ダンジョンにねじれる者がいるのは間違っているだろうか 作:屈曲粘体
ん、頭の下に柔らかい感触……この感じはいつもの枕じゃない……?
えーと……私は今まで何をして……
「おはヨウございマス。マイマスター」
目を開けると、道化のような仮面が顔前でニタリと嗤っていた。
ギョエーッ!ホワッツ!?
何ご…と……あ、デスマーチ先生か。
思い出した。私、死んだんだった……それで……ねじれる者ボーンスライムに……はあ……
改めて確認するとやっぱ落ち込むわぁ……
「申し訳ありまセン。とんだご無礼ヲ。ワタクシ、気がセイデいまシタ」
あ、なんか申し訳ない。デスマーチ先生は私の事を心配してくれてただけなのに、顔見て驚くとか、私の方が失礼だった。
それにしても、デスマーチ先生の膝って柔らかいのね……謎の知識が増えてしまったよ……
「イエイエ。ワタクシが介抱するというノモ魅力的でシタが、このデスマーチ、物語の機微というモノを心得テおりマスが故ニ……後ロを御覧になって下サイ」
後ろ?後ろって……アイエエエ!?狐の女の子!?ナンデ!?
「ふみゅう……ほえ?……あっ!アヤカシ様!お目覚めになられたのですね!」
あ、うるさくしてごめんね。せっかく寝てたのにね……じゃなくて!どういう事なんですか、デスマーチ先生!?
「ハイ。守るためニ命をカケた英雄ニハ姫からノ愛情ヲ報酬とスルのが約束と言うモノ。ワタクシのような道化はオモシロオカシク場を掻きミダスのガ役割デス」
いや、私が言いたいのはそういう事じゃなくてですね。
見て下さい!このボデー!すごくリビング・デッドでしょう!?
こんなんを少女に接触させてたら、絶対なんか良くない事が起きますって!
「ご心配ナク。ワタクシが見ていたカギリ、異常の兆候ハ見られまセンでシタ。マスターの御体ハ、人間に無害なのでショウ。オソラク」
いや、おそらくって……ごめんね。狐ちゃん。すぐ離れるからね。
いよっと。
ふぅ、これで大丈夫。
まったく、デスマーチ先生は戦闘以外ではイマイチ頼りにならないな。これだから闇文明は……利己的っていうか、他者への労りが無いっていうか……
「ムム。そのお言葉ニハ承服しカネます。ワタクシの心はマスターへの敬愛に満チ溢レテおりマスよ」
そんな大袈裟な手振りで力説されてもねえ……そう言えば、デスマーチ先生、私の事をずっとマスターって呼んでるけどどういう事?てか、そもそも私は何も喋ってないけど何で会話が成立してんの?
「ドチラの答エも至ってシンプルでございマス。マスターがマスターであり、ワタクシがマスターのシモベ、であるカラにございマス」
いや、意味分からんけど……てか、いいの?
私、コモンだけど……デスマーチ先生って、アンコモンでしょ?納得いかない部分とかないの?
「コモンとアンコモンにソレほど大キナ違イはありまセン。それに、ワタクシがマスターに忠義を誓ウのに、等級ナド関係ありまセン。例え、ワタクシがスーパーレアであロウと変わラズにお慕イ申シ上げマス」
デスマーチ先生……コモンとかスーパーレアっ、クリーチャー間でも一般的な用語だったんですね。
どうでもいい知識が増えてしまった……
てか、それじゃあ、私の思考はずっと、デスマーチ先生にだだ漏れなの?
「イエ、マスターに伝えタイという意思ガ無けレバ、ワタクシに伝ワルことはありまセン。プライバシーは重要ナ問題デスから」
おっふ。プライバシーって言葉も存在するのね。進んでんな闇文明。科学がほとんど発展してないとか言ったの誰だよ。
倫理レベル超高いよ。私もう、ダークロードが社会保障とか言い出しても驚かないよ。
そう言えば、デスマーチ先生をあと二体召喚したはずたけど、どこにいるの?
