魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【ヴィータ】ver.2.039
八神家の三女、または末っ子。『守護騎士』の中では二番目の実力者ではあるものの、身長的に次女の座をシャマルに奪われてしまった。“はやて”の手料理や、アイスクリーム等の甘味を好んで食べる姿はとても子供らしいが、戦闘になれば荒々しい勇士へと様変わりする。尚、戦闘スタイル的に“なのは”との相性は極めて悪い。

【ザフィーラ】ver.2.039
八神家のペット。一応、長男も兼ねているが「ワンコの方がええな」という“はやて”の要望に沿って主に狼形態で過ごしている。決して犬ではない。『守護獣』としては珍しく全身鎧型のアームドデバイスを使用しており、見た目は何処ぞの聖なる闘士を彷彿させる。原因としては、騎士甲冑を更新する際に“はやて”の邪念が混じったとか何とか。



第39話:新たなる辰星と極光なの【後編】

side:なのは

 

「なかなかやるではないかっ! “高町なのは”!」

「御褒めに預かり、恐悦至極です」

 

 如何してこう……、私の敵になる人達は近接寄りなんでせうか? まともに戦った魔法使いはシグナムさんで4人目となりますけど、この偏向ぶりは将来に不安を覚えてしまいます。私はガンナーで、魔砲使いです。(しか)らば、やはり一番心が(おど)るのは弾幕戦な訳でして、こんな無限に伸びそうな連結刃を振り回す相手よりかは、適度に撃ち合ってくれるフェイトちゃんの方が好感度は高いです。

 

 まぁそもそも、敵は敵なので楽しんでいる暇はありませんよね。かと言って、サクッと勝てるような気軽な相手でもありませんが……。

 

「飛竜一閃!!」

[-《 Distortion field 》-]

「ほう……、この技を正面から逸らすとはな。それでこそ、倒し甲斐が有る」

「や、これは魔法が優秀なだけですので」

 

 次元巡航船『アースラ』でも採用されている防御魔法《 Distortion shield 》の応用でして、魔力消費量が凄まじい代わりに強力な歪曲場を発生させ、あらゆる物理・魔法攻撃を逸らせるらしいのですが誘導弾に対して使ってもUターンされるだけで打ち消せませんし、大体の攻撃は一方向だけを防ぐウォール系の防御魔法やら回避や迎撃で何とかなりますから、正直それでは何ともならない魔力変換資質による炎熱効果付与+広域高速斬撃をしてくる方がヤバイと思います。

 

「抜かせ。此処まで戦える魔導師なぞ、そうそう居らんよ。その実力は誇るべきだ」

「如何致しまして。ところで……、これって勝負だったりしますか?」

「さて、何の事やら? 狩りとは何も、冷酷に仕留めることが全てではない」

「ソーデスネ。Soかもしれません」

 

 彼等の目的は魔力蒐集ですから、蒐集済みの私は邪魔者でしかなく足止めが必要。だから狩る必要は無い……。なるほど、理に適った行動です。

 

「しかし、遊びと思われるのも心外ではある。……故に、奥の手を見せてやろう」

 

 そう宣言するや否や、シグナムさんはカートリッジ・ロードして剣の握りと鞘を近付けると古代ベルカ式不思議機構が発動して融合し、鞘が剣へと変わって両頭片刃剣になりました。両頭両刃剣ならメーネという武器が地球にも有りますけど、それに似ていますね。剣が二倍。何故か剣身の長さも二倍。おまけに、連結刃となって伸びたりする事も想定すれば脅威も二倍。ならば私も幾つか、切り札を使わねばなりますまい。

 

「《 A.C.S 》起動」

[- All right.《 Advanced-Crossover-System 》, ignition! -]

 

 デバイス側に思考を読み取ってもらうのではなく、思考を共有する。そんな人機一体とも言えるシステムの起動と、余剰魔力の塊である羽と光輪からの供給量を増やしてみましたが、やはり前者の方は慣れませんね……。でもこの戦いで、会得したいと思います。

 

 

~~

side:フェイト

 

 怒りが有った。怨みが有った。“なのは”を墜とした挙句に苦しめた『守護騎士』の全てが憎かった。――――でも、そんな余計な重みを背負ったままで戦える程、このプログラム共は弱くなかった。その現実もまた、苛立ちへと拍車を掛ける。

