魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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 フィンブルヴェトは滅びました。

 それなりに被害が生じたものの、最悪の事態は防げたのです。

 ビターエンド。まずまずな終わりと言えるでしょう。

 されど暗転はせず、エピローグも流れません。

 冷たい季節は続きます。

 何時の日か、悲しい記憶が色褪せてしまうまで。

 ずっとずっと、冷たい季節は続くのです。
 


第48話:今暫く、雪は融けじ。

side:なのは

 

 高町家のクリスマスは、少し変わっています。12月23日~25日の3日間は『翠屋』で一番の掻き入れ時であり、クリスマスケーキも売っているので一般家庭のように普通のクリスマスをやっている暇なんて有りません。何より、イベント好きな御母さんが不参加を許容できる筈も無く……。

 

 故に、例年通りなら年末年始の休業期間が始まる26日に豪華なディナーと、甘い物が苦手な御兄ちゃん&ホワイトクリームケーキを作り飽きた御母さんの希望により、甘さ控え目なブッシュ・ド・ノエルを味わうのです。

 

 しかし残念なことに、今回は24日の夜に人類存亡を賭けた大勝負(※二度目)をやってた際の世界的被害を(かんが)み、25日を臨時休業とした影響で仕込み途中であっただろうスポンジケーキが流用されてチョコレートケーキになってしまいましたが、これはこれで美味しかったです。

 

 因みにサンタさんからのプレゼントは、ゲームソフト『エンゼルメイクライ3』でした。折角なので、フェイトちゃんが遊びに来た27日に御試しプレイをして貰ったところ、ミッドチルダの技術レベルと比較すれば画質の荒さが気になれど、ハイスピードでスタイリッシュな戦闘は凄く面白いとの事。これは……、将来に期待を持てますね。

 

 

 

 そして明くる日。

 

 

 

 12月28日。まだ正月には早いのですが、クリスマスツリーが御役御免となった代わりに鏡餅がリビングの一角を陣取るようなそんな頃。

 

 ミッドチルダ語の和訳が正しければ、保護観察処分に相当する手続きを経て帰宅が叶った“はやて”ちゃんから、「食材が有り余って困っとるんよ~。ディナーを御馳走するから、“なのは”ちゃんと他に3人くらい呼べへんかな?」といった内容の救助要請を頂きました。やはり、リインフォースさん達の取調べが長引いているのか、拘留期間も延びているみたいですね。

 

 そんな訳で、御姉ちゃんとレンちゃんと(あきら)ちゃんという援軍を引き連れて八神家に訪れました。よく食べるメンバーで構成するなら、レンちゃんではなく御兄ちゃんが適役ではありますが、黒一点だと“はやて”ちゃんも御兄ちゃんも気を遣って疲れるでしょうし、髪色と癖っ毛以外は似通っている“はやて”ちゃんとレンちゃんを会わせたかったという理由も有り、オール女子での参戦です。

 

「お、御姉ちゃん……?」

「おぉ……。生き別れたかもしれへん妹が居る……」

「いや、似てねーだろ。可愛げとか凶暴性が」

「あんなぁ、晶。人様の前では行儀良くするもんやで?」

 

 相変わらず、波長の悪さでは仲が良い二人ではあるものの、最近では目に見えて物理的喧嘩の回数が減っています。これもコツコツと、頭部バインドによる緊箍児(きんこじ)を適宜やっていた成果でしょうね。あとは、口喧嘩も減らしてくれたら最の高ですが……。

 

 それはさて置き、目論見は成功しましたし食事も美味しく頂いて、あとはゆるりと歓談に興じる程度の穏やかな一日を想定していたのに、まさかまさかの爆弾が投下されるとは思わなんだですよ。

 

「――――ほんで3日間も音信不通になっとったから、メールや電話の着信履歴が鬼のように来とってな。1割が病院の先生で、残り9割が友達で……あー、“すずか”ちゃんって言うんやけど、良い感じに誤魔化すのも大変やったわ……」

