【久遠】:ver.2.036
昔々、ある事件によって愚かな人々を恨むようになった妖狐は、やがて『祟り狐』と化した。近代になって漸く封印されてからは生来の善性を取り戻しつつあったが、纏わり付いた怨念はそう簡単には祓えないと思われていた矢先《ディバインバスター》で8割ぐらい消し飛ばされ、解決へと至る。尚、“桜色”と“なのは”へのトラウマが深く刻まれた為、大団円とは言い難い。
Side:なのは
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冷たいし、暗いし、動けない……。
ぼんやりとそう感じます。
熱は無く、光は見えず、血もそこそこ流れたのでしょう。
正直、思考する事さえ“しんどい”のですが、二度寝したら次は起きれない恐れが有るので頑張ります。取り敢えず、魔法でサクっと解決を試みるも無反応。不思議に思い調べてみると、何故だかリンカーコアが酷く損耗しており、これでは魔力運用は難しいなと感じました。じゃあ、どーにかして直さねば……。
祈ってみます。温かい記憶を込めてみます。生存願望も投じてみたものの、これでは生命力と言うか体力の方が先に尽きてしまいそうです。やはり、肉体に血が通うようにリンカーコアには魔力が必要なのかなーと考えていたら、外部から少量の魔力が流れ込んで来ました。これは有り難いですね。半分は修復に当て、もう半分は周囲から魔力を集める為に使います。
はい、当然の如く供給不足に陥りました。ならば、もっと遠くて高くて深い場所からも集めないと早期修復は望めません。体感限度の
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焦げた臭い。冷たい空気。痛みと熱を持つ全身。リンカーコアからは、溢れんばかりの圧縮魔力が出口を求め
落ち着いたところで身体チェックをしてみますが、左手の傷は塞がりこそすれ血を含んでいるので赤黒く、また包帯を巻くか手袋で隠さないと不特定多数の人が体調不良になるかもですね。他にも打ち身や擦過傷、急制動による筋肉痛といった細かい異常は有れども、安静にしていれば遠からず完治するかと。そんな事より、もっと深刻なのは【ルーンライター】の方でして……。外装の
「……ごめんね。有り難う」
多分、無我夢中で引っ張って来た魔力が逆流してショートしたのか、それとも私の安全の為に魔力の一部を逃がしてくれた影響なのか。どちらにせよ、私の
理不尽は突然やって来る。
そんな事を6年前から知っていて、つい8ヶ月程前には脅かされたにも関わらず、平穏を
分かりません。けれど、万全では有りませんでした。もう後悔したくないなら、諦めたくないなら、甘えを捨てて強くならなくては……。
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Side:フェイト
「という感じで、フルボッコにされたのでした。ちゃんちゃん」
「済まない。僕達が、もう少し早く来れれば……」
「気にしないで下さい、クロノさん。悪いのは敵と、私の弱さなんですから」
12月1日。私とアルフ、クロノ、リンディ提督、エイミィを含む次元巡航船『アースラ』が地球に着いた時点で、最悪は過ぎ去っていた。
時空管理局としては、魔導師襲撃事件の多発を把握していたにも
「……誰だって、オーバーAAAランクが3人も襲って来たら厳しいと思うんだが?」
「それでも私は勝利して、平穏な日常を送りたかったんです」
「残念ながら、単純に勝てば解決する様な相手ではなくてな……。エイミィ」
「はいはーい。【闇の書】の情報で良いよね?」
「いや、その前に“なのは”へ機密情報限定閲覧権を付与したい」
「ふーん、なるほろなるほろ……。それだと5分くらい掛かるので、宜しく
「却下。3分で処理しろ」
「唐突な理不尽?!」
「言い回しがイラっとした」
「一理有るけど、それって横暴だと思うなあ!」
「なら、もう少し真面目な言動を心掛ける様に。将来的に、異動先で困るのは君だからな?」
「えっ? 私、クロノ君の専属執務官補佐なんだけど?」
「は? 人事規則上、有り得ないと断言しておく」
けれど、時間の経過は悪い事ばかりじゃない。“なのは”を襲った犯人達は、第一級捜索指定ロストロギア【闇の書】に付属する防衛機構の1つ『守護騎士』である事が判明し、その対策本部を地球に置く事が決定された。
過去30年程、時空管理局は二度も【闇の書】を捕捉したのに破壊や封印すら通用せず失敗を重ねているものの、個人的に用が有るのは『守護騎士』だけだ。全身全霊を懸けて
「フェイトちゃん」
「うん。如何したの“なのは”?」
「……あまり、私よりも怒らないでね」
何故……?
