【闇の書】ver.2.051
敢えて分類するなら、魔法をプログラムとして保存するストレージ・デバイスだが、『管制人格』でもある『融合騎』が補助する事でAIを搭載したインテリジェント・デバイスと遜色無い機能性を誇る。その他にも保守管理を行う端末が付属しており、異常な改変などは受け付けない……筈であった。
side:はやて
元旦が過ぎ去り、既に二桁を超える模擬戦の御蔭で魔法にも慣れてきた頃。久々に、ふて腐れる程の感情を持て余していた。
「いやー、分かっとったけど清々しいくらい勝てへんな~……」
「あらゆる手段を問わないのであれば、非殺傷設定を外した《 ミストルティン 》で石化させれば勝てますよ?」
「流石にド外道が過ぎるやろ、それは」
「そうですね。故に我が主は勝てないのではなく、自ら負けているのです」
「……『正々堂々』、『勝てる方法』、検索」
「それは勿論、鍛錬あるのみかと」
「あまりにも正論やけど、私は其処まで戦闘スキーちゃうんよ……」
「はい。存じております」
自宅のソファーでリインフォースのむちむち太腿枕を堪能しつつ、うだうだと思考を巡らす。淑女としては
まぁ……、連敗した御蔭かフェイトちゃんからのヘイト具合が下がり、今では友達の友達である事を認めてくれているような気もするので怪我の功名こそあれど、やはり同年代が相手なら五分五分で在りたいなとも思うし、せめて手加減されずに戦えたらとも思う。
あの二人が戦う時だけ、やたら拘束魔法が飛び交っとるから嫌でも気付くんよ。あと魔法の組み合わせ方とか、偏差射撃の精度もえげつないし。
「…………おっ、ええこと思い付いたわ」
「何でしょうか?」
「経験の差はしゃーないとして、装備の差は何とかなる」
「それは
「せやで、『カートリッジ・システム』。出来れば“なのは”ちゃんみたく、大量に撃てるやつがベストやね」
『永遠結晶』とやらが内蔵されていた頃は不要でもな、あの最終決戦でコード【止
「あの杖は、【闇の書】の主を象徴する歴史的価値のある聖仗なのですが……」
「そんなら大事に仕舞って、新しい杖を作ればええんとちゃう?」
「いえ、復元は容易なので改造して頂いても構いません。死蔵されるよりかは、使われる方が杖冥利に尽きると思います」
「おっけー。じゃあ、改造する方向で進めとこかな」
「良しっ。元気も充電したし、そろそろ買い物行こか?」
「はい、我が主」
「……ほんま頼むから、公共の場でソレ言わんといてな。散るで? うちの外聞と羞恥心」
[> 御心配なく。公共の場では、念話で御呼び致します <]
[> 此奴、直接脳内に……! <]
やっと、なんよ。
新しい家族であるリインフォースを迎えて、
「そやそや、リインフォース。1つ大事な話があるんよ」
「何でしょうか、我が主?」
「クロノ執務官の提案を呑んだから、悪い事したのは【闇の書】、私が持っとるのは【夜天の書】って事になったんで、
「…………はい?」
まっ、嘘も方便ちゅーわけやね。
~~
side:フェイト
近距離戦が苦手な相手なら切り込み、中距離戦が苦手な相手なら距離を置いて戦う。――そんな風に対魔導師戦を想定した戦法をリニスから学び、彼女が去ってしまった後でもアルフと共に鍛え続けた。
一般的な魔導師や騎士が相手なら、それでも通用したのかもしれない。
けれど、相手が圧倒的な強者だと上手く行かなかった。速度を活かした連続強襲によって主導権を与えずに
自分でも分かってはいる。リニスから全てを学ぶには時間が足りず、当時の私は幼過ぎて無茶は出来なかった。そしてリニスも、魔導資質と成長を加味すれば将来は『大魔導師』に成るであろうと予想していた私よりも強い相手との戦闘なんて、其処まで想定していなかったのだろう。
管理局の実働部隊でもAAAランク越えは5%しか居らず、それはつまり広大な次元世界おいて高ランク魔導師は全体の5%程度に留まるとも
