【アリサ・バニングス】:ver.1.30
裕福な家庭に生まれた御令嬢。一人っ子なので、教養と共に愛情も存分に与えられた結果、我が儘で高慢な性格となってしまった。尤も、今現在の性格はかなり丸くなっており、“なのは”曰く「ただのツンデレ」と化している。学校では、名実共に学級委員長として君臨するなど早くも頭角を現しつつあるが、親友の“なのは”や“すずか”の前では自重気味。むしろ、――――
Side:アリサ
昨夜、“なのは”と電話で話した時の印象は至って普通だったのに、これは一体如何いう事なのだろうか……?
今朝の“なのは”は、通学バスへと乗り込んで来た時点で目元には薄っすらと隈が出来ており、夜更かしをしていたのは明らかである。しかしながら、気怠そうな素振りは全く無く、どちらかと言えば上の空状態なのに普通を装っている様にも見えて、何だか嫌な予兆だと感じてしまう。
それ故に嫌な方向へと思考が飛躍するものの、この状態の“なのは”を問い詰めようとしても曖昧にされてしまうし、最終的には棘のある言い回しで遠ざけようとする為、其処は触れて欲しくない領域なのだろう。ただ真実を知りたいのであれば、何処までも踏み込めば良い。しかし親友で在りたいのなら、相手が望む距離を保たなければならない。
それを知って、思い知らされて……。
だからもう、心配だけをする事にした。“なのは”が知らない私の一面が有るように、私が知らない“なのは”の一面も確かに有る。たったそれだけの事なのだ。そして誰だって、人に見せたいのは望ましい自分の姿である。理想的で個性的な、自分らしい自分を見て欲しいと他ならぬ私自身が願うのだから、恐らく“なのは”も『そう』なのだろう。
いや……。『そう』だと思わなくては、私はまた遠からず“なのは”とぶつかり合って、そしてまた嫌な思いをさせてしまうのだ。きっと。
衝突なんて、するもんじゃない。大切な親友だからこそ、すべき時は有るのかもしれないけれど判断を下すには時期尚早で、何よりも二度と間違いを犯したくは無いと考えた末に私は、もやもやとした気持ちを抑えつつも呆れ顔をして見せて、「あんた、また夜更かしでもしたの?」と挨拶がてら言ってやったのであった。
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Side:すずか
今朝の“なのは”ちゃんは、寝不足の理由として夢見の悪さを挙げていたのですが、本当のところは如何なんだろうと心配になり、少しばかり考え込んでしまいました。
思い当たる節は色々と有って、例えば私達が通う聖祥大学付属小学校は、上質な教育と環境を与えてくれる反面それなりの学力を示さなくてはならず、その為の筆記テストが結構な頻度で設けられています。
尤もそれは、あくまでも個々人の学力を先生達が確認する為に行われるので、得点順位や名前を掲示板へ張り出すといった事は有りませんが、採点が終われば生徒の元へテスト用紙が返される為、誰が何点であったのかは当人の口や人伝の噂から知る事が出来ますし、最低得点と最高得点も話のネタとしては流れ易く、其処から大凡の平均点を求める事も可能です。
それで、なのですが……。最近、同級生と比較しても実に平均的であった“なのは”ちゃんのテスト点数が格段に良くなっており、その勢いを維持する為に無茶な勉強をしているのではないか? という不安を抱いてしまったが故に、如何しても思考が止まろうとはしませんでした。
訊いてしまえば、解決するかもしれない。
『そう』と分かっていて、何かしらの言葉を返してくれると信じていながらも、杞憂で余計な御世話で、的外れな問い掛けにならないだろうかと怖じ気付いてしまった私は、結局聞けず仕舞いのまま何時も通りの日常を過ごし、そして何事も無く終わらせようと思っていました。
「“すずか”ちゃん。次は理科の授業だから、そろそろ移動しなきゃだよ?」
「そう、だったね……。ありがとう、“なのは”ちゃん」
「大丈夫? 私以上に、ぼーっとしているみたいだけれど……」
そのつもり、だったのです。
「……あのね、“なのは”ちゃん」
「うん。如何かしたの?」
しかし何時からか、時折感じていた高揚感が最近では無視できない程に強くなっていて、それが“なのは”ちゃんと一緒に居る時が一番強いと分かってからは、自制する事が難しくなりました。どんな恐怖に対しても足が竦んでしまうのに、未知に対しては何処までも歩み寄りたくなる。そんな私の性分が、理性へと囁きます。
怖い事なんて、しない方が良いに決まっている。それよりも好ましい事を優先すべきなんじゃないかな? この選択肢は間違っていない。きっと大丈夫。“なのは”ちゃんなら、許してくれる筈だよ……? だから、手を――――
「手を……」
「手を……?」
――――繋いでも良い?
