魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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デバイス紹介
【バルディッシュ】
近距離戦及び中距離戦に特化したインテリジェントデバイス。使い魔として、プレシアから魔導工学の知識を共有しているリニスが作り上げたフェイト専用のデバイスで、対魔導師戦を想定した工夫が随所に見受けられる。取り分け、フレームの強靭性はミッドチルダのデバイスとしては特出しており、近距離戦主体のアームドデバイスと比較しても劣る事は無い。



第23話:それぞれの思惑なの

Side:クロノ

 

「通常なら、次元干渉犯罪に関わった者は無期懲役となるんだが……」

「つまり、フェイトさんは例外になるのでしょうか?」

「詳細は話せないが、そうしてやりたいとは思っている」

 

 夕食時。エイミィと共に、“なのは”とユーノを誘って食堂で喫食をしていると、“なのは”からフェイトの処遇を尋ねられたので、その様に言葉を濁しておいた。

 

 言い方は悪いが、“なのは”は今回の事件における最大の功労者ではあるものの、幾ら配慮をしたところで彼女はあくまでも現地協力者。これ以上の事となれば内部機密の情報を含んで来るので、おいそれと話す訳にはいかなかった。

 

 ただ、それでも彼女は納得してくれた様で、「地球からミッドチルダへ渡航が出来るのか?」だとか、「これまでの様に日常を送っても良いのか?」といった内容の質問へと話は変わり、僕はそれらに対して説明を挟みつつ“可能ではある”と答えて行く。

 

 今後も定期航行が可能となるかは不明だが、彼女の功績を(かんが)みれば一度や二度くらいミッドに招待しても構わないだろうし、魔法文明が無いこの世界では、魔法をみだりに使わない事を条件に、日々を過ごして行くという選択肢も当然ながら存在する。しかし、だ……。彼女の才能を思えば、それは勧め難い選択肢でもあった。

 

 産まれ持った膨大な保有魔力と、万障(ばんしょう)を捻じ伏せる戦闘技能。

 

 正に、希代の大魔導師としての資質を持ちながら、こんな次元世界の片隅で生きて行くなど“あまりにも惜しい”と感じてしまう。それは収監されているフェイトもまた同様で、彼女達はもっと大きく羽ばたける筈なのだ。だからこそ、機会を得て知って欲しいと僕は願う。――――こんな人生も、選んで行けるのだと。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 一体、何がクロノさんの琴線に触れてしまったのでしょうか……? ちょっとした質問のつもりでしたが、何時の間にか時空管理局の紹介へと話が()り替わっており、社会授業の様相を呈して来ました。

 

 決して、興味が無い訳ではありません。

 

 しかし日本人的な物の見方で語るのならば、ミッドチルダは未成年者を仕事に就かせる明らかなブラック世界ですし、『大人になる為の猶予期間』――――所謂(いわゆる)、“モラトリアム”を経ずして社会人となる事には、大きな不安と抵抗感を覚えてしまいます。それに、お母さんの後を継ぐ夢を諦めている訳では無いので、魔導師として働くのは次点の候補止まりなのが現状です。

 

 そんな感じで時間は過ぎてしまい……。結局のところ、私は魔導師として登録すべきか否かは尋ねる事が出来ませんでした。また日を改めて、確認したいと思います。

 

 

 

 そして翌日。

 

 

 

 気が遠くなるような夜を経て、私はクロノさんによる立ち会いの下、二度目となるフェイトさんとの面会に臨みました。今までの事、これからの事、伝えたい事、聞きたい事。思う事は多々あれど、やはり迷走していては進む事すら儘ならないので、まずは伝えようと意気込んでいたのですが……。

 

 フェイトさんと向き合って早々、彼女から困惑と疑念の視線を向けられた私は、もしかして緊張を気取られてしまったのだろうかと思い当たり、心を抑え付けてから、努めて冷静に尋ねました。

 

「もしかして、迷惑だったかな……?」

「そうじゃなくて、その…………」

 

 長い沈黙。しかし急かす事は無く、唯々待ち続けました。

 

「如何して、私に気を遣ってくれるんですか……? あんなに酷い事をして、敵だった筈なのに…………」

 

 それに関しては、お互い様のような……。確かに、左手を物理的に切り落とされかけましたが、此方は非殺傷設定とはいえ戦略兵器も斯くやと思われる魔法をぶつけましたし、これまでの撃墜数を鑑みれば、酷いのは此方ではないのでしょうか?