「“なのは”は、友達が襲われても我慢して欲しいの?」
「フェイトちゃんは、友達が殴り返した相手でも追い打ちするの?」
因みに、フルチャージした《 Divine buster 》を直撃させる程度には遣り返します。――――そう言われると、言葉に詰まる。アレは凄く重い砲撃で、防御魔法越しでも受け止めたくない魔法の1つだ。そんな物をフルチャージで当てた相手に追撃など、下手をすれば致命傷になってしまう。
「なら抑えるけど……。その代わり、手加減無しだよ?」
「ラジャーです」
でも、今後は“なのは”だけが戦うなんて事は滅多に無いだろうし、隙を見て《
取り敢えず、あの憎い騎士達をやっつけて、【闇の書】も壊してしまえば平穏になる事が分かっている。それから先は分からないけど、幸せな日々を“なのは”やアルフと、そしてクロノ達とも過ごせたら嬉しいなと思っているからこそ、この怒りとその元凶を切り捨てたくて心が
不快だ。不快で不快で、あらゆる幸せが陰りを帯びる。
こんな物を抱えながら過ごすなんて嫌だ。私はドクター・プレシアみたいに
そして私は、そんな私が大嫌いで仕方が無かった。
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Side:なのは
あれから1時間ほど情報共有や談話をした後、約束の時間が迫って来たので『アースラ』の転移ポータルを経由して移動する事になりました。
目的地は、時空管理局本局の技術部装備課。其処でユーノさんから預かった【レイジングハート】と、フェイトちゃんの【バルディッシュ】に強化改修を施すので、その方向性を打ち合わせするのです。相手だけカートリッジシステムという魔力ブースターが付いていては、1対1だろうと苦戦しますからね。技術で補える不利は、補うのが吉ですよ。
因みに残念ながら、【ルーンライター】は修復不可能という事でデータ取りをした後の破棄が決定していて、元からユーノさんが【レイジングハート】の所有権をスクライア一族から譲り受けて私に譲渡するまでの繋ぎでしたが、愛着は確かに宿っていました。
とても、申し訳無い気持ちで一杯です。なので復讐とまでは意気込みませんが、再戦での勝利と事件解決を
「そう言えば、レイジングハート。ユーノさんは今、如何しているの?」
[- Currently he works in the library. -]
「へー、今は司書さんをやってるんだ?」
[- Yeah. -]
何が起因となったかはさて置き、古代遺跡やら旧文明の探索に明け暮れるよりは平和で収入も安定しているでしょうし、心配事も1つ減った……のかもしれません。機会が有れば、【レイジングハート】を託してくれた御礼と転職祝いをしなくては。そう心に留め置きつつ目的地へ到達すると、白衣を着た眼鏡の御姉さんが待っていました。
「御待ちしておりました。改修担当の“マリエル・アテンザ”と申します」
「本日は御世話になります。“高町なのは”です」
「“高町フェイト”です。宜しく御願いします」
あ……。以前、見送りの際に名字を貸した(あげた?)ままでしたね……。別に返して貰うつもりは有りませんが、行く先々で姉妹や親戚と思われるのも考え様です。まぁ、仮に勘違いされたとしても被害は無い筈なので、聞かれない限りスルーする事にしませう。
「じゃあ、僕達は別の用件を済ませて来るから、其方が先に終わったら連絡をして欲しい」
「はい、分かりました」
そう言ってクロノさんとエイミィさんとは別れたものの、結果的に連絡をする事は有りませんでした。やはりと言うべきか、マリエルさんは『マッドサイエンティスト』ならぬ『マッドエンジニア』で、作業着や制服だけで十分なのに白衣を着ている人は次元が違ってもそんな感じなんだなと妙な確信を得ましたが、そんな物を得たところでマッドが止まる訳も無く、改修案が次から次へと出て来ます。
「いやー、本当に何度見ても素晴らしいですね~。彼等を作った技術者は、拡張性や演算能力の大切さを実によく分かってらっしゃる。特にレイジングハートなんて、この試作カートリッジシステム『ウルカヌス』に、予備弾装とフレームを大量に積んでも
あの、“力”は欲しくても戦争をしたい訳ではないんですよ。
「えーと……。流石にそれは、過剰戦力だと思うのですが……」
「おっと失礼。最高峰のデバイスと魔導師に出会えて、
「では、色々と問題にならない程度で御願いします」
一先ず【レイジングハート】の最終兵器化は防げましたが、カートリッジシステムの中では一般的とされる“マガジン”や“リボルバー”や“チューブ”式ではなく、これでも控え目にしたらしい装填数65発の“特注ドラムマガジン”が採用され、
尚、【バルディッシュ】本体にはリボルバー式の物を組み込むだけという簡素な改修のみでしたが、バリアジャケットの各所に次世代型電磁カートリッジシステム『ヘラウスフォルデルング』を装着させるなど抜かりは無く、また全体的な強化調整は別枠との事。
凄く、嫌な予感がします。
オーバークロックやらリミッター解除さえも霞む、「こんな事も有ろうかと」といった配慮が生み出す“ナニカ”が仕込まれる様な、そんな気がするのです。今でさえ非殺傷設定が機能しているだけで、威力的には都市の痕跡すら残さない戦略兵器じみた魔法が撃てるのに、更に+αされるのは避けたい所……。
「
そう言われて、物陰からおずおずと出て来たのは同い年ぐらいの眼鏡を掛けた少女で、長い髪と顔付きから御姉ちゃんを幼くした様な印象を受けます。これで何処か
「は、初めまして……。“シャリオ・フィニーノ”です。精一杯、頑張ります!」
「……この子、“なのは”さんの戦闘映像記録を見てからファンになったみたいで、今朝からずっとこんな調子なんですよ。でも腕は良いですし、仕事も120%ぐらいの勢いで処理していますから御安心を。能力は保障します」
それってファンじゃなくて、
「初めまして、“高町なのは”です。早速だけど、シャリオちゃんに1つ御願い事が有りまして……。もし、マリエルさんが突貫からの保身無き零近距離射撃とか、近接用サブアームに、跳弾する魔力弾や、
余計な物なんて要りません。変な装備や魔法の習熟に時間を割くぐらいなら、得意とする高精度・高速度・中遠距離の戦闘技術を磨いてクソゲーを押し付けた方が強いと思いますし、戦闘はスポーツではないので同じ土俵で戦う必要も無し。あと、技術的に可能っぽい気がする
「分かりました。その様な物は、全力全開で防ぎますね!」
「や、そこは冷静沈着な判断で御願いします」
「了解です。……あっ、それからサインを頂けないでしょうか?」
「サインって、確認用じゃない方かな?」
「はい、宜しければ此方の色紙に――――」
はてさて、如何なる事やら……。色々な意味で、完成の日が待ち遠しいです。