【高町フェイト】ver.2.038
血筋は繋がっていないのに、“なのは”の従姉妹という事になった複雑な経歴を持つ少女。人との接し方が不慣れで、全く知らない人への対応は素っ気無いが徐々に改善しつつある模様。“なのは”を襲った『守護騎士』には怒りを抱いており、また同様にそんな自分を嫌悪している。
side:なのは
12月20日、時刻1925。海鳴市上空300m付近。
夕食も御風呂も済ませ、黙々と宿題を処理している最中に緊急出動要請が掛かり、ドライブ・イグニッション。某技師による過剰なまでの火力信仰によって再誕した【レイジングハート・ヴァルカノーネ】を起動し、転移魔法で現場まで跳んだ頃には管理局による人払いと包囲が完了しており、あとは《 強装結界 》の内部へ閉じ込めた『守護騎士』を拘束または消滅させれば帰宅可能といった状況です。
それにしても、随分と待ちました……。次元世界各地で発生していた類似の襲撃事件情報から割り出した彼等の行動範囲は広すぎる為、【闇の書】に蒐集されていない&保有魔力がそこそこ多い魔導師を餌にして数箇所で網を張っていたのですが、再び此方側へ来てくれるとは好都合と思わざるを得ません。
まぁ別に、復讐したくてウズウズしていた訳ではなく、さくっと仕事を終わらせて帰るなら近い方が良いという人類共通の願いが主でして、襲撃された怨みとか【ルーンライター】が壊れた一因に報復したい気持ちなど、ほんの少しのみですよ。そんな私情はさて置き、念話でクロノさんを呼び出して作戦を確認します。
[> クロノさん、プランAの応用で良いんですよね? <]
[> その通りだ。咄嗟の判断は任せる <]
[> ラジャーです <]
プランA。要するに、フェイトちゃんやクロノさんといった餌で『守護騎士』が釣れて、包囲できた場合の作戦です。
フェイトちゃんがシグナムさんを、アルフさんがザフィーラさんを、そして私がヴィータさんを相手する事になっており、相性的に撃破しやすいであろうヴィータさんを落としてから枚数差で優位に立つ。そんな感じの作戦でして、まだ見ぬ後方支援型のシャマルさんという方の相手はクロノさんがするとの事。――しかし、今回はヴィータさんとザフィーラさんの二人しか居ないので、フェイトちゃんとクロノさんは増援対処要員として一時待機となります。
いやはや、なんと愚直で綱渡りな作戦でしょうか。
けれど仕方が無いのです。これは管理局の自業自得でもありますが、広大な次元世界における治安維持を担っているので人材は常に払底し、優秀であれば保護観察処分中のフェイトちゃんを更生活動がてら実行部隊に組み込んだり、現地協力者でしかない魔導師を主力に据える他無く、正直なところ数と質の暴力が出来ない組織なんて規模縮小&再編すべきなのでは? はい、余計な思考はカット/カットですね。
「けっ……。あんだけボコったのに、また戦場に出て来たのかよ?」
おっと。唐突にヴィータさんから舌戦を吹っ掛けられました。つまり今が前哨戦で、戦意十分という覚悟の表れなのかもしれません。そもそも、一度勝っている相手から降伏勧告されても鼻で笑うような気風が感じ取れるので、此処は素直に応じます。
「ええ。奮闘空しく、一対三で負けた恥を
「あ? なら今回は
「…………ヴィータ。それを言うなら“辞世の句”だ」
「あんた、其処は聞き流してやりなよ……」
ザフィーラさんとアルフさんの強烈な“ツッコミ”により舌戦が中断されたものの、半実体弾がハンマーで叩かれた事によって開戦のゴングが鳴りました。始まって早々、私とアルフさんは散開して距離を稼ぎます。流れ弾とか怖いですからね。当然の措置です。
「取り敢えず、最初は驚かそっか?」
[- All right.《 Axel shooter :Barrage 》-]
惜しみなくカートリッジを6発消費。《 Divine shooter 》よりも貫徹力が強化された魔力弾を24発生成し、追尾して来る半実体弾を迎撃しつつヴィータさんへと思考誘導します。幾つも撃ち落とされ、防がれたとしてもカートリッジを消費して次弾を生成。暫く、行動観察がてらエンドレスの予定です。
尚、カートリッジの弾数に関しましては近距離戦を捨てた代わりに得られたバレルマガジンによって装填数は驚異の65発、そして予備弾倉が19個なので総弾数は1300発。
強いて問題点を挙げるとすれば、過剰な火力ぐらいかと。うんうん。これが対人用で戦略兵器じゃないって
さて。
並列思考は穏やかに。対して戦況は凄まじいのですが、思ったよりも苦戦しております。と言うのも、ヴィータさんが制限装置みたいな物を解除しているらしくて、高速回避機動での息切れとか魔力消費による疲労といった隙を一切出さないのです。最初の何発かは近接炸裂設定で魔力ダメージを与えられましたけど、全身を覆うバリア系の防御魔法を展開されてからは嫌がらせ程度にしかなっていません。
