魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
《 なのは・オードナンス 》
魔改造済みのアリサや“すずか”の認識では、そういう事になっている方の“高町なのは”。アリサ曰く、面倒な所である『管理局(シェリフ)』の嘱託魔導師で、砲撃型魔導師&単独なのにも関わらず戦果を挙げている注目の討滅者(ブレイザー)



第58話:望まぬ再演

side:クロノ

 

 通信が途絶した空間モニターを閉じ、降って湧いた待機時間に溜め息を吐く……。“アリサ・スティクス”の指摘は、善性という物が有れば大抵の人なら賛同したくなるような内容ではあったが『時空管理局』の設立から65年も過ぎた現在、ああいった生温い手段に関しては議論も検証もやり尽くされている。

 

「やれやれ……。少し前の自分を思い出すな…………」

 

 高度な文明と魔導技術を持つミッドチルダが、未だに次元航行も出来ず、質量兵器で殺し合っている野蛮な世界に配慮すべき意義が有るとでも?

 

 管理局が担う次元世界の平和維持活動とは、無償の愛から生じた訳ではない。ミッドチルダ及び同盟関係にある諸国の安寧を守り、恒久的な発展と自然環境の調和を目指すために行っているという前提を踏まえれば、少しぐらい大局観を持つ者なら察せるだろう。

 

 

 

 この地球での出来事は、対岸の火事である。

 

 

 

 仮に滅んだとしても痛くも痒くもないが、第一級捜索指定ロストロギアが管轄内へと流れ着いたり、犯罪者に利用されても困るから封印または処分しておきたい。そういった都合で、貴重な人材や物資がこの辺境で費やされているのだ。

 

 人道的に、良識的に、個人的な意見として地球人の避難誘導や保護はすべきだと思う。(しか)し、地球と外交するメリットすら見出せていない現状では、極僅かな現地協力者に呼びかける程度の権限しか与えられておらず、ミッドチルダ側も不必要なコストを払いたがる道理も非ずで……。

 

 「だからこそ、現場組が好き勝手できるという最大の強みも有るのよ?」――そうした冷たいロジックを嘲るように締め括ったリンディ提督は、少し疲れているようにも見えた。

 

………

……

 

 ともあれ、だ。今は法解釈だの歴史の授業をする時間が惜しい。残念ながら、“アリサ・スティクス”への反論はまたの機会に――――

 

「待て……。むしろ訪れない方が望ましい」

 

 そうとも。あの跳ねっ返りで傲岸不遜な無法者(アウトロー)がやって来るという事は、また今回の事件が再発するなり問題が起こっている状態であるからして、会えないのは良い兆候だと言える。

 

 そもそもの話、彼女が認識している世界観は僕達が知るモノと違っているらしく、色々と物知り顔だった“なのは”ですら首を傾げる程度なら適当に聞き流した方が無難だろう。御互いに理解できずとも利用はできる。それさえ分かれば、現場としては十分だ。

 

 無論、「不明な戦力をアテにするとは、(いささ)か無用心では?」と参謀本部から指摘される懸念も有るが……。敵対行動をしていた『守護騎士』(ヴォルケンリッター)を戦力に加えた【闇の書事件】よりかは批判され難く、元はと言えば足らぬ戦力を現地調達している結果がコレなので、幾らでも舌鋒を逸らしてみせよう。

 

 

 

 正規戦力を、十分に用意できない後方が悪い。

 

 

 

 さて……、あと3分程か? どうせ休憩するなら、此方と合流してからでも構わないだろうに……。こういう時だけは、流暢(りゅうちょう)に話せる【レイジングハート】のようなデバイスが欲しくなる。

 

[- What's wrong? -]

「済まない。ちょっとした気の迷いだ」

[- I see. -]

 

 【デュランダル】を(なだ)め、遠方に(そび)える巨大な黒煙を再観察する。――――現状ではこれが最大級の規模らしいが、『守護騎士』もユーノもアルフも、武装局員の面々やリーゼ姉妹も別ポイントで黒煙の対処をしている為、この大物を消し飛ばしたところで事件解決には至らない……と想定しておく。

 

 現に、“なのは”が夢で見た三人組は発見されておらず、彼女達の予告通りに事件が起こった事から主犯格または関係者であるのは間違いなく、予告を信じるなら決闘による決着を望んでいるはずだ。()しかしたら、あの黒煙の中から現れる可能性もあるが、それならそれで手っ取り早くて助かる。

