魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
[ イリス ]
 自称、遺跡板に宿る人工知能みたいな物。キリエと出会った頃は“優しい御姉さん”として振る舞っていたが、今では“同年代の悪友”並みにまで変遷を遂げている。40年前に凍結された【闇の書】を用いた『惑星救済計画』を引き継ぎ、キリエと共に事件を起こした。



第76話:地獄への道は善意で舗装されている

side:八神 はやて

 

 数の上では劣勢やなと気を引き締めていたところ、御姉さんが銃を構える素振りを見せたので様子見がてら《 Panzer Schild (パンツァー・シルト)》を展開したんよ。そしたらな、マジモンの発砲音と共に見えない何かが防御魔法を激しく叩きよって、流石(さすが)に肝が冷えたわ……。

 

 非殺傷設定無しの、《 騎士甲冑 》越しでも受け止めたくない実弾。

 

 一瞬、意識が()れたその刹那に御姉さんは銃剣で切り付けようと思ったのか突っ込んで来たものの、そないなムーヴは“なのは”ちゃんを筆頭とする指定暴力団『近接組』に嫌という程やられ慣れている。こういう時は引き撃ちすべし。尚、『カートリッジ・システム』なる便利なもんは無い為、こっから先は我慢比べのミス待ちで、大分厳しかったりする。

 

 2年前から要求は出しとるんやけどね~。あの殉職者を出した【闇の書】もとい【夜天の書】の主やし、司法取引したから功績はマイナス・スタート()つ、そもそも八神家全体で見れば過剰戦力では? あとソースコードの可読性が低くて専門チームを組まないと……以下略。そういった諸々の理由で通る気配が無い。

 

「あらら、見掛けによらず経験豊富なのね? 御姉さん、驚いちゃったなぁ……」

「こっちは殺意高めの攻撃に、とても驚いとりますけどもっ?!」

「大丈夫よ。死なないように優しくしてあげるから」

 

 へい、御姉さん。魔力弾を切ったり射撃で相殺したり、跳ね回るような空中戦闘機動するしで十分強いのに、蠱惑的な台詞とヴォイスで精神攻撃すんの勘弁してくれへんか? 私、健全で家庭的な『魔導騎士』を目指しとるんよ。

 

「正式な手続きを踏めば、平和的に協力とかっ、出来ると、思うんですが!」

「残念ながら、その手続きを踏ませる『時空管理局』が邪魔なのよ。私達が【闇の書】から取り出そうとしている物の正体を知れば、きっと妨害するか途方もない対価を求めて来るでしょうね……。だから盗んで、摘出作業が済めば【闇の書】を返す。それが最も確実な方法だと、私は信じているわ」

 

 

 

 ほーん、急に管理局を辞めとうなったな……。無理か? 無理やね。

 

 

 

「さっ、御話しはこれで御仕舞い。そろそろ落ちて貰っても良いかしら?」

「リインっ!」

[- はいです! -]

 

 (もてあそ)ばれていようとも、最後まで諦めたりはしない。死んでもうたら【夜天の書】が消滅するという特性上、御姉さんは私への致命傷を避けたい筈……。加減の利かない射撃よりかは、銃床でド突くとか腹パンK.O.を狙うと仮定し、リインが発動待機させていた魔法に合わせて同じ魔法を重ねる。

 

「弾け、《 Heiliger Dolch (ハイリガー・ドルヒ)》!!」

「アクセラレイター!!」

 

 殺傷力よりも弾数と衝撃力に特化させた《 Blutiger Dolch (ブルーティガー・ドルヒ)》のアレンジ魔法。数発当たれば(きり)揉み回転して吹っ飛ぶ凶悪さと、私が使う魔法としては珍しい20発同時発射を2セット分という豪華仕様により、“なのは”ちゃん相手の勝率を4割から5割ちょいに伸ばした近接殺しではあるものの、御姉さんは青白い光を纏ったかと思えば残像が見える程の高速移動で回避して――――気付いたら私自身が地上へ蹴り飛ばされとった。

 

 硬いアスファルトの上をボールのように跳ね転がり、遅れてやって来た激痛が左肩部と道路に叩き付けられた右半身の異常を訴えており、白旗を上げたくとも両腕が動きそうにない。こうも簡単に《 騎士甲冑 》の防御機能をブチ抜くとは中々……いや、上々やるやんけ。

 

 痛みで脳内麻薬がじゃばじゃば出て、思考が()えてんのは結構結構。現状、リインは融合が解除されて数メートル先で気絶中、その内シグナム達が救援で来るとしても小さくて持ち運びやすいリインを人質にされたら面倒やし、此処は下手に粘るよりかはさくっと【夜天の書】を渡して反攻作戦に備えた方が賢いかもしれん。

 

「あっはっはっ……。御姉さん、もうちょい優しくしたってーや…………」

 

 只まぁ、あまりにも痛いので嫌味はしっかり伝えておく。戦闘民族な皆様とは違ってな、文学少女に物理ダメージ耐性なぞ有らへんよ。

 

「ええっと……、御免なさい。つい、エルトリア人の基準で蹴り過ぎちゃって……」

「さいで……。(ちな)みにこの本、【闇の書】改め【夜天の書】やから……。あと壊さず汚さず、なる早で返却するように…………」

「うん、分かった。それじゃ少しの間、借りるわね?」

 

 

 

 おう、持ってけ泥棒はん。

 

 

 

「其処までです。キリエ!」

「はぁ……。もう半日だけ寝といて欲しかったんだけど、御姉ちゃん?」

「妹が悪事を働くと知って、立ち上がらない姉なんて居ませんよ」

 

