魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
《 夜天の王 》
“はやて”の闇。愛称は“王さま”。アリシアと同じく、ステラによって『シニフィエ』から(すく)い上げられたが……。此方はさくっと魔改造された。在り様としてはステラに近く、彼女もまた“八神はやて”であった事からステラには同情しつつも少しだけ恨んでおり、その私情が素っ気無さとして表れている。先行者としては、リインフォースから継承――正しくはコピーされ適応化した近接戦闘技術と、【夜天の書】を知悉(ちしつ)した事による魔法の高速検索・多重展開・発動遅延を絡めた圧倒的な強さを示した。
 


第65話:より善く、より高みへ。

side:なのは

 

 3週間前の、あの日あの時。私にとっては良い思い出となりましたが、ユビ――略称『UD事件』での決闘で敗北したフェイトちゃんや“はやて”ちゃんには苦かったらしく、此処のところ鍛錬や模擬戦を重ねる度に研鑽(けんさん)されて強くなっているなーと感じます。

 

 今までも地道な成長はしていましたよ? でも数段飛ばしで強くなって行くような勢いは、フェイトちゃんが私の串刺しを試みた時ぐらいしか覚えがありません。

 

 

 

 おっと古傷が…………。

 

 

 

 (ちな)みにフェイトちゃんの場合、高速移動魔法の効果終了時には速度差が生じるので外からは硬直しているようにも見えていましたが、最近では慣性制御により速度を維持したまま滑ることで被弾率を下げ、その他にもバリアジャケットに幾つかの発光パターンを組み込み、遠距離からの置き撃ちや誘導弾を思考誘導で当てるのが難しくなるなど、結構嫌らしくなりました。

 

 あとは、デバイスを振らなくても圧縮魔力による光刃を射出するといった器用さが増したものの、相変わらず炸裂弾や【焔】などの範囲攻撃によるダメージ勝ちを狙える為、今のところは何とか負けずに済んでおります。

 

 対して“はやて”ちゃんは……。約一ヶ月前の所謂(いわゆる)『おんぶにだっこ』という状態から急成長しましたし、初動の遅さは【夜天の書】の仕様なので諦めるとして中盤以降はそこそこ撃ち合えていますが、やはり両脚が完治していないので姿勢制御が微妙です。

 

 たまにシャドーボクシングをやっている事から、リインフォースさんのような殴って撃てる騎士を目指しているんでしょうけど、そも“はやて”ちゃんは後方に据えて支援砲撃をさせた方が強いタイプでして、あの領域に至ったとしても前線メンバーなぞ有り余っているんですよね。

 

 (しか)し「ベルカ騎士を束ねる王なのに、接近戦で負けました」なんて事があっては外聞が悪いのもまた事実。“はやて”ちゃんが其処まで考えているかはさて置き、温かく長い目で見守りませう……等と思っていた日々の最中、珍しくリンディ提督から御招きされたので執務室へ参上致しました。

 

「臨時共同訓練に仮想敵役(アグレッサー)としての参加要請……。私よりも、フェイトちゃんや“はやて”ちゃんに振るべき案件だと思うのですが?」

 

 すわ何事かと少し警戒しておりましたが、その程度の事なら社会貢献ポイントを稼ぐ必要がある二人へ回した方が宜しいでしょうに。……や、(むし)ろ条件付き無罪だからこそ任せられないというオチなんですね。多分、恐らく。

 

「残念ながら、『あのグランガイツ1尉が絶賛する嘱託魔導師を是非に』って首都防衛隊の副司令官“レジアス・ゲイズ”准将から指名が来ているのよ」

「リンディ提督の立場なら、その程度は曲げられるのでは?」

「それが大人の事情で、ちょっと難しくてね……」

「へー、大変ですね。御疲れ様です」

 

 非正規雇用の身分故、融通とかパワーバランスとか貸し借りなんて存じませぬ。

 

「……そう言えば、『翠屋』で今が旬のスイーツは有るかしら?」

「今の時期だと苺のスイーツ食べ比べセットが御勧めで、持ち帰りも可能です」

「あら、美味しそう。あとで注文させて頂くわ」

「有り難う御座います。何故だか要請を受けたくなったので、受諾しますね」

 

 ところで肝心な詳細らしい詳細は無く、指定された相手に対して指定時間内の戦闘をすれば良いとの事。如何やら、滅多に居ない高ランクな違法魔導師への対処訓練をやりたいようで、非殺傷設定ならば使用魔法の制限も無し。これはつまり……、《 SLB 》が期待されているんでしょうね。ワクワクして来ました。

 

 ただ残念な事に、時差やら(こよみ)の違いにより本番当日は学生にとって貴重な休日を費やして行われる事となりまして、怪我や病気に気を付けながら約一週間を過ごし――――当日。『アースラ』経由で、リンディ提督達が所属する次元航空部隊の宇宙要塞こと『本局』の転送ポートへ次元転移した瞬間、熱烈な歓迎を受けました。

