魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

7 / 69
人物紹介
【ユーノ・スクライア】
“なのは”にレイジングハートを渡してからは裏方へと回っており、広域探索魔法によるジュエルシード探索を主にしている。現場では何があるか分からない為、なるべく“なのは”に付いて行こうとするが、折りが悪い事もあってなかなか立ち会えずにいる。


第6話:千客万来、月村邸なの

Side:なのは

 

 たとえ昨日に悲惨な事があっても、今日は“すずか”ちゃんの家で御茶会をする日です。十分な睡眠を取ったので目覚めは良く、朝シャワーをして、朝食を適量摂取して、身支度して、朝のニュースをチェックして、お兄ちゃんと一緒に家を出て、バスに乗って移動します。

 

 ちなみに何故、同級生とのお茶会にお兄ちゃんが一緒なのかと言いますと、これには同志“すずか”の姉である忍さんの存在が深く関わっておりまして……。要約すると、忍さんがお兄ちゃんに片思い中なので、その橋渡しをしているのです。しかしながら、私も善意だけでやっている訳ではありません。

 

 お兄ちゃんは、身内贔屓を抜きにして見ても眉目秀麗かつ人格者で、とにかく女性からモテるのですが、そろそろバレンタインデーに貰ってくるお菓子の量が笑えなくなるレベルとなって来ており、お母さんが以前「結婚してくれれば解決するんだけど、恭也ったら剣術一辺倒だし、はたして何時になるのやら……」と悩んでいたので、お兄ちゃんとも面識があって、“すずか”ちゃんからの話で人柄を知っている忍さんがベストかな、と思い立ったのが切っ掛けでした。

 

 それからは、“すずか”ちゃんと共謀して月村家と高町家の合同花見会をしたり、お祭りで鉢合わせするように計らったりと色々やったのが実を結び、かなり良い感じになりつつはあるのですが、如何してもあと一押しが足りないような……? とも思ったりする今日この頃です。

 

 とはいえ、そういった考えはこれまでも、そしてこれから先でも余計な御節介でしかない訳でして、私にとってはこの辺りが引き際なのかもしれません。あとは、忍さんとお兄ちゃんに任せて見守るべきなのでしょうが、やはり来年のバレンタインデーまでには如何にかなって欲しいのが正直な思いです。

 

「……なあ、“なのは”。無理はしていないか?」

「ふえっ?」

 

 そして余計な考え事をしていた弊害でしょうか。お兄ちゃんからの唐突な話しかけにマルチタスクが追いつかず、意図しないエラーが音声として外部出力されてしまいました。その結果、お兄ちゃんはそれを悪い兆候と判断したらしく、心配そうにしながらも話を続けました。

 

「昨日の事件で、死傷者が出た事に負い目を感じているんじゃないかと思ってな」

「うーんとね……。最初は動揺したけど、今はそれ程でもないよ」

 

 未然に防げたかもしれないし、防げなかったかもしれない。でも、それはもうとっくの昔に終わってしまった事で、今となっては如何しようもありません。一応、簡単な治癒魔法ぐらいは使えるので負傷者を治療して回るのも有りなのですが、そうするぐらいなら次の被害を出さない方向へ努力すべきだと思うのです。

 

「だからね。心配しなくても大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 

 それっきり、お兄ちゃんは気不味くなってしまったのか無言となり、私も語り尽くしてしまったので同じく無言のまま目的のバス停で降車して、残すは徒歩7分の道程のみとなりました。然れども、そのまま黙って歩いて行くのもまた気不味かったので、気にしていない事を迂遠に伝えるべく手を繋ぐと、お兄ちゃんは照れくさそうにしながらもしっかりと握り返してくれて、私は自然と頬が緩むのを感じました。

 

 しかしながら、この幸せは7分後に月村家筆頭メイドのノエルさんに分断された後、お兄ちゃんはノエルさんと共に忍さんの元へ。そして私は、“すずか”ちゃんの専属メイドであるファリンさんに案内されるがまま、アリサちゃんと“すずか”ちゃんが待つ部屋へと足を踏み入れ――――られませんでした。開き戸なので、ノブを回して押せば開くはずなのですが、何かにぶつかっているらしく上手く開かないのです。

 

「ぬおー」

 

 この特徴的な声は確か……?

