魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【神咲 那美】
私立風芽丘学園高等部3年生、そして『八束神社』を管理する巫女でもある。美由希よりも1つ上の先輩に当たるが、対等な友人関係を築いており、高町家とも交流が深い。おっとりとした性格が災いしているのか、よく転んだり、何かにぶつかったりしている。



第28話:予期せぬ終わりと始まり

Side:■■■

 

 雨、雨、雨。今年もまた、そんな季節がやって来ました。気温は少し肌寒く、本が湿気り、洗濯物は部屋干し不可避に、遠出は困難且つ、近場での買い物すら億劫に感じます。そして何より問題なのは、そういったストレスが積もりに積もって、あらゆる意欲を削いでしまう事でした。

 

「あかん。なーんもする気が起こらへん……。もう、今日の夕食は宅配ピザでもえーやろか……?」

 

 基本的に自炊をする様には心掛けているものの、やはり美味しそうに食べてくれる相手が居なくては虚しさと煩わしさが募るだけで、それに両足が不自由という理由もあって外食にせよ食材調達にせよ、雨天外出は如何しても躊躇いが生じるのです。とゆーわけで、録り溜めしていたドラマを見つつ宅配ピザと野菜ジュースで寂しい夕食を済ませた後は、御風呂で気分転換を図ります。

 

 幸いなことに此の家は、遠戚に当たるロマンス・グレーでダンディな叔父様の手配によって改修工事が完了しており、お風呂は一人でも入浴可能ですし、台所は車椅子でも届く高さで、玄関の段差問題も解消済み。勿論、それ以外の設備においても今のところ不満を感じた事はありません。

 

 只やはり、入浴介助者ぐらいは居て欲しい気もするのですが、独りでやれる事は独りでせななーという拙い自立心の下、叔父様に頼ることはせず今に至ります。そんな故も有り、えっちらおっちらと身体を洗って拭いて、そしてまた時間を掛けて寝間着を纏い、ついでに歯磨き等をした挙句、ようやく自室のベッドへと辿り着いたのは約3時間後の事でした。

 

 その頃には、流石に私も疲労気味で“しんどい”の四文字が脳裏を過ぎるも、本を読むぐらいの体力と時間は残っていたので、そのままベッドで横になりつつ読書を開始。

 

 本のジャンルはファンタジー小説で、内容自体は不治の病に侵された妹を献身的に支える主人公が魔法の本を見つけ、その本に纏わる伝承を頼りに各地を巡って魔物退治をする御話です。話が進むに連れて個性的な仲間と出会い、世界の謎が徐々に明らかにされて、そして最後に仲間の一人が犠牲となり、妹が魔王に攫われた場面でページが尽きてしまいました。

 

 一見すると、これは只のバッドエンドです。しかし、続編を匂わせる終わり方だったので期待は大なのですが、初版発行日を見てみますと極最近の物で、このボリュームの続編が出るとするなら早くて1年は掛かりそうな気がします。

 

「いや無理やろ……。こんなん、先が気になって発狂してまうわ…………」

 

 仲間の尊い犠牲と、主人公の精神的な支えになっていた妹との別離。胸が張り裂けそうな思いとは正にこの事で、一頻り涙を流した後、両親を亡くした自分の境遇とも被っているようにも感じて……。また新しい涙が、頬を伝っては落ちて行きました。

 

 家族が居なくなるのは、悪夢その物です。

 

 一番身近な存在で、話を聞いてくれたり、甘えを許してくれて、時には諭してくれる人が居ないと心にぽっかりと穴が開いているような気がしますし、仮令(たとえ)それを何かで塞いだとしても、傷付いた事実は変わる事なく残り続けます。この主人公は、如何なってしまうのでしょうか? 私のように立ち止まったりはせずに、自ら進んで行けるのでしょうか?

 

 きっと、そうであって欲しい。もっともっと強くなって、魔王へと立ち向かって欲しいと願いつつ涙を拭き、何気なく卓上時計を見てみますと、時刻は午前零時近く。

 

 感情的にも、外の雨音的にも全然寝れる気はせーへんのですが、これ以上は身体に障りそうなので、寝る前に御手洗いと水分補給でもと思い車椅子に乗り込んだところ、前触れも無く本棚に置いていた一冊の本が紫色の光を放ち始め、その異様な光景に思わず動きが止まってしまいました。

 

 元々その本は、書店を経営していた両親が古書を仕入れた際に混じっていた物で、タイトルらしい文章は明記されておらず、その上やけに硬い鎖で固定されて開く事も出来ない禁書じみた本でした。しかし、当時3歳だった私は何故かそれを(いた)く気に入り、私物にしてしまったとの事。

 

 そういった経緯も有り、最近では本棚の隙間埋めとして使っていたところ今の現象に至る訳なのですが、まさか本物の魔導書的な代物だとは露とも思わず、これが彼の有名な『ナコト写本』やら『ネクロノミコン』だったら如何しようという不安で思考が埋め尽くされる中、事態はどんどん進んで行き、気付けば部屋の中に3人の女性と1人の男性が出現しており、最早、常識が通用しない事を何となく察しました。

 

 

 

 さよなら日常。ようこそ非日常。

 

 

 

 こうして、私――――“八神はやて”は無事に人生の転換期を迎え、再出発をする事になりました。御年9歳。不安要素しか有りませんが、どーにかこーにかで頑張って行く所存です。

 

 


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