魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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 向き合えば違和感を覚え、

 戦えば疑念を抱き、

 理解する事が出来れば、討ち破れる。

 つまり【空世(くぜ)亡骸(なきがら)】ってのはね、カイシャクが大事なのよ。



第60話:対峙すべき深淵【前編】

side:はやて

 

 2日前に“なのは”ちゃんから夢で宣戦布告された話を聞き、リインフォースからも可能性は高いと補足されても、もう一人の私が本家本元たる私と戦う理由をさっぱり思い付かず、実在性すら訝しんでいた自称“王さま”からも闘志は感じられずで……。ホンマに戦うんやろか、これ? まぁ、座標的に海鳴市近海へ集団転移したのに分断されとるから多分やるとは思うけれど、雰囲気が何ともかんともやね。

 

 ――――そんな風に、のほほんと構えていると(しか)めっ面の王さまから盛大に溜め息を吐かれ、まるで塵芥(ちりあくた)を見るかのような視線と共に爆弾発言を放り込まれました。

 

「のぅ、リインフォース。其処の子鴉が殻付きである事は、我は誰よりも知悉(ちしつ)している。故に問いたい……。何時、初期化をするつもりだ?」

[> …………せめて年末まではと思っていましたが、今回の事件を鑑みれば早めるべきかと <]

「何でや、リインフォース……? “なのは”ちゃんが対抗魔法を編み出してくれたし、【夜天の書】の解析や戦力提供を条件に管理局も支援してくれる。だから暫くは、大丈夫やって…………」

「よくよく考えてみろ、子鴉。御前達がコード【止まらぬ破壊機(U・D)構】と呼ぶ残滓ですら、これ程の余興を引き起こせてしまう。そんな物を宿して改変された『管制人格』の安全性など、誰が信じられる?」

 

 それは……。リインフォース自身が、己を一番疑うんやろなぁ……。

 

(ようや)く理解したか……。どのみち、行き着くしかない。終焉の日を迎えても尚、我等はリインフォースに祝福された主として立派に成らねば、王として相応しく在らねば、最早そうする事でしか報えんのだ! ――――来たれ【暗黒甲冑(デアボリカ)】、獄装!」

 

 王さまが紫紺の魔力光による繭に包まれたかと思うと、次の瞬間にはリインフォースに酷似した姿へ変化していました。

 

 銀の長髪、赤い瞳、見慣れた騎士甲冑、左腕に装備された槍射砲。顔立ちだけは成長した私のような、若しくは“おかん”を想起させるモノやったけれども……。こんな悲しそうにリインフォースを背負うことで、(すが)りつくことで、浮かばれる訳があらへんやろ。

 

「それはアカンよ、王さま」

 

 1年前。交通事故で私だけを残して両親が死んでしまった時は、そらもう盛大に泣いたし、世界の不条理を憎み、死に損なったのに自殺しようとは思えなくて、このまま独りで生きるんだなって漠然とした不安を抱いていた。

 

 でも、何だかんだで新しい家族を得て、立場的にも家長に成ってしまったからこそ分かるんよ……。皆、健やかに幸福でいて欲しい。私ですらそう思うんやから、“おとん”も“おかん”も、王さまの記憶の中にいる方のリインフォースだって、そんな風に願うんとちゃうか?

 

「私達は主や。理想の1つとして、王を目指すのも有りやろな。……せやけど“八神はやて”として幸福じゃなければ、愛に報いているとは思えへんのよ」

「幸福で刃は研げぬ! その証拠に、貴様の体たらくは何だ? 愛に溺れ、甘やかされ、精進が不足しているではないかっ! 幸福な記憶なぞ、何時かは色褪せてしまう。だが魔導は、戦闘技術は、心身に刻まれて継承される!!」

 

 王さまの右腕がブレた。そう思った次の瞬間には、衝撃が胸を貫いて少しだけ噎せてしまう。数メートルも離れていたのに、その場から動かずに打撃の威力だけが伝わる? 恐らく魔力操作の応用だとしても、こんなに速い技を簡単に繰り出せるとは近接戦闘も相当な実力のはず。

 

(しか)と聞け、子鴉……。幸福とは何も、心地好く楽しいことだけではない。厳しく辛く、それでも糧となり教わることが出来る。そういった幸福にどれ程の価値が、重みが有るのか……。我自ら叩き込んでやろう」

「ほんなら、ボコされる前に私からも叩き込んだるわ。……幸福な記憶は、どんだけ色褪せてもええ。それは心の支柱に成って、何時でも勇気付けてくれるんよ」

「下らんッ!! 王とは孤高、与えるモノよ! 支えられる王なぞ、単なる神輿(みこし)だと知れ!!」

 

 おーけぃ、意見決裂。模擬戦ですら連戦連敗中の“はやて”ちゃんにとって、この戦闘でも勝てるビジョンなんて見えへんけれど、せーぜー敢闘賞ぐらいは貰いたいところやね~……。

 

 

 

 

 

 覚悟しぃや、王さま。私の最弱は、ちぃとばかし利くかもしれへんよ?

