魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
『クライド・ハラオウン』ver.2.041
リンディ提督の夫で、“クロノ・ハラオウン”の父親。11年前、次元巡航船による【闇の書】移送任務中に封印が解けた結果、【闇の書】が再暴走を開始。物理的なハッキングにより、艦船のコントロール権が奪われると判断した為に乗組員を即時退艦させ、自らは残り射撃管制システムへの侵蝕を防いでいた。最後はグレアム提督に懇願し、戦略魔導砲《 アルカンシェル 》の一撃にて【闇の書】と共に消滅、帰らぬ人となった。



第41話:薄氷の上より、水底を望む。

side:アリサ

 

 “なのは”の交友範囲は深くて狭い。それは2年間の付き合いで分かっていたし、私や“すずか”が他の子と仲良くなる事は有っても、“なのは”が学友の誰かと親しげに話す光景なんて見た事が無かった。

 

 だから、親戚にあたる“高町フェイト”なる転校生と仲が良いのは意外だったけど、これは喜ばしい変化である。……そう思いたいのに、「こいつは爪と牙を隠しているがライバルだ」等と直感が訴えており、フェイトへの敵愾心(てきがいしん)が拭えずにいる。色味が少し違うだけで、私と同様の長い金髪。私には無い“なのは”との秘密の接点。そして何より、目と目だけで以心伝心しているのが解せぬ。

 

 特に昼食時が顕著で、私や“すずか”が“なのは”と話している最中、相槌を打つべきではない箇所で無意識に首を揺らしたり傾げる動作が度々見られ、その時の目線が少しばかり“なのは”の方へと流れているのだ。“なのは”も、それに応じるかの様な動作をする事から通じてはいるらしい。

 

 若しかして、テレパシー少女なのだろうか?

 

 忍者も居れば、退魔師も居る浮世である為、超能力者が実在したところで不思議ではないけれども……。そんな不思議ちゃんと、一体何処でエンカウントしたのやら。やはり、左手を怪我した頃なのかなと予想してみるが、其処まで至る経緯がさっぱり思い付かない。

 

 てか、また最近休んでいたけどまさか…………ねぇ?

 

 よくある一期では敵で、二期になって味方として強敵に協同対処するようなハリウッド的胸熱ロマンなんて、早々起こり得ないからフィクションなのだ。それと誰よりも平穏や調和を愛する“なのは”に、陰謀だの邪悪への戦いに身を投じるような転機が有るなら、もう少し活発だったり強気な性格になっていそうなものだが、振れ幅こそあれ変化としての成長は見受けられない……ような気がする。

 

「そう言えば“なのは”、今年のクリスマスも御店を手伝うの?」

 

 12月24日はクリスマスケーキの売れ時だ。そして“なのは”の御母さんは喫茶店『翠屋』の店長()つ、デザート作りを得意とする。要するに繫忙期で、去年から“なのは”が手伝っている事情も有って、クリスマスパーティーを共にしたのは一昨年のみである。

 

 子供なのだから、別に働かなくても良いはずなのに何と親孝行な。それはそれとして、私達にも優しくして欲しい。

 

「そーしたいんだけどね~……。今回は別件があるから、多分無理かと」

「りょーかい。フェイトは如何過ごすの?」

「……私も、別件が有るから忙しいと思う」

「はいぃ?」

 

 思わず、警視庁特命係の警部補みたいな声が出た。それはつまり、“なのは”とフェイトが共に別件をするために聖夜を過ごすという訳で、二人で秘密の共同作業を……?

 

「あ、ごめんね勿体振って。単なる雪中行進だよ?」

「ねぇ、待って。小3がやるべき内容ではないと思うんだけどッ!!」

 

 アグレッシブにも程がある。思い直せ。リメンバー・八甲田山。――されど、説得はのらりくらりと(かわ)されて昼休みが終わってしまった。きっと恐らく、天体観測をするための登山で保護者同伴だとは予想するけれども、大丈夫なのだろうか? 平穏無事に、五体満足での帰還を祈るばかりである。

 

 

 

~~

side:すずか

 

 親友は一人だけとは決まっていないし、その中での一番は移ろうモノ。それは当然で仕方が無いことだ。……そう割り切りたいのに、心が苦しい。

 

