魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【八神 はやて】ver.2.049
気付いたら家族が増えて、最終決戦に参加させられて、友達も増えて、時空管理局の首輪付きとなった少女。あまりの急展開に理解が追い付いていないものの、何とか把握しようと努力している。取り敢えず、当座の目標はリインフォースを正座させて説教する事らしい。
 


【補完編】
第49話:甚大なる余波


side:ギル・グレアム

 

 「犠牲に始まり、犠牲に終わる」――()しくは「後悔に始まり、後悔に終わる」とも言い換えられるだろう。長く長く続いた復讐劇は被害を増やしながら、()れども死者数の桁は変わらず、思ったよりも呆気無い終幕となった。

 

 

 

 11年前。時空管理局は、【闇の書】の確保に成功していた。

 

 

 

 二度目の対処という事もあり、『管制人格』すら取り込む第二形態への移行時に対【闇の書】特化型封印魔法を撃ち込み、機能停止を確認。それから辺境の無人惑星に特設した保管庫へと移送する最中、封印を食い破った【闇の書】が再起動を果たしてしまう。

 

 その時、護送を担っていたクライド提督が乗艦する『エスティア』は艦内から侵蝕され、数分と経たずに航行不能へと陥る。そして折悪しく《 アルカンシェル 》を搭載したままであった為、火器管制システムの制御権を死守すべく彼は退艦せずに一人で抗うことを決意した。

 

 船団を組んでいた僚艦にはリンディ提督が乗艦する『アースラ』と、私が乗艦する『ケストレル』。その何方(どちら)かにでも、必殺の砲口を向けまいとして……。私は止むを得ず、彼の要請を受け入れる形で【闇の書】ごとクライド提督を――『エスティア』を《 アルカンシェル 》によって消滅させたのだった。

 

 

 

 つまり、妻であるリンディ提督の目前で、夫のクライド提督を殺したのだ。

 

 

 

 「クライド提督は最善の判断を下し、貴方は最善の行動を果たしたのです」。誰もがその様に(なぐさ)めてくれた。一番悲しんでいる筈のリンディ提督も、同僚達も、部下も、査問会も、世論も、長年連れ添ってくれた使い魔からも……。私を罵倒してくれるのは、私自身とゴシップ記事ぐらいであった。

 

 将来有望な若者だった。次世代を担う提督だった。それなのに、危険が伴うと承知しながら楽観視し、少しでも功績が高くなるようにと封印状態の【闇の書】を託してしまうとは!!

 

 己を恨んだ。【闇の書】を恨んだ。そして次に備えるべく、手を尽くした。クライド提督が殉職しても、あの程度で【闇の書】は滅びない。この教訓は、惑星を覆い尽くした状態のヤツを《 アルカンシェル 》で消滅させた一度目の対処から得られた物である。

 

 故に、近隣の次元世界に不自然な魔法の痕跡が無いかを調べ続け、その合間に切り札となる魔法や兵器の開発に対して予算を確保したり、私財を投じたりもした。そして何よりも、強力な魔導師を探し求めた。だが奇跡的に【闇の書】が見つかりこそすれ、これぞと思う魔導師はなかなか現れなかった。

 

 やがて3年の月日が流れ、4年目が過ぎ、5年目が過ぎ……。赤熱した復讐が刃となり鋭さを増していく10年目。【闇の書】の主である“八神はやて”が事故によって両足に重度の障害を負い、両親もその事故で亡くなった為に天涯孤独となる不測事態が起こってしまう。

 

 

 

 可哀相に。しかし好都合でもあった。

 

 

 

 何時(いつ)かは【闇の書】の人柱となり、消えてしまう少女である。彼女を知る者など少ない方が良い。――そうした思惑(おもわく)の下、戸籍を改竄(かいざん)して彼女の遠戚に成りすました私は援助を行った。財産管理に住宅のバリアフリー化工事の依頼、通信教育の申し込みからパソコンの手配に、彼女が独り暮らしに慣れるまで家政婦として使い魔のリーゼロッテやリーゼアリアを送った事も幾度か。

 

 そして来たる11年目。捜索指定遺失物(ロストロギア)【ジュエルシード】が絡む事件と、“高町なのは”という傑出した魔導師の誕生。それから3ヶ月程で【闇の書】が休眠状態から目覚め、更に半年後には【闇の書】を暴走させていた元凶を打ち砕くに至る。……こうも凄まじい、激動たる1年は滅多に無い。だからこそ感慨深く、ふと振り返ってしまうのだ。

 

 

 

「もっと強引にやれば、犠牲は減らせただろうに」――と。

 

 

 

 初めから、【闇の書】の主に対する救助など考慮していなかった。主を捕らえても【闇の書】は新しい主を探しに旅立つという選択肢を採るだけで、封印する為には暴走状態を待たねばならない。そして暴走状態の第一形態は、【闇の書】が主と『守護騎士』を取り込むことで発動する。