 

 此方も、暇を持て余している訳ではない。何時だって恒常業務という物は非常時でも消失する事は無く、ただ単に後ろへとズレ行くのだから。

 

 

 

~~

side:なのは

 

 クロノさんが待ち(ぼう)けているポイントP3――冬化粧されたブロッケン山が見頃らしいドイツのとある地方へ集団転移するや否や、台風の如く巨大な黒煙が形を変えながら魔力反応が増大して行きました。

 

 多分、あのサイズから私達のそっくりさんが抽出されるとは思えないので、恐らく超弩級の……それこそコード【止まらぬ破壊機(U・D)構】の闇でも出て来そうですね。ただ先程は『熾天使』、その前も古風な装備の『守護騎士』とか、大量のフェイトちゃんといった変化球ばかりでしたから、きっと今回もそうなのだろうなと覚悟は済ませています。

 

「増援に感謝する。だが……、済まない。少し、冷静さを保てそうにない」

 

 まるで悲鳴か呪詛のような音が響き、黒煙を裂いて現れたのは見慣れた白い双角と絡みつく黒い触手。要らない物を除けば、その特徴的な人工物は次元巡航船『アースラ』の艦首にそっくりですが、クロノさんが動揺するという事は……もっと最悪な予想の方なんでしょうね。

 

[> 不審船より船舶識別コードを受信! まさか、そんな事って…… <]

「教えてくれ、エイミィ……。あの船は何だ?」

[> …………L級次元巡航船『エスティア』。艦長は……、クライド・ハラオウン提督 <]

 

 嗚呼、やはり……。私が『守護騎士』に襲撃された後、【闇の書】に関する資料で閲覧した記憶があります。管理局は過去に二度も【闇の書】を捕捉していたものの、11年前となる二度目では次元巡航船と提督を喪うなど惨憺(さんたん)たる結果で終わっていました。

 

 その提督というのがクロノさんの御父さんだそうで、閲覧権限が低くて詳細は不明でしたが、こんな風に座乗している次元巡航船が侵蝕されてしまえば脱出は困難ですし、若しくは何かしらの職責を果たそうとして殉職したのかもしれません。

 

 何方(どちら)にせよ、先程までと違って物理的・心情的に倒し難いのは間違いないかと思いきや……。周囲の雰囲気なんて一顧だにせぬ、歴戦の専門家が居ることを忘れていました。

 

「随分、長いこと閉じ込められていたみたいね~……。“なのは”は、『小夜啼鳥(ナハティガル)』を見るのは初めてかしら?」

「んー……。それっぽい物なら、割りと最近」

「とにかく、絶望とか失意とかでジメジメしてそうな外観だなって感じれば、大抵は『小夜啼鳥(ナハティガル)』よ。あれをブチ壊せばこの世の歪みは正され、囚われの人々は摂理へと回帰し、私達は善行を重ねて高枕。三方良しってところね。……まっ、そういう訳だからキリキリ切るわよ! 《タイラント・レイブ》、フルドライブ!!」

 

 適当に会話を合わせていると、気炎万丈なアリサちゃんが噴進弾の如く『エスティア』へと切り込み…………。案の定、多重複合防御魔法に阻まれて失敗しました。でも流石に、コード【止まらぬ破壊機(U・D)構】よりかは枚数が少なく、強度も控えめらしいので何とかなりそうです。

 

[> ちょっとぐらい普通に切らせなさいな! このこのこのッ!! <]

[> アリサちゃん、普通に中距離戦へ切り替えようよ……? <]

[> あのね、“すずか”。最後まで取り置いてこそ、奥の手って言うのよ! <]

[> 奥の手が『神威召喚』じゃないのは、多分アリサちゃんだけだと思うなぁ…… <]

 

 魔法で形成された長大な刀身による斬撃を繰り返し、2枚目までは根性で突破したアリサちゃんでしたが耐熱または耐刃防御魔法が展開されたのかそれ以上は進めず、迎撃用の魔導砲や魔力弾により引き剥がされ、その間に防御魔法が再展開というパターンも見知った通り。

 