「繋いでも良い……かな?」
「…………良いよ。“すずか”ちゃんなら」
「ありがとう、“なのは”ちゃん」
繋いだ手と手。其処から伝わる『何か』が身体中を駆け巡り、瞬く間に心を多幸感で満たして行きます。嬉しくて嬉しくて嬉しくて、嬉しくも愛おしい。嗚呼、何と革新的な体験なんでしょう? この不思議で素敵な熱は、決して冷める事は無いように思えました。少なくとも、その様な錯覚を
ありがとう。
他に何と御礼を言えば良いのか分からないけれど、こんなにも素晴らしい温もりを分けてくれて、本当に本当に嬉しいの……。ありがとう、“なのは”ちゃん。■■■■■。
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Side:なのは
優れた魔導資質に恵まれ、それによって助けられた場面は色々と有るのですが……。正直なところ、睡眠中でも怪しい魔力波を感知する事が可能な資質なんて、特に欲しいとは思ってもいませんでした。恐らく、ジュエルシードの件で過敏になっているだけだと信じたいのですが、感知してしまったからには見過ごす訳には行かず、起床を選択。強引に意識を浮上させて、覚醒します。
「うぅ…………。ルーンライター……」
[- Good evening, Boss. -]
「異常報告」
[- There is no abnormality. -]
「そうなんだ……。有り難う」
取り敢えず、ルーンライターでは検知出来ない程の微細な魔力波か、私が勘違いしているだけという事は分かりました。枕元の携帯電話を開いて時間を確認してみますと、時刻は深夜零時を過ぎたばかりで、日付は6月4日。ちなみに平日でもあり、朝になれば学校へ登校しなくてはいけません。
「直ぐに、見つかると良いんだけど……」
そう思いつつも、現在地が露見しかねない探索魔法は使わずに、魔力残滓から発生源を特定する探知魔法とでも言うべき魔法で地道に調べて行きます。
ちなみにこれは余談なのですが、どうも私が使っているミッドチルダ式の魔法は、何かを探す魔法に対して《 Divine buster 》のような魔法発動に関するコマンドトリガーは特に設けてはおらず、ざっくりと探索魔法や探知魔法といった名称で呼び分けているだけで、唯一の例外は目の代わりとなる
まぁ、兎にも角にも……。長い夜になりそうだなと諦め半分、並列思考の暖機運転が終わった事を確認した後は意識を切り替え、探知魔法の行使に没頭するのでした。
………
……
…
そして案の定、秘匿性を重視した探知魔法では魔力波を発した対象を見付ける事が出来ず、そのまま夜明けを迎えたので眠気と戦いながらも登校を果たし、今は“すずか”ちゃんと手を繋いだ状態で理科室へ向かっている所だったりします。
はて、如何して『こう』為ったのやら……?
会話内容は、ちゃんと覚えています。返事をした後、“すずか”ちゃんの不安そうな表情が明るい物へと変わった事も全て記憶しているにも
尤も、女子で仲の良い友達同士なら手を繋いでいる子達は結構居ますし、それらに感化されたとしても何ら不思議では有りませんが……。ともあれ、気分転換にはなりました。
不審な魔力波について相談しようにも、お兄ちゃん達は魔力源の探索に関しては門外漢で、ユーノ君は居ませんし、フェイトちゃんは言わずもがな。クロノさん達は、不定期的に次元世界間の巡回がてら私とフェイトちゃんの文通やビデオメッセージの橋渡しをしてくれるのですが、実は数週間程前に地球を去ったばかりで、次の来航は7月末の予定との事。
つまるところ、魔法に関して頼れるのは己のみと気を張っていた折に現状のイベントが発生し、それによって緊張を好い具合に弛緩させてくれたのが“すずか”ちゃんという訳でして、未だに行動理由は不明ですが感謝の気持ちに
地に足が着いて。目が覚めて。然れども画期的な打開策は未だに思い付きませんが、一先ず出来る事はやってみよう等と前向きに覚悟を完了した私は、軽い足取りで“すずか”ちゃんをエスコートしたまま理科室へとINしました。……ええ、はい。そうなのです。迂闊にも入ってしまったのです。
ちなみに今は一緒に居ないアリサちゃんですが、交友関係が広い事もあって別の友達と共に理科室へと先行しており、やけに到着が遅い私と“すずか”ちゃんを今か今かと待ち侘びている最中、其処へ私達が仲睦まじく手を繋いで入場したものですから、色々な
暴君が君臨しました。
しかも性質が悪い事に、表面上では何でも無いように装いながらも、言動の端々に不満気な心情を
その後、携帯電話のメール機能を使って何通か遣り取りをして分かった事は、実際のところ怒ってはいないらしく、察せないなら知らなくて良いとの回答を得た私の脳裏には『女心と秋の空』という
尚それから、メールでの会話が流れに流れ、特に決めていなかった週末の予定がバニングス邸でのお泊り会(一泊二日)と相成りましたので、お母さんが仕事から帰って来たら、向こうへ持って行く菓子折りについて相談と御願いをしたいと思います。