魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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 旅の中途で片翼を失い、狂わされ、幾星霜の時が流れたことか……。

 また、冷たい終わりがやって来た。

 それでも私はまだ、希望の火を灯している。

 今度こそ。今度こそはと願いながら。



第42話:禍福は(あざな)える縄の如し

side:シグナム

 

 夜空を彩る天体は皓々(こうこう)と輝き、カラフルに電飾された街並みもまた(きら)びやかだ。集合場所である高層ビルの屋上から見渡せる景色は、疑似人格プログラムによる(まやか)しだとしても美しいと感じられるが、ここ1ヶ月近くも同じような光景が続けば日常風景になる。――されど、これが見納めかもしれないと思えば不思議なモノで、感慨深いと錯覚してしまう。

 

 

 

 12月24日。

 

 

 

 我々と主“はやて”が住まう日本国において、今日は異国由来のクリスマス・イヴなる祝祭日であり、我等『守護騎士』(ヴォルケンリッター)にとっては決行日でもあった。

 

「早いなヴィータ。主は、もう御休みになられたのか?」

 

 ベッド数の都合上、という建前により主“はやて”の抱き枕にされているヴィータが予想よりも早く合流してきた。基本的に、就寝前の主“はやて”は気分によって読書をしたり、ヴィータと会話したりなど寝付くまで時間が掛かったりするのだが……。

 

「おうよ。まっ、何時も以上にはしゃいでたし、その分だけ疲れたんだろ」

「ふむ……。挨拶をし損ねたのが悔やまれるな……」

「別にこれが最後って訳でもねーし、気にすんなよ。どーせ怒られるなら後が良い」

「確かに」

「そうだな」

「ですね。終わってから、皆で叱られましょうか」

 

 【闇の書】の完成。――それ自体は、20日にやり合った大規模戦闘の翌日にでも実行するのは可能だったが、主はクリスマス・パーティーという催し物を熱望しており、管理局の動向や【闇の書】の暴走条件を考慮しても余裕があると判断し、日時をずらした。主曰く、年末年始には年越し蕎麦を食べたり、初日の出を見たりと暫くイベントが続くらしいものの、流石に其処まで延ばせるかは未知数だ。故にこそ、今日この時なのである。

 

「『管制人格』。我等を還元した後、主への説明と護衛を頼む」

[- ああ、任された -]

 

 『管制人格』曰く、【闇の書】の防衛機能が壊れているとの事。修復するには【闇の書】を完成させ、主“はやて”が真の主として認められる必要がある。【闇の書】を完成させるには、魔力蒐集で666頁を埋めなくてはならぬ。それを短期間で確実に成功させる為には、我等『守護騎士』の魔力還元による最後の一押しが望ましい。

 

 そういった説明と助言に基き、我等は魔力還元により大願を成就させ、真の主となった“はやて”の元で再構築されるのだ。唯一の懸念は成功率だが、管理局に頼ったところで封印されるのがオチだろう。それならばまだ、此方に賭けた方が信頼できる。

 

「…………おい、『管制人格』」

[- 何だ? 鉄槌の騎士 -]

「ちゃんと、“はやて”を守れよ?」

[- 全力全開で、事に当たると約束しよう -]

 

 その言葉を最後に魔法が発動し、魔力で構成された我々の体躯や記録すらも【闇の書】へと還元されて行く。これで良い。これが最善だ。そう願い、そう信じて、

 

 私は、

 

 私達は……、

 

 

 

~~

side:なのは

 

 

 12月24日。一年の中でも今日この日は、クリスマスケーキの販売を手伝ってへとへとになる日なんですが、今回は事件対応中の為に御休みしたので残念ながら元気だったりします。いやはや、代理で入ってくれた那美さんへの恩返しは手厚くせねば……。

 

 尚、待機していた甲斐が有ってか、時刻2217にホット・スクランブルが掛かりました。詰まるところ、緊急出動というやつですね。大型魔力反応を感じつつ海鳴市外縁付近の上空へ現地集合しますと、初対面ではありますが映像記録等で見慣れた『管制人格』さんが其処で待っていました。

 

 特徴的な白銀の長髪、2対4枚の黒翼、左腕に装備されている対人用槍射砲(パイルバンカー)

 

 この状態という事は、既に『守護騎士』や主すらも取り込まれたのでしょう。只々、全ての潜在的脅威を駆逐し、焦土と為った惑星を飲み干す暴走体の第一形態らしいのですが不思議と静かです。これは若しかして、嵐の前の予兆みたいなモノなんでせうか?

