魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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 冷たい季節がやって来る。

 ある者は待ち遠しく、ある者は例年と変わらずに、ある者は悩ましい冬を迎えるだろう。

 だがそれは、等しく終わる。

 誰もが望まぬ暴走の果てに、全ては闇へ沈むのだ。

 何も為せず、何も残らない。

 そんな冷酷な時が、もう間も無く訪れようとしている。




【A's編】
第35話:フィンブルヴェトの訪れ


Side:なのは

 

 11月29日。少し早いものの、商店街や街路樹にイルミネーションが飾り付けられ、デパートや『翠屋』にもクリスマスツリーが設置される様な時期となりました。

 

 つまり、私がクリスマスという繁忙期に臨時店員として駆り出されるまで一月を切った訳ですが、今年からは身体強化魔法が使えるので気楽かなー?と考えながら夜間飛行をしていた折に、見たことの無い結界に引き込まれたかと思うと、普段は静かな【ルーンライター】が異常事態である旨を伝えてくれた為、取り敢えず帰宅コースを外れて、自宅や市街地から距離を稼ぎます。

 

 全く、何が目的なのやら?

 

 此処最近は大人しくしていましたし、フェイトちゃんからの朗報により気分上々な日々を送っていただけなのに、風雲急を告げるとはこの事でしょうか。ところで風雲ではなく誘導弾が飛んで来た場合は、どの様に解釈をすれば良いのか困ってしまいます。

 

 一先ず《 Round shield 》で受け止めるも、直ぐに後悔しました。フェイトちゃんやクロノさんの誘導弾を弓矢とするなら、こっちは投げ槍みたいな感じで結構重いのです。まぁ、よく見ると誘導弾の外観が鉄球その物なので()もあらんと納得しつつシューターでの破壊をと考えた刹那、更に追加となる誘導弾8発と大型誘導弾1発を検知。

 

 仕方無いので奥の手を使って落としましたが、何故だか遠くに居るゴスロリ†ハンマーさん(仮称)の不機嫌さが増している様に感じます。や、キレたいのは此方の方ですよ……。と思うも我慢して、念話による事情聴取を試みました。

 

[> 随分な挨拶ですね。御用件は何でしょうか? <]

[> はっ、騎士に《 騎士殺しの風 (ヴィン・デス・リタートゥーエンス)》を使っといてそれかよ。てめぇ、潰されてーのか? <]

[> そんな異名は初めて知りましたし、潰されたくもありません。それで御用件は? <]

[> ……黙って叩かれて伸びてろ。あとは勝手にやる <]

[> じゃあ此方は、その短気さを撃ち伸ばして差し上げます <]

 

 んー、まぁこうなるのも予想の範疇(はんちゅう)です。魔導師と言い、自称『騎士』と言い、魔法に自信が有る人達は交戦しないと聞く耳を持たない傾向が有るのかもしれませんねー。そんな訳で、レッツファイトです。

 

 今度は此方が先制して《 Divine shooter 》を16発射出し、相手の出方を窺います。すると、先の一戦で中距離戦は不利だと悟ったのでしょう。防御魔法を張りつつ突っ込んで来ました。得物がハンマーですから、破壊力に関してはフェイトちゃんが大斧形態の【バルディッシュ】を振り回す攻撃と同等か、若しくはそれ以上。

 

 無論、そんな攻撃は当てられたくはない為、後ろ向きで飛びながら相手の後方や側方を誘導弾で脅かし、設置型バインドや流し撃ちが可能な《 Short buster 》で最短経路を塞ぐように迎撃を開始。時には、慣性制御による鋭角なV字(ヴァリアブル)ターンや真横への(ヴァーティカル)スライドで振り切って、翻弄する事も忘れません。

 

「せこい戦い方をしやがって! これだから、魔導師は気に食わねぇんだよっ!」

「不意討ちした人が、それを言っちゃうんですか?」

「うっせぇ! カッ飛ばすぞ、アイゼン!!」

[-《 Raketen hammer (ラケーテン・ハンマー)》-]

