魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
《 ステラ 》
“なのは”の闇であり、凶星として撃ち捨てられた『イデア』の断片。不完全ながらも自我を取り戻し、現状を把握してしまったが故に日常への回帰を諦めた。(もっと)も、オリジナルである“なのは”に対する恨みは消えていない為、様々な準備や配慮をしながらも『UD事件』を起こすという選択に至る。先行者としては、重装備+遠近両用+炎熱変換資質にも似た特殊技能という戦闘スタイルを示したが、真意は不明。
 


第66話:桜吹雪は流れユク

side:なのは

 

 やうやう御布団のヌクモリティが際立ちたる早春の(こう)、3月。例年通りなら、早生まれの宿命である遅い誕生日を迎え、(ようや)くアリサちゃんや“すずか”ちゃんと同い年になった細やかな喜びに(ひた)りながら、進級に伴うクラス割りが如何なってしまうのか気になる時期ですが……。ええ、今年は凄まじい年度でしたね。

 

 良いことも悪いことも怒涛の勢いで押し寄せ、全てに変化を(もたら)しました。時々振り返ったり、平穏を願ったりしているので今更思いを巡らしたりはしませんけど、年末年始とはまた別の節目ということも有って感慨深さが打ち寄せます。

 

 ……ところで極一部、今が見頃の桜でディバインとか《 SLB 》を思い出すのか複雑そうな感情を(たた)えているらしく、これもまた変化の1つと言えましょう。私も、三叉槍とかパイルバンカーの所為(せい)で軽い尖端恐怖症を(わずら)ってますから、その辺は相互に協力して克服して行きたい所存です。

 

「とうっ、はああああーーーー!!」

「動きが固いで、お猿! 無駄な筋肉付けすぎとちゃうんか?」

「はっ、技のキレが落ちている亀に言われてもな? 御前はもう少し、筋肉を付けろ」

「おぉー、脳筋のあまり観察眼も(くも)ってしもうたとは……。これはな、キレという無駄が無くなっただけなんよ」

 

 

 

 さてさて。

 

 

 

 春の陽気のせいか、久し振りにレンちゃんと晶ちゃんの喧嘩が勃発しております。昔みたいに居間とか縁側とか『翠屋』の厨房ではなく、庭の一角にある道場を選ぶだけの冷静さは残っているようですが……。取り敢えず、仲裁する前に観戦中の御兄ちゃんから事情聴取をします。

 

「……御兄ちゃん。何で、レンちゃんと晶ちゃんの戦いを見守っているの?」

「此処最近、めっきり喧嘩をしてないから合意の上で一勝負したいと相談されてな。初回という事も有り、審判をする流れになった」

「実質、証人役なのでは?」

「そうとも言う」

 

 それから暫く見物していると、晶ちゃんによる激流の如き攻撃に身を任せどうかしているレンちゃんが適宜反撃するパターンが続き、やがて判定勝ちを()ぎ取りました。何かもう、最後辺りには技の『キレ』どころか『起こり』も『読み合い』も無くなって泳いでいるようにも見え、体力が(とぼ)しいこと以外は御兄ちゃん達にも匹敵する人外の領域へと至りつつある……のかも知れません。

 

 (ちな)みに、一方的なカウンターで吹き飛ばされたり投げられていた晶ちゃんは存外平気らしく、こっちもこっちで末恐ろしさを感じます。

 

 

 

 

 

―― 結局、最後までレンちゃんの方が勝率は高かったですね。 ――

 

 

 

 

 

 さめざめと五月雨が降りしきる深緑の候、6月。バリアジャケットの応用で、全身に透明な防護フィールドを張れば雨天外出も苦では無く、快晴が恋しくなれば雲の上を飛べば良いので湿気対策以外は気にせず平穏な日々を送っていた折に、何時の間にか身体付きが(たくま)しくなっているユーノさんから御連絡を頂きました。

 

 まぁ、運動不足よりかは良い事ですし、出身世界は違えど男子たる者そういう理想が有るんだろうなと思いながらスルーします。アリサちゃんや“すずか”ちゃんみたく気軽に話す間柄でもないので、要件を聞かねば雑談にも身が入りません。

 

「久し振り……だね。“なのは”さん」

「御久し振りです、ユーノさん。また何か厄介事ですか?」

「正確には()だなんだけど……。そうなると思って、今の内に依頼をしたいんだ」

 

 空間モニター越しでも気不味そうな表情だけで色々察せますし、歯切れの悪い挨拶も加われば尚の事。それにしても未だとは、これからパンドラの箱でも開けるんでしょうか?

