魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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 『戦えば勝つ』。その言葉の重みを実感しながら、2年の月日が流れました。



【R+D編】
第67話:夏、不穏、奈辺にて。


side:高町 なのは

 

 日課である朝の鍛錬を終え、少し疲労が残った身体を引き()るとまでは行きませんが気合いを入れてシャワーに朝食に身支度を済ませた後は、何時ものように通学バスへと乗り込みます。慣れぬ内は通学バスでの移動中に仮眠を取ったりしていたものの、最近では基礎体力が向上した御蔭で夜まで耐えられるようになり、もう数ヶ月ぐらい頑張れば日中も元気で過ごせそうな気はしますが……。

 

 そうなったらそうなったで鍛錬のレベルを上げられ、また筋肉痛や打ち身の鈍痛を我慢する日々が戻って来るんでしょうね。まぁ、自分で決めた道なので、今更逃げたり手抜きはしませんけど。

 

「おはよー、“なのは”。今日も暑いわねぇ……」

「お早う、“なのは”ちゃん」

「お早うアリサちゃん、“すずか”ちゃん。でも来週まで頑張れば夏休みだから、もうちょっとの辛抱だよ」

「残り1週間以上もあるし、日中が『GODDAMN HOT!(ガッデム・ホット)』なのは変わらないじゃないの。あーあ、景気良く雪でも降らないかしら…………」

 

 そんなアリサちゃんの小言が陽炎のように晴天へ溶けて……、特に何も起こりませんでした。“はやて”ちゃんやクロノ君なら氷結魔法の応用で雪を降らせることも可能な筈ですけど、二人とも私的な理由で使ったりしない性分なので望みは薄く、まだ叢雨を(こいねが)った方が叶いそうな気がします。

 

 一応、大きな入道雲が遠くに見える為、ひょっとしたら雨が降って涼しくなるかもしれませんし、太陽が隠れるだけでも大分過ごしやすいですからね。

 

………

……

 

 ところで5年目を迎えた学校生活という物は、そう変わり映えは致しません。3年生の時にフェイトちゃんが書類上では転入の(てい)で同級生になって、4年生の始めには両脚のリハビリを終えた“はやて”ちゃんが転校して来ましたが、昼食時のメンバーが増えたり体育の授業が白熱したりする程度の変化でしかなく、極々一般的な日常を送っております。

 

 いやまぁ、『ジュエルシード』とか『闇の書』に関する事件が有りましたけれども大体一ヶ月かそこらで終わりましたし、大切であっても楽しい記憶ではありませんから、意図しない限りは忘れておきたい所存です。腕を競うこと自体は好きなんですけどねー……。真面目な死合いは、どうも忌避感や苦手意識が拭えません。

 

 

 

 だから、今後そういった事件とは無縁でありたいなと祈念していましたが…………。

 

 

 

 6時限目の授業中。『闇の書の闇(ナハトヴァール)』が出現した時のような底知れぬ魔力反応を感じ取り、思わず持っていた鉛筆を()し折って仕舞いました。破片を集めつつ同じ教室内の“はやて”ちゃんと、残念ながら別クラスになったフェイトちゃんへ《 念話 》を繋いで緊急会議を行います。

 

[> 二人共、今の魔力反応って心当たりある? <]

[> あらへんよ。基本、こういうのは管理局が初動対処するとは聞いとるけど、反応の大きさからして流石に厳しいんやない? <]

[> 私も心当たりが無いし、“はやて”の意見には同感。只、今はもう感じないから遠くへ行っ……か、若し……隠れたか。どの…ち、……専行す………… <]

[> もしもーし、フェイトちゃん? <]

[> ほーん。えらく大気中の魔…濃度が下がっ……みたいやね。こ……離でも…… <]

 

 やがて2つ分右隣の席に居る“はやて”ちゃんとも《 念話 》が途切れ、視線を向けると御手上げのジャスチャーを返されました。【レイジングハート】をデバイスモードにして本気の魔力運用をすれば繋がるかもですが、人目があるだけでなく緊急事態とも判断し難く、取り敢えず授業が終わるまで待つことに。

 

 尚、終わりのチャイムが鳴ってから1分と経たず、体操服姿のフェイトちゃんが教室のベランダ側から乗り込んで来たのは驚きました。仮令(たとえ)、襲撃されても()ぐにやられちゃうような(やわ)な鍛え方はしていませんし、衆目が有るのに結界が張られていない=大丈夫だと判断して頂けたらなーとは思いながらも……。こういう心配性な所がまた可愛いんですよね。