 

「ずっとね、フェイトさんとは仲良くなりたいと思っていたの」

 

 まぁ、それはさて置きまして。本題へと移ります。

 

「えっ……?」

「ジュエルシードは災いでしかない。そう気付いてからは、協力し合って、迅速に回収してしまいたかった。――――初めはそれだけが目的だったんだけれど、戦っている内に会うのが楽しみになって、今は会話する機会が得られて凄く嬉しいと思っている私が此処に居るの。だからもし、フェイトさんが許してくれるのなら……。私と、友達になってくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 やっと言えた……。

 

 

 

 

 

 

 言い切ってしまいました。これでもう、後戻りは出来ません。本当は、直感的に惹かれているだけなのに。言葉になんて上手く出来る筈が無いのに。沢山の魔法と、少ない言葉を交わしただけの仲でしか無いにも(かかわ)らず、私は“離れるのが寂しい”から、こうして浅ましくも繋ぎ留めようとして、やったのです。

 

 何と愚かな事でしょう。

 

 我ながら幼稚で拙く、酷い方法だと思います。(もっと)もらしい虚飾を施した、不誠実な告白を考えて考えて考え抜いて、私は事此処に至りました。これが確実だと思ったのです。これがスマートだと妄信したのです。時間が無いのなら、機会が少ないのなら、せめて(くさび)だけでもと足掻いてしまって――――

 

「ミス……。ミス高町は……、……本当に、私なんかで…………良いの……?」

「うん。私は、フェイトさんが良いな」

「ありがとう……。ミス高町…………」

 

 その答えに、私は安堵感と罪悪感で胸が詰まり、張り裂けてしまいそうでした。

 

 

 

~~

Side:クロノ

 

[> ううっ……。二人共、とっても良い子だねぇ……。(;∀;) <]

[> 何故、エイミィの方が号泣しているんだ……? それと僕の感動を返してくれ <]

[> クロノ。女の子は多感なんだから、そっとするかフォローしなきゃ駄目よ? <]

[> ……艦長、それとこれは別問題だと思います <]

 

 艦内であれば、秘匿状態で映像監視が可能である部屋は多々存在する。フェイトが収容されている集中治療室もまた同様で、先程の“なのは”とフェイトの会話風景を上位者権限で覗いていたエイミィと艦長が、何故か僕を巻き込む形でテキストチャット形式による感動の共有――――という名目のガールズトークが為されていた。

 

 テキスト入力自体は、低度なマルチタスクを用いて思考入力するだけではあるものの気が散ることは避けられず、先程の苦言へと至るという訳だ。しかし悲しかな。理論的な話ならともかく、感情的な話に関しては女性陣が秀でており、人数も1対2である。

 

 形勢は不利。そして意地を張る必要も無し。これが、女性の華やかさの源なのだろうと現実逃避を済ませたところで、先程とは違って和気藹々(わきあいあい)と話し合う“なのは”とフェイトを見て微笑ましく感じると共に、同時に申し訳無くも思った。

 

 

 

 幾ら言い(つくろ)ったところで、フェイトは重罪人である。

 

 

 

 無論、将来性や再犯性を考慮し、更には生来の不遇さを前面に押し出して減刑措置を求めるつもりだが、保護観察処分、魔力封印、次元世界間の渡航禁止令、社会への無償奉仕、更生プログラムの受講等、多くの制限を受ける事になるだろう。

 

 期間は短く見積もっても、5年から7年程……。艦長も各方面に働きかけるとの事なので、もう少し短くなるかもしれないが、それでも数年単位で彼女達の仲を引き裂かなくてはならないのだ。職務に私情を挟むべきではない。何時だって誰だって、思い通りに為らない事もある。そうと分かってはいても、これは辛い現実であった。

 

 

 

~~

Side:美由希

 

 今日は“なのは”が早朝に家を飛び出してから、2日目となります。昨日は、空気が震えるような突風とは言い難い現象が海鳴市だけではなく世界中で長時間観測され、多少の混乱や被害が生じていましたが、それ以外は特に何事も無く。“なのは”が居ないという異常を除いては、概ね平穏な日常風景が続いていました。

 

「ただいま、レンちゃん。“なのは”は帰って来てるかな?」

 

 昨日から、家族の皆が待ち兼ねている“なのは”の帰宅。おそらく大丈夫だとは思いますが、心配である事には変わりません。だから皆が皆、家へ帰って来る度に誰かへと尋ねたり、“なのは”の部屋を覗いてみたりしています。

 

「おかえりー、美由希ちゃん。“なのは”ちゃんなら、まだ見てへんなぁ……」

「そうなんだ……。御免ね、邪魔しちゃって」

「気にせんでもええよ。うちだって、気になってしゃーないですし……」

「今頃、何しているんだろうね……?」

「さぁ? 案外、宜しくやってんちゃいますかー?」

 

 うん。まぁ、あの強さなら多分何とかなってるような……。そう信じつつ、夕食のメニューやら御風呂の使用状況を聞いて、その場を後にしました。

 

 まずはシャワーを浴びて、夕食を食べて、学業の予習と復習をして、そして夜は恭ちゃんと御神流の鍛錬をして、またシャワーで汗を流したら、身支度を済ませて眠りに就く。そういった一見変わる事の無い日常を送りつつも、その端々に可愛い妹である“なのは”が居ないという非日常は何処か寂しく。一日でも早く、且つ無事に帰って来ることを私は心から願うのでした。

 

 

 

 


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