魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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施設紹介
[ 時空管理局・東京臨時支局 ]
 地球でロストロギア関連の重大事件が相次いだ事により、事件が起こりやすい&ロストロギアが集まりやすい要衝――『特異点』であると判断した本局上層部の意向を受け、観測及び活動拠点として設置された。他にも、事件現場となった世界をわざわざ見に来たり、珍しい動植物の密輸を目論むような違法渡航者も稀によく居るため、その対策も兼ねている。



第68話:一方その頃

side:火神 龍華

 

 環境省の頓珍漢どもが(わめ)き出した、『クールビズ』とかいうエコならぬエゴ活動。真夏なのに室温28度で生産的かつ積極的な労働をしろとは、恐らく熱射病で頭がイカれたのだろう。そんな劣悪な環境下で働かせたいなら、タンクトップと半パンでの勤務ぐらい認めたら如何かね?

 

 全くもって下らない。

 

 (ろく)に金もかけず、妥協もさせず、工夫と根性で乗り越えさせようとするのは我が国の悪しき慣習である。だからまぁ、ブラインド越しでも熱気が凄まじい窓際へと気温計を追いやり、部屋の中心部よりも室温が高く表示されるように小細工してやった。御蔭で、真面目にやっている他部署よりかは本部長室の冷房を2℃低く設定できているが、それでも快適とは言い難い。…………その筈だった。

 

「やけに涼しいな……。桐咲2尉、設定温度を下げたのか?」

「いえ、私ではありません。実は数分前から、霊障か何かで勝手に下がるんです! 先程もドアが独りでに開いたり、照明のスイッチを切られたりとか、結構怖かったんですよッ?!」

 

 7月半ばから8月末まで、防衛産業に携わる企業や自衛隊は夏休み期間に突入する為、ほぼ開店休業みたいな状態となる。無論、常日頃から情報収集や分析といった業務に終わりなんて無いものの、厄介な隣人たる仮想敵国の皆様にも夏休み期間という概念は存在しているらしく、この時期は比較的暇になりやすい。

 

 故に、今日も今日とて気分転換がてら厚生棟まで足を運び、アイスクリームを買える程度には安穏日和だと思っていたのだがな……。

 

「君はもう少し、冷静さを身に付け(たま)え。ここ情報本部には皇居並みとまでは行かなくても神宮庁が施した結界が有り、『高機能性遺伝子障(H G S)害』の超能力に対する妨害装置も有る。では、それ以外の低い可能性としては――――」

 

 

 

 嗚呼(ああ)、其処か。気配が分かりやすくて助かる。

 

 

 

「――――光学迷彩を纏った侵入者。それしかあるまい」

「お見事。やっと気付いて頂けました」

 

 パチパチと拍手をしつつ、虚空から滲むように出て来たのは中学生ぐらいの少女だった。(くちばし)のような黒いバイザー、紫紺と朱に染まった制服もしくは戦闘服、外見年齢とは不釣り合いな緊張や動揺を見せぬ堂々とした雰囲気、そして未だ先進国でも実用段階には至っていない筈の光学迷彩を用いた意図。……謎は多くとも、会話が成り立ちそうだという点では喜ぶべきだろう。

 

「えーと…………。麦茶、要りますか?」

其方(そちら)の返答次第です。当方としては、1時間程の談話と実演を予定しています」

「その前に()ず、目的と見返りを簡潔に示して欲しい。政治家や財閥の重鎮でもない一介の国家公務員に、君は何を求めている?」

 

 光学迷彩で易々(やすやす)と侵入できるのなら、総理大臣や天皇や将軍でも会いに行けば良い。それなのにこの私を、情報本部長でなければいけない理由とは一体何だ?

 

「見返りこそが目的であり、具体的には小額の情報料が欲しいだけですよ。提供した情報で危機感を抱いても良し。秘匿しても良し。そういった煩雑な事は、義侠心と責任感に溢れた大人の領分でしょうに」

「なるほど……。言葉通り、小額の情報料なら即決したい」

「今なら初回サービスにつき、5万円になります」

「野宿でもするつもりなのか君は? 必要なら、宿泊場所も用意しよう」

「御厚意、感謝致します」

 

 『得体の知れない侵入者』から『不遇そうな少女』という印象にまで落ち着いたものの、SF染みた完璧な光学迷彩を惜しみなく見せるような人物であるからして、次は携行型レールガンを出して来そうな恐ろしさがある。本当に5万円ほどの、細やかな情報提供であって欲しいが……。

 

「ところで、名前を伺っても良いかな?」

「通り名で宜しければ、“ステラ・オードナンス”と名乗っています。親しみを込めて、ステラさんと御呼び下さい」

「了解したよ、ステラ先生」

「……まぁ、それでも構いません」

 

 

 

 

 

 こうして楽しい授業が始まり、――――久々に知恵熱を出しそうになった。

 

 

 

 

 

 何だ魔法とは? 魔導師? 次元世界に次元航行技術? それだけでなく他国でも警察権を振りかざし、軍事作戦すらも平気で行う『時空管理局』という組織が有るだと? 明らかに内政干渉だろうに……。その上、才能と自主性が伴うならば児童労働を認めており、現地採用された日本人の子供にも軍事作戦へ協力させている可能性が高い?