「……()しかしてだけど、その友達の名字って“月村”だったりしないかな?」

「あれ? “なのは”ちゃんも知っとるの?」

「知っているも何も友達の一人でして、(いま)だに魔法少女である事を明かしてないので、“はやて”ちゃん経由による漏洩を危惧(きぐ)しています」

 

 別に、魔法少女の身バレが基本NGという不文律の話ではなく、有事の際に心配させて祈られたくはないという()(まま)が発端ではありますが、“すずか”ちゃんとアリサちゃんは私が平凡だった頃を知っていて、今も尚その延長線上に居ると信じてくれて、だから魔法少女ではない私が存在できる唯一の友人関係だったりするのですよ。

 

 それに魔法少女である事を明かしたところで、『月村重工』や『バニングス建設』と協力関係を結ぶだの、魔法技術で技術革新といった未来は想い描けませんから、不要な情報開示はしなくて良いと愚考する次第です。

 

「その事なら心配せんでもええよ。私だって魔法少女の端くれやし、あんな恐ろしいドンパチやっている現実なんて“すずか”ちゃんに教えたら、不安がって倒れるんとちゃう? せやから、隠せる間は隠すっていう方針には同意やね」

「や、平時の時空管理局は警察みたいな仕事をやってますので、あんなボス戦が日常茶飯事ではない…………筈です」

 

 まぁ、その割りにこの広大な宇宙で、()つ第97管理外世界『地球』という辺境の惑星に【ジュエルシード】や【闇の書】といった第一種捜索指定遺失物だの第一種危険指定遺産が集うとは凄まじい奇遇ですね。それ程、危ないモノが(ちまた)に溢れているのかもしれませんが、そうではない事を祈っております。

 

「せやったら、あまり無茶振りはされへんかな……?」

「そこは後ろ盾やら実績によるので、八神家の頑張り次第だと思います」

「私、まだ小学生なんやけどなぁ……。コネをこねこねせぇと」

「必要だったら、【闇の書】ごと地球を《 アルカンシェル 》で吹き飛ばそうとする組織だよ? “はやて”ちゃんは、過激派や48時間働ける人が上司になっても良いの?」

「あー……、うん。そんなら、頑張ってコネコネをこねするわ」

 

 オブラートに包むなら、厄介な隣人です。クロノさんやリンディ提督やエイミィさんなどの個人個人は好感を持てるものの、どんな理屈が有れば管理外世界にも法や武力が及ぶのやら?

 

 『守護騎士』の皆さんは、ミッドチルダの管理世界でもリンカーコアを蒐集(しゅうしゅう)していたらしいので、その潜伏先である地球に密入国してでも捕らえるor破壊したい。――までの経緯は飲み込めなくもないのですが、【闇の書】の主だからと“はやて”ちゃんにも監視の類を付けるとは極めて傲慢であり、臆病であるとも言えます。

 

 きっと時空管理局は、目の届かない場所にある脅威が純粋無垢でも怖いんでしょうね。その分、懐に入ってしまえば甘々な感じはするので、今少しの辛抱だとは思いますが。

 

「そう言えば、“すずか”ちゃんと仲良くなったという事は、“はやて”ちゃんも本好きだったりするのかな?」

「せやで。“なのは”ちゃんもそうなん?」

「私は漫画が主だから、ちょっと異なるかと。(ちな)みに私の御姉ちゃんは乱読家なので、本の話なら其方(そちら)へどうぞです」

 

 会話の基本は、一対一での対話です。人数が増えたら、空気を読み合って交互に話し合ったり、話題を誰かに振ることも重要です。

 

 レンちゃんや晶ちゃんは最初の邂逅だけではなく、どちらも料理好きという点でも意気投合して随分と打ち解けましたが、御姉ちゃんと“はやて”ちゃんは8つも歳が離れているのもあって、互いに取っ付きにくそうな雰囲気が漂ってました。ので、私からバトンを渡してターンエンド。その合間に、紅茶を味わっておきませう。

 

「やっぱり、丸眼鏡は叡智の証なんやね……。美由希さんは、最近何を読みましたか? 私は『レプリカント』の上巻とか、『ハリーポッター』シリーズなんですけれども」

「最近だと、『奈良梨取考』(ならなしとりこう)っていう現代の奇書と、ライトノベルの『月の盾』かな。『ハリーポッター』は英語版を読んでて、『レプリカント』は気になっているけど下巻が出るまで待っているところだよ」

