魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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デバイス紹介
【ルーンライター】
名前の由来は、インテリジェントデバイスの祖となった試作機“プログラマブル・ルーンライター”より。提督且つ艦長のリンディが前線に出る事は少なく、更に言えばデバイスが無くとも魔力操作に長けた彼女にとって、官給品デバイスは不要の物であった。その為、あっさりと“なのは”へ貸し出される事に……。一応、定期的に整備はされており、性能に関してもカスタム済みなので標準以上となっている。



【幕間編】
第26話:欠け行く非日常なの


Side:恭也

 

「それじゃ、ユーノ。達者でな」

「ユーノ君、向こうでも元気でね」

「はい。恭也さん、美由希さん。今まで有り難う御座いました」

 

 そうやって、ユーノ達を見送って暫し。当事者であった“なのは”は、共に戦い、友誼を交わした多くの仲間達を見送ったので、感慨も一入(ひとしお)とは思うものの……。これ以上此処に留まると、登校や出勤の準備にも支障を来してしまう。そんな時間となってしまっていた。

 

「そろそろ帰ろうか、“なのは”」

「うん。そうだね……」

「………………あの~、恭ちゃん。私は?」

「お前は勝手に付いて来るだろう?」

「うぅ……。私も妹なのに……」

 

 妹以前に弟子だからな。優しくすると直ぐにツケ上がるようでは、そう簡単にしてやれる物では無い。それにしても、“なのは”の様子も気になるが、仲裁役が不在である我が家も大丈夫だろうか? レンと晶が、派手に喧嘩していないと良いんだが……。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 悲しいとまでは行かずとも、寂しい別れから始まった朝は何だか時間や概念が狂っているかのようで、朝食は何時も以上に静かでしたし、あの晶ちゃんとレンちゃんが口喧嘩すらせず、並んで登校して行くという幻影を見てしまったような気もします。

 

 そんな変わった朝を経て、ふと気付けば通学バスへと乗り込んでいた私は、当然の様にアリサ捜査官に咎められてしまいました。勿論、その傍らには“すずか”補佐官も一緒です。

 

「それで、また何か有ったの?」

「実は今日、レンちゃんと晶ちゃんが仲良く登校してて……」

「あの二人が? 確かに驚きだけど、其処まで呆然とする程かしら……?」

「身近だからこそ、じゃないのかな? アリサちゃんだって、私が猫嫌いになったら驚くでしょ?」

「なるほど。それは事件ね」

 

 偶にではありますが、アリサちゃんや“すずか”ちゃんが自宅に訪れる事も有りまして、高町家の日常風景でもあるレンちゃんと晶ちゃんの喧嘩は、既に何度か見られてしまっています。『喧嘩する程、仲が良い』――――そんな次元を超越した技の応酬は、某格闘映画の如く凄まじく、アリサちゃんや“すずか”ちゃんがそれを初見した際に、ドン引きしていたのは懐かしい記憶です。

 

 そんなこんなで幾分か平静さを取り戻した私は、授業の傍ら並列思考でルーンライターの取り扱い説明書を熟読し、お昼休みは何時もの面子で過ごして、午後の授業を普通に受けたところで、待ちに待った放課後が訪れました。

 

「バイバイ、“なのは”ちゃん」

「それじゃ、“なのは”。また来週ね?」

「うん。バイバイ、“すずか”ちゃん。アリサちゃん」

 

 二人に別れを告げた後、私は通学バスには乗らず、人気が無い路地裏へと入ったところで結界を張り、バリアジャケットを纏いました。

 

 意匠に関しては、個人差ならぬデバイス差でも有るのでしょうか? レイジングハートの時は、元となった学生服の面影が色濃く残っていましたが、ルーンライターの場合は手甲を始めとした装甲部分が多数追加されており、ゲーム等でよく見かける板金鎧と洋服の中間のような装いとなっていました。

 

「これ格好良いね、ルーンライター」

[- Thank you. -]

 

 それとも、イメージする際にレイジングハートの物が被った結果、より洗練されてしまったのか……。真相は不明ですが、安全性が増す事には賛成なので、結果オーライという事にしておきます。

 

「それじゃ、試験飛行しよっか」

 

 そして私は、帰宅がてらの試験飛行を実施するのでした。垂直上昇、水平飛行、急旋回、急加速、急降下に急停止。たまにクルビットとも呼ばれる宙返りや、180度フックから後方を向いたままの飛行など慣性制御で遊んでみましたが、デバイスによる差は無きに等しいと思いました。

 

 あとは魔法の多重並行処理による負荷や、魔力の圧縮速度や充填可能容量を体感しておきたいのですが、もう間も無く自宅へ到着するので、残りのチェック項目は夕食等を済ませてからと為りそうです。

 

 

 

~~

Side:美由希

 

 学校からの帰り道。慌ただしかった日々は既に遠くへと過ぎ去り、身近だった危機も今では無くなってしまいました。だからこうして、心穏やかに帰宅する事が出来るのですが、1つだけ以前とは変わってしまった事があります。

 

「良いですか、二人共? 必殺技や絶招は、喧嘩で使っちゃいけません。仮令(たとえ)、その場のノリで使いたくなったとしてもです」

 

 それは、“なのは”への思いです。

 