 

「管理局に要請する。どうか、この躯体を破壊して欲しい」

[> ……それは一体、如何いう心積もりだ? <]

 

 前線指揮官であるクロノさんが空間モニター越しに尋ねると、『管制人格』さんは自分の身体に封印魔法を重ねながら淡々と答えました。

 

「我等にとっても、狂った自動防衛運用システムは切除したい対象だ。しかしそれには我が主の尽力と、そちらの協力が必要になる。また準備が整うまで、私はあらゆる脅威の排除命令を拒めない為、あと1分も待たずに行動へと移すだろう」

[> なるほど……。信用するかはさて置き、過去の状況と異なる事は理解した。ステラ1、ステラ2、交戦準備を <]

「何時でもやれる」

「上に同じく」

 

 グランガイツさんが槍型のアームドデバイスを構え、私もそれに倣って『管制人格』さんへと狙いを付けます。因みにグランガイツさんがステラ1で、私はステラ2です。戦闘中に「グランガイツ2尉っ!」と呼ぶのは時間が掛かりますからね? 仕方無し。……まぁ、私の場合は実名で呼んだ方がコールサインは短いのですが、その辺は御愛嬌。

 

「気を付けろ、管理局の魔導師よ。これから放つ魔法は、全て殺傷設定になっている」

「あっ、慣れてますから御構いなく」

 

 その遣り取りを最後に【闇の書】が弾かれたように開き、禍々しい暗黒の魔力光が(ほとばし)りました。先手必勝で魔砲をブチ込んでも良かったとは思うものの絶対に防がれるでしょうし、魔力残滓による粉塵で見えなくなる方が怖いので先手は譲ります。

 

「走れ、我が尖兵」

[-《 Blutiger Dolch (ブルーティガー・ドルヒ)》-]

 

 弾幕と形容すべき密度で配置しては、高速射出される真紅の短剣。少しばかり懐かしい気持ちに浸れるも、下手すれば死ね(ピチュ)るので用心せねば。何せ此処は、PCゲーの中じゃないのですから残機なんて物は有りません。

 

[> 海上へ誘導する。援護を <]

[> 了解、流れ弾に注意されたし <]

[> 案ずるな。もし当てたら、教導隊の特別コースにぶち込むだけだ <]

[> わぁー、それは楽しみですね。穴が増えないように祈っております <]

 

 念話で軽口の応酬をし、弾幕には弾幕で応戦しながら引き撃ちをします。(ちな)みに、アームドデバイスを使っているグランガイツさんですが、『守護騎士』みたいな近接戦闘ごりごりの古代ベルカ式ではなく、近代ベルカ式という中距離戦も考慮された魔導を修めているとの事で、普通に魔力斬撃を飛ばしたり、シザーズ機動で交差する際に切り付けるなど、加速タイミングが読み難いフェイトちゃんよりも合わせ易かったのは意外でした。これなら、気兼ねなく《 Divine buster 》を差し込めますね。

 

[-《 Divine buster 》-]

 

 はい。普通に一瞬だけ防御魔法で耐えて、その間に射線から逃げられました。バインドで拘束しまくるか、何時かみたく連続照射でなぞらないと直撃は無理っぽい気がします。

 

[> ……悪くない。今後も、その調子で頼む <]

[> 必要なら、もう二段階ぐらいは頑張れますよ? <]

[> その余力は残しておけ。前段作戦での無茶は、俺が引き受ける <]

 

 『管制人格』が表に出ている第一形態は、主にグランガイツさんが相手して時間稼ぎor撃破を。そして、不定形で強力な第二形態に移行したら総攻撃によって消耗させ、可能であればクロノさんが担う戦術デバイスでの封印処置を試み、駄目そうなら戦略魔導砲《 アルカンシェル 》で殲滅する。

 

 事前の打ち合わせでは、そんな流れでしたけど……。さて、如何なる事やら? 現場は忙しいので、その辺の判断は【闇の書】の情報収集をしていたらしいユーノさんや、司令官たるリンディ提督に委ねたいと思います。

 

 

 

~~

side:フェイト

 

 仕方無い、が悔しくて恨めしかった。相性的には『守護騎士』の中でも良い方と思われるヴィータと戦闘しても最終的には落とされ、その結果から戦力不足であるとリンディ提督が判断を下したのだろう。

