魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【高町 恭也】
“なのは”と美由希の兄。真面目な好青年だが、親しい人には悪戯をしたりと御茶目な面も。一般的な趣味としては、盆栽と釣りと昼寝。御神流という剣術の師範代だが、基本的に喫茶『翠屋』で働いている。

【高町 美由希】
私立風芽丘学園高等部2年生で、“なのは”の姉。優しく勤勉な性格で、“なのは”に勉強を教えてくれる良き家庭教師でもある。鍛錬の時以外は眼鏡を着用しており、趣味は読書。恭也と同様に、御神流を修めている。



第2話:結成、非公式海鳴ガーディアンズなの

Side:なのは

 

 あれから、お兄ちゃんとお姉ちゃんの質問攻めを経て、更にお母さんや居候のレンちゃんと晶ちゃんも交えた家族会議で説明し、そして何時の間にか動物病院から脱走していたスクライアさんにも来て貰って説明をして、説明をして、説明をして……。後顧の憂いが無くなってしまいました。ええ、それはもう奇麗さっぱりとです。

 

 少なからず危険なので、お母さんに反対されたらどう説得しようとか。一人で出歩くと補導されるので、お兄ちゃんかお姉ちゃんが同伴してくれないかなとか。そういった心配事はあったのですが、どうも今まで我が儘の“わ”の字すら表に出さなかった私の我が儘を内心では嬉しく思っているようで、単独なら夜の7時、同伴なら夜の10時を目安として帰る事を条件に許可されました。

 

 そして早速、外出する事に。

 

 時刻は夜の9時頃。あまり遠くまで行けませんが、割と近場で反応があったらしいのでそこへ向かいます。メンバーは、私とお兄ちゃんとお姉ちゃん。そしてスクライアさんから借りた【レイジングハート】の3人と1機です。ちなみにスクライアさんは、怪我による不調もあるので御留守番となりました。

 

 見送りの際、スクライアさんは魔法初心者の私と、実力が未知数なお兄ちゃんとお姉ちゃんのコンビに不安を覚えていましたが、私は案外大丈夫なのではと思ってます。出発前に、職質されない程度の装備をしたお兄ちゃんとお姉ちゃんに現状最速の魔力弾を撃ってみましたが、余裕で回避されました。どうも弓矢程度の速度だと、見るまでもなく避けれるとの事。

 

 ついでに魔力弾や防御魔法を試し切りしてもらったのですが、「(とお)せば何とかなりそうだ」という斜め上の返答と共に凄まじい連撃で霧散させたのを見て、改めてお兄ちゃんの非凡さを思い知りました。ちなみにお姉ちゃんも同様にやってみせたので、私が魔法に対して抱きつつあった信用が見事リセットされてしまいました。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 リリカルマジカル以下略。観測地点へ到着後、近くで励起(れいき)状態から暴走状態へと移行しつつあったジュエルシードを発見。直ちに封印・回収しました。てっきり戦闘パートかなと思いましたが、良い意味で肩透かしを食らった結果となりました。

 

「どうやら、上手く行ったみたいだな」

「うん。今回は、だけどね」

 

 実は、前回のジュエルシードも変身後は大した事はなかったのですが、スクライアさん曰く、願いの核となるモノが無い状態での暴走はまだマシな方らしく、人が手にした場合の被害や脅威度は予測不能との事。なのでそうならない様に、早期発見と迅速な対処を心掛けていきたい所存です。

 

「次もそうだと良いね、“なのは”。それじゃ、遅くならない内に帰ろっか?」

「はーい」

 

 ミッションコンプリート。あとは帰って湯浴みして寝るだけ等と考えていましたが、はたと気付きました。そうなのです。放課後の相談と家族会議とジュエルシード回収でやってなかったのですが、宿題という学生の敵がまだ残っていました。内容は大した事はないのですが、貴重な時間が削れる事には変わりません。それが今夜か、翌日の早朝かの違いなだけで。

 

 そして私は今夜を選び、宿題を終えた代償に寝不足な翌朝を迎えました。今後を考えるなら、宿題などの時間配分は考えてやった方が良いかもしれません。

 

「“なのは”ちゃん、なんやフラフラしとるけど、ほんまに大丈夫かー?」

「取り敢えず、白湯を持って来たからまずは1杯。ほら、ぐいぐいっと」

 

 レンちゃんに心配されつつ、晶ちゃんから手渡された湯呑みの白湯を機械的に飲み干した私は、半覚醒状態のまま洗面台で顔を洗い、それから2人が作ってくれた朝食に手を合わせ、食べ終わる頃には無事起動する事が出来ました。

 

「うぅ……。授業で寝ちゃう人の気持ちも分かるような……」

 

 ちなみに今回、初めて夜更かしなるものをやってみましたが、どうもこの“小学生ぼでー”では無理があるようです。残業やら一夜漬けやら、カラオケでオールナイトする人が世の中には居るそうですが、改めて凄いなーと思いました。

 

 それから制服に着替え、心配してくれたレンちゃんが通学バスの乗り場まで付き添ってくれて、乗車後はアリサちゃんとすずかちゃんに問題解決の報告をざっくりして、何時の間にかバスから降りていました。オカシイ。何処か記憶が飛んでいるような……?

