『地球』から遠く離れた次元世界。
緑が失われ、水も渇き、やがて終焉を迎える惑星――『エルトリア』。
最早、この荒野に残るモノは先史時代の遺産と僅かな希望のみ。
そんな惑星から、またしても希望が飛び立とうとしていた。
side:キリエ・フローリアン
仕方が無いとはいえ、3歳も上である御姉ちゃんよりも不器用で引っ込み思案で、知識や経験も劣り、妹だから末っ子だからと頼られず、守られ、甘えさせられて……。そういった“特別”の押し付けが、とても辛かった。
パパもママも科学者で、『エルトリア』を荒廃させてきた【死蝕】という現象の解明や対策を試行錯誤したりと忙しく、御姉ちゃんもそんな両親を手伝い始めてからは独りで居ることが増えた。一応、簡単な仕事ぐらい任せて貰っていたけれど、荒廃した環境下でも生息できる動植物の世話など手間は掛からない。
おまけに同年代の子達は宇宙に浮かぶコロニーへ移住していたから、暇潰しなんて本を読むか散歩をするか。単調な日々が続いたある日……。廃棄区画の崩れた教会でイリスと出会えて、運命が変わったような気がした。
イリスは、「遺跡板に宿る人工知能みたいな物よ」――と自己紹介していたものの、そういった貴重で便利な物が有れば先史時代の研究はもっと進んでいた筈だし、こんな寂れた場所に残されなかっただろうにと幼心でも思いながら、其処は独りぼっち同士なので触れずに交流を重ね、何だかんだで10年目を迎える程度には“腐れ縁”とも呼べる関係性が続きに続いた。
イリスが私の話し相手になり、私がイリスにとって必要な物を用意する。
健全な交友関係とは言えなくとも、持ちつ持たれつ。気が置けない間柄という物は心地好く、二人だけの時間は誰かの娘でも妹でもない“私”で在れるような気がした。……まぁ、段々と気が置けなくなったせいでイリスも年長の御姉さんみたいな態度が砕け、今となっては悪友みたいになっちゃったけどね。
でも、ずっと子供扱いされるよりかはマシで、それくらい粗雑な方が対等っぽい感じがして嬉しく思う。だから何時しか、家族と居る時間よりもイリスと居る時間が長くなって、反抗期の御年頃かな?みたいな生温かい配慮がされてからは外泊しながらイリスを手伝うことも増えた。
私達には、時間も手段も残されていない。
パパやママ、エルトリア
普段は前向きな御姉ちゃんですら、暗い顔で私達家族の移住やパパの入院準備で忙しそうにしていて見るに
エネルギー干渉術式《 フォーミュラ 》。遺跡工学技術の産物で、専用ナノマシンを体内循環させつつ【ヴァリアント・ユニット】を用いれば誰でも使えるものの、ハッキングが可能という明確な弱点を抱えてしまう事になる。
当然の如く、そんな脆弱性は対策されて久しくとも、惑星上に張り巡らされた遺跡板の全演算能力をぶつければ造作も無い。強引に突破した後は、ナノマシンを介して免疫機能に干渉すれば脳の誤認によって体温が4℃近く上がり、幾ら頑丈なエルトリア人でも寝込む筈なんだけど……。何故、ふらつきながらも御姉ちゃんは立てているのか?
自分の身体で試した時は、熱湯に沈められて浮かべないような苦しみで数時間も倒れていたのに、
「ごめんね御姉ちゃん。手荒な真似をしちゃって」
「キリ…エ? 何故、こんな事を……?」
「さぁ? ママと大人の話をしていた御姉ちゃんには教えてあげない。家族の為なら、それが本当に良い事なら事後承諾が許されるんでしょ? だったら御姉ちゃん達も、私からの善意を受け取ってよ」
私達は充分待った。期待した。正しくて安全な方法が見つかるかもと希望を託したのに、現実は非情で叶わなかった……。じゃあ、最後くらい可能性に賭けても良いよね? ママと御姉ちゃんが医療科学の奇跡を信じているように、魔法の奇跡を信じても良いよね?
「キリエ…………」
「私は子供だから、とても我儘なの。パパとママが元気で居られる未来を、緑豊かな美しいエルトリアを、絶対に取り戻してみせるッ!!」
拳銃形態へと展開させた【ヴァリアント・ユニット】から、低出力のエネルギー弾を放つ。……何て簡単で、気分が悪い。きっとこれから何度も似たような経験をするのかと考えたら、固めた決意がどんどん剥がれ落ちそうになる。人を撃つだけでコレとは、近接武器で切り裂いたら
「あーあ……。悪い子になっちゃったなぁ…………」
御姉ちゃんは……、このまま転がして置く事にする。地下室って年中冷えているけれど、今の発熱状態だと心地好く感じるだろうし。
「行って来ます。御姉ちゃん」
無論、返事は無い。それが少し寂しくて、惜しみながらも部屋を後にした。
~~
side:イリス
「ただいまー、イリス」
「おかえり、キリエ。……その紙袋は何なの?」
「ママに遠出の件を話したら、ランチだけでもって持たされちゃった」
「あんたね……。《次元跳躍》の衝撃で、中身がぐちゃぐちゃに成るわよ?」
「うん。だから今、食べて行くつもり」
「あっそ。どうぞ御自由に」
大願成就に向けた初日だというのに、キリエは何時も通りに能天気で
荒廃が
40年前もそうだったし、40年経った今でもそう……。私達は失敗した。その甚大なる犠牲と被害を見て成長したグランツとエレノアも、唯一の希望たるユーリから目を逸らしつつ研究に明け暮れた結果がこの
故にこそ、私達の計画が最後の悪足掻きとなる。入念な下準備を済ませ、キリエも想像以上に強くなった。それでも不確定要素は多々存在しており、ユーリを見付けたところで制御下に置けるか如何かは試さないと不明だし、現地時間で7日前に現れたステラという少女も立ち
あー、もう。何で【テラフォーミング・ユニット】たる私が、人間相手の戦略なんて考えなきゃいけないのよ? 再開発事業とか工場設営とか、もっと生産的で楽しい事をしたいのに…………。
「んんっ、御待たせ」
「じゃあ早速出発するけど、もし吐きたくなったら地面にブチ撒ける事。誤嚥性肺炎で計画が
「大丈夫よ。乙女が吐くのは弱音だけ。――でしょ?」
「へぇ……。初耳ね、そんな言説」
軽口を叩きながらも、出発前の最終チェックをして行く。
「最終確認良しっ、と……。行こっか、キリエ?」
「うん。盛大に行こう、イリス」
最終使用履歴から、約2千年振りとなる《次元跳躍》が始まる。膨大なエネルギーが次元の海を切り開き、始点と終点が結び付いた瞬間――――気が付くと凄まじい勢いで射出されていた。盛大にって言われたけど、こうも酷い仕様とは
だが、それは新天地を求めての飛翔――逃避に
『奇跡』を求め、彼方へ羽ばたくのだ!
どれだけ辛く苦しくても、最後に笑っていれば良い。
蛮勇とすら言える覚悟。それが少女を突き動かしていた。
ひたすら純粋に……。残酷なまでに……。