魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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デバイス紹介
【夜天の書】ver.2.052
現代では貴重な魔導書型ストレージ・デバイス。古代ベルカ時代の製作物と推測されており、嘱託魔導師『八神はやて』が個人所有している。何処となく【闇の書】に似た装丁だが、古代ベルカ時代において魔導書型は珍しくない形状なので類似品と見做(みな)すのが妥当だろう。



第52話:回帰性日常風景と懸念

side:なのは

 

 「うちで御茶会するわよ!」といった有無を言わさぬアリサちゃんからの招集メールが届き、早くも週末。平生(へいぜい)なら月に1~2回ぐらいの頻度で何処かしらに集まり、御茶を飲んだりゲームをしたりと楽しんでいますが、先月は師走らしく忙しい日々を過ごしていたので不参加が続いておりました。

 

 そんな感じで開かれた久々の御三家ティーパーティーなのですから、積もり積もった話が出るわ出るわ……。まぁ、主にアリサちゃんが止まりませぬ。

 

 聞くところによれば、世界中で発動した侵蝕変換魔法《 イルミンスール 》によってイギリスに居る遠い親族だったり、『バニングス建設』海鳴支社の役員が亡くなったりしたそうで、折角だからと両親に連れられて日英の葬式を社会経験させられたとの事。確かに、進んで参加したくはないですね。

 

 (なお)、“すずか”ちゃんも『月村重工』という巨大企業の御令嬢なので様々な不幸とは無縁ではなかったものの両親だけで対処したらしく、その辺は家庭ごとの教育方針の違いが出ているなと感じます。

 

「国ごとに主要な宗教も、葬式の方法も違うのは理解していたつもりだけど、何で日本の葬式って火葬した後に御骨を拾わせたりする訳?! 知ってはいても、実際に見るとやっぱりショッキングだったわ……」

「アー、ウン。御愁傷様ナノ。あれはあれで、きちんと見送ったり決別する意味があるらしいよ?」

 

 (ちな)みに、私の御父さんの場合は空っぽの(ひつぎ)を燃やしただけなので、実際に収骨をしたり見たりする衝撃具合はよく分かってないです。一応、遺灰は在るらしいのですが、残像すら生じさせずに瞬間移動できるような御父さんが爆弾如きで微塵になるよりかは、世を忍んで暗躍している可能性の方が有り得るのでして……。

 

 いや、()しかしたら地球にすら居ないのでは?

 

 魔法が存在するのですから、ピンク髪の魔法少女に召喚されて巨大ゴーレムを十七分割していたり、異なる歴史を歩んだ明治時代へ飛ばされて流浪人&剣聖をやっていても不思議ではありません。

 

「でもこう、もうちょっと優しい見送り方が有るような……。まっ、辛気臭い話は此処までとして、この先からが本題。最近“すずか”も親友が増えたそうだし、御茶会のメンバーを増やそうか悩んでいるのよね。別で開くのも準備が大変だろうし、まるで仲間外れみたいじゃない? そもそも、私達のコミュニティーの規模が小さいだけだから数人増えても許容範囲内だと思うのだけれど、“なのは”や“すずか”的には如何かしら?」

「3人でも予定を合わせるのに苦労しているし、これ以上は難しいと思うよ?」

「私も同意かな。それに、“はやて”ちゃんと話すのは物語に関する話題が多いから、御茶会の楽しみ方とはまた違うんだよね」

 

 (にべ)も無し。こうして、本題はさらりと放流されたのでした。

 

「あのねぇ、もう少し会話を弾ませなさいよ。『招きたい親友が出来たの?』とか色々有るでしょうに……」

「え? アリサちゃんの色眼鏡に適った子が居るの?」

「それを言うなら御眼鏡っ! 居るには居るけど、3人とも東京だから遠いわね」

「へー……。それで、親の職業は?」

「確か、セキュリティソフトウェア開発会社の創設者一族と、警視庁の上から四番目の警視正に、あとは警備会社の経営者だったかしら?」

「そういう所だよ、アリサちゃん…………」

 

 一般的かはさて()き、その子の性格なり容姿なり行為を気に入ってから育まれるのが友情というモノなのだと解釈していますが、アリサちゃんの場合は唯一性や環境を含めて好きになるようで、私の場合は『アリサちゃんを唯一殴って気絶させた子』、『何かやる時はやる子』、『まともに関わった最初の庶民』、『地元では有名な喫茶店の子』、そういった所がプラス評価になっているのではと(なか)ば確信しております。

 