 

「“なのは”さん、御久し振りですっ!」

「アー、ウン……。久し振りだね、シャーリー」

「先の戦闘記録映像、閲覧許可が出ている分は全て拝見させて頂きました! また一層強く美しく進化を()げ、特に最後の撃ち合いはどんな映画よりも劇的で素晴らしく、御互いを強者と認めて見つめ合うシーンは見る者全てを魅了すること間違い無しだと思います! 無論、私はもっと前から“なのは”さんのファンですけどね、率直に言って惚れ直しました。ふふっ、二度目の恋のはずなのに何だか気恥ずかしいなぁ……」

 

 エイミィさんが、「案内役がいるから大丈夫だよ! ☆彡」とか言ってたのに人選があのその……。正直、私のヲタクを(こじ)らせている時のシャーリーは苦手です。

 

「それから目的地となる演習場には、もう一度転送ポートで跳んだ後に送迎車に乗って移動します。これだけなら適当な現地隊員でも良いのではと思うかもしれませんけど、ちゃんとした観測機材を扱える私……不肖シャーリーが“なのは”さんの戦闘データを取る事で、より良いメンテナンスや開発に反映させる事が出来るんです! あっ、戦闘自体は御好きなように戦って下さい。何なら、新技とか試しても構いませんよ?」

「新技……。炎熱変換した魔法って、新技に含めて良いのかな?」

「…………詳しく、説明して下さい」

「その前に、速やかな案内をして下さい」

 

 (なお)、道中の9割方は説明やら質問への応答で時間が溶けました。如何(どう)やら、シャーリーが見たのは編集済みの資料用データらしく、私がハートキャッチされて【焔】を宿した経緯は映像どころか文章としても記載されて無かったとの事。……まぁ、階級が低い技術官に対して、其処まで情報を渡す必要性はありませんよね。(むべ)なるかな。

 

「そんなまさか……。“なのは”さんの名場面を見逃していたなんて…………」

「や、私の見所はステラさんとの戦闘シーン(まで)だからね?」

 

 世界を紅蓮で染めるような《 Seraphic daybreaker (セラフィック・デイブレイカー)》の壮大さと比べれば、大体の事象は霞んでしまいます。そも【焔】の受け渡しなんてサクっと手を突っ込まれてザックリ終わりましたから、当事者的にあまり思い入れは無いです。

 

 ……さて、何とか舌の根が渇かぬ内に演習場の検問所ゲートを通過し、其のまま中心地へと連行されました。周囲は自然豊かなのに、その一区画だけ都市部が生えたような光景は興味深いですね。シャーリー(いわ)く戦闘訓練用のレイヤー建造物との事で、それなら壁抜きも簡単そうだなと記憶しつつ送迎車から出るや否や、突き刺さる無数の視線。ええ、部外者の宿命ではあるものの、流石に30人近い視線を集めるのは少し緊張します。

 

 (しか)し、見知った顔のゼスト――さん付けにしておきましょうか。ゼストさんが迎えてくれた御蔭で警戒心は解けたらしく、それはそれで今度は好奇の目に晒されるのですが、先程よりはマシだと思う次第で慣れたい所存です。

 

「久しいな、“なのは”。また戦火に巻き込まれたと聞いたが?」

「御久し振りです、ゼストさん。今回のは御祭りみたいな物でしたから、それ程でも」

「……あれだけ撃ち合っても、祭りだと?」

「死にかけたり、地球存亡の危機でも無かったので御祭りです」

 

 再会の挨拶も程々に、私の紹介も兼ねた青空ブリーフィングが行われました。如何やら皆さん魔導師ランクA以上の一般的には『優秀』と評される方達で、休憩後に小隊編成でオーバーSランク魔導師の制圧または遅滞戦闘訓練をする予定だったらしいです。そして彼等の中で、オーバーSランクなのはゼストさんのみ。

 

 成程……。つまり私は、サプライズ・ゲストというやつですね。おまけにゼストさんとは真逆の中遠距離が主戦場のため、彼等が考えていたであろう戦法も御破算。まぁ、『理不尽』という物は予期できないからこそ『理不尽』足り得ますので、相応に頑張らせて頂きたいと思います。

 

「それから“なのは”、向かって右側が首都防衛隊で俺の副官を務める“クイント・ナカジマ”だ。俺に声を掛けづらい時はクイントを頼れ」

「初めまして、“なのは”さん。今日は宜しくね?」

「はい、宜しく御願いします」

「そしてその隣が、首都航空隊選抜チーム代表“リニス・ランスター”。戦闘スタイルこそ違えど射撃手同士、良い経験となるだろう」

「最大限の努力は致しますが……。あの、“なのは”さん。正確な魔導師ランクは御幾つでしょうか?」

 