 

「僕が『無限書庫』の司書長に就任してから、これまで手付かずだった蔵書の整理区分やデータベースへの登録と修正を進めていた最中、封印魔法で閉ざされた『禁書体験室』という未知のエリアを見付けてしまったのが事の発端となる」

「んー……、閲覧室じゃないって所が気になりますね」

「うん、僕もそう思った。只そこで……、封印魔法を解除しないと内部を調べようが無いのに、脅威度が未知だから纏まった戦力を要請できずに困っているんだよ…………」

 

 成程。でも管理局の人材事情的に、私のようなオーバーSランクとかAAAランクなんて払底している筈ですし、そもユーノさんの安心安全ラインが私基準となった所為(せい)で非常に高く……。や、振り返ってみれば彼の組織は、民間人に【ジュエルシード】を護送無しで運ばせる程度にはザルでしたね。この場合、ユーノさんの危機感を信じた方が良さげです。

 

「確認なんですが、『無限書庫』で攻撃魔法を使っても大丈夫だからこそ私に声を掛けたんですよね? 場合によっては砲撃もしますけど?」

「空間バックアップは取っているし、外壁ごと撃ち抜かなければ何とかなる……らしいよ。仕様上は」

「一応、保険として八神家の近接組にも声を掛けてみます」

「珍しいね。フェイトさんじゃないんだ?」

「撃墜されたツケも有るので、早めに清算して清々しい気持ちで御付き合いしたいなと思いまして。あとは、こうでもしないと接点がなかなか……」

「あー……。そういう……事情なんだね。何となく分かるよ」

 

 如何やら流れ弾だったようです。その後、“はやて”ちゃんの推薦によりヴィータさんを招聘(しょうへい)しつつ日程を調整し、いざ『禁書体験室』へと三人編成で突入した直後に古代ベルカの戦乱時代を追体験できる妙な空間に取り込まれ、途中までは歴史の授業として大人しく拝聴させて頂いたのですが……。

 

 「数十万にも及ぶ、(おぞ)ましいガレア王国の軍勢が押し寄せたのです」とかいう音声ガイドと共に大量の人型自爆兵器が襲って来たので1時間程かけて殲滅したところ、イレギュラーな事態だったのか気付けば『禁書体験室』の内部へ戻っており、書見台に置かれた一冊の魔導書型デバイスが焼け焦げていました。

 

 

 

 

 

―― 時に、ヴィータさんとの連携が思いの(ほか)やり易かったのは秘密です。 ――

 

 

 

 

 

 刻々と紅葉が色づき始める寂寞(せきばく)の候、10月。すっかり秋めいて旬の食べ物が美味しく、残暑も無いので快適な時期だというのに忌まわしき運動会が待ち構えています。……や、今年からは体育祭でしたか。

 

 幾度も実戦やら模擬戦を繰り返し、身体強化魔法のパワーアシスト込みとはいえ筋肉らしき物はそこそこ鍛えられておりますが、じゃあ徒競走や玉投げが得意かと問われると否であり、魔法並みに面白いとは思えないのでテンションも低空にて滑空中です。レンちゃんと晶ちゃん、そして御母さんが協力して作るランチ・ボックスは楽しみなんですけどねー。

 

 他にも、『ブラッディ・イヴ』等と呼ばれるようになった日が近付くに連れてアンニュイな気分が増して行く為、冬に次いで微妙な季節です。

 

 

 

 

 

―― (しか)し、御茶会をするには良い季節ですから、その点だけは花丸をあげます。 ――

 

 

 

 

 

~~

side:■■■・■■■■■■

 

 しんしん雪が舞い降りる哀悼の候、12月。態々(わざわざ)こんな時期に、それも24日付けでミッドチルダや地球からも遠く離れた辺境惑星まで単独出張し、廃棄された違法研究所の追加調査任務を行おうとした愚者が居たみたいです。度し難い阿呆ですね。

 

 怪しさを感じながらも大丈夫だろうという傲慢な態度で(のぞ)み、当然の如く襲撃を受けたものの下手人を撃破して縛り上げたところで…………。背後から心臓をズドンっと、それも堅牢な筈のバリアジャケットを貫ける程の高火力な質量兵器で狙撃されたらしく、(あわ)れ帰らぬ人となりました。

 

 おまけに今際(いまわ)(きわ)で、全保有魔力を炎熱変換しながら放出したので残った物は焦土と遺品のデバイスぐらいでしょうか?

 

 

 

 

 

―― 嗚呼、全く……。かわいそかわいそ、なのですよ。 ――

 

 

 

 

 

 私を愛してくれた家族と家族同然の人達、それから親友に知人の皆さんが不憫(ふびん)でなりません。けれど……、これで良かったとも思うのです。帰れなくなった代わりに壮大な目標が出来ましたし、私の代わりにステラさんが高町家へ戻れるので、ある意味では両得と言えませう。

 

「…………【レイジングハート】、そろそろ出航準備を」

[- All right. My master. -]

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、きっと御父さんも【航海者】になったから帰れないんでしょうね。帰ったとしても、『今の御父さんが存在する世界』と『今の御父さんが存在しない世界』に分離するだけですから畢竟(ひっきょう)、ハズレを引く世界が発生します。

 

 本人の主観としては、何も問題はありません。自分の死後を強くなってコンテニューするだけなので続きはしますが……。本当の意味で帰るのなら、やはり『今の自分が存在しない、死なずに済んだ自分自身が居る世界』ですよね? だから、帰れないのです。

 

「行先は……、取り敢えず近しい世界で。暫く化物は見たくありません」

[- I agree too. -]

 

 まぁ、ちゃんと帰れなくても立ち寄りはしますよって。たまに『翠屋』のスイーツが恋しくなりますし、魔法少女は砂糖にスパイス、そして素敵な物で出来ているそうなので適度な休息も必要です。……ええ、休息するったら休息しますとも。

 

 

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