「うわぁ……。逆ギレって理不尽だね、ルーンライター」

[- Be careful. Master -]

 

 何かが弾けた後、敵のデバイスが凄まじい変形を遂げました。先端にはドリル、後端にはロケットブースターが出現し、人機一体となり不規則な軌道を描いて此方へと突撃して来ます。只それでも、ステータスを速度に振った状態のフェイトちゃんと変わらぬ速さですし、この状態だと瞬間移動魔法や射撃魔法も使えないらしく先程よりは逃げやすい様な?

 

 別に撃ち落としても良いんですけど、あの速さに当てるのは一苦労なので暫くは回避に専念&様子見しようと思います。意外と、魔力消費による疲労で血の気が落ち付いて、御話し出来るかもしれませんし……。でもこの人、何となく覚悟完了みたいな鬼気迫る熱意を感じるので、多分望みは薄いです。

 

「さっさと、食らい……やがれっ!」

「それは御免被ります。なの」

[-《 Flash move 》-]

 

 瞬間移動魔法で距離を稼ぐ。その最中、敵デバイスのハンマーと柄の接続部付近にある回転式弾倉らしき物の動作を確認しました。恐らくあの装置が、爆発的な魔力を生じさせているんでしょうね。ところで、装填数を6発と推定した場合まだ3発程は残っている筈なのですが、それを考慮するならあと2分くらい逃げる必要が有ります。ふーむ……。それなら弾幕を浴びせて、中断させる方が手っ取り早いのかもしれません。

 

 気は乗らなくとも、怪我をせず、無事に帰れるように真剣で最適な行動を。これは私を心配してくれる家族の為、友達の為、知人の為にも最善を。――――では改めて、戦闘行動を開始します。

 

 

 

~~

Side:シグナム

 

 ヴィータが先陣を切り、3分と経たずに撃ち合いが50合を越えた。魔力反応からある程度の予想はしていたが、リンカーコアの蒐集対象である魔導師は非常に手強く、相性の悪さも加わり次第に形勢不利となっていた。中距離以上の射程は完全に魔導師の独壇場で、カートリッジシステムの爆発的な魔力供給を用いた肉迫も、バインドや誘導弾に阻まれてしまう。

 

 そして何よりも厄介なのは、貯蔵魔力を活かした出鱈目な軌道の飛行魔法である。恐らく、足元に推進力を発生させる通常の魔力消費量が少ない飛び方とは違い、進みたい方向へ引っ張る様に飛んでいるのだろう。後方や背面に付いても優位とならず、延々と退き撃ちや置き撃ちをされれば攻め(あぐ)ねるのも当然だ。仮に私が先鋒を務めたとしても、戦況の大差は無いと思われる。

 

 しかし、これは“決闘”ではなく“狩り”なのだ。このままヴィータに任せた場合、相打ち上等で叩き込めれば辛勝するにせよ代償は大きくなる。今後も、短期間だが魔力蒐集を行う予定である為、余力は可能な限り残しておきたい。

 

[> 行動解析は粗方済んだ。ヴィータ、ザフィーラと連携して魔導師を追い込め <]

[> 了解、任せろっ! <]

[> 承知した <]

 

 控えていたザフィーラが参戦すると、僅かながら形勢は逆転した。通常なら2対1では簡単に優勢へと傾く筈なのに、魔導師による驚異的な抵抗がその予想を否定する。より速く、より正確に、より苛烈に。古代ベルカ魔法技術の結晶たる我々を上回ろうとする可能性は、敵ながら見事。叶うならば、正々堂々と倒したい相手であった。

 

「済まない。名も知らぬ魔導師よ」

 

 カートリッジを消費し、弓状となった【レヴァンティン】の弦に矢を(つが)えて引き絞る。……我等には目的が有る。騎士の誇りを捨てようとも、成し遂げたい目的が有るのだ。故にこそ、冷徹に役目を果たそう。