 取り敢えず、あの時と同様に大火力を撃ち込みまくれば勝てそうなのは良いとして、本当にこれをサクっと倒しても宜しいのか如何か……。少しだけ逡巡しておりますと、広域通信が流れて来ました。

 

[> ……ら、2番艦『エス……ア』。【闇の……再………果た…、船のコント……ルが奪わ…ま……。辛うじて、《 ア……ンシェル 》……ットを爆……理…………が、退艦…叶い………ありま…… <]

[> 確かにクライド提督の声ですが、最後の通信記録と同じね……。クロノ執務官、他の皆さんも遠慮なく任務を遂行するように <]

「……了解しました」

 

 関係者でもあるリンディ提督が指示を下し、クロノさんが異論を唱えないのなら一応の納得はしますけれども、あの『エスティア』に閉じ込められているらしいクライド提督の闇だろうと、これまでの闇を思えば多少の意思疎通も可能っぽい気はするのですが……。

 

 所詮は闇。偽者で複製品だと判断しているのだとすれば、あんなにも人らしい魔法生命体の『守護騎士』やリインフォースさん、動物に人造魂魄を憑依させてある意味では生まれ変わった『使い魔』のアルフさんとは何が違うと言うのでしょう?

 

 オリジナルの有無?

 

 たったそれだけの、些細な違いで存在する価値が認められないとすれば、それはつまりフェイトちゃんを否定したプレシアと変わらない暴挙では……?

 

 

 

~~

side:■■■

 

 嗚呼、やはり……。私は魔砲使いであって、演出家や脚本家には向いてないのだと思い知らされました。そもそも、「折角だから有効活用を」と雑に考えたのが間違いだったのかもしれません。

 

「はぁ……。やっちゃって良いですよ、アリシア」

「え~~? 観戦し始めたばかりなのに、もう飽きちゃったの?」

「呆れたんですよ。彼等の対応と、面倒臭がった過去の私に」

「いやでも、あんなシラス干しからシラス以外を集めるような作業なんて、誰もやりたくはないでしょ? 僕や王さまだってそうだよ」

 

 言い得て妙ですね。あの不審船は、クライド提督と『エスティア』とコード【止まらぬ破壊機構】が混ざった化合物なので、比率からしても()り分けるのは非常に困難でした。あとはまぁ、そういった状態でも家族の絆で通じ合えるのではと期待していたのに、如何やら儚くて甘い幻想だったようです。

 

「極論、あんな物を出さなければ良かったのです。探求心と善意で掘り当て、埋め直すのを惜しんで放り投げたくせに、感動の対面を期待した私が愚かでした。……とはいえ、打算も有ります。あれを壊せば『イデア』が解放されるでしょうから、若しかしたら自我が戻るかもしれません」

「まーた、そうやって希望的観測を……。別に良いけどね~。僕としてはカッコイイ見せ場が出来て嬉しいし、弱っちい妹へのハンデにもなるしで欣喜雀躍(きんきじゃくやく)? ってやつだよ」

 

 さり気なくフェイトちゃんがディスられたものの、それもまた『家族愛(ストルゲー)』故の捻くれた発言なので色々と聞き流してあげませう。

 

「それを言うなら、一石二鳥とか一挙両得であろうに……」

 

 (しか)し、聞き流すのも阿呆らしいと思ったのか、沈黙していた王さまがフォローに入りました。文脈的には欣喜雀躍でもギリギリ合っており、そういう所をその儘にしておくのも乙なモノなんですけどね……。こういった世話好きな因子は、“はやて”ちゃん譲りだなと感じます。

 

「そうそう、それofそれ! さっすが王さま、小賢しいね!」

「…………紅蓮の。此奴、シバいて構わぬか?」

「徒労に終わるでしょうから、“はやて”ちゃんに八つ当たりした方が賢明かと」

「うぬも大概よなぁ……。良かろう。少々、その意を()んでやらなくもない」

 

 大概なのは王さまもでしょうに、何を今更……。

 

「では、アリシア。一発盛大なやつをどうぞ」

「おっけー。僕の完璧で究極な、超カッコイイ魔法を御照覧あれ!」

 

 そして紡がれるは、詠唱したくなるランキング上位に君臨する某JRPGの魔法で、確かに変換資質とか魔法の仕様からして再現しやすいのは理解できますが…………。うん、まぁ、実用性が有れば結果オーライですね。ええ、はい。

 

 

 


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