【シグナム】:ver.1.33
八神家の長女。日常的に“はやて”の介助をしたり家事を手伝ったりしているものの、やはり剣を振っている方が性に合っているらしく、暇さえ有れば愛機の『レヴァンティン』と共に自主鍛錬をしている。直感的な即決即断が多く、それが参謀役を悩ませる事もしばしば有るとか。
Side:なのは
私の親愛なる友、フェイトちゃんへ。……って挨拶は、ちょっと堅苦しいかな? と言う訳で、撮り直しがてら編集機能をちょちょいっと。
[TAKE2]
久し振りだね、フェイトちゃん。前回のビデオレターで言ってた、「楽しかった事を教えて欲しい」という要望に御応えする為に、今回も色々と張り切っちゃいました。
因みに見ての通りですが、クロノ君がミッドチルダ製の機材を借してくれた御蔭で、今回から画質やら音質が跳ね上がったりしています。そっちでは当たり前かもしれないけれど、30分程度の映像データが500ギガバイト超えとか、それなら激変も止む無しかなーと……。尚此方の世界では、漸く1ギガバイトの小型記憶媒体が販売された程度ですから、後はまぁ察して頂けると有り難いです。
[さて。]
早速、楽しかった事の映像を流しているものの、これだけじゃ何が何だかよく分からないだろうから説明するね? 一緒に映っている大人の女性が私の御母さんで、青髪の子が晶ちゃん、そして緑髪の子がレンちゃんで、この時は4人で御菓子作りをしていました。パウンドケーキに始まり、シュークリームやショートケーキも作って腕が疲れちゃったけれども、それが美味しさへと繋がるので妥協する事は出来ません。
ところでパウンドケーキの“パウンド”って、4つの材料を1ポンド、つまり1パウンドずつ使って作るからパウンドケーキと名付けられたそうだけど、日本で主に使われている質量単位のキログラムに換算した場合、1ポンドは約0.453キログラムとなるのですが……。うん、すっごく微妙でしょ? だからこそ、ヤード・ポンド法は滅びて欲しいなーと思いました。
[ 閑 言舌 イ木 是頁 ]
時に、何で本格的な御菓子作りをする事になったのかと言うと、御姉ちゃんからの電話が切っ掛けになりまして――――
…
……
………
「はい、もしもし?」
「昨日振りだね、“なのは”。ちょっと、時間有る?」
「うん。大丈夫だよ?」
「多分、そっちに忘れ物が有ると思うんだけど――――」
要するに、御姉ちゃんが美沙斗さんに見せようと思っていた写真を自室に忘れたらしく、それを国際郵便で香港まで送って欲しいという内容でした。
通常の手段なら時間も運送料も掛かってしまいますが、魔法少女である私が代行すれば今直ぐにでも持って行けますし、消費魔力は余剰分を使うだけなので負担は少なく、御財布と環境にも優しい。であるならば、活用しない手は有りません。勿論、魔法は最大限に秘匿するつもりですけど。
そんな感じの事を御母さんに力説して、ついでにフィアッセ御姉ちゃんが居るイギリスにも行ってみたいと御願いしてみた結果、御土産用の御菓子作りを手伝う&なるべく御兄ちゃん達と一緒に行動するという約束をした上で、あっさり許可を貰えました。
御母さん曰く、「可愛い娘には旅をさせよ。って言うじゃない?」等と、とてもフワフワした理由で承認したらしいのですが、御菓子作りに関してはガチガチの講師っぷりを発揮し、レシピによる予習から器具や材料の準備のみならず、生地の掻き混ぜ方や温度管理等、様々な事を教わりながら楽しくも難しい御菓子作りは佳境を乗り越え、今は使用した調理器具を洗っている最中です。
事、此処に至るまで約22時間。
要するに、昨日の昼以降からは御菓子作りの予習と準備、それから一夜明けてぶっつけ本番という流れは大変だったものの、料理初心者としては頑張った方だと思います。尤も、御母さんと晶ちゃんとレンちゃんの助けが有ってこその成功と完成度ですから、慢心や満足するつもりは有りません。
「それじゃ、次は昼食用にサンドウィッチでも作りましょうか♪」
「あっ、桃子さん。俺が材料を出して来ます」
それにしても……、彼此3時間近く御菓子作りをしつつ小休憩を挟んだりもしましたが、如何して御母さんと晶ちゃんが未だに元気なのかが不思議です。元から体力の無いレンちゃんが慢性的な疲労状態へと陥っており、私も魔法で身体強化をしていなければとっくの昔に戦線離脱をしている頃合いなので、大人や体力お化けさんでは色々と違うんでしょうね、きっと。
「レンちゃん、大丈夫?」
「そやなー……。多分、昼寝したら何とかなるやろ」
うん。これは経験上、何とかならない気がします。
「なら、レンちゃんは引き続き休憩で」
「あっはい。……ちゅー訳やから御猿、うちの分も頼むわ」
「は? なら、片付けは亀が全部やれよ?」