そんな相手を想定するよりも、95%の弱者をどう効率良く倒せるかを教えた方がタメになるだろうし、短期間の教育であれば尚の事。だから、此処から先は強者との戦い方を学び、考え、対処しなければ進めない。並び立つ資格が無いのだと焦り悩んで――――
「ねぇ、“なのは”……。こんな悲劇を見るのが鍛錬になるの?」
――――それなのに何故か私は、自宅のリビングにて“なのは”とアルフと一緒に地球産スペース・ファンタジー映画を見ているのであった。ミッドチルダでは、遥か昔に禁止されている質量兵器や自律兵器を用いた戦闘描写は画質が荒くても何処か生々しくて恐ろしく、平然と殺傷が繰り返されようとも彼等は突き進んで行く。こんな暴力すら、娯楽として消費するからこそ“なのは”は強く在れるのだろうか? そんな風に思ってしまいそうになる。
「別に、これじゃなくても気付きを得ることが大事で、応用が出来そうな物は覚えて試して改良して、そうやって戦い方を増やすのも重要だと思うよ?」
「なら例えば……。フォースみたいに不可視の衝撃を出したり、物を動かす魔法が有ったら……」
「うん。その調子その調子」
「でも“なのは”は、その対策もしている筈だよね?」
「まぁ、一応はね。只、完璧に対処できるかは状況次第なので断言し難く……。
「
映画という大衆娯楽の存在は、知識としては知っていた。架空で、虚構で、有り得ない世界。
「アルフは如何だった?」
「私かい? んー……。やっぱり、明るく楽しいやつだと嬉しいねぇ」
「あららら……。じゃあ、次は取って置きのやつで行きませう」
そう言って次に見せてくれたのは、『何千枚にも及ぶ手描きの絵を連続で映し、動いているように見せる』狂気的な手法によって作られた映像作品で、顔が獣なのに人型生物が暮らす世界という設定は初めこそ慣れなかったけれども、直ぐに軽快なストーリーと古めかしい世界観に引き込まれて……。気付けば、あっと言う間に時間が過ぎていた。
それはアルフも同様だったようで、“なのは”はこの現象に満足したかのように微笑みながら映像記録の続きが収められたDVDなる物体を私に預け、夕暮れへ溶けるようにテレポート帰宅したのだった。
「……これ、見るなら話数を制限しなくちゃだね」
「異議無し。こいつは、面白すぎてちょっと危険すぎるよ……」
鈍い頭痛、軋む眼球、渇く口内。こうなったのは3時間以上も連続視聴した結果ではあるものの、脳裏に焼き付いた映像は何度でも楽しさを呼び起こし、去来する高揚感は穏やかで優しい物だと分かってはいても、まるで“なのは”との決闘で撃ち墜とされた時の感情にも似て、ぞくりとする。
アルフは、純粋に楽しめているみたいだけど……。面白いのは確かであり、貸してくれたからには見なくてはいけない。慣れる方が早いか、見終わる方が早いか。
友人らしくなりたいと、願うのであれば尚の事。
“なのは”の友人であるアリサや“すずか”を観察すれば、嫌でも気付かされてしまう。私が『アリシア・テスタロッサ』のクローンとして、出来損ないとして生きて来た歳月はたった4年しかない。赤子の頃から、9年分の成長を経験することが出来た彼女達との間にある5年分の
兎にも角にも、私から提供したり共感できる話題はミッドチルダや魔法に関する事ばかりで、そんな友人以前の人並み未満では、対等な友人関係なんて夢のまた夢である。
故にこそ。
追い着きたいのであれば、私は人並み以上の努力をしなくてはならないのだ。人として、魔導師として、最高の比翼として認められるように。閃光の速さとまでは行かなくも、何時かきっと双子星のように“なのは”の隣で輝きたいと強く思う。
だって……、それぐらい出来なくてはあんな狂人の才能と容姿を受け継ぎ、虐待を耐えた甲斐が無いのだから。
あのね、リニス。私はちゃんと、幸せになってみせるよ……。