「おぉ、ライトノベル。中学生以上じゃないと、読むのは難しいって噂の……」

「如何だろう? 日本語版の『ハリーポッター』を読めるのなら、読解力は足りていると思うよ? 個人的な御勧めになるけど、『サイキック少女R』や『迷探偵・夢水清志郎事件ファイル』だったら小学生高学年ぐらいからでも読める程度だし、それで物足りなければ有名所の『チノちゃんの旅』とか『灼眼のシャナ』辺りから慣れて行くのも面白いんじゃないかな」

「ふむふむ、参考になります」

 

 その後、順調にハブられたまま御開きの時間となりました。……いえ、構いませんとも。私は御姉ちゃんと違って話せる機会が多く、むしろ“はやて”ちゃんの会話を(つぶさ)に観測できたのは僥倖でした。

 

 延々かつ滔々(とうとう)と話せて、会話を趣味だと言ってのける生粋の言葉使い(ワード・プロセッサー)。要するに、御母さんやリンディ提督と同じタイプですね。会話を活力へと変換できる特殊能力がある為、会話よりも共同体験に重きを置く私との相性は微妙です。流石に1時間ぐらいの対話なら普通にやれますが、それ以上はオセロだの映画といった娯楽が無いと飽いてしまいますし、此方(こちら)側の話題が尽きてしまう事にも心苦しく感じます。

 

 ともあれ……。1時間少々で切り上げたり、3人以上で話すようにすれば解決する問題ですから、当初の方針通りのままで問題は無さそうですね。

 

 

 

 

 

 おっと、少しばかり意識が飛んでいました。

 

 

 

 

 

 久し振りの平穏な時間でしたので、感慨深さのあまり回想するに至ったのです。それで今はええと……。自室で(くつろ)いでいる時にクロノさんから連絡が来て、空間モニター越しにリインフォースさんと話し合うことになって、『管制融合騎』としての躯体や機能の初期化依頼をしてきたんでしたっけ? 取り敢えず、魔砲を撃ち込めば正気に戻るか試してみませう。

 

 

~~

side:クロノ

 

 本気なのか、それとも脅しなのか。あの“なのは”が無言でバリアジャケットを展開した後に、余剰魔力の塊である桜色の円環や翼すらも顕現させるとは、如何(どう)やら聞くに()えなかったらしい。

 

[> クロノさん。今からディバインしに行くので、準備を御願いします <]

[> 待て。経緯は説明するから、少し待ってくれ <]

 

 結局のところ、だ。依然として脅威は去っていない。【闇の書】の状態を一番把握しているリインフォースが言うように、数ヶ月もしない内にコード【止まらぬ破壊機( U・D )構】を自動的に復元する可能性が高く、時空管理局の技術スタッフからも同様の見解がされている。

 

 それ故に、詳細な解析や修復手段の確立といった奇跡を待つよりは、確実に無害化できる時に無害化した方が良い。それが皆にとって無難で、安全で、次に繋がる方法である。……そう、門外漢である僕ですら思うのだ。

 

 因みに“なのは”へ依頼した理由については、リインフォースによる希望と、僕自身が非常対処要員として控えておかねばならない為、こうするに至った。

 

[> どちらにせよ、性急な判断です。最低でも数ヶ月は大丈夫だと予想しているなら、一ヶ月ぐらい思い出作りをした方が良いのではないでしょうか? <]

[> 予想は予想に過ぎないし、この機会を逃せば手遅れになる可能性がある。どうか、理解して欲しい <]

[> …………リインフォースさん。次もまた暴走するとして、あの時のように無限に等しい魔力を使えますか? 出力から察するに、切り離したコード【止まらぬ破壊機( U・D )構】の方が独占していて、《 アルカンシェル 》と共に花火になったと思っているのですけれども? <]

[> 推察の通り、核たる『永遠結晶エグザミア』は喪失した。だからこそ、復元速度は緩やかなものになると予想されるが、どのみち侵蝕変換魔法《 イルミンスール 》が発動されてしまえば大差は無い。そうならない為にも、―――― <]

[> じゃあ、何とかなります <]

 

 何……?