 

 

 

 

 

~~

side:フェイト

 

 私よりも表情が豊かで、幸福感と自尊心に溢れており、そして何故か私の姉だと自称する誰か。……事前に、“なのは”から聞いた情報を元に組み上がった人物像へ怒りにも似た衝動を覚えたものの、実際に対面することで確信を得た。容姿は私自身と近しいのに、在り様がアリサらしいのが気に食わないのである。

 

 だからこそ、決闘を挑まれたことも分断されたことも都合が良かった。

 

 何時か記録映像として見返されようとも、今だけは周りを気にせず醜く為れる。不愉快で、不可解で、不透明な心情を吐き出してしまうような汚らわしい私と為り、此処で全てを終わらせたら…………。また優しいフェイトに戻れると、そう思うのだ。

 

「貴女は、誰なんですか?」

「僕は“アリシア・テスタロッサ”。君の先行者で、御姉ちゃんってやつさ!」

 

 額から左頬へと走る古傷は無いのに、意識すれば出せるであろう威勢の良い私の声がする。これで髪色が青系ではなく金のままだったらと思うと、ぞっとしない。私は、“なのは”とアリサの睦まじさを羨むことは有っても成り代わりたい訳じゃないのだから、『このアリシアを名乗る不審者は、偶然にも似ただけである』と己を納得させて思考を切り替える。

 

「……私に姉は居ません。それに本物のアリシアなら、医療ポッドに保管された状態で虚数空間へ落ちて行ったと聞いています」

「ちっちっちっ、其処は如何でも良いんだよ。僕がアリシアの記憶を持っていて、アリシアであるという自覚をしている事が重要なんだから、あとは認めてくれれば無問題(モーマンタイ)なのさ。僕は“なのは”からも、王さまからも認められた。故に、僕こそがアリシアって訳。証明終了!」

 

 アリシアの記憶……?

 

「待って下さい。虚数空間からアリシアの記憶を回収するなんて――――」

「うんにゃ、フェイトの中にある方だよ。尤も、厳重に《 記憶封鎖 》がされているっぽいし、そう簡単には思い出せないかもだけど……。そんな事よりもさ~、そろそろバトらない? 弱っちい妹に教えてあげたい事、たーくさん有るんだよねっ!」

 

 ……訊きたい事は多々あるけれども、其処まで挑発されたら此方も物騒な対応をしたくなってしまう。強さという指標は上を見れば切りが無く、また下を見ても切りが無い。それでも管理局全体で上位層の5%に含まれる空戦AAA+ランクの魔導師を、“なのは”という格上に挑み続けている私を「弱っちい」とは、どれ程の実力を秘めているのか?

 

 貴女が私の何であれ、本当に強いのなら喰らい付こう。そして弱ければ噛み砕く。どちらにせよ、殺し合いでなければ戦闘行為は望むところだった。

 

「ふーむ、やっぱり素直だねフェイトは。本当に勝つ気があるならさぁ……」

 

 魔力が蒼雷となって(ほとばし)る。私と同じ魔力変換資質ではあるものの、その惜しみない出力から想定するに保有魔力量は私以上……。流石に、余剰魔力を貯め込んでいる“なのは”程では無いとしても十分に脅威である。そして何より、気配の変化が凄まじい。恭也さん達が鍛錬中に纏っているような殺気を当てられ、感覚や思考が凍り付きそうになるのを何とか押し堪えて睨み返す。

 

「こんな風に、ブチ転がす!!――って虚実&緩急を混ぜなよ?」

 

 糸が切れるように殺気が途絶えたかと思えば姿が消え、背後から打撃を受けて視界が揺らぐ。起こりが見えなかった……? いや、殺気を霧散させつつ瞬間移動魔法を使っただけで、意表を突かれたに過ぎない。

 

「このっ!」

[-《 Plasma Lancer 》-]

「アハハッ、悪手も悪手! “なのは”と踊れる僕達に、その程度の射撃魔法なんて牽制にもならないっての!」

 

 踏み込まれる。構成速度と弾速に優れた10発の魔力弾による壁を躱され、近接戦闘を強いられる。瞬時に、【バルディッシュ】を掲げて繰り出された攻撃を防ぐも、間近で見たその凶器は甲高い音を立てて無数の刃が回転し、まともに当たれば削り落とされそうだと恐怖心を抱いてしまう。

 

「ほらほら~、頑張らないとこの†壊天式円月鋸†(サーキュラー・ソー)で引き裂いちゃうぞー? それとも……、もっと手加減をしてあげようか?」

「不要……です! 戦うなら、真面目にやって下さい!」

「えー? こんな僕よりも、不真面目なフェイトに言われたくはないんだけど?」

 

 拮抗状態から弾かれ、蹴られ、柄で打たれ、石突で突かれ、真っ直ぐに飛ばされて距離が開く。あの刹那で四連撃を、(しか)も空中戦なのにその全てに威力が乗っているという事は、一撃ごとに距離を詰めながら繰り出したという事……。速いだけじゃない。飛行魔法の制御にも優れており、言動の軽さに反してその実力は揺るぎなく重厚だった。

 

 ……でも、それが如何した?