 なんや面倒なのが増えおった……。ピンクな御姉さん=キリエさんが去ってくれれば、私はシグナム達に回収されて治療が受けられるというのに、赤髪の御姉さんが登場したせいで痛いのを我慢しながら転がっとる時間が延びに延びる……。如何せなら、逃走劇へと移行しながら話して頂きたい。

 

「悪事……? この計画が成功すれば、パパの病気も治せてエルトリアも救えるかもしれないのに諦めろって言いたい訳?」

「その為に、大勢の人達へ迷惑を掛けるようなことを御父さんは望みませんし、エルトリアの荒廃は寿命とも見做(みな)せます。人も惑星も何時かは死ぬ。そういう物なんですよ、キリエ……」

「ふーん。御姉ちゃん達は挑戦して失敗したのに、私には挑戦の権利すら無いのね……」

「……だとしても、正しくない手段が許される訳ではありません」

 

 成程。そういう理由なら、私からは止めれへんな……。2年前、家の子達も似たような経緯から悪事を働き、あの対症療法が時間を稼いでくれた御蔭で事件解決へと至った。結果論と言われれば「そうやね」って肯定せざるを得ないけれども、心情的にはキリエさんの味方をしたい……と思い立ったが吉日、近くまで来ていたシグナム達に《 念話 》を使って待機指示を出す。

 

 案の定、苦言を呈されるもキリエさん側の情報とか色々知りたいし、正直なところ管理局の優秀なスタッフと機材が解析しても特に見つからなかった“キリエさんが欲しがるような価値ある物”の正体も気になる……。あと大事な形見とはいえ、物は物。『守護騎士』の皆もリインも今は【夜天の書】に紐付いとらんし、蒐集された魔法もデータ取って保存しとるから貸せるっちゃー貸せる訳で、ほんなら安全な撤退を優先すべきやろ。

 

 

 

「正しい見殺しを選ぶくらいなら、私は悪党で良い……。システム・オルタ、アクセスッ!!」

 

 

 

 強い失望感と、悲憤の情。吐き出された言葉によってキリエさんの全身が黒く輝いた直後、其処には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が居た。いや……、状況的にキリエさん本人だとしても、あまりの変貌っぷりに理解が追い付かない。頭部はドラゴンを模した硬質な兜で表情は(うかが)えず、装甲が人体へと融け込んでいるのか優美な意匠は(なま)めかしくも(おぞ)ましく、背中側に垂れるピンク色のマントだけが唯一キリエさんらしさを残している。

 

「まさか、その姿……!?」

「見ての通りだけど? エルトリア先史時代における触れ得ざる禁忌。半生体半機械融合構造体、【機族】(ギアーズ)。可愛いくて優しいキリエちゃんは、残念なことに半分死んでいるの。……それじゃ、戦いましょうか?」

 

 声すらスピーカーを通しているかの如く無機質な音に成っており、ますます人外染みとりますなぁ……。ところで、シャマル。巻き添えを食らう前に、私とリインを《 転移魔法 》で回収してくれへんか? ……可能? なら頼むわ。

 

 

 

~~

side:ステラ・オードナンス

 

 御気に入りの曲を何度も聴いたり、面白い漫画やアニメや映画を見ることで人は英気を養います。私の場合は『翠屋』のケーキやシュークリームを食べたりする事と同様に、家族や知人や親友だった人達との交流&観測も含まれますが、こうも変わった出来事が続きますと懐古よりも現場対応が先かなー? と思わなくもないです。

 

 大分長いこと第二の人生を歩んでいても、此処まで例外的だったのは一度のみ。

 

 【永遠結晶エグザミア】を求めてキリエさんとアミタさんが時間遡行したのを切っ掛けに、何故だかヴィヴィオにアインハルト、そしてトーマやリリィも未来から訪れたりと目茶苦茶でした。……(しか)しながら、この時間軸に近しい座標で滞在したのはまだ5~6回程度とサンプル数が少なく、どれが外れ値なのかは分かりません。イリスさんも、居たり居なかったりしますから尚更に。

 

「取り敢えず、管理局側に付こうかなと考えています」

[- That's a good idea. -]

「嗚呼それから、暫く“ルーンライター”と呼びますので御了承の程を」

[- I got it. -]

 

 善良な観光客ですら『違法渡航者』だの『未登録魔導師』扱いするロストロギア恐怖症のブラック組織とはいえ、民間人を守る気概がある点だけは評価できます。(もっと)も、発祥地たる惑星ミッドチルダの再開発計画が難航&治安は悪化中という事実を知れば、(さと)い人なら駄目そうだなと早めに見限るでしょうね。

 

 ともあれ、被害の極小化については梃子入(てこい)れするにせよ、このイベントを通じて“高町なのは”や他の皆さんが力不足を痛感してくれないと将来的に困る……かもなので、手を抜きつつ手伝いたい所存です。

 

 未来なんて不確定ですけど……。でも、過去の延長線上に存在するからこそ様々な艱難辛苦(かんなんしんく)は起こり得るのでして、今回の事件だって【夜天の書】絡み。ならば某マッドサイエンティストが存在するだけでも、管理局襲撃事件が発生する可能性は極めて高くなります。

 

 あの人、好奇心に任せて駄目な方向へ走りがちで、正しく才能を活かせば技術革新を起こせる程には有能なのですが……。大体、倫理観と性癖が終わってて残念なんですよ。

 

………

……

 

 おや? 気付けばキリエさんによる芸術的な搬送コンボで、アミタさんが縦横無尽に運ばれているではありませんか。流石に可哀相ですし、そろそろ武力介入を致しませう。幾らエルトリア人が頑丈でも、程度という物が御座います故。

 

 

 

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