 趣味の合う友達ができた。

 私よりも、可哀想で寂しい境遇の子。

 物怖じしない良い子だと思う。

 頼ってくれて、とても嬉しく感じる。

 私だけを見てくれる。

 彼女が、私の親友になってくれたら喜ばしい。

 

 見事なまでに、とても不純である。これじゃまるで、捨て猫を愛するかの様ではないか。あの子は、“はやて”ちゃんは庇護されるほど弱々しい存在ではないにも(かかわ)らず、何かしてあげたいと思ってしまう。

 

 この感情は多分、普段から何かをして貰っている側だからこその反動なのかな……? 家ではメイドのファリンが色々と手伝ってくれるし、学校では“なのは”ちゃんやアリサちゃんが主導して引っ張ってくれる。なら、本人へ恩返しすれば良いのだけれど、渡した分以上にまた貰っているように感じて積もるばかりだった。

 

 

 

 そんな時に出会ったのが、車椅子に乗った“はやて”ちゃんである。

 

 

 

 度々利用している市立図書館で見掛けて、高所の本が取れなかった所を見かねて手助けしたのがファースト・コンタクト。正確には、話しかける切っ掛けとして「これ幸い」と思いながら近寄り、目的を果たしたとも言える。過程はともかく、結果的には打算的な行動。けど、叶わぬ願いよりもずっと良い。少しばかりの後ろめたさは、時が経てばすっかりと飲み干せてしまう。

 

 書物によれば、背徳感とはそういうモノ……らしい。

 

 (しか)しながら、想定外の変化が1つだけ有った。同好の士という関係性は非常に心地好く、揺らいでしまったのだ。別に“なのは”ちゃんは気にしないだろうし、“なのは”ちゃんの方が先にフェイトちゃんという新しい子と仲良くしている為、交友範囲を広げたところで負い目を感じる必要はない。

 

 …………ちょっと、違うかな?

 

 この感情を肯定したい訳ではなかった。目を逸らしているだけの、もっと単純な事。――例えば三人組なら、二人が話している時でも交互に待てる。でも四人なら、何だかんだで二人ずつに分かれてしまう。ベンチに座る時だって、端同士が話し合うのも難しい。四角形のありふれたテーブル席なら、対角線上だと遠過ぎる。

 

 貴女が居なければ、“なのは”ちゃんの隣はアリサちゃんと私だけで平穏だったのに。“はやて”ちゃんとの交友が、逃避的妥協なのではと悩みもしなかった筈なのに……。

 

 嗚呼、悪魔が(さえず)る。私達が想い合った3年間に割り込んできた貴女は、一体何を為したのか? あんなに甘えて許されて、羨ましくも恨めしい。しかし邪険な対応をする程、幼稚ではありません。それにフェイトちゃんも、私の友達になってくれる可能性が有るのだから、良い所を探した方が有意義な気がします。

 

「あの、フェイトちゃん。猫ちゃんは……好き?」

「……好きですけど、悲しくなるので見たくないです」

「そうなんだ……。ごめんね……」

「でも、ウルフドッグなら飼っています」

「それって珍しい犬種じゃないの! あんた写真持ってる!?」

 

 唐突に、愛犬家のアリサちゃんから横槍が入り、射角45度でシリアスさんは吹き飛びました。錐揉(きりも)み回転、スピンスピンスピン。あれは致命傷ですね。因果の交差路でまた会いましょう。

 

 

 

 ふぅ…………。

 

 

 

 少し冷静になれました。よくよく考えてみれば、友達グループなんて4人や5人以上も珍しくないですし、これぐらいは我慢して慣れるべきなのでしょう。何せ、このグループは“なのは”ちゃんが中心なんですから、“なのは”ちゃんが望むのならそうでなくては。それに、一番という発想が間違っているのです。“なのは”ちゃんは特別。“はやて”ちゃんも特別。これらの特別は量子力学的に両立し得るため、悩む必要なんてありません。

 

 勿論、アリサちゃんも特別ですよ? 『腐れ縁で、生活水準が近しい理解者』としてですけれども、特別に特別となっております。だってアリサちゃんは犬派で、本来ならば猫派の私とは相容れぬ関係故に、特別な特別という訳です。

 

 

 

~~

side:はやて

 

「何やこれ? ラブコメ染みた波動……でええんやろか?」

 