「いや、だってレンの奴が、俺の限定焦がしプリンを勝手に捨てやがったから……」

「いやいや、あれは消費期限が切れとったやろ。むしろ、うちの気遣いに感謝せーや」

「あん? たった2日くらい良いじゃねーか!」

「2日“も”やろ! 衛生的に宜しゅうないわ、このすかぽんたん!」

「《 フープバインド 》」

「いだだだだっ?!」

「あ痛たたたっ!?」

 

 可愛い妹で、守るべき家族であった“なのは”が、ある日を境に魔法という力を得て、守る側へとなってしまいました。そして今回の事件を経て得られた自信は、今後もきっと、あの子を深みへと衝き動かしてしまう。……何となく、そんな気がするのです。

 

「あの~、“なのは”ちゃん……。お猿の頭に緊箍児(きんこじ)なら分かるんやけど、何でうちも嵌められとるの……?」

「たった今、口喧嘩をしたからです」

「なるほどなー……。御免なさい。とても反省しています」

「…………俺も悪かった。御免なさい」

 

 空を自由自在に飛行し、結界や転移に拘束、射撃や防御も卒無くこなせる。そんな凄い力を手にして平生のままで居られるとは思えませんが、優しく聡明な“なのは”なら、この先も道を誤ることは無いと信じています。

 

「それでは最後に、再発防止策を話し合って下さい」

「次からは、消費期限内にプリンを食べる」

「次からは、消費期限内にプリンを食わす」

「おい、てめーは俺の母さんかよ? ぐあああぁ、頭があああああ?!」

「ほんま、お猿は学……。あー、“なのは”ちゃん。うち、何も言うておらへんよ?」

「それじゃ、レンちゃんは先に解散で」

「あっ、一人だけ狡いぞ亀!」

「さーてさて、誰かさんの分まで夕食の仕込みをせななー」

「無視すんなゴラァ!!」

 

 しかし更なる力を求めたり、助けを求められた時は、躊躇いなく踏み込んで行ってしまう危うさを何処かに秘めているようで、それが末恐ろしいと思ってしまったのです。

 

 果たして、それは私の杞憂なのか、若しくは普段から無意識に感じ取っている危惧なのか……。取り敢えず、これまで以上に見守って行こうと決意しつつ、気を取り直すべく大きな声で帰宅を告げるのでした。

 

「ただいまー! って、うわ……。晶ちゃん、何しているの?」

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 あれから、少々の御話しと宿題を始めとした諸々を済ませ、万全を期して再開したルーンライターの機能試験ですが……。

 

 レイジングハートを基準とした場合、ルーンライターは其の7割程度にも満たない性能で、特に魔法の多重並行処理を任せた際の負荷がとても大きく、現状ではフェイトちゃんとの戦闘で多用した“高速誘導弾と炸裂誘導弾の混合弾幕”といった質と量の暴力は、ほぼほぼ不可能に近い。そう判断したところで、私はようやく諦める事が出来ました。

 

 これまで時間が無かったのも事実ですが、私は今までレイジングハートの性能に活かされて来たのです。その現実を受け入れてしまえば、これから為すべき事の方向性は何となく分かった様な気がします。

 

 “並列思考の効率化と多層化”、そして“魔法の記憶化”。その3つを優先しつつ、ルーンライターとも人馬ならぬ『人機一体』を目指して頑張ろうと思ったのでした。

 

………

……

 

 さて、そんな決意から約46時間が経った現在。私は今、誕生日会に参加していました。尤も、私は祝う側の立場であり、主席はレンちゃんと晶ちゃんの二人という組み合わせです。ええ、はい。実はこの二人、普段あれだけ仲が悪いのに誕生日が一緒で、何となく運命を感じてしまいます。ちなみに、年齢に関しては晶ちゃんの方が1歳だけ年上となっており、その差が仲違いを宿命付けているのかもしれません。

 

 まぁ、こんな詰まらない考察は無辺世界にでも捨て置きまして、誕生日の定番曲でレンちゃんと晶ちゃんを祝い、蝋燭の火を吹き消して貰った後はプレゼントを手渡し、御馳走とケーキに舌鼓を打つ。それはそれは例年通りで、とても楽しい誕生日会でした。

 

 

 

 

 

 本当は、色々と考えてはみたのです。

 

 

 

 

 

 魔法を使った文字通りのマジックショーやら、『全国何処でも往復券』なる物を発行して、行きたいところへ転移魔法で送迎する等々。しかし、出会った当初のユーノさんが、「魔法文明の無い世界で、魔法を不特定多数の人に教えるのはちょっと……」といった旨の発言をしていたようなと思い出し、考え直してみました。だってそれは、魔法という神秘を明らかにした結果、これまで何かしらの問題があったと読み取ることが出来るからです。

 

 魔法による技術革新や迫害、人体実験や選民思想エトセトラ。

 

 苦渋を味わった先人達の経験が、教訓として息衝いている。その可能性を考えると、如何しても無闇に使う事は出来ませんでした。そもそもこの地球は、『高機能性遺伝子障害』という先天性の病がもたらした副次的な“力”――――“超能力”を巡って、今まさに身近な前例が築かれつつありますので、明日は我が身である事をひしひしと感じられます。

 

 ですから私も、秘匿する道を選んだのでした。とはいえ、結界を張って魔法の練習もしますし、何かを守る為なら公での行使も辞さないつもりですけれども。

 

 


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