魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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用語解説
空世(くぜ)亡骸(なきがら)
この世と何処かが重なった、今とは別の時間が流れる異空間【星幽複層世界(アストラル・レコード)】にて出現する敵性存在。曖昧で不安定で、唯一無二の『イデア』を持たぬ儚きモノ。討滅者(ブレイザー)によっては【虚像】とも呼称される。

《 闇 》
【星幽複層世界】では、オリジナル――元となった人物から派生した可能性の1つとして解釈されている。コインの裏側みたいな物と例えるには対称性が(いびつ)だが、隣り合うことは事実。だからこそ特別視してはならず、忌避してもいけない。それは既に、そう在るが故に。
 


第62話:(かそ)けき夢が終わる頃に

side:なのは

 

「ほう……。敗れたか、紅蓮の」

「ええ。殺し合いになりそうだったので、仕方無く負けました」

「へー、オリジナルってそんなに強かったんだ……。“なのは”、まだ元気ある?」

「流石にちょっと、睡眠時間的にも遠慮したい所存でして……」

「えぇ~……。じゃあさ、次回は僕と最初にやろうよ!」

「それならオールコレクト( oll korrect )です」

 

 ステラさんが「戻りましょう」と言いながらも転移した先はブロッケン山ではなく海鳴市の上空で、フェイトちゃんと“はやて”ちゃんが居ないという事は恐らく『アースラ』の医務室で寝かされているんだろうなーと推測してみます。

 

 ええ、はい。またしても私の魔力反応によって通信が途絶えておりますが、もう急報は無いでしょうから絶賛スルー中です。自業自得ですけど、今回は余剰魔力を貯め過ぎて仕舞うにしても放出するにしても面倒極まりなく、魔力反応を抑えるのも一苦労なのでして……。

 

 

 

 時に、何故アリサちゃんと“すずか”ちゃんも一緒に待っているのやら?

 

 

 

 アリサちゃん達の世界観みたいな物から考察するに、アリシアちゃんや王さまも【空世の亡骸】と同じく討伐対象に含まれるような気もしますが。

 

「御疲れ、“なのは”」

「御疲れ様、“なのは”ちゃん」

「有り難う、二人共。ところで……、アリサちゃん的にはアリシアちゃんや王さまって悪即斬の対象外なの?」

「ん~……。本人以外が闇を討伐しても無駄骨だから、あまりやろうとは思わないわね。ただ狂暴だったり生意気な相手は、この大太刀でズンバラリンと撫で斬ってやるけれども」

 

 つまり、何となく相性が悪そうな王さまも、アリサちゃん基準では見逃せる範疇だったと。まぁ……、王さまは尊大なだけで(むし)ろ無礼を働きそうなのはアリシアちゃんの方ですが、あの愛嬌によって相殺されたんでしょうね。きっと。

 

「……ねぇ、“なのは”。この後の掃討戦は『管理局(シェリフ)』に押し付けて私と“すずか”はバックれるつもりなんだけど、如何だったかしら? 『外界宿(アウトロー)』流の討伐は?」

「楽しくて頼もしかったよ。射撃手として専念できるのも新鮮でした」

 

 その分、誤射に注意しなくてはいけないものの、慣れれば何とかなる見込みです。

 

「全くもう『管理局』の奴等、何でもやれるからって何でも任せるのは無茶が過ぎるでしょうに……。それじゃ、転職したくなったら『外界宿』の支部に駆け込みなさいな。そして叶うなら、また【トリニティ・レイズ】として再始動できることを願っているわ」

「えっと……。あまり気にしないでね、“なのは”ちゃん。アリサちゃんが『管理局』嫌いなだけで一緒に戦うことは出来るし、私達の関係はその……特別な筈…………だよね?」

「そう改まって言われますと……。多分、特別だと思います」

「なら私達は、何処の所属だろうと【トリニティ・レイズ】で良いと思うの」

 

 はて……。堅実な、それこそ砲撃型魔導師としての無難な支援攻撃と、短い会話を交わした記憶しかないのに、如何してこうも“すずか”ちゃんの好感度が高いんでしょうね? や、これもまた“すずか”ちゃんらしく、気持ちは嬉しいのですが……。とんと身に覚えが御座いませぬ。

 

「Wait. それって3人揃った時の話よね、“すずか”?」

「アリサちゃん。5人なのに四天王とかも許されるんだから、この程度は誤差じゃないかな?」

「人数が多い分ならともかく、少ないのは不幸が有って空席になったと見做されかねないんだけど……。いえ、これはこれで宣伝効果が……?」

 

 

 

 無いと思います。

 

 

 

「こほん。とまれ、【トリニティ・レイズ】の継続が決まった事だし……。遠からず、因果の交差路でまた合いましょう。“なのは・オードナンス”」

「またね、“なのは”ちゃん。何時かこの手が、再び重なりますように」

 

