《 アリシア・テスタロッサ 》
フェイトの闇。【闇の書】に蒐集された後、『シニフィエ』となって漂っていたフェイトの蒐集データを拾い上げたステラの尽力により、アリシアの『
第64話:
side:なのは
時に、これまで私が関わった事件は『
クロノさんに意味を聞いてみたところ、「偏在する可能性……という意味らしいぞ?」と答えながら睨まれたので、恐らく過労により夢見が悪かったんでしょうね。嗚呼、なんと不憫な。減刑条件とはいえ将来的に管理局勤めが確定しているフェイトちゃんや“はやて”ちゃん達も、あんな風に擦れないで居て欲しいのですが…………。
さて。
事件に名前が付く程度には一段落し、やっと訪れた休日の昼下がり。学校の宿題を終わらせる事は勿論、もう1つの宿題も手を付けなくてはいけません。ステラさんから埋め込まれた【
魔法とはいえ火遊びをする訳ですから、一応は屋外でと思って御馴染みの臨海公園へ場所を移して結界を張り、バリアジャケットを纏い、手慣らしで魔力弾に【焔】をエンチャントさせて観察していたところ、少し離れた場所で魔法陣が展開されてフェイトちゃんが転移して来ました。
「“なのは”、一人で鍛錬しているの?」
「手探り状態だから、誘っても退屈させちゃうだろうなと思いまして。……私の魔力反応、そんなに分かりやすいかな?」
フェイトちゃんというかハラオウン家の住まいは、高町家が在る藤見町から川向かいの遠見市に位置するのでそこそこ距離が離れており、結界だって控え目なサイズで張っているので検知は難しい筈なのですが……。
「うん、普通の魔力反応とは真逆だけど……。“なのは”が魔法を使おうとする時、大気中に含まれる
「成程」
それは盲点でした。交戦状態なら干渉力が強い分には問題有りませんが、こっそり鍛錬したい場合には過剰であるとは……。抑える鍛錬も追加しませう。
「凄いね。後天的なのに、もう炎熱変換が出来るようになったんだ……」
「や、炎熱変換資質らしき物ってだけで、解明はこれからです」
「そういう事なら、私にも手伝わせて欲しい」
余程暇だったのか、やる気も有り余っているらしいフェイトちゃん。
はい……?
薄くてもバリアジャケットの一部ですし、魔法に対する耐性――この場合は難燃性のような効果を発揮して耐えると思ったのですが、シグナムさんが使うような炎熱の変換資質よりも侵蝕作用に特化し過ぎている。ふむ……。指向性を付与して使うタイプの《 AMF 》擬き、とでも考察すべきでしょうか?
おまけに、燃え残った魔力残滓が熱を持っていて私の干渉力だろうと暫くは受け付けない感じですから、魔力回収を意識しなくても勝てる程度の相手には更なる苦戦を強いる事が可能で、同格が相手だろうと凡そ保有魔力量では此方が勝る……。
何となく、ステラさんが先行しようとした方角が分かっては来ましたけど、道理で簡単にくれた訳ですよ。だってこれは、私への切り札では無いのですから。
「フェイトちゃん。バリアジャケットって、そう簡単に全損しないよね?」
「ええっと……。バリアジャケットは最終安全機能だから修復や維持する分で保有魔力が枯渇して、全損する前に魔導師が気絶するんじゃないかな? 勿論、その状態で追撃すれば全損して、身体にも酷いダメージが残るかもしれないけれど…………」
「んー……。それじゃ非殺傷設定で倒したい場合は、砲撃を直撃させたり【焔】で
「あのね、“なのは”……。Aランクぐらいの、普通の武装局員にとっては魔力弾も十分脅威だから、使い分けないと怪我させちゃうよ?」
軽装甲のフェイトちゃんですら魔力砲が直撃しても何とか耐えるというのに、主力である筈の武装局員がその程度ならば、質量兵器を解禁してゴム弾を撃てるフルオート・ショットガンを持たせた方が強いのでは? 攻撃魔法を使わなくて済む分、バリアジャケットに割ける魔力が増えますよって。
まぁ……、将来に活かせるかはさて置き、オーバーキルの懸念がある時は【焔】で焼き払うことに致しましょうか。魔力弾と違って、繊細なコントロールをしなくても当てれるのは便利です。
気を取り直し、次の実験へ。
よくある円形状の防御魔法を指定位置に発動してもらう事でフェイトちゃんの安全を確保しつつ、【焔】を付与した魔力弾や砲撃をぶつけてみた結果、実質的にナパーム弾と高圧火炎放射器ですねーという感じで検証が終わりました。
シールドの表面に張り付いて融解させる魔力弾は未だしも、シールドに沿って裏側へと回り込む砲撃魔法は初見殺し性能が高くて酷い(※褒め言葉)のですが、全方位を防げるバリア系やら重力制御系の魔法で何とか防げそうな気はします。只、防御されたところで魔力リソースの削り合いにおける優勢は揺るぎませんから、使い分けについては模擬戦を重ねて熟考したい所存です。
「次は……、嫌な感じがするバインドを試してみよっか?」
「何となく予想は付いちゃうよね……」
円柱状の細長い標的を出して貰い、その中心を無造作にLOCK。すると察しの通り、拘束部分から少しだけ【焔】が漏れ出して数秒と掛からずに標的を焼き切った為、これで手足を拘束したら「人でなし」と呼ばれること間違い無いでしょう。ええ、当然の如く封印ですとも。
それから、安直に《 Fire wall 》と名付けた防御魔法を張ったらフェイトちゃんの撃ち込んだ魔力弾が燃え尽きたり、【焔】による干渉が十分に及んだ状態――高熱状態とでも言うべき状況下になれば、カートリッジが異常燃焼するだけでなく魔法発動時の消費魔力が増大するデバフを自分以外に発生させる等、仕様が判明するに連れて使い所さん? みたいな気持ちが増大して行きます。
