【リインフォース】ver.2.047
生まれ変わって前へ進み出した管制融合騎。だが不安要素が多く、【闇の書】を狂わせていた自動防衛運用システム『ナハトヴァール』ごと防衛システムを切り捨てたとはいえ、長期間に及んだ汚染がどういった事象を引き起こすのかは見通しが立っていない。それでも、たった1つの未練が今日も彼女を生かし続ける。
side:なのは
さて。何の因果か、拘留されている同年代の子へと訪ねる機会がまたしても巡って来たものの、フェイトちゃんの時とは違って今度は準備万端です。
御母さんに用意して貰った『翠屋』の菓子折りに、緊張感を抱かせないように地味なワンピースとコートで無害さを前面へ押し出し、最後の仕上げとして御母さんから借りたバニラの匂いがする香水を薄く纏えば、誰もが想像するかもしれない喫茶店のモブ娘が完成します。
いやまぁ……、また髪を伸ばしてツインテールにすれば解決はするんですけどね。只、最近では自分でも分かるぐらいに眼光もしくは雰囲気が怖くなったなーと感じますので、目立ちたくないならある程度の無個性っぽさを装った方が無難所さんとも思う次第。
「行ってらっしゃい、“なのは”。リンディさんに宜しくね?」
「うん、行って来ます」
そんなこんなで御母さんに見送られつつ、結界で人目を遮ってからの転移魔法でN次元上に座す【アースラ】の転移ポートへと到着。普段はこの場所での出迎えなんて無いのですが、今回は何故かフェイトちゃんが待っていました。
「…………元気そうだね、“なのは”」
「その節は御心配をおかけしました。……ところで、フェイトちゃんは如何して此処に?」
「最近、家に帰ってもアルフしか居ないから【アースラ】で寝泊まりしてて、それで“なのは”が来るってクロノが言ってたから……。少し、会いたいなって」
「Oh……」
何たることでせう。仕方が無いとはいえ、リンディ提督もクロノさんも事件の事後処理で暫く忙しい筈ですし、エイミィさんも以下略。【アースラ】なら衣食住で困ることは無くとも、貴重な冬休みをぼんやりと過ごすのは少年時代の著しい損失ではありませんか。
「フェイトちゃん。もし明日も暇なら、家に来る? ゲームとか色々有るよ?」
流石に、月村邸にある忍さんのゲーミング・ルーム並みの品揃えとまでは行きませんが、3つのモードで飽きが来ないレースゲーム『ポポのエアライド』やら、改変のしすぎで史実が迷子な無双系アクションゲーム『戦国ASURA2』、無限に続く夏休みから脱出を目指すアドベンチャーゲーム『僕のエンドレス・サマー』など、誰でも楽しめそうなゲームはそこそこ持ってます。
個人的には、『東方Project』シリーズに触れて弾幕教徒になって欲しさはあるものの……。サブカル未経験の人には絵柄的なハードルが高いと思うので、もう少し段階を刻みたい所存です。
「そういうのはやった事が無いんだけど、私でも楽しめるのかな?」
「ん~……。そればっかりは、やってみない事には何とも」
自らの狭い交友範囲と短い人生経験からの推察によれば、身体を動かすのが好きな人はゲームへの興味が薄い気がするため、まだアニメを見せた方が沼へと沈んでくれそうな予感はします。一応、ゲームセンターに行けばダンスゲーム等の身体を動かす遊戯台もありますが、小学生の懐事情的に1プレイ100円の価値は重いです。――――おっと。今の私が優先すべきは、八神さんへの面会でありました。
「御免ね、フェイトちゃん。面会が有るから、詳細はまた後程に」
「うん。此方こそ引き留めてごめんね。……ありがとう」
「如何致しまして……?」
こういう時は、「またね」が個人的には好ましいのですけれども、そもそも再会後に心理的距離を詰める時間の殆どを戦闘パートで費やしてしまった為、ビデオレターで細々と交流していた頃からあまり進展が無いんですよね、悲しかな。
さて。
勝手知ったる艦内通路を直進右左折して行くと、目的地に到着しました。一応、八神さんは加害者ではなく事件の関係者として扱われているので、艦内の監視カメラによる位置情報の自動追跡がされる事以外は食堂や洗面所ぐらいには一人でも行けるらしく、今は要人用の客室で寝泊まりしていると聞いていますが、空元気を出せる程度には大丈夫なのか? それが少し気掛かりです。
「『翠屋デリバリー』です。御注文の品を御届けに参りました~」
「はいはい、今開けるで~……やのうて。どうぞ、お入りになって下さい」
許可が出たので入室してみますと、流石はVIPルーム。それなりに広いリビングが有り、其処に小洒落たテーブルと椅子が一脚のみ固定されていました。その辺は宇宙船というか、艦船あるあるな工夫ですね。そして着座し、机を挟んで車椅子に乗っている八神さんと対峙したならば、楽しい楽しい会話パートの始まりです。