 

「“なのは”~、目的地に着いたわよー。ほら、しゃきっとしなさいな!」

「あの、“なのは”ちゃん。眠気覚ましに、飴でも舐める?」

「うん。有り難う……」

 

 それから私は、“すずか”ちゃんから貰った飴を舐めつつ、更にこれ以上の迷惑を掛けない為にも、知覚神経と思考速度を魔法で活性化させる事にしました。これで気分がすっきりして……って、これでは完全に違法ドラッグをキメてる人と同類になるので、昼休みは寝て過ごし、午後の授業では使わないようにしました。如何しても眠くなった時は、ステルス化させた探索魔法を町中に飛ばして、ジュエルシードを探したりして気を紛らわせ、何とか放課後へ。

 

 何時もの私なら、平日は塾や習い事で忙しいアリサちゃん達に別れを告げ、真っ直ぐ帰路に着くところですが、今回は授業中に探知したジュエルシードらしき物の反応を確かめる為、その現場へ少し寄り道する事にしました。

 

 現場である八束神社へと続く石段の前で、応援として駆けつけてくれたスクライアさんと合流。一先ず、山の中腹にある境内を目指して石段を登り「きゃー!!」――もとい駆け上がります。

 

 石段を登り詰め、境内を見回すと気絶している人と、明らかに異形な獣の姿がそこにありました。なので、飛行魔法で地理的優位を取った上で、そこから誘導弾を念入りに撃ち込み、ぴくりとも動かなくなった状態で封印。無事にジュエルシードを回収する事が出来ました。

 

 尚、一連の行動にスクライアさんから「やり過ぎなような……」と若干引いた感じの指摘をされましたが、ジュエルシード等という訳の分からない物は、変に暴走される前に“初見殺し”且つ“先手必勝”の心構えで対処した方がより安全に、そして被害の局限化に繋がるのではと自論を語ったところ、「確かに“なのは”さん程の魔力が有れば、それでやれなくもないんだけど……」と前置きして、色々なやり方を教えてくれました。

 

 隙を突いて攻撃を差し込むやり方。行動を誘って移動先に攻撃を置くやり方等々。どれもゲームでは御馴染みの戦術でしたが、魔法という分野でも似たような事が出来ると気付かされ、不思議なことに胸が高揚感で満たされて行きました。

 

 正直言って、ジュエルシード集めは危険で怖くて、痛い事もその内あるかもしれません。ですが魔法を使うのは本当に楽しくて、もし私のような他の魔導師ともゲームの様に対戦が出来たりしたら、それはもう最高に楽しいんだろうなって。そう思うと、ワクワクが止まらないのです。

 

 そんな訳で、私は更なる技量向上を目指すべくスクライアさんに御教授を願う事にしました。「スクライアさん。デバイス無しで魔法を使うコツってありますか?」――と。

 

………

……

 

 そして帰宅後。夕食やら湯浴みを済ませて、時刻は夜の7時半頃。灯台下暗しとはまさにこの事でしょうか。スクライアさんと練習がてら、デバイス無しで探索魔法――通称“サーチャー”を飛ばしていたところ反応を検知。場所は、私が通う私立聖祥大付属小学校でした。時間帯が時間帯なので、お兄ちゃんかお姉ちゃんのどちらかに同伴して貰おうと思ったのですが、どちらも付いて行くとの事だったので共に現場へ。

 

 お兄ちゃんとお姉ちゃんは、何時ものように軽快な走りで。そして私は、歩幅差がどうしようも無いため魔法で身体強化をして強引に付いて行ってますが、こうして一緒に走ってみると、なかなか如何して楽しく感じます。年齢が離れている事もあり、これまで一緒に何かをするという事は余り無かったのですが、これからはお兄ちゃんとお姉ちゃんの朝のランニングに付いて行くのも有りなんじゃないかなー、と思いました。

 

「あ、お兄ちゃんお姉ちゃん。敷地に入るのは、ちょっと待ってて」

 

 閉ざされた校門を飛び越えようとする二人を呼び止め、意識を魔法構築へと集中させます。

 

「如何した。何かするのか?」

「結界を張って、部外者弾きと被害の局限化を少々。……うん、何とか出来た。如何でしょうか、スクライアさん?」

「申し分の無い出来だと思うよ。ただ、“なのは”さんの戦闘スタイル的にはちょっと狭いかもだけど」

「へぇ……。魔法って何でも有りなんだねー」

 

 そして私達は、夜の学校という学生なら心躍るシチュエーションを大いに満喫したのでした。ちなみに、戦闘自体は角が生えた成人男性サイズの(ねずみ)さんっぽいのを「試しにやらせてくれないか?」との事で、お兄ちゃんとお姉ちゃんが撹乱(かくらん)し、共同で切り崩すという大変スプラッタな戦闘となり、やはり魔法には魔法で対処すべきだなと私は現実逃避しつつ、なるべく残骸を見ないようにジュエルシードを封印。その哀れな暴走を終わらせてあげました。

 

 尚、SAN値チェックでクリティカル判定を出したスクライアさんは、発狂とまでは行きませんでしたが、苦悶に満ちた表情で静かに気絶していました。出来れば、私も女の子らしく穏やかな表情で気絶したかったのですが、お兄ちゃんやお姉ちゃんの鍛錬による擦り傷や切り傷などを見慣れてしまった為か、知らず知らずの内に血肉への耐性が付いていたようです。

 

 しかしそれでもやはり、しばらくは肉料理を見たくないなーと少し思いました。

 

 

 

 


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