 

 如何(いか)なる手練手管を用いたのか、宇宙(うみ)こと次元航空部隊とはそれなりに不仲であるはずのミッドチルダ地上本部から派遣されて来たグランガイツ2尉は、殲滅戦と遠距離攻撃以外の項目に関しては私の全てを上回っているらしく、「学べる所も多いだろう」とクロノが珍しく称賛していた。事実、彼の槍働きは私よりもずっと堅実的で、頼もしいと感じさせてくれる。

 

 

 

 身体能力が足りない。技量が足りない。経験が足りない。

 

 確固たる意志も、熱意も無い。

 

 依るべき過去と自信が、あまりにも不足している。

 

 

 

 それをまざまざと見せ付けられて、己の弱さが恨めしい。他の誰よりも、“なのは”の隣に立ちたいと願っているのに、職務だからと本作戦へ従事するだけのグランガイツ2尉に劣るとは歯痒く思う。……強くなりたい。何時か先の未来ではなく、今この瞬間にでも化けてしまいたかった。

 

「焼き尽くせ!」

[- 《 Fegefeuer (フィーグフォイアー)》 -]

 

 気炎と共に放たれたその焔が『管制人格』にへばり付き、継続的な魔力ダメージを与える。普通なら、痛みで対処が遅れてしまいそうなものだが痛覚は無いらしく、僅か数秒で全身から魔力放出をして無効化し、その余波で大気が荒れ狂う。けれども、グランガイツ2尉と“なのは”は怯むことなく攻め続けた。より速く、より苛烈に。戦いながら相互理解を深め合い、徐々に磨き上げられていく連携は、大技の溜めを封殺する。

 

 しかし、“なのは”達が優勢になりつつあるとは言い難く、これはむしろ膠着状態とも言えた。何度も《 Divine buster 》が直撃しようと、魔力斬撃で防御フィールドを徹して肢体を傷付けようとも、『管制人格』は落とせない……。墜ちないのだ。

 

 

 

 不死身にして無限の魔力。

 

 

 

 そう恐れてしまいたくなる程に、底無しだった。保有魔力量が桁外れな魔砲使いである“なのは”や、クロノが携える切り札こと最新鋭の戦術デバイス、復活してしまうかもしれないが問題を先送りに出来る戦略魔導砲《 アルカンシェル 》搭載艦を2隻用意したところで、勝てるのかと。

 

………

……

 

 でも結局のところ、幾ら逡巡(しゅんじゅん)しても答えは回帰する。

 

 こんな私を養子にして身元保証人になってくれたリンディ提督に、義兄になってくれたクロノ。そして私が知る限り、最強の魔導師で最高の親友でもある“なのは”がまだ諦めていないのだから、怖くても、弱くても、協力したいと心は叫んでいる! ならば、及び腰の理性を奮い立たせて臨むしかなかった。

 

 私の役目は、後段作戦において攻撃目標の撃滅または弱体化を図ることだ。最初から最後まで主力として戦い抜く“なのは”と比べて、なんと気楽な御手伝いだろうか。せめてそれぐらいは親友らしく、成し遂げてあげたい。

 

「大丈夫……。“なのは”の為、皆の為に。私は雷神になるんだ……!」

[- 《 Glühen drive 》, set up -]

 

 音を置き去り、光と熱(グリューエン)を以って切り開く破壊の化身。

 

 やがて至るであろう、私の通過点の1つ。

 

 曰く、最速最強。

 

 けれどリニスから教えて貰ったこの魔法は、まともに使えた試しが無かった。魔力流を作って引き込むまでは良い。だが、霧散しないように纏いつつ好きなだけ過剰出力をコントロールするなど、子供の私では不可能だと思い込んでいた。押さえられない。直ぐに暴発する。私がまだ小さくて弱いから――――

 

「嵐と共に、()く翔けよ。閃光の担い手。赤熱せし武威。宵闇にて千条幾重、軌跡を描く」

 

 理想を紡ぐ。祈りを籠める。諳んじるだけの呪文(コマンド・トリガー)や、魔力運用を安定させるための呪文(マインド・トリガー)でもなく、これは希望との一体化。叶え、適え、敵え……。何処までも何処までも、願うままに変わり行け。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残すべきは、心だけで良い。

 

 

 

 

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