魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【高町 恭也】:ver.1.33_B
高町家の長男。叔母の伝手で参加していた合同訓練の休息日だろうと、“なのは”発案のイギリス日帰りツアーへ同行する程度には家族想いだが、そこそこ頑丈&元弟子(免許皆伝済みの為)である美由希に対しては雑に扱ったり鍛錬目的の不意打ちをしたり等、剣士想いな一面も。

【高町 美由希】:ver.1.33_B
高町家の長女。初めての環境や見知らぬ人達との合同訓練で、心身共に疲弊しているものの久し振りにフィアッセに会えると聞き、日帰りツアーへの参加を決意。尚、密入国と不法滞在をする事については気にしない様にしている。



第33.5話:露草色に染まるる夏なの【後編】

Side:なのは

 

 初めてのロンドン! と言う事もあって、時間は少ないですがブリティッシュパイを食べたり、観光名所のビッグベンやキングスクロス駅の9と3/4番線で写真を撮ったりしました。その際、何度かひったくりの現場を見掛けたので犯人を不可視のバインドで転倒させたりした事以外は至って順調で、監視カメラが其処彼処に有るのにやる人はやるんだなと社会学習をしつつも一路『CSS』へ。

 

 因みに、『CSS』は『クリステラ・ソング・スクール』の略称で、日本人的には音楽学校かなと連想しがちですが声楽を主体に教える私塾の様な場所らしく、以前はフィアッセ御姉ちゃんの御母さん――ティオレさんが運営していました。

 

 しかし昨年頃に急病で亡くなってしまって、今はフィアッセ御姉ちゃんが後を引き継いでいます。まぁ元々、フィアッセ御姉ちゃんが日本で暮らしていたのは療養目的でしたし、治ったからにはイギリスへ帰国する日も遠からずといった感じでしたから、あの日々は貴重だったなーと思えます。無論、魔法少女となった現在も貴重では在りますが……。

 

「ねぇ、御兄ちゃん。『CSS』って私塾なんだよね?」

「その様には聞いている」

「一面の御花畑の中に、立派な洋館が建ってるんだけど……」

「この程度なら、海外では珍しくも無いぞ」

「そんな物なのかな……?」

「そも私有地面積なら、山林を含めた月村邸の方がまだ広い」

「や、その基準は可笑しいと思います」

 

 気を取り直して敷地へ入り、受付で用件を伝えるとフィアッセ御姉ちゃんの秘書さんが迎えに来て、案内をしてくれました。途中、綺麗な中庭に有る噴水を見たり、何処かの教室から漏れて来る合唱の声に感心したりしていると着いた様で、久々の対面となりました。

 

 見た目は、至って健康そうです。

 

 茶色に近いブロンドのロングヘアーは艶やかですし、雰囲気は御姉さん度が増しているくらいで気になる箇所は有りません。最後に見た時は、焦燥して痛々しい様子だったので少し不安でしたが、何とか立ち直っている様で安心しました。さて、これで唯一の懸念事項は消えましたから、挨拶もそこそこに本題へと移りませう。

 

「それにしても、恭也と美由希と“なのは”も来るなんて、急に如何したの?」

「“なのは”の提案でな。当時、部外者だったフィアッセを関係者にしたいらしい」

 

 そう言って、御兄ちゃんが上手い具合に話の流れを作ってくれたので、まずは信じて貰い易くする為に余剰魔力の塊である四対八枚の翼を顕現させると、フィアッセ御姉ちゃんの珍しい驚き顔を見ることが出来ました。何だか、初めて見せた時の家族の反応とそっくりで、懐かしい様に思えてもまだ3ヶ月少々……。ええ、はい。懐古するには早いですね。もうちょっと漬けておきます。

 

「まさか……、『高機能性遺伝子障害(H G S)』?」

「一応、分類的には魔法だそうです」

 

 もしかしたら根源では繋がっているのかもしれませんが、その解明はやる気と倫理観に満ち溢れた研究者へ任せるとして、フィアッセ御姉ちゃんに色々有った出来事を()(つま)んで話しました。魔法と出会い、カードではなく石をキャプターしつつ戦って戦って決闘したり、その末に事件を終息させ、新たな友情も紡いだりしてエトセトラ。いやはや、次元断層すら容易に生み出す特級危険物の回収や、寝不足状態での命の遣り取りは金輪際したくないものですよ……。

 

 

 

 でも恐らく、この手が届くのなら私は解決を試みるのでしょう。

 

 

 

 だって、曲がりなりにも出来てしまったのです。だからこそ、問題が起きれば見て見ぬフリをする事なんて出来ませんし、やらない事で後悔するのは忌避感すら覚えます。より良い未来を。憂い無き明日を。楽しくも平和な日常を。

 

 只それだけを願って止まないものの、此処最近の私は【トラブルバスター】とでも言うのでしょうか? 御兄ちゃんの【フラグメイカー】染みた様々な良縁&善果を引き寄せる体質みたいな何かが励起してて、良縁の他に凄まじい厄介事も憑いて来ている気がするんですよねー……。帰国後、(はら)い落とせるか那美さんに聞いてみようと思います。