「喋りやすい話し方で構いませんよ。何せ、今日は御茶会をする為に来ましたから、もっと気楽で居てくれると嬉しいです」
「…………高町さんは、うちの家族が危害を加えたのに恨んだりせーへんの?」
「疑似人格を持ったプログラムが、知らない内に改悪されていた最終形態へと至る使命を果たした。それだけの事ですよね……? 坊主を憎めど、
レイジングハートの量子格納領域から皿やティーカップ、クッキー等を魔法で浮かせながら机上に並べて行きます。こういう魔法使いっぽい魔法の応用は地味に難しく、慣性制御による飛行で習熟していなければ御披露目はもう少し先だったかもしれません。
「そんだけって……。その所為で世界中に被害が出て、犠牲者もあんなに……」
「被害の最小化については、反省すべき点は有るかもしれません。けれど一番悪いのは何かと求めれば、それはやはり【闇の書】を改悪した誰かだとは思いませんか?」
「……せやな。それについては同意するんやけど、うちも蒐集行為を看過して黙認していた罪があるんよ。あん時にちゃんと咎めて、説得していれば此処までの被害は…………」
「……………………ねぇ、“はやて”ちゃん」
美味しいはずのクッキーは何処か味気無く、魔法瓶からティーカップに移しただけとはいえ普通に飲めるはずの紅茶は泥水のよう。仕方が無かったことを延々と悔いたところで仕様も無く、全て終わりました。私達が終わらせました。だからこそ、細やかながら祝杯を挙げる事ぐらいしか出来無いのです。
「何時までも自虐してないで、前向きな御話しをしようよ?」
~~
side:はやて
ぞくりと、
「“なのは”ちゃんは……。うちが反省する事も、責任を感じる事も無駄やと思っとるんか?」
「誰が持ってても、破滅を
決して不幸やない。――そう訂正したくとも、此処で話を中断させると気になる答えが遠退いてしまう為、選択肢としては促す他無かった。
「つまり?」
「【闇の書】の完全破壊。
「何で…………そう思うんや? もう悪さしとったもんは壊したやろ?」
「頑張れば魔改造できる程度の安全性で、その暴走の被害は惑星規模。“はやて”ちゃんだって【闇の書】に愛着が無かったり他人の物なら、また悪用される前に破壊や押収されて当然だと思ったりするんじゃないかな?」
「そんなら【闇の書】を解析して、最新のシステムとかに変えれば……」
「それ、誰がやってくれるの? 紹介して貰うのなら仲介者は? 対価は?」
想定もしていなかった難題を嚙み砕いていく度に、最悪が朧気ながら浮かんで来た。これは確かに、自虐するまでもなく前向きな御話しせにゃ不味いとすら思えるけれども……。敢えて無視する事も出来たのに、被害者である筈の“なのは”ちゃんが指摘してくるとは不可解で、少し不気味やった。
ほんまに、本当のホントに諸悪の根源であろう改悪を施した人物のみを恨み、シグナム達やリインフォースから受けた攻撃を許せるとしたら、それはもう聖人の域なんよ。
「まぁでも、何だかんだで杞憂に終わるんじゃないかなーと思います。フェイトちゃんだって、結構なやんちゃをした挙句に条件付き無罪でしたから、“はやて”ちゃんも交渉次第では首輪付きで済む筈です」
「ほーん……。
「能力が有れば、未成年でも就職OKなぐらいには不足しているらしいですよ?」
「えらい深刻やね」
「平常時は、それでも何とかなるっぽいですけど」
「なら、今回みたいな非常時は?」
「決戦兵器か、支援要員頼みなんじゃないでしょうか? 多分、めいびー」
それって、どのみち被害がばちくそ出るヤツやん……。
「じゃあ、うちらが戦力を提供して、その代わりに減刑やらシステムの変更をして貰えばええんやな?」
「他にも方法は有るかもですが、これはこれで可能性は高いと思います」
其処まで話し切ってから、“なのは”ちゃんは魔法瓶を器用に魔法で浮かせてティーカップへと紅茶を注ぎ、一口二口。此方もそれに倣い、皿に並べられたクッキーを適当に摘まんで食べると自分が作るよりも格段に美味しく、そう言えば『翠屋デリバリー』だと告げていたなと思い返す。
「流石は、名店『翠屋』のクッキーと言ったところやね。うちも御菓子とか作ったりするんやけど、此処までの味は出せへんなぁ……」
「有り難う御座います。御母さん的には生クリームを使った御菓子が得意らしいので、機会が有れば寄ってみて下さい」
「…………ほまーに、“なのは”ちゃんの御母さんが『翠屋』の店長さん?」
「揺るぎ無く、不動の事実です」
微かな希望も断たれ、目の前が真っ暗になった。スイーツも軽食も美味しいと評判で、海鳴市が誇る名店として三指に入るであろう『翠屋』の娘さんに怪我させたとか、シグナム達は何してくれとんのや?! 剃髪とエンコと鞭打ちと石抱きで済むんかこれ……?
