【シャマル】ver.2.040
八神家の次女。後方支援担当だが、前線でも短距離転移やら魔力で編み出した糸を使って戦闘するなど、殴れるサポーターとして卒が無い。強いて欠点を挙げるなら、レシピ無しで作った料理が不味くなる程度。基本的に“はやて”の補助と護衛をしており、戦場に出て来ることは稀である。
side:なのは
「御兄ちゃんに質問です。シグナムさんって、知り合いなの?」
「互いに刃を交わした仲だが……。
「イエス、ドンピシャ」
あの激戦から一夜明け、今朝になってから御兄ちゃんへ気掛かりだった質問をしてみましたが、やはり当たっていました。
剣を連結刃として伸ばす前の――所謂、通常形態で何度か切られ掛けた際に剣筋が似ているなと思っていたものの、よもやよもや。……まぁ、今回の事件は【ジュエルシード】の時とは違い、御兄ちゃん達に手伝って貰うことは少なさそうだなーと情報共有を
「彼女と出会ったのは7月末頃、臨海公園でやっていたチャンバラ大会での事だ」
「ふむふむ」
「その時は浴衣で、後日に手合わせをした時はトレーニングウェアだった」
「という事は、つまり?」
「案外、海鳴市周辺に拠点が有るかもしれないな」
普通なら、そこまで都合が良い事なんて重なりはしませんけど……。此処まで来ると有り得そうなのが怖いですね。
「ところで、如何して“なのは”はシグナムと戦う事になったんだ?」
「えーと……。成り行きだけれども、世界を守るために……かな?」
【闇の書】が完成すれば、壊れた『防衛機能』が本格的に稼働してあらゆる脅威対象を排除し、惑星すらも魔力に変換して取り込んでしまうとかとか。因みに、その惑星に住まう生命体も例外ではありません。いやはや、使用者に依存しない自律性が高い人工物ってロマンの塊ですが、こういうSF的にありがちな暴走とか考えなかったのでしょうか?
壊れたにせよ、何者かの改悪にせよ、人手に負えないヤバい物を作るのは控えて欲しいところです。……いえ、だからこそ挑み甲斐が有るのかもしれませんね。ギークでルナティックな、自制無き探求者にとっては。
「よく分からんが理解した。それと、シグナム以外にも敵は居るのか? 画像や写真が有るなら、
「じゃあ、メールで画像を送信するので宜しく御願いします」
「うむ。微力を尽くそう」
そう言うと御兄ちゃんは、鍛錬で掻いた汗を流すべく風呂場へ去って行きました。尚、一日の大半を家業である『翠屋』の手伝いやら鍛錬に費やせる御兄ちゃんとは違い、義務教育が課せられている私はこれから学校です。
漫画やアニメの主人公ではありますが、学業と魔法少女としてのアレコレを何とか両立していた“さくら”ちゃんや“どれみ”ちゃんは、御都合主義を除いても凄いなーと感じます。あれをリアルに、時として血塗れになったり苦痛を堪えてえんやこら。んー、私だけ難易度が高くないですか?
異世界召喚させられたのに救助対象がラスボスへと変貌したり、最終兵器に魔改造されて戦う運命を定められるパターンよりは良いんでしょうけど……。それでも、元一般人としては荷が重いと感じます。
「“なのは”ちゃん。これ、今日の弁当やで」
「有り難う、レンちゃん。ところで晶ちゃんは?」
「あの猿ぅなら、サッカーの朝練とかで今日は手伝っておらへんよ」
「合点です」
日々は過ぎ行く。されど平穏では
取り敢えず、エイミィさんに報告がてら尋ねてみなくては……。ええ、それが良いですとも。多分きっと。
~~
side:恭也
以前、【ジュエルシード】という危険物を巡る事件では助力する事が出来た。そもそも幼い“なのは”に戦って欲しくは無いが、これも不破の血に連なる宿命なのかもしれないな……。
妄想はさて置き、またしても事件に巻き込まれてしまった妹に対し、何か手伝えないかと悩んではいた。近距離戦の指南などではなく、事件解決を早められるような手伝いをしたいと願っていたものの、まさか知り合いが敵の一味とは思わなんだ。理由は如何あれ、優先すべきは家族の安全と幸福である。此処はさくっと見つけて、妹の日常回帰に貢献したいところだが……。さて、何処から探す?