 少し前の私みたく、優しくて平凡だと自負していそうな子なんて石を投げれば当たる程度には居るでしょうに、意外なことに私のような親友さんを見掛けた覚えが無いのです。時間は有限であり、身体は1つなので交友範囲は制限すべきかもかもではありますが……。

 

 とまれ、アリサちゃんはそんな風に色眼鏡(サングラス)を通しても鮮明に見える子を選んでいる節がある為、「御眼鏡っ!」ではなく「色眼鏡」と形容してみたところ存外に会話が跳ねて何よりです。グッド・コミュニケーション。ブラボー、ハラショー。

 

 

 

 ふむ。このマカロン、カリカリで甘美ですね。善きかな。

 

 

 

「ところで、“すずか”ちゃん。最近の出来事だけど、私と“はやて”ちゃんが御友達になったって話は知ってる?」

「……初耳だね。二人は、どんな風に知り合ったの?」

「御兄ちゃんが夏頃にシグナムさんと切り合って、それ経由で()()然々(しかじか)

「嗚呼。だから一時期、御姉ちゃんの機嫌が悪かったんだ……」

 

 忍さんと恋人関係になってから、御兄ちゃんの宿痾(しゅくあ)だか運命が落ち着くかなと思いきや相変わらず一級フラグ建築士をやってまして、そんな人の良さに惹かれたが故にあまり怒れないのだと忍さんがニコニコしながら愚痴っていました。別名、惚気(のろけ)話とも言いまする。

 

 多分その内、人型になれるタイプの宇宙戦艦を海岸で保護したり、別の次元世界から降って来たロボット美人姉妹と仲良くなっても、私はもう驚くことはないでしょう。御兄ちゃんですからね。何時ものやつです。

 

「ちょっとタイム……。どんな経緯があれば切り合う訳?」

「それはねー。夏になると臨海公園で御祭りがあるんだけど、――――」

 

 楽しき日々。大切だと思える家族や親友が居て、アニメに漫画にゲームといった娯楽に囲まれて、たまに模擬戦などで気分転換をする。そんな幸福だけで満ち足りていれば良いのに、私の宿痾(しゅくあ)だか運命は捻じれ狂っているのでそうは行きません。や……、正しくはそうなるかもな~という予感からの諦観で、既に覚悟しています。

 

 

 

 あの日の侵蝕変換魔法のせいか、ずっと大気中の魔力素(マナ)が不穏なのですよ。

 

 

 

 叙情詩的(リリカル)な表現をするなら、世界が歪みつつあるように感じられてソワソワします。実は6月頃にも似たような経験をしており、“はやて”ちゃん情報によれば日付が誕生日である6月4日になるや否や【闇の書】が起動したとの事。じゃあ、近々何か起こりそうですねと思う次第で、とても()()きしながら心待ちにしています。

 

 念の為、関係各所にそれとなく伝えているので初動遅れは無いでしょうけれど、何が起こるのかが分からないというのは非常に厄介です。

 

「そうそう、二人共。最近、雲行きが怪しいから気を付けてね」

「ざっくりし過ぎて意味不明なんだけど……。それって、運勢の話?」

(けが)れ……の話かな? またよくない事が起きそうだなーと、私のゴーストが(ささや)くのです」

「あんた、シリアスなのかコミカルなのか。どっちかに決めなさいな」

 

 ええ、はい。(おっしゃ)る通りです。実は……、私も何処まで伝えようか悩んでおりますれば、自然と思考が(めぐ)(にご)って(にぶ)るのです。言わない後悔と、言ってしまった後悔。その中間を欲しがるからこそ、曖昧で胡散臭い表現になって苦慮しています。雄弁は銀なり。(しか)(しか)り。

 

「まぁ、“なのは”がそんな事を言うのは珍しいし、槍の雨が降って来るとでも思って大人しくしとくわよ……。その代わり、2月になっても何も起こらなかったらガトーショコラを(おご)る事。良いわね?」

「合点です。“すずか”ちゃんは如何するの?」

「それなら……、私はショートケーキで」

「おっけー。オーダーを承りました」

 

 (もっと)も、何かが起こったとしても深夜帯だったり、発動直後に結界で隠せる程度なら証明は難しいんですけどね。取り敢えず、奢る前提で御母さんに根回ししておきませう。やれやれ……。今回は、短い平穏になりそうだなぁ……。

 

 

 

 

 

 




 憂いよ、去れ。

 嗚呼されど、天地抱きし世こそ煉獄ならば、

 生ある限り、憂いは去らず。

 避け難きモノとあらば、廻れ、愛しき刹那よ。

 数多の憂いを措いて、

 汝ひとり、我が胸を射止めよ。

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