魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
[ キリエ・フローリアン ]
 大望を胸に抱く16歳の少女。身体能力に優れたエルトリア人で在りながらも更に鍛え上げ、時期は不明だが【機族(ギアーズ)】への適合処置も済ませている。大型機獣――先史時代のナノマシンに適合した野生動物の変異体を狩り続けた為、元来備わっていた優しさが(かげ)りを帯びてしまった。



第77話:傍観者では居られない

side:ステラ・オードナンス

 

 【機族】という未知の姿へと変身したキリエさんは、鈍重そうな甲冑姿にも(かか)わらず過剰なまでの推進力と攻撃力によりアミタさんを圧倒し、まともに相手をしていたのは最初の数合(すうごう)のみ。

 

 今はもう出力調整が済んだのか動きに躊躇いが無くなり、蹴り飛ばしたアミタさんに随行しながら殴打の嵐を浴びせ、(あご)へのアッパーカットで垂直に打ち上げ、腹部への回し蹴りで斜め上方へと軌道修正。山なりに飛んでいるところを掴んで勢いよく道路へ叩き付け、更なる追撃として左腕を振り上げたので拘束魔法《 Rubellite (ルベライト)》を使って止めます。

 

「やり過ぎには御注意を」

「“ステラ・オードナンス”……。貴女も、私達の計画を阻むのかしら?」

「そのつもりなら、地球へ墜落した時点で制圧していますよ」

「……じゃあ、姉妹喧嘩の仲裁にでも来たって訳?」

「『被害の極小化』という一側面に()いては、(おおむ)ね該当するかと」

 

 より正確には『()きに計らう』という魔法少女の理念に(もとづ)いているものの、説明すると長くなるため騙くらかし、《 Rubellite 》を解除してリリース。ふむ……。当然の如く警戒されていますが、私と交戦する気は無さそうですね。

 

「キリ…エ……、待って……うっ?!」

「怪我人は寝といて下さい」

「…………あの、増えたんだけど。被害」

「下手に動かれるよりはマシだと判断しました」

 

 ()しかしたら、最後に食らっていたのは非殺傷設定の《 Stan bullet 》じゃなくてキリエさんの拳だったという可能性を(かんが)みれば、ダメージ量的には御釣りが帰って来ますよ。

 

「優しくも苛烈な人なのね……。(ちな)みに、私を捕まえたりはしないの?」

「それは管理局の目的で、私の目的ではありません。あと、人は更生を促すよりも恐怖や罪悪感で心を折った方が早いですし、再犯率も低いです」

「ふぅん……。貴女とは敵対しない事を祈るわ、Ms.(ミズ)オードナンス」

「仲良くなりたいのなら、名前で呼ぶことから御勧めします」

「……“キリエ・フローリアン”よ。宜しくね、ステラちゃん♪」

 

 ちゃん付けの推奨はしていないのですが……。まぁ、意表を突きたかったんでしょうね。思考が(みだ)れた瞬間にコマンド・トリガー無しの無言《 アクセラレイター 》で離脱され、【機動外殻】も車両形態へと変形した後に去って行きました。さてさて、このままアミタさんを放置するのは不憫(ふびん)なので、管理局に押し付けておきませう。

 

[> 出番ですよ、『守護騎士(ヴォルケンリッター)』? <]

 

 試しに《 念話 》で呼び掛けてみれば、シグナムさんにヴィータさん、それからザフィーラさんの3人がビルの屋上から降って来て、私とアミタさんを囲みました。シャマルさんは恐らく“はやて”ちゃんの手当てをしているのか不在で、かなり離れた場所に居るようですね。少し待っていると、シグナムさんから話を切り出してくれました。

 

「……久しいな、オードナンス。何時(いつ)ぞやは世話になった」

「あの程度の些事は御気になさらず。ところで其処の女性、保護してくれませんか?」

「元よりそのつもりだが、貴女からも話を伺いたい」

「敵に話す事なんて無いですけど、友軍なら口も軽くなると思います」

「ふむ……。如何(どう)いう風の吹き回しだ?」

「吹き回しも何も、ただ変わらぬ善意で動いているだけです。別に私は、事態が悪化している最中に飛び入り参戦したって良いんですよ? 戦場は混乱し、大量の流れ弾が生じて、きっと貴女方は何の成果も得られない……。それで構わなければ、この場は御別れと致しましょう」

「少し待って欲しい。上に判断を仰ぐ」

 

 それから40秒と経たずに許可が下りたらしく、彼等が拠点にしているリゾートホテルへ招待されました。此処までは想定通りだったんですよ。何で態々(わざわざ)、別室を用意せず同室にしたのやら……?

