魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【鳳蓮飛(ふぉう・れんふぇい)】
私立風芽丘学園中等部2年生。通称、“レン”。高町家の居候で、家事と中国武術が得意。晶とは、性格の不一致により非常に仲が悪く、口喧嘩から本当の喧嘩への発展は日常茶飯事。恭也のことを“御師匠”と呼び慕っているが、正確には弟子ではない。

【城嶋晶】
私立風芽丘学園中等部3年生。同じく高町家の居候で、家事と空手が得意。レンとは極めて仲が悪く、事ある毎に勝負を仕掛けているが喧嘩に関しては連戦連敗中である。此方も恭也のことを“師匠”と呼んでいる。尚、弟子ではない。



第5話:新たな誓いなの

Side:なのは

 

 一頻(ひとしき)り怒ってみせた後、私は少し晴れやかな気持ちで自室へと戻りましたが、すっかり失念していました。ジュエルシード許すまじ発言を聞いた発掘責任者であるスクライアさんが、どういう風に自責の念を感じるのかを。

 

「申し訳ありません、“なのは”さん。これまでのジュエルシードの暴走、そして今回の被害。本当に、本当に済みませんでした!」

「ええっと……」

 

 フェレットが直立状態から頭を下げるというシュールさと、あまりの言葉の重さにたじたじとなりましたが、私の中でその謝罪に対する思いが次々と溢れて来て、それを何とか言葉に纏めながら返事をする事にしました。

 

「確かに、スクライアさんがジュエルシードを見つけず、そして運ばなかったら今回のような事は起こらなかったのかもしれません。けど、それはもう有り得ない未来でしかなくて、今はただ前へ進むしか無いんじゃないでしょうか?」

「でも……」

「それにね、スクライアさん。あと16個もあるんですよ? そのどれか1つでもこの町を消し飛ばしたり、家族や知り合いに危害を加えたりしたら、私はスクライアさんを許せなくなるかもしれません。だから、その謝罪は受け取れませんし、受け取りたくありません。少なくとも、全てが無事に終わるまでは」

 

 そう、まだ16個もあるのです。全て回収するまでは気が抜けませんし、其処までは如何にか歯を食いしばってでも、付いて来て頂きたいところです。

 

「分かったよ、“なのは”さん……」

 

 それっきり会話は途切れ、何か深く考え込んでいるスクライアさんを部屋に残し、私は携帯電話を片手にリビングへと戻りました。先程まで床に正座させていた二人は何処かへ行ったようで、私は気兼ねなくテーブル上に置いてあったリモコンを独占し、テレビを点けてソファーへと座りました。

 

 とはいえ、決して昼ドラやバラエティー番組を見たい訳ではなく、やっているであろう臨時ニュースを探してチャンネルを次々と飛ばし、それらしいところで手を止めました。

 

「――返し、御伝えします。先程から番組内容を変更して御伝えしている通り、本日の午後1時頃、海鳴市藤見町で広範囲に渡って住宅やビルの損壊を伴う原因不明の被害が発生し、道路も各所で亀裂や隆起が見られるなど、警察や消防からは『地殻変動やテロなどのあらゆる可能性を視野に入れ、調査に当たる』との発表がなされております。また、被害の甚大さから自衛隊による派遣も検討され――――」

 

 何となく予想はしていましたが、事態は最悪な方へと向かいつつあるようです。その後も色々とチャンネルを変えてみましたが、時間が経つと共に目撃証言や証拠写真、果てには証拠映像までもが流れ始め、市街地を飲み込むように高速で成長する樹木や、空から降り注ぐ桜色の光線などがバッチリと映っているのを確認したところで、私はテレビから視線を逸らしました。

 

 それから意を決して携帯電話を開き、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんと次々に電話をかけて安否を確認し、アリサちゃんとすずかちゃんは電話に出れない事が多いので、メールを送って返信を待ちます。

 

「…………やり方、変えなきゃだね」

 

 二人共郊外に住んでいるし、休日は家でペットと触れ合う予定だと聞いていたので大丈夫とは思うものの、やはり心配で。返信を待っている間に、気晴らしを兼ねてジュエルシードの対処法を見直すことにしました。

 

これまでは、封印状態のジュエルシードが発する微弱な魔力を頼りに探し回っていましたが、これだと反応が微弱過ぎて見落とす恐れや、探索に時間がかかってしまう事が難点でした。つまり、受動的では限界があるのです。