先程まで管理局のエイミィさんと話し合った結果、サーチャーや魔導師の反応が察知されては不味いので、魔力を持たない局員達で海鳴市周辺を捜索するらしいが、あまりにも非効率的だ。かと言ってシグナムとは連絡先を交換しておらず、約束をした時以外で見掛けた事が無いという点から自分や美由希、“なのは”の行動圏内に被らない範囲を挙げたところでキリが無い。
一応、【闇の書】の所有者が人間という事で、誰かしらの護衛付きで行動している=利用者が多いデパートや商店街、若しくは公園やゲームセンター等を探せば見つかると踏んでいるが、最終的には運任せになるだろう。
「そうだな……」
1:人通りの激しさなら、海鳴駅周辺
2:たまには、病院へと行ってみる
3:普段行かない場所と言えば、やはり図書館
4:何となく隣町で探す
「……2にしておくか」
最後に病院を訪れ、整体を受けたのは『香港国際警防部隊』と訓練をした8月以来だ。更に、何処を探しても見つかる可能性が低いと言える現状なら、実益を兼ねつつ探した方が御得感は有る。そういう訳で――――
――――実にあっさりと、病院のエントランスホールで見つけてしまった。……奇遇だ。そして運命的でもある。相手はシャマルという見知らぬ敵で、驚いた事にレンとよく似た顔立ちの少女を車椅子に乗せて運んでいた。世の中、顔が似ている人物が2人や3人は居るらしいが、意外と居るものなんだな。身近な例で言えば、フィアッセとリンディ提督がそうだった。
しかし発見したところで、見送るのが精々だ。
何せ、見つかれば御の字程度で探していた為、無策かつ非武装。追跡しても良いが、魔法という未知の手段を持つ相手にぶっつけ本番で試したくはない。捕まれば拷問や洗脳、または交換条件を引き出すための捕虜として使われる可能性を考慮すれば、これ以上の欲を出さずとも成果は得ている。故にこそ、此処は素直に諦めるのが吉と言えよう。
そう判断を下し、待合室で待つこと10分。担当医であるフィリスが施術室へと戻って来た。最近、任される仕事が増えたのだろうか? 少しばかり疲労感が
「Hi、恭也。久し振りだね。今日は独りなの?」
「久し振りだな、フィリス。美由希は、大学の講義が有るから置いて来てしまった」
「それじゃ今日は、時間を掛けて念入りに調整しよっか♪」
誰なんだろうな、あの時に2番目の選択肢を選んだ奴は……。痛みには慣れているが、骨や関節の歪みを直す激痛に関しては別枠だ。アレだけは何度やっても慣れそうにない。
「……御手柔らかに頼む」
施術後。美由希の予定を電話で聞き出し、スペシャル整体コースで予約してやったのは完全なる余談である。
~~
side:なのは
「例の件だが、病院で目撃したぞ」
「もっと
「シャマルらしき人物と、車椅子に乗った茶髪のレンみたいな女の子を見掛けた」
「…………御兄ちゃん、女性絡みだと何時も凄いね?」
「……不思議な事に、男性絡みが少ないだけだと主張しておく」
学校から帰宅すると、居間で待ち構えていた御兄ちゃんから報告を受けましたが、先にエイミィさんの方から御兄ちゃんの成果を聞いているんですよね。一応、本人からも聞いた方が伝言ゲームのような
「他に、何か手伝える事は有るか?」
「うーん……。アルフさんを鍛えるぐらい……かな?」
手足を出しても有効打にならず、終始劣勢で落とされたのが悔しかったらしく、《 変身魔法 》による『大人フォーム』を極めるしかないと意気込んでおりました。如何やら、その魔法は等身を伸ばして大人になったり、逆に縮めて子供になったりと出来るようで、普段はフェイトちゃんから供給される魔力を節約する為に小さくなっていたのだとか。
道理で、フェイトちゃんの保有魔力量が少ない訳ですよ。常に2割だか3割の魔力をアルフさん用に取っているのですから、バリアジャケットの防御力や射撃魔法をケチらないと直ぐに魔力が尽きてしまいます。けれども今は、カートリッジ・システムが有ります故……。色々と見直してみるそうです。
尚、フェイトちゃん。本人でも覚えていないトラウマが発動した挙句、動きが鈍ったところをハートキャッチされたらしく、それを修正するために少々“御話し”を行いました。
と言っても、只の精神論ですよ? 『戦闘時に勝つ方法以外を考えない』とか、『誰かの笑顔を守るために戦うべし』とか、『何なら祈ってどうぞ』等々。因みに私が祈るのは、戦場の女神とも言われる砲兵部隊や爆撃機部隊の擬神化存在です。またの名を火力信仰とも言います。
「それなら任せろ。御神の剣士でなくとも、《 神速 》を使えるぐらいには鍛えるつもりだ」