 

 挙句の果てに案内役はザフィーラさんのみで、ヴィータさんは方々で暴れている【機動外殻】を仕留める為にあの場で別れ、シグナムさんはアミタさんを本局医務室へ移送中。警備の手薄っぷりに呆れつつも、割り切りの良さには舌を巻きます。

 

 (なお)、やたら高い人口密度の内訳としては暇そうなアリサちゃんに“すずか”ちゃん、寝込んでいる“はやて”ちゃんとリインちゃん、看病&護衛役のシャマルさんに顧問&後方支援らしきリンディさんの他にも、御兄ちゃんと御姉ちゃんと忍さんに、月村家でメイドをやっているノエルさんとファリンさんも居ました。

 

 この調子だと、隣部屋に御父さんと御母さんも居そうですね。レンちゃんと晶ちゃんの実在性が微塵も無いことだけが残念でなりません。

 

「初めましての方は初めまして。“ステラ・オードナンス”と申します。要請に応じ、事件解決のサポートをすべく参りました」

「ようこそ、ステラさん。本局総務部次長“リンディ・ハラオウン”です。此方(こちら)と足並みを揃えてくれる……という認識で宜しいかしら?」

「宜しくないです」

 

 

 

 相手の手札が分からない内に危機感を持つのは難しいものの、是非とも想像して頂きたい。

 

 

 

「不確定情報なので詳細は伏せますけど、管理局嫌いな私でも貴女方を憐れんで助力するんですよ? もう少し悲観的に、最悪を考えて動くべきかと」

「……それ程の戦力差が有るとして、何故キリエさんを逃したのか聞いても?」

「全部終われば考察できますよ。多分恐るらくは」

 

 理想通りになるかは不明ですが、より善い未来を目指して努めたい所存。……では、会話を切り上げがてらアリサちゃん達へ絡みに行きましょう。待機時間を消費するなら、楽しく過ごした方が有意義です。

 

 ゆっくり一歩踏み出しつつ、魔法で少しだけ浮いて滑走する不審者ムーブ。これで近付くと大抵の人は気味悪がってくれて面白いんですよね。現に、アリサちゃんが猫のように跳ねたかと思えば、私と“すずか”ちゃんの間に立ち塞がって威嚇するといった百点満点の反応を返してくれました。

 

「急に何しているんですか?!」

「見ての通り、つるっと足が滑りました」

「その言い分が通るなら、今頃スケートリンクの氷がタイルカーペットになっているわよ……」

「では実証の(つい)でに、トリプルアクセルを御見せしますね?」

「……あんた、ベランダから外に向けてスローイングジャンプされたいの?」

「おお、怖や怖や」

 

 13階分の高さについては問題無くとも、アリサちゃんの低音ヴォイスが怖いです。

 

「アリサちゃん。其処まで強く当たらなくても……」

「あのね、“すずか”。こんなのは言葉遊びの一環だから、適当に聞き流して頂戴……」

「ええ、御心配なく。これは無聊(ぶりょう)(かこ)つ同士が言葉で殴り合っているようなものでして、所謂(いわゆる)フル・コンタクトの交流です。深い意味を持たず、浅い意義が横たわるのみ……。如何か“すずか”ちゃんは、何時までも清らかなままで居て下さい」

「…………本当に殴るわよ?」

「いけません、御嬢様。そんな事をすれば拳を痛めてしまいます」

「だったらもう、あらゆる(かど)に足の小指をぶつけて転がりなさいな……」

 

 その後もぐだぐだと、アリサちゃんを主軸とした内容が無いような会話が続きました。余程コミュニケーションに飢えていたんでしょうね。私の場合は郷愁(きょうしゅう)のブースト効果が掛かっていますが、アリサちゃんは10歳でその領域へ至っており深刻だなーと感じます。

 

 まぁ、誰かさんが下手に乙らなければ大人びて落ち着く……可能性が高い為、今後の健闘次第かもしれません。(しか)(しこう)して、世に平穏のあらんことを。過酷な日々を送るのは私だけで十分ですよって。