「カレらはワタクシにマスター達の護衛ヲ託シテ顕現を解キまシタ。ワタクシらは、顕現シテイルだけで、マスターのマインドを消費シテしまウが故、彼ラも断腸の思イだったでショウ」
なるほど……ん、マインド?マナじゃなくて?
「ハイ。マスターがワタクシ達ヲ召喚なさル時ハ、マナが消費されマスが、ソレを維持されル場合は、マスターの精神力たるマインドが消費されマス。今回マスターが御自分のマナを越エて召喚をなさレタ為、マインドを代替使用シ、マインドダウンを引き起こさレタのでショウ」
マジか……いや、マインドダウンが何かは知らないけど、無理に召喚をしたってことは、分身二体とデスマーチ先生三体で、私って5マナもないって事でしょ。
キツイわぁ……4マナじゃあ、デススモークくらいしか使えないじゃん。デビルスモーク使えないじゃん。
「イエ、申シ上げにくイのデスが、マスターのマナは、1デス」
……え?
ごめん。よく聞こえなかった。もう一回言って。
「マスターは1マナしかお持チではありまセン。自然回復ニよって、使えるマナが回復シタだけデス」
はっはっは。うっそだー。だって、私、最後にデスマーチ先生を三体同時召喚したもん。
「ハイ。デスから、ニマナ分もマインドで代替シタのでマインドダウンに。モシ、もう一体でもワタクシを召喚サレていたら、確実にマスターはご逝去されてイたでショウ。このヨウな無茶はお止めにナルよう進言申し上げマス」
無茶して連龍陣かよッ!
ひでぇよ……そんなのってねぇよ……せっかく、召喚能力あって、なんとかなるって思えたのに、1マナの闇縛りってほとんど選択肢ねぇじゃん……
「ソコで、コレの出番デス。」
デスマーチ先生、今、それをどこから取り出したんですか?
ていうか何、デカイ石?岩?やたらキラキラしてるけど、なにこれ?
「鬼カラ取れタ魔石でございマス。コレを取り込ム事デ、マスターのお悩ミは解決さレルでショウ。サア、グイッと」
えぇ……私、岩食うの?
まあ、粘体だし、できない事もないだろうけど……
牙立てたら折れちゃいそうだから丸呑みして、ゴクンと……
む、なんかキタ!なんかこう、身体の内側から力が漲ってくる!
言うなれば、そう……「1マナ溜まった」って感じだな!
「おメでとうございマス。これで、マスターの手中ニ世界がマタ一歩近付きまシタ。外のモンスターの魔石の質はイマイチデスが、迷宮ニ行ケバ、質のヨイ魔石が手ニ入るでショウ」
いや、世界征服とかしないからね。
いくらマナが溜まっても、私自身は所詮、ねじれる者ボーンスライムだし。
「アヤカシ様と道化師さんは何のお話をされているのでしょう?私もお話したいです!」
あ、ごめんね狐ちゃん。そう言えば、いたんだったね。無視してた訳じゃないんだよ。
ところで、何で私の事をアヤカシ様っ呼んでんの?
「……?」
コテッと首を傾げる狐ちゃん。うん。可愛いけど、全然伝わってないね。シモベとやらじゃないから通じないんだろうか?