「あっ、“はやて”ちゃんは気にしないで下さい。貸しについては、シグナムさん達に付けておきますので」
「えー……はい。遠慮無く、たっぷり絞り取って下さいませ……」
~~
side:なのは
元気になったり
[- Master, it's time to end. -]
「有り難う、レイジングハート。あのね、“はやて”ちゃん。次はリンディ提督との面会予定が有るから、名残惜しいけど今回はこれにて御開きです」
「気にせんでええよ。ほな、“なのは”ちゃんまたな~」
そそくさとティーカップ等を量子格納領域へ押し込み、手をひらひら振り合って無事退出。いやはや……、かなりの好敵手でした。単純に、私の話術というかコミュニケーション能力? 交友スキルみたいな物は普通止まりだと自認していますが、“はやて”ちゃんからはリンディ提督のように
アリサちゃんや“すずか”ちゃん。フェイトちゃんの時だって、最初の頃は当たり障りのない会話を探り探りでしていたのに、“はやて”ちゃんの場合は旧交を深めるかの如く弾みに弾んだのです。
会話とは、打ち解け合う行為。互いを知るという事は、互いの個人情報を知るという事でもありまして、たった1時間程度で家庭状況や趣味嗜好、魔法との出会い方だの空を飛ぶ楽しさとか、遠慮も忌避感もなく語り合って知り合って……。これはもう、知己と呼んでも差し支えはないと思います。
だからこそ、距離を置きたくなるのですけれども。
決して、“はやて”ちゃんを嫌いになった訳ではないのです。只あの調子で話していますと何時かは話題のストックが尽き、もっと深度が深くて形すら成していない話題を言語化せねばいけないような未来を察したので、敢えて距離を置くのです。まぁ、でも……。長時間の
………
……
…
「いらっしゃい、“なのは”さん。今日はもう、御茶は良いかしら?」
「すみません。夕食に影響が及ぶので、御気持ちだけ頂きます」
あとは……。不要でしょうけど、釘を刺す代わりに遠回しな御願いをしておきます。“はやて”ちゃんの処遇は大丈夫だとしても、リインフォースさんを含む
「リンディ提督。私、“はやて”ちゃんと御友達になれました」
「そう。それは良い事ね」
「
「私の希望、叶うと思いますか?」
「…………このまま無事に終わるなら、恐らくは」
「……このまま、杞憂で終わると良いですね」
「ええ、本当に……」
これがフラグと言うよりは、杞憂が杞憂通りだったと言うべきか。その日の夜、【闇の書】から自動防衛運用システム『ナハトヴァール』を消滅させても無限再生機能が本来の復元機能に戻っただけで、また数年後か数ヶ月後にはコード【止
ともあれ、ある程度の猶予期間は残されていようといまいが、魔導師レベルを上げておくのが無難な選択肢かもしれません。悩んだところで【闇の書】の管制人格たるリインフォースさんや、膨大な資料が眠る『無限書庫』の主と化したユーノさん以上の妙案なんて思い付けそうにないですし、二度目の討伐を敢行せずとも何処かで御役立ちでしょうし。
あれ……?
何時の間にか、捻じ曲がって仕舞っていたみたいです。諦めに
二度でも三度でも幾度でもコード【止
ではでは、取り敢えず……。著しい実力不足を補うべく、フェイトちゃんを見倣って自己強化系魔法を色々と開発したいと思います。案を出したら、実現可能な範囲でレイジングハートが魔法へと落とし込んでくれるので、それを適当に試して調整すれば完成です。魔法技術の力って凄いですね。
まぁ、あの【ジュエルシード】も【闇の書】も失われた魔法技術の産物である為、一概に称賛できないのは複雑な気分ですが。