 

 

 

~~

side:高町 なのは

 

 エイミィさんからの通信により、自称『ちょっと戦える観光客』ことステラさんが事件解決の協力者に成ってくれると聞いた時は、嬉しさと戸惑いが半々でした。

 

 オーバーSランクを複数相手にしても、危な気なく一蹴する卓越した魔導と戦闘技術。そんな物を有した人物と再び敵対せずに済むことは喜ばしくも、何で? という疑問が尽きません。管理局を嫌っているようですし、これまで通り自由気儘に動いたほうが利点も多い筈なのに……。あと戦闘中は別として、謀略を巡らせて背後から撃つような人柄とも考え難く、分からない事だけが降り積もります。

 

 ただ実行されるかはさて置き、「友軍なら口も軽くなると思います」とステラさんが発言していたらしいので、仲良くなれば話を聞けるかもしれないなーと考えつつ各地の【機動外殻】を掃討してリゾートホテルへ戻ってみれば、衆人環視の中でアリサちゃん&“すずか”ちゃん&ファリンさんと仲良く『ババ抜き』をやっているステラさんの姿が其処に在りました。

 

「御帰り、“なのは”」

「ただいま、御兄ちゃん。これって如何いう状況なの……?」

「ステラさんがアリサと意気投合した結果、空気を(やわ)らげている……という状況だな」

「空気?」

「突発的な事件で“はやて”もリインも負傷して、戦況を聞きながら皆の無事を祈るしかない……。そんな暗い雰囲気を変えたんだ。意図的にせよ恣意的(しいてき)にせよ、あの配慮と立ち回りは見倣(みなら)うに(あたい)する」

「色々凄かったよ~、アリサちゃんとステラさんの掛け合い。記憶に残らないけど心地良いみたいな、水の流れを見ている感じだったなぁ……」

「ふーん…………」

 

 存外、良い人そうなのは良い事ですが……。親友というモノは、専属契約ではないと分かっていても御姉ちゃんの補足は茨のように絡み付き、私の心をチクチクと刺して(さいな)みます。

 

 ステラさんが敵だったから。次元法に楯突く悪人だから。確固たる信念の下に異なる正義を示し、決して折れぬ強さで全てを貫いたから……。立場的に相容れなくても凄い人だなと認めながら警戒すれば済んだのに、味方としてアリサちゃん達と仲睦(なかむつ)まじく遊んでいる光景を見ると何だか嫌悪感を覚えるのです。「其処は、私の居場所なのに」――――と。

 

嗚呼(ああ)、戻って来ましたね。息災で何よりです」

 

 楽しい時間が終わる事への当て付けか、ちっとも心配の色を含まない無機質な言葉が神経を逆撫でし、怒りめいた反骨心のスイッチが入りました。公共施設や一般市民への被害はゼロを目指して尽力すべきなのに、彼女からは気負いや熱意も感じられません。

 

 頑張るのは管理局側であり、ステラさんにとっては他人事。バイザーで隠れて見えなくとも、値踏みをするような目付きである事は態度から察せます。それと此方を向きながら魔法で『ババ抜き』を続けているのは(ささ)やかな挑発行為だと思うのですが、2年前の私……並列思考(マルチタスク)を用いた脳内シミュレーターで鍛錬しながら学校生活を送っていた記憶が呼び起こされ、予期せぬ精神的ダメージを負いました。

 

 片手間で行われる会話は悲しみさえ覚える程に空々(そらぞら)しい印象を与え、あの頃の怪訝(けげん)そうなアリサちゃんや“すずか”ちゃんの気持ちが今なら分かります。私に集中して、本当の意味で向き合って欲しい……。仮令(たとえ)それが、嫌な所ばかり目に付くような相手であろうとも。

 

「……協力して頂けると聞きました。本日は宜しく御願いします」

「これは丁寧にどうも……。草場の陰から応援していますよ、高町さん」

「草場……? あと何で、名字呼びなんですか?」

「別に、私の事も“オードナンス”と呼んで構いませんけど?」

「そうじゃなくて、あの……」

 

 

 

 

 

 やっぱり、この人とは仲良く成れそうに無いです。

 

 

 

 

 

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