 

「おらっ、さっさと潰れろ!!」

「そっちこそ、直ぐにバラしてあげる!」

[-《 Raketen hammer (ラケーテン・ハンマー)》-]

[-《 Halberd crusher (ハルベルト・クラッシャー)》-]

 

 互いの攻撃部位であるヘッドを避けつつデバイスを振るい、その結果として柄と柄がぶつかって組み合う。行動を読まれているというよりも、近接戦ではよくある事だ。これが剣同士なら鍔迫(つばぜ)り合いをしている様なもの。そして此処は空中であるが故に、足場なんて関係無い。

 

 わざと体勢を崩し、地上へ押し込みたくなるように誘導する。敵がそう意気込んだところで慣性制御魔法を併用し、ハルベルト形態の長柄でハンマーの柄を滑らせながら真下に投げ出してやった。

 

 僅かな秒数と、距離を稼ぐ。

 

 敵は、直ぐに前転する事で此方へと向きを変えたがもう遅い。速度が打ち消されたその瞬間を狙って、砲撃魔法を発動させる。

 

「撃ち抜け!!」

[-《 Plasma smasher 》-]

 

 着弾は一瞬。魔力残滓が白煙となって拡散するも、油断せずに高度を上げる。直撃にせよ防がれたにせよ、高がAAA+ランクの魔導師で狩れるような相手なら、【闇の書】なんて第一級捜索指定遺失物として認定される筈がない。仮にも“なのは”を相手に戦えているような敵が、これしきの攻撃でくたばるなんて有り得ないのだ。

 

「おいおい、帽子が焼けちまったじゃねーか……。てめー、死んで詫びろよ?」

「死ぬのは御前だ、不良品。狂い果てて爆散するが良い」

[-《 Tiefroter fliegen (ティーフォーター・フリーゲン)》-]

[-《 Gale-form 》, set up. -]

 

 カートリッジ・ロード。敵の機動性が増して多少の変則機動が出来るようになったようだが、それが如何した? 慣性制御魔法で速度を維持しながら直角に上昇したり、バレルロールしながら背後を向いて射撃する“なのは”と比較するまでもない。恐れるな……。速さだけなら、私の方が優位に立てる。

 

 

 

 試製電磁カートリッジ最大出力。

 身体強化完了。余剰演算領域確保。

 【バルディッシュ】の形状をトライデントに更新。

 《 Blast raid :Tempest 》を選択。

 ネガトロン・カタパルト生成。

 断続加速跳躍、開始。

 

 

 

 それから先の攻防は、一方的なものだった。私が空中を跳ねるように加速しながら切り付け、敵が防ぐ。何度も何度も切り込んで、防御魔法を破ってからは騎士甲冑を切り割き、そして薄っぺらい肌色のテクスチャーすらも傷付けていく。

 

 ほら、やっぱり人じゃない。非殺傷設定でも簡単に傷付き、血が流れず、肉も無い。その身に詰まっているのは、魔力と古代ベルカ時代の神秘だけだ。壊してやる。御前のような、“なのは”を襲う不良品なんて解体して潰して焼き捨ててやる。壊れろ、壊れろ、壊れろっ! この、■■■■■がっ!!

 

「えっ……?」

「てめー、迷ったな? そーゆーのは命取りになるぜ?」

 

 一瞬、思考が飛んだ隙に腕を掴まれてしまった。

 

「ぅ…………、はな…せ……」

「蒐集開始」

「ぐっ……ああっ……!」

 

 私は何を、戸惑ってしまったのだろうか……? 思考が纏まらない。直前の事なのに思い出せない。それはきっと、この胸を貫く細腕のせいなのだろう。私のリンカーコアから魔力が吸い上げられ、どんどん弱まっていくのを感じ取れる。

 

 ごめんね、“なのは”。

 

 貴女は私を助けてくれたのに、私は貴女の助けになるどころかまた邪魔になってしまうなんて……。だからせめてもの償いとして、此奴は道連れにするから…………。

 

「フォトン、……バースト」

[- OK, Boss. -]

「は? 正気かよっ?!」

 

 ほんとうに、ごめんなさい。

 

 

