魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【月村 忍】
国立海鳴大学工学部1年生。“すずか”の姉で、唐変木やら朴念仁と名高い恭也を攻略しつつある恋する女子大生。元々同級生で、席が隣だった事もしばしば有ったとか。機械弄りを得意とし、近年ではマッドな方向に磨きが掛かっている模様。



第7話:思いと砲撃は一方通行なの

Side:すずか

 

「アイ……?」

 

 森の方から、随分と大きくなった猫のアイが現れたと思ったら、突然消えてしまって……。私はただ、その現象に困惑する事しか出来ませんでした。何かが起こっている。それだけは確かなのですが、では具体的に如何すれば良いのでしょう? まるで、星の導きを見失った航海士のような気持ちです。

 

「“なのは”ちゃん……?」

 

 そして、アイと共に消えてしまった“なのは”ちゃん。あれから屋敷の周りを探しても、部屋を全て見回っても、一向に姿が見えません。アリサちゃんに手伝って貰っても、ファリンに手伝って貰っても、お姉ちゃんやノエル、恭也さんと総出で探してみても見つかりません。

 

 やはり、これは神隠しか何かなのでしょうか? そんな現象など、本の中だけの出来事だと思っていたのに、まさか本当に起こるなんて……。

 

 荒唐無稽な事であるのは重々承知しています。それでも、“なのは”ちゃんが居ないのは事実で、帰って来てくれるかも分からないのなら、やっぱり探しにいかないと見つけられないような気がするのです。なので森の方も探そうとしましたが、それだけは皆に止められてしまいました。もう何度も屋敷中を探し回って、まだ探しきっていないのは外だけだというのに。

 

 ねぇ、“なのは”ちゃん。今、何処に居るの……?

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 ネオンのように輝く金の光。それに合わせて斧が縦横無尽に風を切り裂き、黒衣の少女とツインテールが舞い踊る。その光景は素人目から見ても大変美しいのですが、距離が近過ぎるというのも考えものです。例えばそう、手を伸ばせば届く距離など。

 

「あの、休戦にしませんか? このままだと千日手ですし……」

[-《 Round shield 》-]

 

 先程までの光景を焼き直すかように円形の防御魔法を展開し、これまた同じように斧による一撃を防ぎます。正面から、横から、頭上から、背後から、真下から。ありとあらゆる方向と手段で繰り出される攻撃を防いでは対話を試みていますが、今のところ成果は芳しくありません。

 

「戦いたくないのなら、ジュエルシードを渡して下さい。そして――――」

[- Form change. Halberd-form. -]

「――――二度と、私の前に立たないで」

 

 少女の意思に呼応したデバイスが変形し、背丈を越すほどに柄が延長され、斧頭だけだった部分に槍頭と鉤爪が追加されたその形状は、名前の通りハルベルトそのもので。それを遠心力や、更に重厚となった魔力刃で威力を上乗せして叩き付けてくるものですから、手数は減っても脅威度は確実に増していると言えます。

 

「ハルベルトっ!」

[- Crusher. -]

 

 そして更に厄介なのが、この近接魔法です。それは堅牢な筈のシールドに亀裂を入れる程の高威力で、このまま耐えるだけでは遅かれ早かれ突破される恐れがありました。

 

 なので私は、対話による平和的な解決は諦め、武力による決着へと切り替える事にしました。大きくなった猫だって、何時までも凶暴にならないという保障は無いので封印しなければなりませんし、無事に戻らないとアリサちゃんや“すずか”ちゃん達を更に心配させる事になります。ですから、やると決めたからには早く終わらせなくては……。

 

「其方の事情は、よく分かりませんが――――」

 

 シールドをわざと爆発させてお互いを吹き飛ばし、此方を見失っている少女をサーチャーで捕捉すると、まずは速度重視のバインドで少女を簡易拘束。そして本命である強度重視のバインドで縛り上げ、砲撃魔法のチャージへと移ります。

 

「取り敢えず、やられた分は返しますね?」

 

 展開される4つの環状魔法陣と、その式に従い砲弾を形作る圧縮魔力。それを見た少女は、射線から逃れるべく必死に拘束魔法を解こうとしていましたが、私はすぐさまトリガーを引き、砲撃魔法を発射しました。もっと色々言いたい事や聞きたい事がありましたが、フルチャージまでに5秒と掛からない仕様だったので、何かをされる前にさっさと照射する事にしたのです。

 

 ちなみに、初めて人に向けて撃った砲撃魔法はバリアジャケットへ奇麗に直撃し、そして物の見事に粉砕&撃墜しました。そう、私は過信をし過ぎたのです。少女の薄そうなバリアジャケットでも、これくらいなら耐えてみせるだろうと。