なればこそ、強烈な魔力砲撃を。あの日に討ち勝てなかった僅かな後悔と、束の間の安寧に甘えていた幼稚性を吹き飛ばす、とても
「ディバイン」
[-《 buster :Sanction 》-]
4秒足らずの初期チャージを終えた後、【レイジングハートVC】の先端に展開された魔法陣からは《 Divine buster 》が光の奔流となって溢れ出し、断続的なスライド開閉によりカートリッジが絶えず消費されます。そして抽出された純粋魔力と私の保有魔力が交ざり合い、新たな光に成るのです。
途切れぬ照射。
通常ならば、直線状を突き進むだけの砲撃で敵をなぞる。それは距離が開く程に凶悪さを増し、数百メートル先の敵がどれだけ逃げても手元で数センチ動かせば追い付けます。けれど、敵も
流石に、封時結界の外側にあれども内在するビルを非殺傷設定の魔法で貫ける筈も無く、砲撃を中断して強化魔力弾による直撃狙いの追い込みと、天頂からの遠隔砲撃へシフトしようとしたところで巨大な魔力反応を感知。
「轟天爆砕!」
威勢の良い声と共にビルを飛び越え、姿を見せたヴィータさんの手には打撃部位が何十倍にも巨大化したハンマーが握られており、おまけに柄を伸ばしながら此方へと振り下ろして来ました。いやー、古代ベルカの技術力って凄いですね。あの質量がスカスカになりそうな体積で、如何やって破壊力を稼いでいるのか疑問を抱いてしまいます。
「ギガント・シュラークっ!!!!」
[-《 Flash move 》-]
しかしバインドで拘束されておらず、見た目的にも必殺技じみた攻撃なんて
慣性のままに舗装路へ叩き付けられたハンマーが解除され、大量の魔力残滓になったせいで姿どころか魔力反応すらもロストし、その
「苦戦しているようだな、ヴィータ。此処からは私が変わろう」
緋色の騎士、シグナム。その傍らに居る翡翠の騎士は、恐らく“シャマル”。これで『守護騎士』が勢揃いした訳ですね。特に嬉しくは無いものの、強いて挙げるなら見えないもう一人を警戒するよりは気楽かなーと前向きに捉えております。
「邪魔すんなよシグナム。まだ負けた訳じゃねぇ!」
「大局を見ろ。これは決闘ではなく狩りだ。勝ったところで価値は無い」
「…………それもそうだな。この勝負は預けるぞ、高町ナントカ」
「や、“高町なのは”です」
「ふむ……。少々締まらぬが、仕切り直しと行こう」
そして展開された《
「ただ供物と成れ、管理局よ。我等の悲願を果たさんが為に」
~~
side:アルフ
「全く、あんたどれだけタフなんだい?! まるでターミ〇ーターじゃないか!」
「あの様な
主人を思う気持ちで負けるつもりは無いけれど、『使い魔』になってから3年少々の私が歴戦の戦闘経験者であるザフィーラを相手するのは分が悪い。初めからそれは覚悟していたし、最新のデバイス&「負けなければ良い」という言質をリンディ提督から貰っていたので何とか戦えてはいる。
正確には、“手加減されているだけ”なんだろうけどねぇ……。
オート・プロテクション機能を始めとした各種アシスト機能で補助されても、一打一蹴の全てが重く速く、どれだけ攻撃しようと怯まない鋼のような肉体と精神と技量を備えた相手と戦うなんて、高町兄姉を思い出して涙が浮かびそうになる。確かに強くなりたいと御願いしたけどさ……、人知を超えて武神へ至らんとするような凄まじい鍛錬や組手をやるなんて想定外だっての。
「圧し潰す!」
[-
「痛っ~……。この筋肉ゴリラ! 詐欺狼!」
「口よりも先に、手足を動かせ小娘」
「その発言、そっちにも刺さっていると思うんだけど?」
「フッ……。貴様と違って、それだけ余裕が有る証左だ。問題は無い」
「なら、私の攻撃もノーガードで受けておくれよっ!」
[-《 Impact rush 》-]
ともあれ、そんな格上とも言える相手に対して時間稼ぎが出来たところで、戦況は悪化の一途を辿りつつある。そりゃそうだ。フェイト達は別として、私と武装局員が足を引っ張っているのだから。
ザフィーラは、私を相手する片手間に対象を貫いて拘束する攻性バインドや防御魔法で何度か支援しているし、シャマルという騎士が召喚した触手だらけの竜は強敵らしく、既に何人かの武装局員は戦闘不能。彼等を指揮しているクロノはシャマルを相手に
フェイトはヴィータと、“なのは”はシグナムと戦っていて忙しく、《 封鎖領域 》を破壊するにはAAA+ランク並みの高火力を叩き込まないといけないので、撤退も
どう仕様も無い。
少なくとも私に状況を変えるだけの戦力は無いのだから、仲間を信じて耐えるのみ。フェイトでも“なのは”でも、クロノやリンディ提督でも良い。誰かが何とかしてくれる事を祈りつつ、この堅物野郎を引き付けるべく再び《 口撃 》を仕掛けるのだった。