魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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彼女は、何処までも止まる事は無かった。



第63話:√ロスト・プリズム

side:火神(かがみ) 龍華(りゅうか)

 

 2月2日。時刻1510。世界各地で未知なる現象の発生から36時間以上が過ぎ、それでも真相解明が遅々として進まないのなら国防に関する情報収集と解析を担う【情報本部】であっても初動の勢いは失われ、腰を据えてじっくり取り組む方向へとシフトする。

 

 焦燥感に駆られようと、防衛大臣からの強い要望が有ろうと、確認済みの映像記録や観測データから明解を得られないのだから、あとはもう演習場に落とした『ピストン(かん)止め用ばねピン』を探すが如く人海戦術で地道に頑張るか、金属探知機が参戦するようなブレイクスルーを待たねば進展は有り得ないのだ。

 

「いやはや、政治家共は【情報本部】を【NASA】の秘密基地と似たような物だと勘違いしているのかね? アレは現代科学では説明できない未知なる現象であり、どちらかと言えば神宮庁が得意とするオカルティックな事件だろうに……」

「その……御疲れ様です。火神陸将」

 

 故にこうして、細やかながらもおやつ休憩が出来る程度の暇が生じてしまい、折角なので部下を呼び出して精査前の情報を聞き取ろうと思った次第である。

 

「聞いておくれよ、武井く~ん。情報本部長の私が、陸将の私が、夜中に緊急登庁して頑張っている私が、各方面の分かりませんでしたという報告を纏めるだけの仕事をやらされているなんて、退屈を通り越して怒りすら覚えてしまいそうだ……。実際のところ、既にちょっとだけキレている」

 

 昨夜の出来事に関する第一報は、「日本だけではなく世界中で【黒煙の渦】が多数発生している」という物で、その時は気象的な何かという可能性も辛うじて残っていたが、茨城県上空から世界中に波及した【炎の波】が発生したからには静観する訳にも行かず……。こうして関係各省庁の皆様が、時間と人件費を浪費するだけの大変愉快な状況になってしまったという訳である。

 

 日本では人的被害の報告は無し。【炎の波】と仮称で呼ばれる現象も物理的な炎ではなく、巻き込まれた複数の航空機に外傷が無いことを確認済みで、筑波のマッド共がやらかした痕跡が無いのも一応は確認した。更に【黒煙の渦】が発生した箇所は、クリスマス・イヴの忌々しい【カタストロフィー】と数も位置も同じである事が分かったものの……。

 

 原因だけが、まるで分からない。

 

 現代科学はHGS認定者が扱う『超能力』という神秘を解き明かしつつあり、長らくオカルトとして切り離されていた『霊障』にも切り込もうとしているのに、クリスマス・イヴの厄災と同じく原因不明のまま時系列や影響だけが明らかになって行く。

 

 これもまた地球の神秘であるのなら、別にそれでも構わない。地震や台風や伝染病のように向き合うのみだ。けれども、そうではないとしたら……。私達は、あまりにも無防備すぎる。

 

「其処でだ。また何か、怪しい情報が有るなら教えて欲しい」

「一応、色々と仕入れてはいますけど…………」

 

 ソファーに座る武井1佐の口が鈍り、目が泳ぎだす。ふむ……、これは期待できそうだ。

 

「人らしき物が空を飛んでいる。茨城県上空で青い光が不規則に動いている。――そのような情報は目撃証言以外にも映像等で記録されていますが、関連性は不明です。また退魔師の知人曰く、【炎の波】によって【カタストロフィー】発生地点の(けが)れが(はら)われたとの事で、此方は『霊障』発生件数を継続調査すれば証明は出来るかと」

「成程。それで、悪い方のニュースは?」

「悪いかは分かりませんが……。2時間程前、鹿児島県沖合で旧日本軍が使っていた零式水上観測機と思われる飛行機が飛んでいたそうで、空自と海自さんが躍起になって探しているみたいです」

「明日は我が身、と思えば悪いニュースかもしれんな……」

「そうならない事を願って止みません」

 

………

……

 

 後日。武井1佐の願い空しく、茨城県にある霞ヶ浦駐屯地で静態保存されていた61式戦車が深夜に無人状態で起動を果たし、フェンスを薙ぎ倒して脱走を開始。同県の大洗町でドリフト走行を繰り返した後に帰還するという洒落にならない事案が発生した為、対策・調査本部を設置する運びとなった。

 

 調査はともかく、予想も付かぬ現象にどう対策しろと?