元より『シニフィエ』を焼き払うことに、つまり何かしらの干渉や魔法による変化を終わらせる為の【焔】であると仮定した場合、それなら強力で在らねばならないという理念は分かりますけど、だからと言って無差別デバフは頂けません。鍛錬次第で如何にか、敵味方の識別が…………出来ると良いですね。
「有り難う、フェイトちゃん。取り敢えず、今回はこの辺で」
「模擬戦はやらないの? 時間なら有るけれども……」
「模擬戦だからこそ、しっかり準備して遣りたい派なのでパス券を行使します」
「パス券?」
「またの機会に、というニュアンスの……そういう意味合いの俗語です」
「それじゃ、今日はもう御開き?」
「や、どうせなら趣向を変えて2回行動したいなーとは思うのでして……」
多分フェイトちゃん、勉強も読書も映画鑑賞も好きな方ではあっても、身体を動かす方がもっと好きらしく、インドア派寄りな私としては引き出しの少なさに苦労するんですよね。私だけなら札幌の雪まつりでも見に行こうかなと思いますが、フェイトちゃんも一緒に楽しめる&出来れば無料な物……。
「フェイトちゃんは、ペンギンって見た事ある?」
「映像でなら、何回かは」
「南極大陸に棲んでいるらしいんだけど……」
「今から行くの?」
「同意を得られれば、
「……同意はするけれども、ちょっと連絡を入れてからでも良いかな?」
「うん。それじゃ、その間に準備しておくね」
飛行とはまた違う、魂が重力に引かれるような感覚……。バリアジャケット越しなので風圧やら体感温度はそこそこ止まりですけど、安易な危険に身を任せる程のワイルドさは持ち合わせておりませんから、この程度の
[> “なのは”、
[> 地上だと人に見られる可能性が高いので、趣味と実益を兼ねてみました <]
遠隔で結界を張ってから転移するよりも、転移してから張った方が簡単なんですよね。
[> 人? こんな氷だらけの大陸に? <]
[> テレビの受け売りだけど、気象観測とか色々な研究用で滞在しているらしいよ? <]
[> ふーん……。科学者って、変な人ばかりなんだね…… <]
たまに倫理観とぶつかる変な人達が少数で、その他の科学者は真っ当な人達だと思うのですが……。まぁ、そんなこんなで《念話》をしながら《封時結界》を張り、氷上に降り立った後はペンギンの群れやアザラシを
尚、多少スリリングな空気が漂ったりこそすれ問題は起こらず、フェイトちゃんも野生動物の可愛いだけではない“何か”を感じ取れたのであれば幸いです。恐らく好感触といった感じでしたけど、やはり模擬戦中に私の弾幕へと切り込む時よりかは反応が薄いですね。次に遠出する時は、奇を
………
……
…
「因みに、これが御土産の写真データとなります」
「おぉ、どれもよく撮れて…………。何なん、このでっかいペンギン?」
「見ての通り、でっかいペンギンです」
翌日、【レイジングハート】の映像記録を編集して作った写真データを“はやて”ちゃんに見せたところ、とても良いリアクションを返してくれました。このでっかいペンギンが好戦的なら、謎の焼鳥が南極大陸で冷凍保存されていた未来も有ったかもしれません。
「いやいや、横のアデリーペンギンと比較してこれなら2メートル近くは有るやろ? 魔法絡みの異変とちゃうか?」
「仮令そうだとしても、この大切な時期に“はやて”ちゃんは功績作りとして地球規模の調査とかやりたくはないよね? 多分、リンディ提督に報告したら善意でそうさせてくれるよ?」
「あー……、それはちと勘弁やね……」
どのみち駆除する訳にも行かないでしょうから、調べるだけ調べて『要継続調査』という無難で徒労に終わる結末になりそうなのも黙っている理由の1つです。
「……ところでな、“なのは”ちゃん」
「はい」
「私とはデートせぇへんの?」
「……
「それもそうなんやけどね~……。でもリインフォースが居なくなった後、私だけ空白期が有るのも寂しいやろ?」
「じゃあ、3人で
「それはそれ、これはこれや」
はて? “はやて”ちゃんとは『闇の書事件』の直後とか模擬戦以外では関わりが少なく、と言うか私が八神家の一家団欒に配慮していたのもあって微妙に疎遠気味でしたから、この好感度の高さは嬉しい誤算です。
おまけに模擬戦の度に丁寧な砲撃をブチ込んでいましたから、ちょっと嫌われても不思議ではなかったが故に感慨も
「“はやて”ちゃんは、行きたい場所とか有る?」
「せやなぁ……。折角やし、月に行ってみるのは如何やろ?」
「それは面白そうだね」
「そんで月面に有るらしい星条旗の横にな、日章旗を突き刺しといて次に調査しに来た人を驚かすんよ」
「指紋が残るので却下します」
「ほんなら、ミステリーサークルは?」
「芸術センスだけが懸念事項です」
「適当に丸やら三角を描いて、古代ベルカ語で装飾すれば大丈夫やない? 知らんけど」
そう事も無げに言っていた“はやて”ちゃんですが、日を改めて出発する際には凝ったデザインの設計図を複数用意し、2時間程の協同作業により完成させた時の笑顔は達成感に満ち溢れていました。普段は車椅子ですから、こういった遊びも遠退いていたんでしょうね……。この調子で、前向きに回復して欲しいものですよ。