います。…………なるほど。これが『飲み物』……」
そうやって差し出された、『飲み物』と無難な翻訳が為された異世界ドリンクを一口飲んでみましたが、色は澄んだ茶色というか紅茶その物ですけど、後味が
「“なのは”さん、御願いがあるんです……。如何か、レイジングハートを貰って頂けないでしょうか?」
「……
共に戦って来た間柄なので、貰えるのなら欲しいとは思います。しかし、【レイジングハート】は武装隊の方々やクロノさんが持つデバイスとは明らかに一線を画するデバイスで、更にクロノさん曰く私は未登録魔導師です。つまり現状は、無資格で扱っている状態ですし、そもそも【レイジングハート】はスクライア一族の共有財産と聞いておりますので、そう簡単に了承が得られるとは思えません。
「確かに、問題は幾つかあります。なので将来的に解決された暁には、受け取ってくれるという確約が欲しいんです」
何故、其処までして受け取って欲しいのでしょうか? 他の人と比べてみて、魔導師として多少は優れているのではと思わない事もありませんが、それは戦闘スキルに限った事だけですし、【レイジングハート】だって性能的に戦闘を考慮されているだけの非軍事品で、本領は別の所にある筈です。
だからこそ、今は戦闘しか“能が無い”私にそんな特別な物を贈られても、宝の持ち腐れとなる事は明らかでした。
「…………分かりました。お約束致します」
しかし結局のところ、私はそれを受け入れる事にしました。熱心な申し出を断るほどの確たる理由は無く、丸く治める為にも此方が折れるべきだと思ったのです。
ところで……。
今後は一体、如何なるのでしょうか? ふと気付けば何もかも知らない事ばかりで、フェイトさんの処遇や、魔導師として私は登録するべきか否か、それ以前に次元空間を隔てた交流が可能かも分からず、随分と間が抜けていたのだなと自覚しました。
取り敢えず、食事時にはクロノさんかエイミィさんが付き添ってくれるとの事なので、夕食の時にでも尋ねてみようと思います。
Side:アリサ
[> 御掛けになった番号は、現在電波が届かない場所に有るか、電源が―――― <]
「ジーザス。やっぱり駄目ね……」