 

「我が無念と共に……。翔けよ、隼!」

[-《 Sturm falken (シュトゥルム・ファルケン)》-]

 

 如何(いか)なる手練れであれ、複数人を相手取るなら無理が生じやすい。その間隙を射貫く一矢は、吸い込まれるように魔導師へと届いた。だが、寸前で張られた防御魔法を(とお)したせいで威力は()がれている。あれでは気絶させるどころか、手負いの獣と成るに違いない。

 

「やはり、殺さずに仕留めるのは難しいものだな……」

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 敵の増援で全身鎧の拳闘士が来たかと思えば、更に3人目からの狙撃を貰ってしまいました。不覚以前に無理ゲーなのですが、私は如何(どう)してこうも寄って(たか)ってボコられているんでせうか? もしかしたら前世が極悪人だったり、占いで言う大殺界という時期にでも突入したのかもしれませんけれど、「諦めたらそこで試合終了ですよ?」と某監督も言ってます。大切ですね、不屈の心。

 

 痛覚は遮断して、身体強化魔法の出力を最大限に。貫通してきた弓矢型実体弾を咄嗟に掴んで受け流した左手は、またもや無残な感じになっているので簡易的な止血処置を実施。他にも、実体弾が爆散した影響により全身が痛みますが、まだ戦えなくもないです。

 

「蒐集開始」

「うっ…………、ぁ……」

 

 訂正。未知の魔法…によって、私のリンカーコアから敵が持つ本_デバイスへと魔力を吸い上げられている為、戦闘継続が__になりました。少しでも並列思考が乱れると、意識が痛みに…持って行かれそうな気がします。いやはや、実在しない……臓器みたいな物から激痛を感じる…_は、これ如何(いか)に?

 

「ほう、まだ耐えるか」

「何故……、こんな事を?」

「ある目的の為、とだけ言っておく」

「おい、シグナム。敵に態々(わざわざ)教えんなよ」

「抵抗されるよりはマシだ。それに、私は彼女の奮闘に敬意を表したい」

「……あっそ。じゃ、あとは任せた」

 

 突然現れ…たポニーテールの剣士さんを含め、待ち__ていたのは3人。この調子では、他に…何人か居たとして_不思議ではありませんね。それと抵抗しようにも、魔法による痛覚__が出来ずに内心では(もだ)えている……ので過大評価かと。

 

「これから御前は、魔力を吸収されて気絶する。殺しはしないが、もし再び我等の前に現れるようなら……。腕の一本くらいは覚悟するが良い」

「また、誰かから……奪うん…ですか?」

「必要が有れば、そうするだろうな」

 

 では…、頑張って立ち塞がるのみですよ。3日後には、リンディ__がどんな裏技を使ったのかは怖くて聞けません…けどフェイトちゃんが来日しますし、流刑地よろしく数年間は此処で暮らしてい_との事。確かに、魔法や科学が優れているミッドチルダと比べたら、地球の日本なんて不便な……ド田舎でしょうね。でも…児童労働が当たり前なブラック世界よりは、豊かな人生_験が出来ると思います。

 

 それはさ_置き、フェイトちゃんが1対3で襲われ……かねないのならば、アルフさんと私を加えて3対3、出来ればク__さんや武装局員の方々の…支援も受けたいところです。因みに、ユーノ…さんは考古学者が本業なので戦闘要員には含め_せん。手伝ってくれるのなら、それはそれで…_り難いですけど。

 

「良い目付きだ……。私は『守護騎士』(ヴォルケンリッター)の将、シグナム。御前の名は?」

「っ……。嘱託…魔導師、高町なのは………です」

 

 嗚呼もう。これ以上は……並列思考_解け…__…、

 

「成程。道理で――――」

 

 

 

 

 

 

 

 




「――――よく似ている」



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