 

 私は何時だって強者と戦い続けて来たのだから、今回も例に漏れずそうなっただけである。集中しろ。惑わされるな。相手は上手くて速くて強いけど、それだけだ。

 

「本当に、その程度で勝つ気なの? 保有魔力量の7割ぐらいしか使えないくせにさ、頑張れば如何にかなると期待しているんだ? それってまるで、綿飴みたいに甘く儚いよ」

「…………アルフに対する魔力供給量を減らせと、そう言いたいんですか?」

「ちょっち惜しいかなぁ……。フェイトが幼くて弱っちい時に作った、弱っちい『使い魔』なんて高ランク同士の戦いでは足手纏いでしょ? 現に今だって仲間外れで、武装局員でもやれる雑魚狩りをやらされている訳だし、それならフェイトが全力で戦えるようになった方が魔力の有効活用ってやつ? だから死なせないように、ぎりぎりまで魔力を吸い上げなよ。……まっ、僕としては魔導師ごっこでも構わないけれどもね」

 

 怒りたかった。否定してやりたかった。でも、だけど……。一々尤もな指摘で、感情に身を任せればアリシアの言葉通りに「頑張れば如何にかなると期待している」事になる。然し、助言された方法を使えばアルフの努力が無駄になってしまうような気がして、思考が、意志が行き詰まり、悔しくて情けなくて睨み返すことしか出来なかった。

 

「じゃあ、此処で第三の選択肢を提示してあげようかな……。今回は順当に負けて、また再戦時に成長して勝てば良い」

 

 呆気(あっけ)らかんと、彼女はそう言い放つ。

 

「負けても大丈夫だとか、本当に次が有るのかなんて証明は出来ないけれども、現状では御姉ちゃんとしての2歳分のアドバンテージをそう簡単に覆せやしない。畢竟(ひっきょう)、ブチ転がし確定なのさ! …………嗚呼そう言えば折角だし、僕の物凄くカッコイイ『 G・M・M 』(ゼネラル・マスター・モード)も見て行ってよ」

 

 気圧(けお)され、その上で気を削がれて……。強襲すべきだとか、距離を取るべきだといった判断が付かぬ内にアリシアの容姿が大人びた物へと変わり、バリアジャケットの形状も装甲部分が増え、一見するとベルカ騎士のような印象を受ける。

 

「響け【青嵐装束(バラキエル)】、雷纏っ!! さてさて、フェイトはこの技を見破れるかな?」

 

 轟音と共に魔力流が吹き(すさ)び、瞬間移動魔法を使っている素振りが無いのに姿が断続的に消失しては現れる。短距離転移魔法でもない。幻影魔法にしては発動が早く、何よりデコイが全て本物に見えるような精度で偽造するなど非現実的である。なら、この魔法は――――

 

「はい、時間切れ。次回までに復習しといてね、マイ・シスター?」

 

 青の残光。何時の間にか、振り抜かれた刃が通った軌跡を眺めつつ、先月振りとなる遠退く意識と痛みを記憶する。ところで、誰が優しいようで優しくない姉を受け入れたとでも? やはり、アリサみたいな人は苦手だな……。

 

 

 

~~

side:はやて

 

 えー、はい。一撃すら通せへんかったわ……。まぁ、当然至極の結果やろな? まだ両足のリハビリが終わっとらんし、【夜天の書】はAI未搭載のストレージ・デバイスやから……検索速度も必要となる。王さまは五体満足……、検索速度もリインフォースに補助されている私より3倍ぐらい……早いともなれば、そりゃあ惨敗不可避という訳で……。あ~、全身が傷むこと傷むこと…………。

 

「全くもって取るに足らん! 貴様ぁ、古代ベルカ時代の生き証人であり、【闇の書】の使い方をよく知るリインフォースが傍に居りながら怠けていたとは笑止千万! 失われるのだぞ……? リインフォースが(つちか)ってきた叡智、戦闘技術、創意工夫の過程を言語化できる唯一の存在がッ!!」

 

 あんなぁ、王さま……。反論どころか、意識すら掠れるぐらいにボコしくさってから色々言われても…、思考がこう……上手く纏まらんのよ? あと胸倉を掴んで、揺するのもNGや……。まっすます意識が……な?

 

「真似るだけでは、なぞるだけでは、真意も応用法もよく分からぬ……。貴様は知っている筈だ。母が作った料理のように、父による本の選定眼のように、引き継げなければ其処で途絶えてしまう。…………今からでも遅くは無い。必死に羽ばたけ、子鴉よ」

 

 ほーん……。薄々思っとったけど、王さまって後悔しているんやね~……。なるほろ、どーりで容赦がミジンコもあら……へん――――

 

 

 

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