 

 なので、これからは能動的な探索もやってみようと思います。音波を出して、その反射音で物の位置を感知するエコーロケーションのように、魔力を飛ばしてその反応を感知する探索方法へと変えるのです。但し、懸念事項が2つ程。魔力を飛ばすので消費魔力が激しいのと、その魔力でジュエルシードが発動する恐れがある事です。

 

 前者は膨大であるらしい自身の保有魔力量で乗り切って、後者は予め結界を張ってからすれば問題は無いとは思うのですが、不測であるからこその不測事態を考えれば考える程に、果たして魔力や体力や気力が持つのだろうかと少し不安になります。

 

 

 

 例えば、敵対勢力という不測事態。

 

 

 

 以前、スクライアさんが一方的に念話で話してきた際に、輸送中の事故か襲撃で散らばったジュエルシードを追って来たと説明していましたが、よくよく考えてみれば【レイジングハート】などの機械を作れるような文明の輸送船が、そう易々と事故に遭った挙句大破するものなのかと。

 

 そう考えてみると、やはり事故の線は薄いように思えます。

 

 杞憂、なのかもしれません。きっと、あんな被害を初めて見たせいで気が動転して、それで心配性になって、悪い事しか考えられなくって、疲れていて、でも誰かに任せる訳にもいかないから私が頑張るしかなくて、だからジュエルシードは全部集めないといけません。それが終わればきっと、元の生活に戻れるのです。今までのように、何時までも平穏な暮らしが――――

 

「出来たら、良いなぁ……」

 

 テレビに視線を戻すと、映像は海鳴大学病院の入口付近の中継映像へと替わっており、救急車が引っ切り無しに負傷者を搬送している様子や、医者や看護師が慌しく対応している様子などを映し出していて、私はなんて酷い物と戦っているのだろうと、ぼんやりとそう思いました。

 

「でもまずは、全部終わらせないと駄目だよね……?」

 

 そうでなければ、望むことも始めることも(まま)ならないのですから。

 

………

……

 

 そしてその日の夜。私は一人で、海鳴市上空の高度三百メートル付近にて佇んでいました。これほどの高度ならば、人目を気にせず魔法を使って探索出来ますし、何よりも一人で居られるのです。空は静かで、星や月は明るく奇麗で、陳腐な表現ですがまるで別世界の様。お兄ちゃんとお姉ちゃんには悪いのですが、今度からはこうして探そうと思いました。

 

「この方が効率的だし、バリアジャケットが無いお兄ちゃんとお姉ちゃんが、万が一にでも負傷する恐れも無くなって、まさに良い事尽くめだよね……。うん」

 

 ただ、少しだけ暇なので独り言が増えてしまうのは難点ですが……。とはいえ、誰かと話したいかと言うとそうでも無かったりします。アリサちゃんと“すずか”ちゃんは安否報告がてら電話してくれて、お兄ちゃんとお姉ちゃんは予定を切り上げ、そしてお母さんは店を早目に閉めて帰って来るなど、皆が私のことを心配してくれました。

 

 だから不安や心残りな事は無く、私はこうして空を飛んでいるのですが、やはりジュエルシードが見つからないと結界を張って探索、無ければ次のエリアへ移動といった作業の繰り返しとなるので、その合間に空中戦闘機動をやってみたり、誘導弾をぐねぐねと曲げて飛ばしてみたりしながら2時間程。

 

 その結果、励起(れいき)前のジュエルシードを1個見つける事が出来ました。今日だけで2個も集められたのは良い事なのですが、まだ15個も不発弾のように何処かへ転がっている訳でして。気が抜けない日々は、まだまだ続きそうです。

 

「目標、自宅。転移」

 

 取り敢えず、本日はこれまで。明日は、“すずか”ちゃん家で御茶会があるので7時に起床して、朝シャワーやら朝食を済ませ、おめかし等をして、更に同時並行してお兄ちゃんにも準備してもらってエトセトラ。

 

 正直、現状の危うさを考えるとそんな事をしている場合ではないのですが、深刻さを認知する以前の招待とはいえ今更断る訳にも行かないですし、折角なので実益を兼ねてその周辺一帯を探索してしまおうと思います。願わくば、何事もなく平和なままで終わりますように。

 

 

 


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