 

[> 何とかなるのです。侵蝕変換魔法は、あまりの派手さで広範囲かつ理不尽な魔法のように見えますけど、干渉力自体はそれ程でもありません。その証拠に、バリアジャケットを徹せていませんよね? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、更に弱体化しているのなら尚の事。あとはフェイトちゃんとアルフさんと、出来ればクロノさんも手伝って頂けますと万全です <]

[> ……仮に、勝算通りに勝てるとしよう。それで君は、一般人の犠牲者を増やす可能性が有っても、思い出作りをした方が良いと思うんだな? <]

[> 一ヶ月以内に復元する可能性が低いなら、自分の家族を大切だと思えるなら、そして私が“はやて”ちゃんの立場であるなら、そう判断します。そもそも、“はやて”ちゃん抜きで話を進めたから(こじ)れているのであって、“はやて”ちゃんが納得していれば(いな)やはありません <]

 

 納得する筈が無い……。主従関係にある『守護騎士』でさえ家族と言ってのける彼女が、リインフォースの初期化に同意するとは思えなかった。だからこうして秘密裏にやれないかと、遺憾ながら自分らしくもない画策をしている。

 

 最後の短い一時すら、考慮に値しない程の最悪を齎した古代遺産。

 

 そう判断されるだけの罪業を、【闇の書】は積み重ねてしまった。把握しているだけでも3つの惑星を食らい、幾万幾億もの犠牲を生み、1隻の次元巡航船と将来有望な提督を失わせた厄災。――――父さんを殉職させたという私情を挟まずとも、無関係な第三者に意見を求めれば迅速な破壊を望むだろう。何より、全てを記憶しているリインフォースが終わりを望んでいるのだから、時空管理局の立場としては止めるまでもない。

 

[> クロノさん、リインフォースさん。残される“はやて”ちゃんの事を、ちゃんと考えてあげて下さい。若しもの時は何とかなりますし、不安なら私と検証してからでも遅くはないのでは? 大体、お別れ会すらしないで初期化したら如何なるかって想像しましたか? <]

[> それは…… <]

[> きっと、“はやて”ちゃんは悲しむでしょうね。『守護騎士』と【闇の書】という貴重な戦力を抱えた人材が、非協力的になればマシな方で、失意のあまり失踪したり悪の道へと走ったり……。まぁ、あまり考えたくない可能性ですから、穏便に円満なる解決策を選んだ方が良いと思います。他ならぬ、“はやて”ちゃんの為にも <]

 

 

~~

side:なのは

 

 我、成せり。想定よりも弁舌に熱が入ってしまいましたが、それはそれで氷雪系魔法使いと達観系クール従者の心を動かせたようです。その代わり、明日は冬休みだというのに早起きして検証実験をする羽目になったものの、付き合ってもらう予定のフェイトちゃんに冬の思い出を増やしてあげられると思えば、気分も前向きになれそうです。

 

 何せ……。予定の予定を尋ねてみますと、鍛錬とか日本的常識や漢字の勉強とか、情報収集がてらの読書&ネットサーフィンといった相変わらず真面目な事ばかりでしたから、魔法の結合阻害どころではない不思議体験はかなり刺激的なイベントになるでしょう。

 

 あとは“はやて”ちゃんに情報を垂れ込み、後日リインフォースさんが八神家へ帰宅した時にでも絞ってもらうとして、他には……。まぁ、初詣までの二日間ぐらいは空けといて良いかもですね。これまでと言うか、今年だけはとてもとても大変でしたから、またーりと平穏を享受しても許されると思います。

 

 

 

 叶うのなら……。最短でも、せめて雪が融けるまでは。

 

 

 

 炬燵を囲んで赤黒七並べ(ブラッディセブン)をしたり、庭で羽根突きをしたり、シミュレータールームにて模擬戦と洒落込んだり、2月には友チョコを送り送られたり、のらりくらり。そんな風に過ごせたらなぁと夢想する次第です。

 

 

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