 

………

……

 

[- チェック終了。魔力ダメージにより気絶しているだけのようです -]

「有り難う。レイジングハート」

[- Don’t worry. My master. -]

 

 あの後、気絶して地面へと墜落する少女を無事にキャッチした私は、心配もそこそこにその場へと寝かし、罪無き子猫を串刺し刑(封印魔法の仕様です)に処してジュエルシードを手早く回収。それから気絶している子猫を抱えつつ、再び少女の元へと戻って【レイジングハート】に診断してもらったのですが、どうやら命に別状は無いようで一安心しました。

 

 それにしてもこの少女。近くでよく見ると、満身創痍(そうい)といって良い程にボロボロです。バリアジャケットが解除されているので私服へと戻っていますが、全身に細長い傷や打撲痕が古傷の上から更に無数に走っていて、お兄ちゃんのように刀傷や銃創が重なり合った物とは、また別のような気がします。私と同じくらいの年頃なのに、一体何があったのでしょうか?

 

「結局、名前も聞けず仕舞いだったけど……」

 

 本来なら敵である以上、興味を持つべきでは無いのかもしれません。けれど、一度でも意識してしまうとなかなか拭い去り難く、同じ金髪のアリサちゃんを何処となく彷彿させるのも、原因の1つであるような気がします。

 

「ごめんね。私、そろそろ戻らないといけないから」

 

 そして私は、後ろ髪を引かれつつもその場を後にしたのでした。それからの事はあっと言う間で、結界の外へと出た私は『神隠し』をされた事になっており、“すずか”ちゃんからの熱い抱擁で絞め潰されそうになったり、アリサちゃんに涙ぐまれたり、大体を察していたお兄ちゃんからは、労わるような視線を送られたりと色々あって……。

 

 

 

 

 

 何故か、お泊りをする流れになりました。

 

 

 

 

 

 あのね、“すずか”ちゃん。明日は平日で登校日で、つまり学校がある日なんだけど、お泊りって最低でも2泊3日くらいじゃないと楽しめないと思うの。それにね、私はお泊りセットなんて何1つ持って来て――――あ、用意してくれたんだ。しかも下着類を含め、アメニティーもばっちりなんだね。なるほどなの。でも、流石に私の通学用鞄とかノートは……。ふむふむ。明日、お兄ちゃんがバス停で手渡してくれる手筈に? ふーん。じゃあ、制服は“すずか”ちゃんから借りる事になるのかな? え、盲点だったけど採用しちゃうの? いやその、“すずか”ちゃんが気にしないって言うのなら、私も気にしないけど…………。

 

 

 

~~

Side:忍

 

 ノエルと共に月見酒をしていると、夜であるにも(かかわ)らず軽快な三連ノックを響かせて部屋に入って来たのは、“すずか”と“なのは”ちゃんの世話を任せていたはずのファリンであった。一段落したら報告するようにと伝えていた為、きっとその件なのだろうと予想し、視線を向ける。

 

「忍お嬢様~、御報告に参りました!」 

「御疲れ、ファリン。“すずか”は、もう寝た?」

「いいえ。“なのは”お嬢様と一緒にベッドへ入ったまま、ずっと御話しをしているみたいですよ?」

「ふーん。何だか妬いちゃうなぁ……」

 

 今宵は満月。私達が、最も不安定になるその日に限って起きた不思議な事件。それは、“すずか”の感情を揺さ振るには十分過ぎる事件だったけれども、幸いな事に当事者だった“なのは”ちゃんを滞在させる事で如何にか落ち着きを取り戻し、そして今度は不安から高揚の方へと切り替わったとの事。

 

 災い転じて福と為すとは、まさにこの事だろう。

 

 今までは揺らぎを不快感として認識し、眠れぬ夜を過ごして来た“すずか”も(ようや)く此方側となったのは喜ばしいものの、私はワインで気を紛らわしているのに、“すずか”は気心の知れた友と存分に語り合い、満ち足りた夜を過ごしている。

 

 何なのだろう、この格差は。そしてこの敗北感は……。

 

 私も、恭也を引き留めれば良かったような? ――――等と、酔いや揺らぎがハーモニクスした大胆な思考が飛び出すも、何故その勇気と勢いが昼間に飛び出なかったのか悔いたところで後の祭り。しかしそんな事よりも、今夜ばかりは可愛い妹の成長を素直に祝おうではないか。

 

「興が乗ったわ。ノエル、ワインをもう一本取って来て。ファリンは、おつまみを追加で」

(かしこ)まりました。忍お嬢様」

「ラジャーです。忍お嬢様!」

 

 そして願わくば、あの子に永久なる月の加護が在らん事を。……なーんてね?

 

 

 


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