魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【フィアッセ・クリステラ】:ver.1.34
高町家の名誉長女。一時期、海鳴市で療養しつつ『翠屋』で働いていたが、現在は亡き母ティオレの遺志を継いで『CSS』を運営している。漸く仕事も社交も慣れて来たかな?という時期に可愛い妹分による電撃訪問を受け、新たな悩みの種を抱いてしまった。姉なる者の道は険しい……かもしれない。



第34話:あざみし風に憂いを乗せて

Side:クロノ

 

 フェイトの裁判や処遇に関する手続きが粗方終わり、後は細々とした申請を行うのみ。全く、随分と時間を(つい)やしてしまったな……。通常の事件なら一月も掛からず処理されるのに、稀に見る重大事件だった事や、フェイトが事件中にやらかした行為によって無罪判決が遠退きそうになるとは、少しばかり肝が冷えた。

 

 取り分け、『違法薬物による身体強化』と『非殺傷設定を解除しての決闘』については問題視されたが、倫理観と道徳心を養う機会の欠如により仕方が無かったという論調で弁護しながらも、嘱託魔導師として一定期間の無償奉仕、行動記録の提供及び監督者との共同生活、更に将来の就職先を管理局関連組織とする減刑策を講じつつ、あまりしたくは無かったが暫定魔導師ランクS+の“なのは”と懇意である=共に入局する可能性を(ほの)めかす事で如何にか無罪を勝ち取り、今に至る。

 

 一応、“なのは”に関する情報開示は本人から事前の了承を得ているし、この展開を見越した上で嘱託魔導師の登録も済ませていた。つまり何ら問題は無いものの、こうした情報はそれなりの立場の人間ならば閲覧可能な為、要らぬ駆け引きを誘発させる恐れが有った。

 

 

 

 Sランク越えの魔導師は、非常に貴重だ。

 

 

 

 昔ならば英雄として、()しくは王として君臨する程の逸材だが、広大な次元世界の秩序と安寧を守る時空管理局にとっては何人居ても足りないぐらいに世界は脅威で満ちている。フェイト自身も、将来有望な魔導師でSランク越えは手堅いだろうけれども、現時点でS+に到達している“なのは”は歴代最強の魔導師へと至るかもしれない。

 

 そうでなくとも、オーバーSランクである。模範的な時空管理局職員ならば、囲い込んだり接点を持ちたいと考えるのが道理だろう。と言うか実際に、リンディ提督もとい母さんが非常に乗り気だし、其れも有って“なのは”とフェイトの文通やビデオレターの頻繁な遣り取りを手助けしたり、ミッドチルダ製の映像機器及び編集機材一式を貸し出す等、現在進行形で恩を売りまくっている。

 

 これを何時もの様に狡猾だと思えたら、どれ程良かった事か……。真相としては、保護観察中のフェイトを(いた)く気に入ったらしい母さんの愛情が暴走しており、その片鱗が“なのは”にも降り掛かっているだけで囲い込みは二の次だ。

 

 女性代表のエイミィ曰く、フェイトの様な無垢に等しい可愛い子を預かったら「守護(まも)らねば!!」と母性本能が活性化するのは当然の事だと力説しており、紆余曲折を経て可愛げなく育った息子としては少々罪悪感を抱くも、あの対象が自分じゃなくて良かったとも思えてしまう。あんな風に愛されていたら、きっと別の誰かへ成り果てたに違いない。

 

 だが劇薬とすら感じる程の愛も、長らく欠けて枯渇していたフェイトにとっては良薬らしく、段々と表情や態度が(ほぐ)れて来たのは喜ばしい事である。そんな吉報を携えて“なのは”の元へ訪れると、挨拶もそこそこに要領を得ない質問を投げ掛けられた。

 

「ところでクロノさん。ミッドチルダでは、運の善し悪しって分かるんですか?」

「唐突だな。【希少技能(レアスキル)】による未来予知なら有るとは聞くが……。何でそんな事を?」

「実はその……。最近、またしても危険な事件に遭遇したので、そういう運命なのかなと」

「ふむ……。時間は有るから、その発端から顛末までを詳細に話して欲しい」

 

 やはり管理外世界でも、文明や技術がそこそこ発達しているなら問題事は付き物だな。内容次第では調査隊を組んで調べるが……。さて、どんな事件なのだろうか?

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 暑さも和らぎ、秋めいた日差しに照らされた喫茶『翠屋』のテラス席。其処でクロノさんと会合している訳ですが、愚痴に付き合わせて申し訳無いと思う反面、魔法を用いた戦闘を行ったので報告がてら一部始終を話す事にしました。

 

――

―――

 

 あれは確か、8月15日の正午過ぎの事でした。那美さんと言う方に御祓いが可能なのかを相談する為、八束(やつか)神社へと向かったのです。

 

 

 

 何故かって?

