魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【アリサ・バニングス】
私立聖祥大学付属小学校3年生。“なのは”と“すずか”の親友。明るく竹を割ったような性格で、良くも悪くもズケズケと意見を言うタイプ。そしてやや高飛車でもある。

【月村 すずか】
私立聖祥大学付属小学校3年生。“なのは”とアリサの親友。引っ込み思案で大人しい性格。アリサに憧れ、“なのは”に懐いていて、その関係は何処か危ういようにも見える。



第4話:それは、如何しようも無かった出来事なの?

Side:なのは

 

 結局、昨日はジュエルシードは見つからず、本日は待ちに待った土曜日の休日。何時も通りならゆっくりと過ごしたいのですが、未だに危険物が17個も何処かに転がっている訳でして、心置きなく過ごす事など出来そうにありません。

 

「という訳でスクライアさん。転移魔法のイロハを教えて頂きたいのですが……」

「イロハ……? まぁ、転移魔法を教えるのは構わないけど、急にどうしたんだい?」

「もし、スクライアさんと私が手分けをして探している最中に其方で見つけた場合、飛んで行くよりも転移した方が早そうかなって思ったんです」

「なるほど。それじゃあまず、転移魔法の仕組みから説明するけど――――」

 

 そんな感じで午前中は魔法講義に時間を費やし、昼食はキッチンで夕食の仕込みをしていたレンちゃんが出してくれた有り合わせを頂き、さて午後はと考えていたところで、短い揺れと共に嫌な魔力の波長を感じました。

 

「地震……? にしては、ちょう短いよーな……?」

「レンちゃん。私、ちょっと出かけてくるね」

「ほーい。留守番なら任せとき~」

 

 自室に戻って【レイジングハート】を手に取り、スクライアさんと合流して再び階下へ。そして靴を履いて庭へと向かい、セットアップ。演算は【レイジングハート】に任せて現場付近の上空へと転移し、そこから飛行魔法で魔力の発生源へと向かいます。

 

「酷い……」

「多分、今回は人を取り込んだのかもしれないね……。過去の文献にも、似たような事例があったよ」

 

 先行させた探索魔法が映し出した光景は、そう形容せざるを得ない程の有様でした。市街地やビルなどの商業施設を含む一帯を巨大な樹木が囲むように多数出現しており、道路は寸断され、樹木の枝や根が建物を損壊させ、車や施設を貫いていました。これまでの比較にもならない大惨事に思わず目が眩みそうになりましたが、この事態を収拾出来るのは現状私だけなのです。

 

 

 

 ならば、終わらせないといけません。

 

 

 

「何時も通り、封印すれば終わりなんですよね……?」

「それはそうなんだけど、これだけ魔力反応が多いと一体どれが本体なのやら……」

「…………全部、撃ち抜けば良い」

「えっ?」

 

 空中で静止して、【レイジングハート】を砲撃形態へと変形。その場から見下ろすと、そこには異相体の本体候補となる樹木が7つ視界に入っており、互いが互いを結び合うように根で繋がっているのが見て取れます。どんな願いが、ああいう風に歪められてしまったのかは分かりません。興味がありません。ただただ平和を(おびや)かす敵として、早く取り除かなくては……。

 

「レイジングハート、お願い!」

[- Buster sphere. Stand by. -]

 

 願い通り、【レイジングハート】は膨大な魔力を使って魔法陣で組み上げられた球体を六基生成し、それぞれの樹木の直上に配置してくれました。そして私は、一番近い樹木に【レイジングハート】で直接狙いを付けて姿勢を固定し、惜しみなく魔力を注ぎ込みました。全てが終わるように。そう祈りを込めて。

 

「無茶だよ“なのは”さん! それよりも、サーチャーで本体を見つけた方がよっぽど……」

「分かってるよ。それが確実で、負担が少ないって事ぐらい。でもね、――――」

[-《 Divine halo 》-]