「お嬢サマ。マスターは、呼び方ノ理由ニついてお尋ねデスよ」
「道化師さん、ありがとうございます!えーと、アヤカシ様はアヤカシ様なので、アヤカシ様とお呼びさせて頂いています!」
なるほど、分からん。てか、デスマーチ先生もさっき似たような答え方してたよね。自分ルールで動く人多くない?もっとユニバーサルな説明を心掛けようよ。
それと、デスマーチ先生は普通に喋れるのね。人型ずっこい。
「あっ!アヤカシ様というのは、私が読んでいた英雄譚に出てくる方です。その挿し絵にそっくりだったので、ついそう呼んでしまいました」
私にそっくりな見た目って絶対良くないヤツだよね。祟り神とか、呪いの化身とかそこら辺だよね。別に、いいけどさあ。
見た目と言えば、狐ちゃんってすっごく良い娘だね。私の外見って直視に耐えるようなものじゃないと思うんだけど、目を反らさないで見てくれる。
本当に心根の優しい娘だよ……
私もこんな娘が欲しかったなあ……まあ、結婚すらしてなかったんだけどね。
その後も、デスマーチ先生を介してお喋りをした。
狐ちゃんの名前って、「春姫」って言うんだって。ぽかぽか暖かい狐ちゃんにピッタリの名前だね。
狐ちゃん、もとい春姫ちゃんがなんであんなところにいたのか聞いてみると、なんでも、親に勘当されて売りとばされちゃったんだって。
その経緯を聞いてみたけど、……うん。絶対騙されてるよね。こんな良い娘が寝惚けて大切な物を食べちゃうわけないし、そもそも、そんなところで寝るのもおかしい。
たぶん、騙したであろう人物がどうなったか聞いてみると、あの鬼に潰されたらしい。
………チッ。生きてれば闇文明の威信をかけた拷問(具体的には、そいつの周りにリビング・デッドとへドリアンを召喚しまくる)をしてやろうと思ったのに、死んだんじゃどうしようもない。
いや、復活系の能力も闇文明には多いけど、そいつを特定できなきゃ使えないだろうからどうしようもない。
それで、春姫ちゃんに帰りたいか聞いてみたら、勘当されてるから帰れませんだって。
私は絶対騙されてるだけだと思うんだけどなあ……
まあ、よく考えたら、そんな簡単に騙されて娘を売り飛ばすような親に、春姫ちゃんは任せられない。
それで、行きたいところがないか聞いてみたら、オラリオってところに行きたいって言ってたよ。
なんでも、迷宮があるらしいよ。迷宮だよ!迷宮!冒険と魔石の匂いがするね!
私もロマノフとかだったらガンガン行ってた自信があるね!
ねじれる者ボーンスライムな私にとってはノーセンキューだけど、春姫ちゃんの笑顔のためならボディーガードを頑張るよ!私、ブロッカーだからね!
それと、オラリオには神様がたくさんいるらしいよ!
神様かあ……キキ&カイカイとかゲキ&メツとかかなあ……わーお魔境!なんか行きたくなくなってきた。
まあ、春姫ちゃんを残念がらせたくないから行くんだけどね。
魔石のためじゃないよ。ホントダヨ。
という訳で、目指せオラリオだよ!
◆◇◆◇
道中で出てきた敵は、襲ってくるや否やデスマーチ先生の能力で絶命したから、私の出番全く無かったよ。
全然ボディーガードできてないね。
それは別に良いんだけど、春姫ちゃん、なんでそんなニコニコ笑顔で私を抱き上げて移動するのかな?
私ってリビング・デッドだよ。超ばっちいよ。
いつか春姫ちゃんの柔らかいおててに発疹が出るんじゃないかって、ずっとビクビクだよ?
私の身体の感触とか気持ち悪くないの?
汚いから放しなさいって伝えたかったけど、デスマーチ先生が聞こえないふりして無視してたせいで、抱えやすいようにずっと身体を圧縮してるはめになったからね。
デスマーチ先生、絶対私に忠義とか誓ってないよね。
絶対私で遊んでるよね。
あ、春姫ちゃん、それはそうと絶対私の事落とさないでね。たぶん、貧弱なねじれる者ボーンスライムボディは、落下の衝撃で十分死ねるから。
つーかデスマーチ先生、何でこっちのセリフは訳すんですか?さっきのも絶対聞こえてましたよね?
春姫ちゃんも、「了解しました!絶対放しません!」じゃないよ。そっと地面に置いてくれればそれでいいからさあ。
弾ける笑顔で私を抱えてるけど、何がそんなに楽しいんだろう?
もしかして春姫ちゃんってアレ?
キモい系を可愛いとか言うタイプ?私、キモい系に収まるレベルじゃないよ?
闇の住人にすら耐えられない闇だよ?
はぁ……春姫ちゃん変わってんな……まあ、楽しいなら良いけどさ……
英雄譚「アヤカシ様」はオリ設定です。
美女と野獣の設定を重くしたような童話をイメージしていただけたら大体合ってます。