~~

side:なのは

 

 優勢とは断言できなくとも、将棋のように一手一手と王手に向かって近付いている。シグナムさんを手負いにさえすれば、『守護騎士』は退いてくれる筈。……そう思っていましたが、如何やら悠長な考えだったようです。

 

 フェイトちゃんの魔力反応が消失しました。続いて、動揺したアルフさんが視界内で落とされました。クロノさんは疲労困憊で、残っている武装局員はたった二人のみ。何時も遅い、間に合わない、そのくせ後悔する。またしても繰り返してしまう。信頼は甘えなんでしょうか? 余力を残して、不慮の事態に備えておく事は手抜きなんでしょうか? それとも戦況を読めない私が悪い……?

 

 いいえ、敵が悪いのです。悪が卑劣なのです。敵さえ居なければ、誰も戦わず傷付くことはありません。だからこそ、今直ぐ消えて欲しいと願っております。

 

[-《 Sacred punisher (セイクリッド・パニッシャー)》-]

 

 聖罰あれかし。【レイジングハート】が其の意思に沿うべく、即座に魔法を組み上げ発動しました。敵性存在5体を捕捉した後、対象の周囲だけに光の砲弾を全自動&無制限に天頂方面から降らし続ける。そんな殲滅魔法です。無論、魔力が尽きれば終わる筈ですけど、不思議なことに尽きる気がしません。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 30秒経過、1分経過、2分経過。

 

 

 

 デカい標的だった召喚竜を消滅させ、味方の元へ行かないように敵の進路を誘導し、時折飛んで来る鉄球やら弓矢みたいな魔力弾を防いだり落としたり等々。短い根競べの末、不利だと悟ったのでしょう。徐々に遠ざかり、撤退して行きました。

 

[- Flame purge. ……Refit complete. -]

「御疲れ様、【レイジングハート】」

[- Don't worry. My master. -]

 

 いや……、正確には見逃して貰ったのかもしれません。フェイトちゃんはヴィータさんに、アルフさんはザフィーラさんに落とされて戦力外でしたし、クロノさんは武装局員のカバーもしてて撃墜寸前でしたから、私の方に敵意が向いていなければクロノさんも魔力蒐集されていた可能性が有りました。

 

 ええ、はい。

 

 戦っている側で魔力蒐集していたんですよ、【闇の書】が。あの本型デバイス、自律稼働して気絶中の武装局員とかアルフさんから魔力を吸い上げてて、フェイトちゃんは……如何なんでしょうか? 戦闘中は分かりませんでしたが、【レイジングハート】の映像記録を見る限り、蒐集し終わる前にフェイトちゃんの自爆で中断された様にも見えます。

 

 因みにフェイトちゃん含む負傷者の皆様は、一足先に『アースラ』へ転送されました。《 封鎖領域 》さえ無ければ、そういった手厚いサポートをしてくれるんですけどねー。まぁ、不思議なことに結界系は便利過ぎるので、色々と難しいのかもしれませぬ。

 

 ところで、そろそろ転送ポートって空きます……?

 

 12月の寒空にポツンと浮かんでいるなんて、まるで物憂げなヒロインの如しですよ。こんな右目が疼きそうな事よりも、お見舞いとデブリーフィングと宿題をしたいのですが……。(ついで)に、シャワーを浴びて夜食も追加で。それから、御兄ちゃんと御姉ちゃんにも質問をしなくては。

 

 シグナムさんの剣筋、御兄ちゃん達が真似しただけとは思うのですが、何となく似ていました。それはつまり何処かで見た事がある訳でして、御兄ちゃんの女性遍歴から察するに知り合いなのかなと憶測する次第。

 

 

 

 まぁ、もう半ば確信していますけどね。御兄ちゃんの事ですし。

 

 

 

[> 待たせて御免ね、“なのは”ちゃん。転送ポート空いたよ! <]

[> 了解です。今、戻ります <]

 

 エイミィさんからの通信を切り、転移魔法を発動。取り敢えず、今日は短時間で様々なことが有りましたから、答え合わせは明日のイベントに取って置きます。それよりも、フェイトちゃんの容態が気になるところ……。嗚呼、今更ながら不安になって参りました。早く会いに行きませう。

 

 

 


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