 

 切っ掛けとなったのは、当時敵だった『守護騎士(ヴォルケンリッター)』のヴィータちゃん相手に全力を出し切れないまま敗北するという不甲斐ない出来事なんですが、こうも気にかけてくれるというのは存外嬉しく、如何しても甘やかし&甘やかされの関係をズルズルと続けています。

 

「随分早かったね、フェイトちゃん。壁でも登って来たの?」

「あ、うん……。渡り廊下の屋根伝いに、走ったり飛んだり色々と……」

「ほんなら無事も確認できたところで、着替えに戻った方がええんとちゃう?」

「そう……だね。大丈夫みたいだし、そうしようかな……」

「フェイトちゃん。放課後、下駄箱で落ち合おうね?」

「了解。じゃあ、また」

 

 そしてフェイトちゃんは再び、颯爽とベランダから飛び降りて行きました。(ちな)みに私達の教室は2階に位置しており、他のクラスメイトからの「何かヤベーの見たけど、見なかった事にしよう」みたいな空気がそこそこ痛かったです。

 

 

 

~~

side:エイミィ・リミエッタ

 

 次元震と判断するには微妙な次元空間の揺らぎ。――――最初はその程度の、(ささ)やかな前兆を観測センサーが捉えた事から始まりました。

 

 続けて巨大な魔力反応を検知した直後、大気中の魔力濃度が急激に低下する異常現象によって長距離通信及び《 広域探査魔法(サーチャー) 》による情報収集が困難となり、魔導技術に依存しきった『時空管理局・東京臨時支局』の監視網はザルと化した訳なんだけど……。そもそも電波は傍受される恐れがあるので地球では使い勝手が悪く、監視カメラや無人航空機を大規模運用するのも非現実的なのだから、こればかりは仕方無い。

 

 仕方無いとして……。問題は、これが人為的な事件orロストロギアによる偶発的な事故なのかが分からない所なんだよねー。ロストロギアの多くは、自律型とか自走型なんて物は少ないので逃げられる心配は(ほとん)どしなくて良いものの、これが違法渡航者による仕業なら早めの捕捉が肝心要(かんじんかなめ)

 

 只、魔力濃度が低過ぎて管制機材による《 広域探査魔法(サーチャー) 》が使えないとなれば、数少ない魔導師が現場まで出向いて保有魔力を普段よりも消費しながら調べるしか方法は無くて、あまりにも効率が悪いし各個撃破される危険性も否めないため支局長でもあるクロノ君と相談した結果、「取り敢えず集まろう」という方針によりハラオウン家で作戦会議をする事になりました。

 

 一応、関係者全員が地球で広く普及している携帯型情報端末を持っていますが、何時もの魔導技術による空間モニターに慣れていると不便過ぎて、詳細な打ち合わせをしたいのなら直接会った方が早い……と判断したのかもしれません。そんな訳で現在、私とクロノ君は『東京臨時支局』がある新宿から電車に乗って移動中です。

 

「そう言えば、生フェイトちゃんに会うのは久々だな~……」

「人の妹を、生チョコみたいに言うんじゃない」

「因みに『食べちゃいたいくらい可愛い』という表現も有るらしいよ?」

「ああ、そう…………。法に抵触しない限り、僕は君の性的嗜好を尊重するよ」

「いやいやいや、あくまで物の例えってやつだからねッ?!」

「エイミィ、電車内では静かにしろ」

「うっ……。はいはい、分かりましたよーだ」

 

 クロノ君、ピリピリしてるなぁ……。私も管制機材が使えなきゃ、普通の事務員と変わらないから内心ではヤキモキしているんだけど……。うんん、こんな時こそ執務官補佐らしく支えなきゃだよね!

 

「……クロノ君、ボンタンアメ食べる?」

「出たな、飴だかガムだかよく分からない御菓子……。1つ貰おう」

 

 私はクロノ君達と違って非魔導師で、最前線の大変さを本当の意味では知らないから「きっと今回も何とかなるよ♪」だなんて軽々しくは言えない。その代わり、何時も通りにムードメイカーらしく振る舞ってみせることぐらいは出来るから、クロノ君達もどうかビシっと解決して無事に帰って来れるよう御呪(おまじな)いを掛けておきます。

 

 

 

 そう、無事に…………。

 

 

 

 若干1名、というか誰よりも突貫しがちな“なのは”ちゃんの負傷率が顕著で『全員無事』は無理そうなんですが、それでも善い機運に恵まれて何とか五体満足での帰還を願って止みません。

 

 

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