魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
[ ステラ・オードナンス ]ver.2.5.069-RD
 突如、防衛省情報本部に訪れたミステリアスな魔法少女。(くちばし)のような黒いバイザーが御気に入り。管理外の世界だろうと次元法を振りかざし、従わぬ人々に犯罪者の烙印を押し付けてくる超法規的武装組織『時空管理局』すら意に介さないが、その実力は果たして……? 色々と良い性格をしている。



第69話:怪しい客星さん

side:天使(あまつか) 綺羅々(きらら)

 

 特別な子供として産まれ、特別な保護をされて、特別な……という程ではない高度な教育を受け、やがて私は『エリート相当の凡人』に成るんだろうなと密かに諦めながら生きて来ました。

 

 世紀の発明品どころか仮説を思い付けるような閃きすら無く、絵やピアノを始めとする芸術分野はコンクールに出ても入賞止まりで、運動分野もそれなりに。強いて得意な物を挙げるならパソコン等の操作やプログラミングになるけれど特別な才能とは言い難いし、かと言って宇宙飛行士を始めとする既存で非凡な職業への憧れも絶無。

 

 では、優れた容姿を活かすべきか?

 

 論外です。一人歩きをするだけでも路上スカウトされがちで困っているのに、今以上に衆目を集めたら引き篭もりになる未来が見えます。そもそも笑顔を作るという行為は心労が凄まじく、有象無象に好かれる努力なんてしたくもありません。はぁ……。無情なる時間は滔々(とうとう)と移ろい、『賢い』も『可愛い』も『綺麗』も努力が必要なのに絶えず風化せしめ、私の夢を嘲笑(あざわら)う。

 

 

 

 

 

 御前は『特別な人生』なぞ歩めない。

 

 

 

 

 

 だったら、『普通の両親』が欲しかった。私を妬んだり恨んだりしない『普通の友達』が欲しかった。喜劇を楽しめて、恋愛話で盛り上がれるような『普通の感性』が欲しかった。花の学生生活を送りたい。頼れる先輩が、(した)ってくれる後輩が、気さくな親友が欲しい。取り留めのない長電話、自転車ノーヘル2人乗り、屋上で天体観測、帰宅途中の買い食い、お泊り会、通信対戦、鬼ごっこ、綾取り、裏紙に手描きでする五目並べ、文庫本の貸し借り、カラオケ、映画鑑賞――――産まれながら得られず、勉学に(かま)けるあまり(ないがし)ろにし、高慢ちきに育った自我が子供らしさを抑制する。

 

 8割方は自業自得かもしれないけれど、こうも非ジュブナイル的で空虚な世界だとは思いもしませんでした。もっと早く、幼い頃に気付けていたら……。

 

………

……

 

 カレールウが溶けきったのを確認して、コンロの火を落とす。玉葱・人参・ジャガイモ・加工肉を投入した極々普通のカレーではあるものの、馥郁(ふくいく)たるスパイスの香りが陰鬱さを増した心だろうと引っ張り上げてくれる。

 

 人は、こんな風に失望を重ねながら大人に成るのだろう。それでも折れず歪まず、生きたいように生きるため『強さ』と『娯楽』の二本柱で添え木をする。そして食事は『強さ』を支えてくれるし、精神を慰めてくれる事から『娯楽』の一面も併せ持つ。幸いにして、私は恵まれている方だ。『特別な人生』なんて歩めなくとも、邪道に落ちたり止まる事は無い……と思いたいです。

 

 やがて年期の入った鳩時計が18時を告げ、家主の帰宅が近いことを知らせる。

 

 御婆ちゃん(いわ)く、偉い人だからこそ早めに帰らないと部下達も帰り難いのだとか。火急の用件さえ無ければ、そろそろの筈……。そう考えている内に、開錠音が聞こえたので出迎えるべく玄関へ向かうと、其処(そこ)には制服姿の御婆ちゃんの他に奇妙なサングラスを掛けた少女が同行しており、つまり『()()()()()()()()()()』という在るまじき者が立っていました。

 

「どうも、突貫!余所(よそ)ん家の晩御飯です」

「済まないね、綺羅々。こういった訳で、(あらかじ)め連絡が出来なかった」

 

 何がどういう訳なのか? (しか)も一般常識かの如くハイコンテクストな弁明をされても、こんな感じでサプライズ・ゲストを紹介する悪しき慣例が有るんだなと類推するしかなく、対人コミュニケーション能力が乏しい私にとっては奇襲攻撃に等しいです。

 

「ちょ……御婆ちゃん! 今ラフな格好だし片付いてないし、そもそも何で同年代の子を連れて来たんですか?! 御友達なら足りてますよっ!?」

「先ずは落ち着きなさい。大体の疑問は、其処のステラ先生が解説を為さるとの事だ」

「……先生?」

「はい。闇深い組織に対する防衛術の先生です」

 