 ふと気付けば、私の左手は“すずか”ちゃんの両手で包み込まれていて、名残惜しそうに離れていく様は罪悪感を覚える程でした。……まぁそれも、アリサちゃんが口笛を吹いて茶化してくれた御蔭で、少しだけ軽くなりましたけどね。

 

「うん……。またね、アリサちゃん。“すずか”ちゃん。武運長久を祈っています」

 

 ひらひらと手を振り合い、転移魔法による鮮やかなオレンジ色の魔力残滓が消えるまで見送ったところで…………。すっかり待ち(ぼう)けているステラさん達の方へと向き直ります。余程暇だったのか、アリシアちゃんは王さまと一緒に魔力の糸で綾取りをしており、ステラさんはそれを眺めつつ黄昏ているようにも見えました。

 

「えーと……」

「……“高町なのは”」

「はい」

「2つだけ、御願いが有ります」

「はぇ……。何だか、随分と懐かしいやり取りだね?」

「保険として私の【焔】を分けるので、なるべく早く慣れて下さい」

 

 

 

 それって、「御願い」と言うよりも「要請」では?

 

 

 

「理由を聞いても良いかな……?」

「保険は保険ですよ。最後に使う魔法とも関連しますが、次回も私が健在で、問題無く幕を引けるとは限りませんからね」

「フラグ的には遠慮したいんだけど……。まぁ、そういった意図なら了解です」

「では早速――――」

 

 言うや否や、ステラさんの左腕がバリアジャケット越しに私の胸を貫き、リンカーコアを鷲掴(わしづか)みされたような思い出したくもない感覚がしました。()しや【焔】を分けるとは、魔力の炎熱変換用プログラムの複製&譲渡ではなく、炎熱変換資質その物を刻む行為とでも……?

 

「――――成程。こうなりますか」

 

 何か、温かいモノが残っている……。そんな違和感を覚えていると、私の胸から引き抜かれたステラさんの左腕がやけに短く、血は流れずとも破損したテクスチャーの断面が見える不気味な状態となっていました。いやあのその存外平気そうなのは良くなくても良いとして、異物混入は困るのですよって。

 

「や、ちゃんと回収して下さい」

「案ずる事はありません。どうせ魔法生命体の腕ですし、嚙み千切れるのなら魔力として消化も可能な筈……。多分きっと、大方恐らく」

「本当に大丈夫? 人格が宿っていたりはしないよね?」

「……さて、2つ目の御願いです」

 

 敢え無くスルーされた為、古代ベルカ的な叡智で何とかしてくれそうな王さまに視線を向けますと呆れ顔のまま首を横に振られ、次いでアリシアちゃんからは合掌を頂きました。……仕方無いので、貪欲なるマイ・リンカーコアの消化能力に希望を託します。

 

「ある一定水準まで減らした、【闇の書】の残滓を纏めて焼却する大規模儀式魔法。それに、オリジナルらしい名前を付けて欲しいのです」

「その程度の事で良いの?」

「ええ。現状では、その程度止まりです。『恨み骨髄に徹す』と(のたま)うには過剰表現ですが、何もかもを打ち明ける程には撃ち解けてませんからね」

「そんな仕様なら、もっと戦ってくれれば良かったのに…………」

 

 でもその割に、色々と話していたのにアレ以上の内容とは一体……。やはり、友好度はコツコツ貯める程度が良さそうです。

 

「……それで、魔法の見た目はどんな感じになりそうなの?」

「シミュレーション上では、世界中の空を覆うように劫火が波及するので、人によっては世紀末か黙示録を想像すると思います。これまでに、《アメイジング・ブレイズ》、《セラフィック・フレア》、《ディザスター・ヒート》といった安直な名前は思い付いたものの、しっくり来ないんですよね……」

 

 ふむふむ。そういう魔法で、そんな感じの雰囲気ならば――――

 

「《セラフィック・デイブレイカー》……とか如何かな?」

「なんと……! 流石はオリジナル。善き名前です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして見覚えがある笑顔と、冬空を溶かす鮮烈なる紅蓮。その2つを私に焼き付けたステラさんは、アリシアちゃんと王さまと一緒に【焔】の中へ消えて行きました。

 

 ですが、寂しくはありません。この惑星に根差してしまったらしい【闇の書】の残滓――『シニフィエ』。また数ヶ月か数年先かは分かりませんけど、一定量まで増えたら何か計画するでしょうし、調べ物に飽きればひょっこり来訪するようなフットワークの軽さも持っている筈です。(むし)ろ……。私のツケで『翠屋』のシュークリームを注文する程度の事ぐらいは、喜々としてやりそうな気がします。

 

[> HQ。此方、“高町なのは”。状況終了しました <]

 

 何はともあれ、これにて一件落着という事にしておきませう。音信不通になった件での御小言とか、報告書に纏めるための聞き取り調査やら会話ログの提出が待っていようとも、そんなモノは瑣末事です。

 

 

 

 だって、とてもとても善き経験を得られたのですから。

 

 

 

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