「あん? 空手とかで不在気味な御猿の分、うちが色々やっとるんやけど?」
「それを持ち出すなら、帰宅部の亀が悪いだろ。だから、なよっちいんだよ」
「へー。でもそんなのに連戦連敗しとる御猿って、なかなか惨めやね?」
「良し、表に出ろ。今度こそ勝ってやる」
「まーた直ぐ喧嘩しようとする……。《 リングバインド 》」
………
……
…
そうそう。余談なんだけど、最近では喧嘩の仲裁用で使った拘束魔法の回数が、3桁目前になってしまいました。その甲斐有って拘束魔法の練度がメキメキと上がったけれども、もう少し仲良くして欲しいなーと妹分としては思うのですよ。それでえーと……。昼食を作って食べた後は、【ルーンライター】へ荷物を量子格納→からの御兄ちゃんに連絡をし、香港という外国の都市へ転移魔法で移動します。
一応、緯度と経度で適当な座標を決めて、高度は3万3千フィート。つまり、上空約1万メートル付近にしてみました。これには人目が付かないという利点の他に、無意味な自由落下を楽しめるといった私欲が多分に含まれております。フェイトちゃんは、そういう変わった楽しみ方をした事は有る? もし有るのなら、こそっと教えて欲しいです。
~~
Side:恭也
一般人が出来ない事を出来る様になると、問題にならない
ならば、魔法という超常の力を手にしたマイシスターが空から降って来るなんて事は、本人にとっては当たり前に出来て、使い方としては無難な部類なのだろう。
「恭ちゃん、空から女の子が!」
「違うぞ美由希。それは“なのは”を受け止めてから言うべき
「あれ、そうだったっけ……?」
美由希の曖昧なネタに訂正を入れつつ、再び空を見上げる。バベルの塔の如く円筒形の結界魔法が部外者を遮断し、俺と美由希と落下中の“なのは”しか存在しない空間とは、何とも魔訶不思議な気分である。此処はビルの屋上で、下の階層には美沙斗さんを始めとした『香港国際警防部隊』の猛者達が居る筈なのに、その気配が全く無いのだ。
完璧な隔離空間。
応用しようと思えば捕獲や奇襲にも使えそうな魔法だが、果たして“なのは”がそういう荒っぽい事をする職業を選ぶか如何かは…………、まだ分からんな。才能に関しては父さん寄りっぽい節は有るし、人は正義という大義名分が有れば己を切り変える事が出来てしまう。だから“なのは”も、望めば成れるとは思っている。
そんな下らぬ事を考えている内に“なのは”がゆっくりと着地を果たし、変身を解除して私服姿へと早変わりする。飛び散る桜色の魔力光。その光が背中の翼に吸収され、やがて翼自体も消えて行く光景は何度見ても美しいと感じてしまう。
「こんにちはー、『翠屋デリバリー』です。御注文の品を御届けに参りました~」
「感謝する。それと済まんな、うちの愚妹が迷惑を掛けて」
「うぅ、御免ね“なのは”……。はい、これ御駄賃」
「えっと……。これは、御母さんに渡せば良いの?」
「いや、それは運んでくれた感謝代だ。“なのは”の小遣いにでもすると良い」
実際に、国際郵便でも早くて3日は掛かる写真を24時間以内で持って来てくれたのだ。その価値を金額に換算すれば、一体幾らが適正なのやら……。取り敢えず、細やかながら俺と美由希で出し合って、遠慮されないであろうと判断した2千円を“なのは”に受け取らせておく。
こういった経験を徐々に積ませる事で、【荷電粒子砲】と
「ところで“なのは”、休憩は必要か?」
「うんん。何時でも飛べるよ?」
「成程……。因みに、転移先はくれぐれも地上で頼む」
「合点承知」
その後、2分程の座標確認やら転移先の周辺確認を済ませた“なのは”が転移魔法を発動させ、視界が歪んだかと思えば日差しが暑い香港から、朝の涼しさが残るロンドン近郊の公園へと降り立っていた。通常の場合、香港とロンドンの時差は8時間だが、日差しの有効活用を目的としたサマータイム制度が有るので、実際のところ香港よりは7時間遅い。
何となく御得感はするが、人が眠気を感じない活動時間なんて高が知れている為、あまり長居するのは時差呆けの観点からも宜しくはないし、“なのは”は日本から来たので更に1時間プラスで8時間の時差だ。故に帰宅する時間を考えれば、英国標準時の午後1時ぐらいが限度だろう。
「異常無し、だな。美由希と“なのは”は如何だ?」
「上に同じく」
「魔力が減って少し怠いけど、これぐらいなら大丈夫です」
「なら予定通り、観光と洒落込むか」
フィアッセが指定した時間まで、まだ3時間以上の余裕がある。これなら軽食を摂ってから、異国情緒が溢れるロンドンを散策するだけでも良い時間潰しになる筈だ。ただ懸念事項が1つ有って、東京と比べた場合の犯罪発生率が極めて高く、特に観光客に対してのスリや置き引き等の強盗は百倍を優に超えている。避け難いとは思うものの、何も起こらなければ良いのだが……。