 

 つまり合理的にやるならば、護衛役の『守護騎士』が一人の時を狙って“八神はやて”に強襲部隊を差し向け、強制転移魔法で無人惑星へと飛ばした後に残り3人の『守護騎士』を誘き寄せてこれを破壊。【闇の書】に還元させれば暴走状態へ移行するものと予想されており、連戦にはなるものの其処(そこ)で決戦をすれば被害の局所化は可能である。

 

 だが、実行するには至らなかった。彼女を7年間も見守り、1年少々の援助をした関係性でしかなくとも、最期まで幸せな時間を過ごせるようにと願ってしまったからだ。

 

………

……

 

 当初の想定通り、“八神はやて”が死んでいれば嘆きこそすれ悔やみはしなかっただろう。然れど、喜ばしいことに彼女は生き延びた。こんな結末になるのであれば、名も知らぬ統計上の人々だろうと見殺しにしたのは良心が痛む。痛むが……、細やかな傷でしかない。

 

 冷徹に遂行し、奇跡的な展開は訪れず、彼女の最期を恐怖と涙で閉ざし、【闇の書】は永久的に封印され続ける。……そのような、可能性的には一番有り得た未来を思えば、この程度の事など代償としては軽いとすら思えた。

 

 悔やんでしまうのは結果から見出せた最善のルートが有るからで、真に恨むべきは狂い出した【闇の書】である。あの忌まわしき存在さえ無ければクライド提督は死なず、今回の事件どころか3つの惑星と幾兆にも及ぶだろう生命も失われる事は無かった。

 

 人は、近しく親しい人を守れない時がある。

 

 それなのに如何(どう)して、隣人愛すら抱けぬ他人を大切に思えるのか?

 

 私の正義は、変わり果ててしまった。クライド提督は実力・実績共に申し分無く、同僚としても頼もしい存在であったが故に復讐を為し、“八神はやて”は前向きで向上心もあり、将来が楽しみな孫娘のような存在となったが故に計画を曲げた。最早、愛のためにしか動けない。愛こそが、私にとっての大義になってしまったのだ。

 

 これからも私は、彼等が愛する世界のために正義を為そう。老骨に鞭を打ち、悪を憎んでこの身を焦がす。そして何時か、砕け散るまで……。私の正義を為してみせよう。

 

 

 

~~

side:火神(かがみ) 龍華(りゅうか)

 

 東京都新宿区。その一画には防衛省が存在し、その敷地内に特別機関の1つである【情報本部】が置かれている。日々、国内外を問わず情報収集や情報の分析・精査・分類のみならず、防諜・諜報活動も抜かりなく、国防に関する情報を国民向けに発信したり、部隊支援のために情報提供を(おこな)ったりもする。

 

 ()にも(かく)にも、日頃からそこそこ忙しい職場ではあるが有事になれば激しさを増す。それはもう、年末年始休暇だの健康的な睡眠時間という概念が吹き飛ぶぐらいには。

 

 特に今回のような、世界同時多発的に未知の大量破壊兵器だか天災だか分からない事象で凄まじい被害が其処彼処(そこかしこ)に生じているなら、原因究明の他にも災害派遣に必要な部隊及び救援物資の割り振りだとか、空自や海自の方とも輸送面での調整をせねばならない。……何故なのだろうね? 緊急災害対策本部なんて大層なモノが設置されたのなら、関係閣僚の皆さまが頑張ってくれる筈なのだけれども。

 

「火神陸将……。まさか、お休みになられてないのですか?」

「ほんの二徹目だよ、武井(たけい)1佐。特殊部隊の訓練と比べれば、これしきの事は(ぬる)いのなんの」

其方(そちら)が抱えている業務、幾つか引き受けても?」

「これは譲れないな。優しい君には、愚鈍なる政治家や官僚共を動かす武威が無い」

 

 本当に、彼奴(あいつ)らは腰が重いし頭も固い。金と物資さえ融通してくれれば現場は円滑に回るのに、口を出してくるし説明も求めてくるのだから人手が取られる。平時ならば構わないが、今は有事である。()してや未知なる脅威に晒されたというのに、準戦時体制への移行すら検討していない。全く……、平和主義である事と無防備でいる事は別物なのに、困った事だ。

 

「……分かりました。(しか)し、三徹目をするなら御孫さんに連絡しますので悪しからず」

「武井くん。親戚でもない女子中学生の連絡先を知っているのは、かなり不味いと思わないかね?」

「私の外聞を犠牲にして、火神陸将の健康が保たれるのなら安い物です」

「ふむ……。一理あるから悩ましい」

 

 可能性としては著しく低いが、仮に私が過労などの症状で倒れたら真っ先に部下達と統合幕僚長殿が困るだろう。他にも代行している調整案件が滞り、愛しい孫娘の“綺羅々(きらら)”にも呆られて叱られるに違いない。さりとて、此処で少々の無茶をしなくて何時するのか?