 

 七つの光が、樹木を貫く。

 

「――――如何しても、許せなかったの」

 

 それはとても呆気ない終わり方で、この惨状も嘘のように消えてくれれば良いのにと、そう思わずにはいられませんでした。

 

 

 

~~

Side:レン

 

 夕食の仕込みが終わってもーて、他にする事はと縁側で悩んどると、桜色のいかにもーな魔法陣が出現し、呆けたまま見守っていると粒子が人の形を取り始め、やがて“なのは”ちゃんに成りました。これまで喋るフェレットや、魔力弾とかゆーのも見せてもろうたけれども、未だに“なのは”ちゃんが魔法少女となった現実が非現実的過ぎて、どーもイマイチ実感が湧きませんな~……。

 

「お帰りー、“なのは”ちゃん」

「うん……。ただいま、レンちゃん…………」

 

 あ、理由はよー分からんけど、これは放置したらアカン奴や。

 

「“なのは”ちゃん、どないしたん?」

「えっとね……。覆水(ふくすい)(ぼん)に返らないかなーって考えていたの」

「あー、なるほど。そーゆー事なんやね……。くよくよしてもしゃーないし、取り敢えずお風呂入って、ゆっくりして、それから考えてもえーやないんかな? 疲れきっていたら、良い考えなんて出てこないもんやで?」

「うん、それもそうだよね……。そうしてみる」

 

 縁側で靴を脱いで、しっかりと玄関へ靴を収めに行く“なのは”ちゃんの後ろ姿は一見平気そうに見えるものの、むしろ日常動作をなぞる事で心を落ち着かせているようにも見えて、本当はちょう心配なのですが此処はぐっと堪える事にしました。

 

「結局、自分で解決するんやろなぁ……」

 

 泣かず、甘えず。特に不安や不満、恐怖や悲しみといった事は誰にも打ち明けずに抱え込み、そうやって前に進んで行くのが私の知る“なのは”ちゃんという人物像で、子供らしくないし、もっと頼って欲しいなーとは思ったりもするんやけど、それがあの子の性分ならば、もうそれはそれと認めて付き合って行くしか無いのかなと……。

 

 とはいえ、何も出来ないもどかしさと、本当にこれで良いのかという自責の念で身悶えする辺り、私もまだ割り切れていなかったりするんですわ、これが。

 

「早う、御師匠や美由希ちゃんとか、帰って来てくれたらええんやけど……」

「ただいまー、って何を黄昏ているんだよレン。鍋でも焦がしたか?」

「お帰りー、晶。……って御呼びとちゃうわ、このお猿!」

「いきなりキレんなよ、この亀! やんのか!?」

「やっとる場合ちゃうねん! えーから耳かっぽっじって、よー聞け」

 

 気晴らしを兼ねて、口喧嘩を吹っかけながらも事情を説明。すると晶は、見るからに落ち着きを無くし始め、今頃は機械的に身体を洗っているであろう“なのは”ちゃんの事が心配で心配で堪らないといった感じで、「居場所を教えたら、このまま風呂場へ突撃するんやろかこの不審者?」と(ささや)く好奇心を抑え、そろそろ晶を正気に戻すべく(けい)を込めてデコピンを一打。

 

「痛っ?!」

「まぁ、まずは落ち着かんかいお猿。あそこまで意気消沈した“なのは”ちゃんは久々やけど、昔程やないし、きっと大丈夫やって。それよりも、そんな状態の“なのは”ちゃんに配慮させる方があかんとちゃうか?」

「それはそうなんだけどよ……。やっぱり何があったかとか、それを知ってこそ何かしてやれるんじゃないかとか、レンだってそう思うだろ?」

「不本意やけど、ちょう同意したるわ。せやけどな、普段の“なのは”ちゃんを思い出してみ? 不安や不満を誰かに相談しとる様子はあったかいな? 少なくとも、私の記憶にはあらへんで」