 

 

~~

Side:フィアッセ

 

 “なのは”の話が一段落し、何も無い空間から取り出された『翠屋』のスイーツセットに再度感嘆しつつ受け取ったり、それぞれ近況を語り終えると一瞬の間が生じる。その隙に、折角来たのだからと施設見学を勧めてみたところ“なのは”は戸惑いながらも頷き、美由希と秘書のイリアと一緒に校長室を後にした。

 

 恭也は、女性ばかりの施設を職員同伴とはいえ歩き回るのを遠慮して残ってくれたけれども、別室に控えていたイリア以外は気を遣ってくれたのだろう。高町家の面々は機微に(さと)くても、表情を繕うのは苦手である。そして私もそういう性質(たち)なので、率直に尋ねる方法を選んだのだった。

 

「……恭也」

「うん?」

「“なのは”、かなり無茶したんじゃないかな……?」

 

 父親である士郎さんの――不破の血筋を受け継いでいるとはいえ、“なのは”は桃子さんに似て優しい子だ。喧嘩ばかりしているレンや晶や、暗殺剣を鍛錬や実戦で昇華させている恭也や美由希とも違う守られる側の子。それが、私の知っている“なのは”だ。

 

 けれども、潜在的な資質を開花させて大活躍?

 

 そんなに上手く行く筈が無い。まだ9歳なのに、願いを(いびつ)に叶えるという高エネルギー結晶体を制圧しながら回収し、同年代の子と交戦や決闘をして最終的には友達になった等、あまりにも無茶苦茶である。きっと何処かで怪我をしたり、慣れぬ事で苦労した筈なのに、先程の話ではそんな事など(つい)ぞ出なかった。その不自然さが、推測を半ば確信させるに至っている。

 

「俺と美由希も手伝いはしたが……。理由は如何であれ、“なのは”の負担が重くなったのは事実だし、大怪我もさせてしまった。左手の傷には気付いたか? あれは掌から甲にかけて槍状の武器で貫かれ、更に火傷も負ってな。今は大分癒えたとはいえ、あの痛みも運命も、何一つ代わってやれない己の身を恨むばかりだ」

「それは…………。恭也は、悪くないよ……」

「だとしてもだ。反省して、精進すべき余地は多々有る」

 

 そうかな……? 私がHGSで使える《思念操作(サイコキネシス)》や《取り寄せ(アポート)》とは違って大幅に応用が利きそうな魔法に対し、身体能力だけで何とか出来るとは思えないのだけれど……。

 

「あまり、無茶はしないでね?」

「嗚呼。分かっている」

「心配だから、指切りもしよっか」

「子供か俺は? 案ずるな。其処まで馬鹿じゃない」

 

 過去に無茶して、二度も膝を壊した人がそれを言ってもね……。如何か、世の中が平穏無事で在りますように。皆が傷付かず、笑顔で居れますように。そんな事を祈るばかりです。

 

 

~~

Side:なのは

 

 残念な事に時間は有限でして、英国標準時の午後1時は日本だと午後9時に相当し、御兄ちゃん達を香港に送ってから日本へ帰り、シャワーを浴びればもう就寝時間に成ってしまいます。今回は、ほとんど私の話だけで終わりましたが、気軽に往復可能なので別に構わない……筈だよね? 多分きっと。

 

「今日は有り難う、“なのは”。久し振りに皆と会えて、嬉しかったよ」

「此方こそ、嬉しかったです」

「んー……。以前みたく、もっと砕けても良いのに……」

「それについては……。こう、成長したという事で」

 

 私の精神年齢もそうですが、昔よりもフィアッセ御姉ちゃんの御姉さん指数が増しているので、気軽に「あのね、フィアッセ~」とか女児っぽく言うのは躊躇(ためら)ってしまいます。

 

「あーあ。向こうに帰ったら夜なんだよねー……」

「それが時差というものだ。(ついで)に、明日からは訓練も控えているぞ?」

「うぅ……。名残惜しや……」

「えっと……。それじゃ、またねフィアッセ御姉ちゃん」

「息災でな」

「ばいばい、フィアッセ」

「うん。またね、皆」

 

 その遣り取りを最後に香港へと転移し、短いイギリス旅行が終わりを告げました。後日、この時期ならオーストラリアや軽井沢で滞在した際に撮った写真をアリサちゃんと“すずか”ちゃんから見せられ、「楽しめたのなら良かったね」的な感想を返すのが恒例だったものの、今回は意図せず参加する事が出来ました。

 

 海外だと違法渡航せざるを得ないのが難点ですけれども、夏休みの話題作りをする分には国内旅行も有りかもしれません。等と楽しく考えていたのも束の間、その考えを改める事件が起こったのでした。あれはそう……、帰国してから2日後の出来事だったと思います。あの一件以来、海鳴市からの遠出は()()く控えようと心に刻みましたね。

 

 

 

 嗚呼、何とも(まま)なりませぬ。

 

 

 


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