 

「ごめんねファリン、“なのは”ちゃん。今、ドルジを退かせるからちょっと待っててね」

「かしこまりました、お嬢様」

「はーい。了解なの」

 

 そうそう、ドルジでした。メインクーンという猫の中でも一番大きくなる種類の子で、その体長は1メートルを優に超え、体重も堂々たる10キロ超え。そんな大人でも持ち上げるのに苦労する猫を、何故か“すずか”ちゃんは軽々と持ち上げて動かすことが可能です。

 

 本人曰く、重心をへそ辺りに密着させて、持ち上げる時は足と背中の筋肉を使えば簡単だよ等と言っていますが、単純に“すずか”ちゃんが力持ちで、コツが如何こうと言う次元では無いような気がします。

 

「お待たせ~。いらっしゃい、“なのは”ちゃん」

「御邪魔します、“すずか”ちゃん」

 

 その後、ようやく入室を果たし、私は“すずか”ちゃんと奥で寛いでいたアリサちゃんにも挨拶して、さて今日は何をと女子トークに花を咲かせるのでした。無論、ついでの目的であるジュエルシード探索も、マルチタスクでしっかりとこなしつつ。

 

………

……

 

「――――それで今、私と“すずか”の両親が大規模なテーマパークを作っているんだけど、水族館とかジェットコースターも設置して、3年後を目処に開園するんだって」

「それにね、VR技術を応用したライブ会場や、アトラクションとかも作るらしいの。楽しみだよね~」

「へー、何だか面白そうだね」

 

 アリサちゃんと“すずか”ちゃんには空返事となって申し訳ないのですが、3年後という大分先のネタバレをされた側としては、わくわく感が目減りしてしまったのと、マルチタスクで処理能力を割いている影響もあって、如何しても返事が疎かになってしまいがちです。

 

 ちなみに現在は、レースゲームで熱い攻防戦を繰り広げた室内から移動して、森が見えるテラス(月村邸周辺の森も、私有地の一部なのだとか)でアフタヌーン・ティーと洒落込んでいます。

 

 テーブル上に置かれたティースタンドに載っているサンドイッチやケーキは、お母さんが作る物と遜色(そんしょく)が無いほどに美味しく、このレベルの物を食べれる我が家の環境は、“すずか”ちゃん達とはまた別の意味で恵まれているのだなと実感したところで、空気を読まないジュエルシードが検知されてしまいました。

 

 無ければ無い方が良かったのですが、見つけてしまった物は仕方がありません。此処は花を摘みに行くと言って2人から離れ、結界を発動させて隔離。それから確実に――――

 

「あっ……」

「うん? ねぇ、“すずか”……。森から光の柱がドドーンって出てるんだけど、あそこって何か仕掛けているの?」

「えっと……。お姉ちゃんが変な実験とかしない限り、あそこには何も無いはずなんだけど…………」

 

 如何やら、遅過ぎたようです。そして程無くして、森から姿を現したのは巨大な猫ちゃんでした。その大きさたるやドルジなんて比ではなく、全高は5メートル程、全長は13メートル程でしょうか。首輪をしているので、月村邸に住まう猫の内の1匹なのかもしれません。それにしても、ジュエルシードの暴走にしては随分と可愛らしいビフォーアフターで、私も少し戸惑っています。

 

「もしかして、アイなの? なんで、そんなに大きくなって……」

「“すずか”、危ないっ!」

 

 名前に反応したのか、小走りで“すずか”ちゃんの元へと駆け寄ってくる猫。しかし大きさが大きさなので、その1歩1歩で詰めて来る距離が凄まじく、このまま飛び込んで来るにせよ、直前で止まってじゃれつくにせよ、危険である事には変わりありません。

 

「封時結界」

 

 なので、後々追究されてしまうかもしれませんが結界で2人を外側へと弾き出しつつ、【レイジングハート】をセットアップ。そして残ったのは私と、御主人を見失って困惑している猫と、展開中の結界へと侵入して来たアンノウンが1人だけでした。

 

 (ひたい)から(ほお)へと走る傷痕が特徴的で、無感情で、金髪で、黒衣で、斧状のデバイスをこちらへと向けていて、一見すると友好的には見えないアンノウン。ですが、僅かな期待を込めて挨拶を試みる事にしました。

 

「初めまして。どちら様でしょうか?」

「……バルディッシュ、行くよ」

[- Yes,sir. -]

 

 こうして、何故か金髪魔法少女バルディッシュさん(仮名)との戦闘が唐突に始まり、私はコミュニケーションの難しさを改めて実感するのでした。猫が月村邸の壁で爪とぎを始める前には終わらせて、それからジュエルシードを封印した後に御茶会を再開したいところですが、果たしてどうなる事やら……?

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。