 そんなよく分からない台詞(せりふ)(のたま)った他称“ステラ先生”は、左手の人差し指に桜色の――――まるでファンタジー映画の魔法使いが(あやつ)るような光球を浮かべ、楽しそうに微笑んだのでした。

 

 

 

~~

side:ステラ・オードナンス

 

 嗚呼(ああ)やはり、魔法を見せた時の反応は女の子に限ります……。男の子だと「すげぇ~!」や「もっと見せて」など率直すぎて可愛げが無く、大人は脅威がどーの活用法がこーので勘定しますけど、女の子は「魔法って本当に有るんだ!」という望外の奇跡を(いつく)しむ感じで、魔法少女を続けて良かったなと思える瞬間です。

 

 尚、頂いたカレーは1缶で500円以上する事もあるス〇ムという加工肉が沢山入っているカレーでとても美味しく、まさに御馳走でした。ホテルで食事を取るという選択肢も有りましたが、こういう庶民的な料理の方が心も弾みます。……弾んで、顔合わせも済みました故、あとは釣果(ちょうか)()って示さねば。

 

 

 

 ただ(けだ)しくも……、予想通りとは行かないかもしれません。

 

 

 

 私が知っている方の近しい世界なら、ゴールデンレトリバーまたはラブラドールだったりと揺れますけど火神(かがみ)家には愛犬のリリちゃんも居たのに、こっちの世界では居ませんでした。……まぁ、【レイジングハート】に粗略で投げやりなオーダーを出した『航海者』は私なので、何時もより盛大にズレたのでしょう。所謂(いわゆる)、未踏領域な世界です。

 

 それでも臨海テーマパーク『オールストン・シー』は(ほとん)ど完成しているようでしたし、あまり大差は無いと思われます。愉快な天才達が体感シミュレーションゲームを完成させたり、電脳化技術が発達している近未来の並行世界でもなければ大体合ってますよ、多分めいびー。

 

「――とまぁ諸般の事情により、綺羅々ちゃんには特別授業を受けて貰います」

「興味が有るので構いませんけど……。今まで不思議な体験とか感覚も無かったのに、本当に魔法が使えるように成るんでしょうか?」

「誰だってマジック・ユーザーには成れますよ? コマンドを入力するための思考、()しくはトリガーを引くための指さえ有れば発動可能です。(しか)し、マジカル・ガールに成れるか如何かは綺羅々ちゃんの潜在能力次第ですから、其処は御了承の程を」

「…………頑張ります」

 

 恐らく、そういった不安は杞憂に終わると思いますけどねー。その前に、周辺の魔力素(マナ)を制圧したまま特別授業をするなぞ七面倒なので、明日は管理局を釣り上げ、明後日から堂々とやりたい所存です。大体、管理外世界『地球』なのに『時空管理局』の法が及ぶという理念がよく分かりませんが、“オハナシ”をすれば考えも(あらた)まる事でせう。

 

「時に御二人共、シュークリームやケーキは御好きですか?」

「嫌いではないが、年に数回食べたら満足する程度だな」

「好物です。でも、私も(たま)にしか食べません」

「それは重畳。ならば、明日の釣りが終わった後にでも買って来ますよ」

 

 交戦記録映像&洋菓子。これだけ御土産が有れば、吹っ掛けたスイートルーム2週間分=14宿の恩返しとしては十分な気がします。いやはや、御金を持っている大人って躊躇(ためら)わないんですね……。そんな風に並列思考(マルチタスク)を遊ばせていると、(くだん)の大人が躊躇いのない質問(もど)きを投げて来ました。

 

「ステラ先生」

「はい。何でしょうか、火神陸将?」

「君は『時空管理局』を脅威だと語り、幾つか映像資料も見せてくれたのに全く恐れていない……。存外、我々の想像よりも君の才覚は抜きん出たモノであり、評価を誤っているのではないかと不安すら覚える程だ」

「存外、平凡ですよ。因果律に干渉して、過去を捻じ曲げたりは出来ませんし」

「…………居るのかね? そのような神にも等しい存在が?」

「引き篭もってますから、居ないも同然ですけどね……。どのみち証明の仕様がない為、与太話だと思って聞き流して下さい」

 

 『会話のドッジボール』。私は避ける派ですが、ボールを投げ合って取り損ねたら負けという意味では、よく出来た言葉だなと感じます。ともあれ、意図を見通せない会話は(けむ)に巻くのが無難ですよって。

 

「さて……。そろそろチェックインの時間なので、御暇(おいとま)しますね」

 

 名残惜しくも、現在時刻は19時13分。あと17分程の余裕が有るものの、ホテルのロビーで待ち(ぼう)けているであろう桐咲2尉と合流しなければならず、向こうも早く手続きを済ませて帰りたいでしょうから空気を読んでおきます。

 

 (ちな)みに、火神家は高層マンションの10階に位置しており、()つベランダが併設されているタイプだったので綺羅々ちゃんへのサービスがてら結界を張って飛び降り転移をしてみたところ……。詰まらなかったです。やはり、こういったアクションは見る側に限りますね。また1つ、学びを得ました。

 

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