 

 【情報本部】ですら兆候を察せず、看過したかもしれない結果がこの惨事だ。日本だけでも関連死を含めた死者数が二千人を超え、後遺症なのか肉体的に老いたり精神的活力を失った被害者は更に十倍以上とも推測されている。

 

 支那や露西亜、米国や英国でも被害が生じた事から防ぎようが無かった事象または事件かもしれないが、本当にそうだったのかすら分からないのだから人助けも兼ねて無茶をしていたのだけれども……。流石(さすが)に、アラフィフという年波による老いは少しずつ感じており、体力の回復速度を考えるなら三徹目は避けた方が良い。

 

「宜しい。夜になったら仮眠を取ろう」

「いえ、普通に夜は寝てください。じゃないと副本部長が過労で倒れます」

「普通の人は、普通の仕事量をこなせば十分だと言ってはいるんだが……。まぁ、理解した。糸も適度に緩めなくてはな」

 

 私自身が鋼線でも、一般的な幹部や隊員の強度など釣り糸程度しかないのだから、率先垂範をしたところで誰も付いて来れずに早々と切れてしまう。また今回の被災地では、よく見かける動植物や人間の干乾(ひから)びたような変死体を実物なり写真で見た連中がメンタルをやられ、現場も後方も作業効率が低下しているのだから尚のこと大事に運用せねばならん。

 

「時に、茨城県沖の発光現象や爆発、それと静止衛星軌道付近で発生したガンマ線バーストらしき現象に関する調査は如何なっている?」

「沖合については、百里基地のスクランブル機から管制塔に『海上付近でカラフルな閃光が見える』と報告されていたようですが、被災地の状況確認や対領空侵犯措置などで後回しになったそうで、気化爆弾のような爆発の後に確認を行ったところ痕跡は無かったとの事。海自も似たような理由で、たまたま付近を航行していたイージス艦がレーダー上で巨大な物体を捕らえたものの、爆風と津波によってレーダー機能が損傷し、先行させていた哨戒ヘリも爆風によって墜落。現在も、乗員を捜索しつつ現場調査を継続しています」

「…………頭が痛い。全国的な被害で連携が取れなかったとはいえ、もう少し臨機応変な判断が出来ただろうに……」

 

 取り分け、即応して海上確認を容易にできた筈の空自がやらず、海自に任せてしまった点が解せん……。当時は、指令を発するべき中部航空警戒管制団*1が隊舎を中心に壊滅的な被害を受け、()つあらゆる通信網が寸断されていたので独断専行をするしかなかったという免罪符が有るものの、よりにもよって世界中でも日本近海でしか発生しなかった現象を見落としたのだ。

 

 情報本部長の立場的には、唯一の情報が持つ価値の重さについて百里基地司令に講釈して差し上げたくもなるけれど、使える時間と人員が惜しいので今は(こら)えておこうと思考を保留させる。

 

「それから宇宙の件については、情報の確度が低いため再調査中です」

「具体的には?」

「その……。国立天文台からの情報によれば、数分間だけ未確認の宇宙船を見つけて記録したらしく、フェイク映像か如何かを調査しています」

「なるほど、宇宙人による関与の可能性とは何とも……。これが本当で、一連の出来事が攻撃だとしたら妙だな」

「占領するにせよ殲滅するにせよ、中途半端ですからね。引き続き、情報収集を行います」

「程々で頼む」

「了解しました」

 

 未知ばかりが増えていく。それでも国防の一端を担い、家族に平和を享受してもらいたいと願う身としては、此処が踏ん張りどころだと考えている。今回の件で各国は間違いなく軍備の拡充を図るだろうし、宇宙船の情報を知っている大国なら草案程度でしかなかった宇宙軍の創設も早めるに違いない。

 

「軍靴の音が聞こえるとは、こういう事か……」

 

 平穏が遠退き、忙しさを増す。我々の――無駄飯食らいの本領が発揮できるとは(いえど)も、宇宙戦争なぞ不毛すぎてやりたくもない。攻めるには遠く、守るのは対策が困難で民間人への被害も出てしまうし、仮に宇宙戦争が無くても軍事バランスが変動するのだから、仮想敵国同士の緊張感は否が応でも高まる。

 

 取り敢えず、当面の敵は予算獲得の障害になる財務省と左翼共である事は明白の事実。故にこそ、私は国防の責務を果たすために行動を起こすべきで、その前に後顧の憂いを断たねばならなかった。

 

「やあ、綺羅々。先ずは落ち着いて聞いて欲しい。…………うん、『また』なんだ。済まないね……」

 

 携帯電話越しに残念そうな声が聞こえる。有事でなければ、年末らしくゆったりと家で過ごせたものの仕方無し。話の(つい)でに、追加の着替えを持って来てくれるらしいので、夕食分の弁当も依頼しておく。……さて、憂いは解消した。あとは為すべき事に専念するとしよう。

 

 

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