 ちょっとだけ忍さんに似ている快活なクイントさんに、緊張気味なのか亜麻色の毛先を摘まんでいるリニスさん。背格好からクイントさんは大学生で、リニスさんは中学生程度の年齢だと予想してみますが、小学生に対して其処まで(かしこ)まれると少し居心地が悪いですね……。これもまた実力主義を信奉する異文化なので、受け入れるしか方法はありませんけど。

 

「暫定SSランクです。出身地も活動場所も管理外世界なので、認定試験を受けなくても支障は出ないと聞いています」

「最低でも3ランクは上…………」

「あらあら。今は産休中でも、メガーヌを召喚したくなるわね……」

「戦力不足だろうと戦わねばならん時もある。“なのは”、此方の編成によっては高度制限を設けるが、それ以外の手加減は不要だ。強いて言うなら、結界を壊さない程度で暴れて欲しい」

「了解しました」

 

 因みに、バリアジャケットの展開がてら何時も通りに余剰魔力を貯めている四対八枚の光翼、そして三重の光輪を出現させると魔力反応に当てられたのか青褪(あおざ)める隊員が続出した結果、とある思ひ出に(ひた)ることが出来ました。

 

 “はやて”ちゃんとの模擬戦を始めた頃は魔力反応に晒されるだけでも怖気付いていたのに、撃墜回数が2桁を越えた辺りから目が座りだしたんですよね。()いてみたところ、気絶する程の凄まじい魔力ダメージを受けようとも死ななければ慣れるし、気絶したくないから真剣に向き合わなくちゃいけないとか何とか……。

 

 だからきっと、大丈夫です。只の小学生だった子が、文学少女でも立ち向かえる程度の恐怖ですから、愛国心と使命感に(あふ)るる皆様ならば耐えられると思います。

 

 

 

~~

side:クイント・ナカジマ

 

 これまで私は、疲労困憊(こんぱい)で思考が霞むほどに肉体を追い込んだり、簡単な魔力弾すら生成できない段階までリンカーコアを酷使した事が有る。けれど、そういった限界を知るための、限界を超えるための訓練という物は大怪我や気絶をさせないような準備をして、追い込んで、時には叱咤激励し、ぎりぎり達成させるのが常道なのだけれども……。

 

 今日だけで、(しか)もたった4時間の間に魔力ダメージによるノックアウトと、奇妙な覚醒を何度繰り返されて戦わされたのだろうか? 

 

 四人一組の即席小隊が七組。その中にはゼスト隊長を含む空戦魔導師だけで構成されたチームも有ったのに、どれも5分と持たずに全滅判定を下されてしまう。特に『高ランクの空戦魔導師、()つ射撃手』という情報しか持ってなかった初戦チームは哀れで、“なのは”さんが抜き撃ちで放った砲撃により二人纏めて墜とされた挙句、仲間の悲鳴により思考停止した残り二人もまた同様の末路を辿った。

 

 次のチームは重厚な魔力弾の雨に撃たれ、更にその次のチームは炎熱変換された砲撃で焼き払われ、私のチームは主に次元巡航船で用いられる難攻不落の防御魔法《 Distortion field 》を貫けずに体当たりで潰されて気絶するも、先の敗北チームに対して行った治癒魔法らしき物を使われたのか目が覚め、そして己の異常に気付いて愕然(がくぜん)とした。

 

 《 Distortion field 》とレイヤー建造物に挟まれた際のダメージはバリアジャケットの防護機能を超過し、リンカーコアの保有魔力が底を突く勢いで消費された筈なのに調子は良く、何なら順番が一巡するまで休めば大丈夫だと思えてしまう程度とは訳が分からない。

 

 だから幾度となく、あの理不尽極まりない弾幕と砲撃と防御魔法と、空を飛べる空戦魔導師チームには不可解な軌道を描く飛行魔法への攻略も上乗せで、挑み・足掻き・惨敗し・起こされ、ひたすら相性の悪さと実力差を心身に刻み込まれつつ、見えない何かが擦り減って行く……。

 

 比較的善戦できたのは、防御や位置取りが巧みだったゼスト隊長。それから電気の変換資質による高速移動が得意なリニス空曹長ぐらいなもので、私が得意とする《 Wing road 》を展開して縦横無尽に滑走しながら肉迫する戦法は徹底的な置き撃ちや、上下への垂直回避できっちり対策され、駄目押しとばかりに《 AMF 》の魔力結合阻害によって無力化した上で射撃戦を強いるなど、まるで悪夢の中で踊らされているかのようだった。

 

 でも…………。最後に降り注いだ星の光が、全てを吹き飛ばしてくれた。

 

 悔しいとか、情けないとか、勝ちたいだとか。そういった取るに足らない妄執が消え去り、私は漸くその先に浮かぶ星空を知り得たのである。

 

 

 

 

 

「早く戻って来なさいな、メガーヌ……。こんなに楽しい事なんて、滅多に無いんだから」

 

 

 

 

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