 冬の寒気による錯覚か、それとも魔法に馴染んできた影響なのか。謎の電波みたいな物を受信してもうたけど、未だに念話すら使えへん身としては判断しかねますNA。そんな事より、明後日はクリスマス・イヴ。うちの子達にとっては初めての冬やから、献立は豪華にしたいところ。

 

 ケーキは注文した。丸焼きハーブチキンも、3羽分を調理する体力&時間が無いので泣く泣く注文した。むむむ……。鍋は最近やったので除外するとして、シチューだと簡単過ぎる。宜しい、ほんならポットパイや。そんでバゲットサンドと、何となく飲みたいのでカボチャスープも追加やな。あとは、サラダの盛り合わせとかフライドポテトも添えるさかいに、多分腹は満ちる筈。

 

 

 

 (もっと)も、一緒に食べれるかは未知数やけども……。

 

 

 

 あれはよく冷える日の夕刻。鍋パしとうなって準備したんよ。具材を切るだけじゃ手抜き過ぎやから、水と昆布と醤油と味醂(みりん)だの愛情だのをブレンドしたスープも作ったのに、シグナム達の帰りが自棄(やけ)に遅い。せやから携帯電話を持っとるシャマルに電話を掛けたのに、圏外or電源切れを告げる自動音声が流れるのみで音信不通。「何が、鍋パーティーじゃあい!」とまでは行かずとも“すずか”ちゃんに愚痴電しとったら御屋敷に招いてくれて、何だかんだで楽しく温かい一時やったなぁ……。がっ、それはそれ。

 

 別に家族だろうと隠し事や自由行動は構わへんけど、首を長~~~~くして待っとる身にもなって欲しい。(こじ)らせたら落ちるで? うちの心が暗黒面(ダークサイド)に。

 

「あー、そや。【闇の書】はん、残りどんくらいになっとるん?」

 

 魔導書なのに、ちょくちょく転移しては帰って来る奇行が気になって管理者権限(仮)で各種ファイルだの行動履歴をちょいちょい確認しとったら、気付いてしもうたんよ。空白だった666(ページ)が埋まりつつある事に。それはつまり、「やらんでええよ」という要望を無視してまでせなあかん事情がある訳で、その事情については心当たりがあった。

 

 8月中旬頃、心筋梗塞でもないのに全身が軋むような激痛で倒れた。――可笑しな話やろ? 足の神経以外は健康的だし、持病もあらへんのに。只、あれ以降に激痛や体調不良といった異常は皆無やった為、恐らくあの後からシグナム達が魔力蒐集とやらで頁を埋めてくれた御蔭だろうと推測している。

 

 そして今日も確認してみれば、新たに7頁分の白紙が埋まっていた。残りは36頁やけど、主を苦しめる仕様または不具合がある魔導書が完成してしもうたら、さて如何なる事やら……。おお、怖や怖や。

 

「直せる物なら、直したいんやけどね……」

 

 どれだけ調べても、ヘルプ機能を使(つこ)うても、最終的に(仮)が取れへんと無理っぽいという結論に行き詰まる。これを作った人達は、飛行機を飛ばしながら電子機器の調整をするような離れ業とか出来たんやろか? どちらにせよ、ユーザーに優しくない辺り開発者側の怠慢と傲慢さが透けて見える。

 

「うちの閲覧履歴を削除。何時も通り、他言無用で(よろ)しゅうな」

 

 【闇の書】が上下に首肯するような動作をして、テーブルの上へと鎮座する。正直、異世界の技術結晶体にパソコン的な指示が通じるかは謎やけど、反応からして大丈夫……と思いたい。

 

 取り敢えず、80頁くらい増えるような大物狩りが無ければクリスマスは普通にやれそうやね。その後はまぁ、今生きているのだってボーナスタイムみたいな物やから、管理者になろうと駄目なら駄目で諦めは着く。最悪の場合、絶命しても構わないとすら考えている。勿論、シグナム達が家族になってくれはったのは嬉しいけれども、やっぱそん中に両親が居らんのは寂しいんよ。

 

 いやでも……、友達に“すずか”ちゃん居るし、続編が出てない小説も有るしで、あと3年くらいは必要やろか? 死ぬにはちと惜しい気がするものの、兎にも角にも【闇の書】が完成せな目途も立たん。

 

「まっ、Dデイ次第やね」

 

 春は遠く、冬は深まる。一寸先すらも見通せぬ闇夜を前に、何となくほろ苦いカフェモカが恋しくなってしまった。

 

 

 


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