私はそれを聞いて、アルフさんの遠い将来を思いながら心の中で十字を切りました。肉体のリミッターを外しても壊れない身体を作り、剣林弾雨すらも
宿題をきっちりと終わらせてから夕食や御風呂が済めば、自室にて日課となりつつある魔力操作を行います。平時なら気分でやったりやらなかったりですけど、今は戦時ですからね。やりたいゲームとか、読みたい本が積もって行きますが仕方無し。
半日足らずで余剰魔力が再充填された羽と光輪を顕現させ、自分の内側へと埋没しつつも外側への干渉も開始します。理想は息をするかの如く、無意識下のコントロールです。前回の戦闘では、脳内分泌物の御蔭で何となく使えていたんですよ。ベルカ風に言えば《
【レイジングハート】曰く、この未知なる魔法には一切関与していないとの事で、感覚を思い出しながら試行錯誤を重ねるしかありません。結構、魔法は科学的に解明・制御されているのかと思っていたんですけどねー。やはり神秘は神秘。奥が深いです。
「
桜吹雪に流星群。集めて早し、魔力流。巡り巡りて、天をも
~~
side:クロノ
高町の姓を冠する人物は、何かしら恵まれているのだろうか? そう思えてしまうくらいには色々と凄まじい。“なのは”の保有魔力量は言うまでもなく、魔力蒐集されて寝込んでいたフェイトとアルフに余剰魔力を流し込んで勘による《 炉心干渉 》とやらで即退院させ、同じく衰弱なり疲弊していた武装局員24名も現場復帰させた。
尤も、現場と言っても『ミッドチルダ地上本部』での勤務なんだがな……。
昨日の戦闘では、召喚されたAA+ランク程度の竜に苦戦し、高ランク魔導師を含む多人数戦闘であることを差し引いても被撃墜数が多過ぎた。要するに彼等では、最早着いて来れない領域なのだ。その為、少数精鋭へと方針が変更され、地上本部に頭を下げて派遣して貰った高ランク魔導師と引き換えに、半年ほど地上勤務を頑張って頂くことになったのだった。
そもそもの話、管理局ですらAAAランク以上の魔導師なんて全体の5%ぐらいしか居らず、Aランクでも優秀と言われるのに全員が推定AAAランク以上で構成された『守護騎士』が可笑しいのである。
……可笑しいと言えば、“なのは”の兄にあたる恭也さんも同様だ。偶然、事件前にシグナムと知り合って、今度はシャマルと【闇の書】の主であろう少女も捜索開始から1時間少々で見付けている。他にも、身体能力と歩法による瞬間移動や、師匠のリーゼロッテすら敵わないと感じてしまう程の近接戦闘能力も備えているなど、訳が分からない。
「クロノ執務官。貴殿は、現場へ出て何年目になる?」
「今年で3年目になります」
「なるほど……。
「耳が痛い話です」
「気にしなくて良い。困った時は御互い様だ」
そんな彼等に対して、地上本部から派遣された“ゼスト・グランガイツ”2等陸尉は常識的で、叩き上げの空戦S+ランクという事もあり親近感が抱ける。
「それにしても、『駆除作戦』と被るとは運が悪い」
「仕方ありません。アレは、全力で当たらねば危険ですから」
ゼスト2尉が、地上のエースとして名が上がるように、
「だが、此方も重要だ。放っておけば、何時かはミッドチルダも食われかねん」
「同感です」
「…………本当に、時間稼ぎは2人だけで行うつもりなのか?」
「本命は『管制人格』が取り込まれた後ですから、多少厳しくても余力は残した方が宜しいかと」
「
「はい。なので今回限りで、終わらせたいと思います」
その為の戦術デバイスや、戦略魔導砲《 アルカンシェル 》搭載艦も2隻用意した。1隻はリンディ提督が乗艦する『アースラ』。もう1隻は、11年前の【闇の書】事件でも関わっていたグレアム提督が乗艦する同型艦『ケストレル』。そしてグレアム提督の使い魔であり、僕の師匠でもあるリーゼ姉妹も
あとは……、決定打とは言えないがユーノも参加する予定だ。今の前線メンバーは攻撃面に特化しているので、彼には支援要員としての活躍が期待されている。一応、リンディ提督も支援魔法を得意とするが、今回は多段階作戦を統制すべく前線メンバーには含まれていない。まぁむしろ、【ジュエルシード】の際に前線で陣頭指揮を執っていた状況が異例なのだから、戦力として数えないのが基本である。
さて。
やれるだけの準備はやれたと思う。惜しむらくは、恭也さんが見掛けたシャマルや【闇の書】の主らしき少女を非魔法探索で再発見できなかった事ぐらいだが、【闇の書】が暴走状態に入れば何処だろうと探知できる。
其処から先は、【闇の書】が本格的に稼働するまで時間を稼ぎ、『管制人格』が取り込まれた後に出現する【
ともあれ最善を尽くそう。それが、父さんへの弔いにも