 

 

 

 ジュエルシードを回収したり、決闘したり、その直後にロボットと戦ったり、謎の魔力反応を感じたり、治安が宜しくない場所だったとはいえ窃盗犯の逮捕に協力したりとか、偶然で片付けるにはあまりにも(やく)い年だなーと思いまして、取り敢えず東洋神秘の一端を知るであろう巫女の那美さんに尋ねようとしたのですが……。

 

 不思議な事に、普段は清閑な八束神社で雷撃やら衝撃波が飛び交う戦闘が行われていたので止むを得ず参戦しました。因みに、戦っていたのは怨念に取り憑かれた【祟り狐】と、那美さんを含む退魔師の方々で、近い内に封印が解ける前兆が有ったので再封印をする予定だったそうです。

 

 まぁ結果としましては、魔法が通用したので拘束後に《 Divine buster 》で弱らせて、退魔師の方々による浄化で怨念だけを完全消滅させました。これにて目出度(めでた)し目出度し。

 

―――

――

 

「……で、最終的に御祓いはしたのか?」

破邪(はじゃ)の光とやらで清めてから、御守りを貰いました」

「そうか……。しかし、これ程までに災難続きだと末が恐ろしいな……」

「あのー、特大フラグを立てるのは勘弁して欲しいのですが…………」

(フラグ)が立つと如何なるんだ?」

「実現する可能性が高まるかもしれません」

「成程。勉強になった」

 

 その後、フェイトちゃんの現状や将来的な見通しについて聞いたり、貸し出した機材やデバイスの調子は如何だと聞かれたりして、それから何時もの手紙とビデオレターを渡され御開きとなりました。そもそもこの会合は大事の前の小事で、管理局地球支部の候補地選びや金策など色々有って結構多忙なのだとか。

 

 なら、怪しまれない様に御注意を。

 

 諜報とかスパイと呼ばれる活動は、日本の場合だと古来より“忍者”と呼ばれる人達が担当しておりまして、情報収集や変装のみならず戦闘も(こな)すらしいですよ?――――そうフラグを立てながら伝えると、クロノさんは懸念事項が増えたせいか溜め息を吐いた後「それは御互い様だろうに」とだけ返して去って行きました。

 

 何とも見事なカウンターです。あまりにも強烈だったのでモフモフな物で癒やそうと考えたものの、身近な動物で一番仲の良かった“くーちゃん”こと久遠(くおん)が例の【祟り狐】だった事も有り、今は嫌われちゃったんですよね……。正確には、《 Divine buster 》によるトラウマが原因ですけど、こればかりは記憶の風化を待つしか有りません。

 

 悲しかな。()れども、あの武力介入によって犠牲が出ずに済みましたし、この程度の代償で済むなら安い物です。ところで《 Divine buster 》でトラウマなら、十倍以上の火力である《 Starlight breaker 》を叩き込まれたフェイトちゃんは大丈夫でしょうか? 返事が少し怖いですが、次回の手紙で聞いてみようと思います。

 

 

 

~~

Side:シグナム

 

「シャマル、“はやて”の容態は?」

「今は気絶だけで済んでいるけど、これが二度三度と続けば如何なるかはちょっと……」

「ならば、早急に対処しなくてはな……」

「ええ、そうね…………」

 

 それは信じ難い出来事であった。古代ベルカの叡智を集結させ、有りと有らゆる安全機能や修復機能を備えている筈の【闇の書】が主を害する等、一端末に過ぎない我々では事前に知る由も無く、その時は訪れた。

 

 我々がその異常に気付けたのは、“はやて”のリンカーコアを対象とした魔力蒐集が自動的に()され、それが原因で“はやて”が倒れてからである。最初は、まさかと思った。次に、何故このような異常が共有記録として残されていないのか疑問を抱くも、全てを知るであろう管制人格へ尋ねるには魔力蒐集で【闇の書】の頁を埋めなければ限定起動も(まま)ならない。

 

 最低でも400頁。

 

 全666頁の、約6割の白紙を埋めるだけの魔力を魔導師や魔法生物から蒐集せねば問題点も解決策も分からず、最悪の場合は“はやて”が衰弱死する恐れがあると判断した我々は、迅速に方針を固めて行動へと移した。

 

 猶予(ゆうよ)期間は不明。出来る限り早く、空白の400頁を埋めるべく後方支援のシャマルを除いた三人で蒐集を行う。但し、時空管理局に拠点を早期特定される事態は避けたい為、近場の巨大な魔力反応からの蒐集は最終段階にて実施する。

 

 

 

 

 

「何故だ【闇の書】? 何が起因となり、我等の主を(おびや)かす……?」

 

 

 

 

 

 懊悩(おうのう)するも、立ち止まる訳には行かない。此処で諦め、(くじ)かれてしまえば“はやて”の命が終わる。それは騎士であり八神家の一員でもある私にとって、如何しても切り伏せたい未来であった。

 

 


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