 

 普段から日常会話くらいはするし、勉強や料理などの知識や技術の教えを請われる事はあっても、未だにお悩み相談をされた事などは一度たりとして無く。きっと、聞けば何かしら教えてはくれるんやろうけど、その程度の悩みは“なのは”ちゃん的には如何でもいい物でしかなく、余計な御世話として映るのは明白な様に思えた。

 

「多分、無いな……」

「せやろ。んで、そういう人を無遠慮につつくと、次からは更に隠すよーなるとか、そんな悪循環しか生じないと私はそう思うんやよ」

「じゃあ、一体どうするんだよ?」

「どーもせーへん。何時も通りや。気分が落ち込んでいても、食欲をそそるよーな上手いもん作って食わせて、身体から元気にさせる。心身とは不思議なもんで、どちらかが悪うなるともう片方も駄目になるように、どちかが良すぎるともう片方も釣られて良くなるもんや」

 

 まぁ、実際そんなのは本人次第やけど、“なのは”ちゃんと高町家の面々なら乗り越えて行けるやろうし、晶のアホにはこれくらいの説明で丁度ええやろ。

 

「なるほど。たまには良い事を言うな、亀」

「たまにはちゃうで。私の言葉は全て金言や。ほな、さっさと聴講料を払わんかいお猿」

「誰が払うか。ちょっと褒めたからって調子に乗るんじゃねーぞ!」

「へー、“亀”が褒め言葉なんてうち初耳やわ。やはりお猿に日本語は、ちょう難し過ぎたかもしれへんな~」

 

 売り言葉に買い言葉。そして何時もの様に、私達は自然と拳を交わし合うのでした。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 御風呂に入って少しさっぱりしたあと、身体の水気を拭き取ってから服を着て、まだしっとりと濡れている髪をドライヤーでぱぱっと乾かします。長い髪は、それだけで女性のステータスと成り得ますが、それ相応の手間暇がかかる訳でして、更に此処最近の忙しさから時間節約を考えた結果、髪を切れば入浴時間も合わせて短くなるのではと、ふと入浴中に閃きました。

 

 なので、晶ちゃん程のショートカットはともかく、レンちゃん並みのミディアムカットには挑戦してみたいなとは思いますが、そうなると何時もしているツインテール(厳密にはピッグテールという髪型なのだとか)は諦めないといけません。

 

「そこそこ気に入ってはいたんだけど、これも大人への一歩という事で……」

 

 手で髪を隠し、鏡に映るミディアムカット風な自分を視覚情報と脳内補整を組み合わせて想像してみますが、特徴的過ぎるツインテールと、それを結ぶためのリボンが失われた自分は何とも言えない地味さで、清楚と言えば聞こえは良いのですが、やはり背伸びをするからには目線を誘導するための何かが欲しいところです。

 

「カチューシャだと“すずか”ちゃんと被っちゃうし、ヘアピンとかチョーカー辺りが無難な感じかな?」

 

 もしくは、耳たぶを挟むタイプのイヤリングや、伊達眼鏡など。――――と、色々現実逃避をしてみましたが、何時までもどったんばったんと争う音は途絶えそうにありません。きっと何時もの様に、レンちゃんと晶ちゃんが争っているのでしょう。そう、“何時もの様に”。

 

「なら、“何時もの様”に私が止めなきゃだね……」

 

 もう一度、鏡を見てみます。平生なら天真爛漫と評される表情からは程遠いものの、どうにか怒ったふりくらいは出来そうで、仲裁したあとは表情筋も良い感じに解れているかもしれない。そう思える程度には大分マシになっているような気がして、私は知らずの内に苦笑を漏らしていました。

 

「ふふっ、酷い顔……」

 

 その後、笑わせてもらったお礼として二人を拘束魔法で縛り上げ、みっちりと注意しておきました。勿論、“何時もの様に”です。

 

 

 


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