 

「じゃあ、そろそろ実演にでも移りましょう」

 

 薄い鉄板なら簡単に貫けるらしい桜色の魔力弾。それを指先で(もてあそ)びながら、彼女は事も無げに説明を終えて流そうとしていた。

 

「待て待て待て……。聞きたい事は多々有れど、特に最後の情報は確かか?」

「休日の昼間辺りに、派手な行動で釣って交戦すれば分かるかと。(しか)し、私が地球へ訪れた目的は羽休めをする為なので、あまり気乗りはしないですね」

 

 成程。この段階で、出し惜しみをするからこその安さか……。手に負えないと投げ出し、秘匿を選ぶのなら5万円と宿泊場所を提供して終われば良い。

 

 だが、深淵に潜んでいる脅威は誰かが観測しなければ分からないように、我々が――情報本部がやらねば誰がやる? 事に(のぞ)んでは危険を(かえり)みず。仮令(たとえ)、その相手がゴジラでも使徒でも、『時空管理局』であっても変わらない筈だ。

 

「…………報酬の上乗せで依頼をしたい」

「……スイートルーム、2週間」

「良かろう」

「嗚呼それから、綺羅々(きらら)ちゃんの空き時間も2週間貰います」

「貴様……、私の孫娘に何を企んでいる?」

「浅い企図しかありませんよ? 彼女には魔法少女としての才能が有る……かもしれないので安心安全な試験をしつつ、綺羅々ちゃんからのヘイトを火神陸将が負うことで私の溜飲が下がります」

 

 言葉を信じるなら、絶妙に嫌らしい策だな……。

 

「因みに今後、追加される依頼内容によっては“雪村 恋”ちゃんや“天羽 沙耶”ちゃんを指名するので、御利用は計画的に」

「ハッ……。観光客にしては、私の交友関係をよく調べているじゃないか」

「調べるも何も、知っているだけの事……。あと個人的には、『観光客(ツーリスト)』よりも『来訪者(ビジター)』と呼ばれる方が好ましいです。正しくは『航海者(エクスプローラー)』ですけど」

 

 巫山戯(ふざけ)ているのか真面目なのか。取り敢えず、対等な関係で在ろうと考えているらしい事は理解した。……それにしても友人の妹に、知人が護衛をしている将家の娘もまた候補者とは意外である。もっと依頼すれば色々分かるかもしれないが、流石にそれは安直な考えだろう。(いまし)めるべきだ。

 

「さて、今度こそ実演を。時に……、近くて広い演習場って富士山の所ぐらいですよね?」

「その通りだ。(つい)でに予約は難しく、移動時間も掛かる」

「大丈夫ですよ。魔法でささっと行って結界を張り、適当に撃ったら原状回復して帰りますから、10分程不在になる事以外は問題ありません」

 

 

 

 要するに、バレないとはいえ陸将の私に脱柵(だっさく)をしろと?

 

 

 

「……桐咲2尉、武井1佐を呼び出してくれ。彼にも共犯者になって貰う」

「了解しました。そうなると、私は留守番……でしょうか?」

「御心配なく。本日は2回行動の予定です」

「有り難う御座います、ステラ先生! 御菓子とか如何ですか!」

「季節柄、冷たい物を所望します」

(うけたまわ)りました! 火神陸将、宜しいですよね……?」

「嗚呼、勿論だとも。呼び出した後、厚生棟まで行って宜しい」

「…………はい、頑張ります」

 

 灼熱の陽射しに耐えながら、駆け足気味で苦労して買ったアイスは私の物である。急な来客が訪れようと譲るつもりはない。そも給湯室の冷蔵庫に、冷やした羊羹やゼリー菓子等が入っているのだがな……。まぁ、若者の嗜好的には微妙なのかもしれん。

 

 そして桐咲2尉が退室し、一時の静寂が訪れた。

 

 今の内に会話内容を振り返って思考を整理するも、全て裏付けが取れていない新情報ばかりで信憑性に乏しく、これを補強するには魔法の原理解明だとか、あわよくば『時空管理局』の活動拠点を見付けるなどの積み重ねが必要であると思われる。

 

 とかく大人の世界は、資料とデータの山で殴り合う修羅の世界だ。今後、人員や予算を付けてまで大々的に取り組むかはさて置き、先ずはその判断材料を用意せねば始まらない。

 

「そう言えば、1つ言い忘れていました」

「何をだね?」

「私に対して、ホテル以外での録画や録音といった行為を許可します」

「それはもう少し、早めに言って欲しかったのだが……」

「警備を呼ばれる可能性も有りましたから。まぁ、その場合は結界で隔離しますけど」

 

 魔法とは何でも有りか?――と呑気に思えていたのも束の間の事。転移魔法とやらで恐らく東富士演習場まで移動した我々は、映像作品でしか見られないような高エネルギー砲撃により丘の中腹が吹き飛ぶ光景を目の当たりにし、認識を改めるに至った。

 

 魔法とは何でも有りだ。――歩兵止まりである筈の個人を、空飛ぶ戦艦以上の脅威へ変えてしまう。無論、ステラ先生が数少ないエリートの類だと仮定しても尚、こんな過剰火力が(まか)り通るような魔導師を部隊運用している『時空管理局』の危険度はあまりにも未知数である。

 

 

 

 全く……。平成なのに、平和な世界が遠退いていくとは笑えないな。

 

 

 

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