 

 誰もが手探り状態だというのは察せられるものの……。いや、これは(むし)ろチャンスと思うべきだろう。武器の携行、発砲許可、戦車や航空機支援を含む作戦行動立案、市街地や私有地での戦闘――それら全てに掛かるプロセスの簡略化と、制限の緩和化。これらを特例措置で押し通さねば、将来的に支障が出るのは目に見えている。

 

 嗚呼、良くはない……。良くはないが、至極真っ当な軍隊に正せるのなら本望である。来たれ神秘。私だけでも、御前を歓迎してやろう。

 

 

 

~~

side:なのは

 

 あんなドラマティックな退場(セラフィック・デイブレイカー)をしたというのに、ステラさん達は何を考えてやらかしているのやら? ――そんな風に思ってしまう事件が散発的に起きており、管理局の皆さんは監視体制を構築すべく忙しそうにしています。

 

 まぁ、あの私の事ですから『シニフィエ』を一夜で激減させるよりも、戦争以外では実力を披露する機会が少ない軍人さん達に委託し、週一ぐらいで討伐して貰ったらwin-winですねとか思い付いて試行錯誤中なんでしょうけど、夢に出てくれないので真相は分かりません。

 

「“なのは”、今朝のニュース見た?」

 

 さて……。怪現象だの管理局だのは考慮されず、日常なる物は滔々(とうとう)と流れて行きます。何時もの通学バス。何時もの定位置である最後尾のシート。挨拶もそこそこに話題を振ってくるアリサちゃんと、嬉しそうに私の左手を握る“すずか”ちゃん。

 

 (ちな)みにフェイトちゃんは、私の隣に座れないのならと前側の席を陣取っていて少し寂しそうに見えますが、何か有れば《 念話 》を使って話し掛けてくるので私が大変なこと以外は大丈夫です。

 

「それって、戦車が青いま……光を出しながら滑っているニュースの事?」

「ま……? まぁ、それよそれ。最近は変な事件ばっかりで怖いわね」

「あの黒煙よりは、まだ微笑ましいなとは思います」

「いや、数十トンの巨体が暴走しているのと比べれば、あんなの無害に等しいでしょ?」

 

 いやいや、実は有害なのでしてー。と反論したいのですが、やはり討滅者(ブレイザー)でもないアリサちゃんや“すずか”ちゃんには魔法少女である事を明かそうとは思えない為、これ以上は言及せずに濁しておきました。

 

 だって、ひょっこりと地球滅亡の危機が降り掛かったりするのですから、魔法に関するアレコレを教えたところでアリサちゃん達には自衛手段が無く、日々の心配事が増えるだけならば……。知らずにいる幸福を享受して欲しい。今となっては、そのような考え方に纏まりつつあります。

 

「そう言えば、あと1週間程度でバレンタインよねー……。“すずか”や“なのは”は何時も通りな感じ? 私は……、残念ながら何時も通りよ」

「私も同じく。と言うか気が早すぎるよ、アリサちゃん。男の子が格好良くなるのは高校生に成ってからだろうし……」

「早ければ6年生ぐらいから付き合っている子も居るって聞くわよ? で、“なのは”は?」

「うーん…………。一応、義理クッキー2つの予定です」

「ギルティ!」

 

 本命じゃないからノット・ギルティです。

 

「何処の馬の骨よ、そいつ等は?!」

「遠くで頑張っている同年代の知人さんと、御世話になった御兄さんです。応援とか御礼以外の他意は御座いません」

 

 ユーノさんやゼストさんだけでなく、クロノさんにも送ろうかなと迷いましたが……。多分、エイミィさんから本命チョコを送られると思うんですよね。長きに渡り、御兄ちゃんを巡る超奥手な恋愛模様を見てきた私の勘がそう(ささや)くのですから、恐らく当たります。

 

「何だか、その同年代の知人さんが可哀相に思えて来たわね……」

「や、男子ってアリサちゃんや“すずか”ちゃんみたいな華やかな子に初恋する筈でしょうし、私にも理想という物が有ります故」

「あんたも十分華やかだったでしょうに。また、ツインテールはしないの?」

「今度は首筋辺りで纏めて、ポニーテールにしようかなと計画中です」

「へぇー……。それなら格好良くなりそうね」

 

 ステラさんみたく、(まなじり)がキリっとしている訳ではないので可愛い寄りな印象になるとは思いますが……。まぁ、そこそこ似合うと思います。身長も伸びれば尚更に。(しか)しながら、小学3年生の内にこれだけの事件に巻き込まれ、今後は地球に根付いた『シニフィエ』対処もしなくてはならず、あと4~5年の成長を遂げるまでに果たして五体満足で居られるのやら?

 

 本当に、今年度は多くの出会いと経験が降り注いだ凄まじい1年でありました。叶うのならば、来年度はその反動で――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




だからこそ、止まるべき最悪すらも飛び越えてしまった。

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