ダンジョンにねじれる者がいるのは間違っているだろうか   作:屈曲粘体

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治療する者ボーンスライム

 これは、…………女の子?―――怪我してる!?巻き込んじゃった!?

 

……いや、それはないか。さっきのに巻き込まれたのなら、怪我なんかしてるはずがない。

 だって、脅かしはしたが、見た目にそぐわない力の無さを覚られないために直接攻撃はけっしてしなかったのだから。

 おそらく、最初の騒ぎはあいつらがこの娘に暴行を働いていたのだろう。酷いことをする。……って、呑気にそんな事を考えてる場合じゃない!早く治療しないと!

 

……治療……医者……アイツか。いや、でも召喚するにはマナが……春姫ちゃんなら……でも、ショックを受けたりしないかな……いや、私と春姫ちゃんはスキルで繋がってるから目を瞑ったままでも大丈夫か。

 

 春姫ちゃん。ちょっと目をつむったまま聞いてくれる?

 

 

「目を閉じたままですか?わかりました」

 

 

 目を閉じたままで、私にフェアリー・ライフを使ってくれないかな?

 

 

「新しい修行でしょうか?了解しました!――すくすく育て、大きくなーれ!歌う妖精。フェアリーいい曲。全部いい曲。たくさん聴いて、大きく育て【フェアリー・ライフ】!」

 

 

 キタキタキタ!一マナ溜まった感覚だ!これでいける!感謝するよ春姫ちゃん!それじゃあ、

 

 

―――3マナ消費して、暗闇に潜む者バット・ドクター召喚。

 

 

 目の前に現れたのは頭に釘が刺さり、全身に包帯を巻いている骸骨。

 

 

「……マスター、俺をお呼びですかい?」

 

 

 ああ、そこに倒れてる女の子を助けて欲しいんだ。

 

 

「ふむ……どうやら、このお嬢さんはまだ生存していらっしゃるみたいですぜ」

 

 

 いや、それはわかるんだけどさあ……なんとかなんない?一応医者でしょ?

 君しか頼れる人がいないんだよ。

 

 

「俺は死者専門で生者は畑違いなんですが…… 分かりました。マスターにそこまで言われたら断れねえ。診察くらいしかできませんが、やれるだけやりましょう」

 

 

 ありがとう。助かるよ。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「出血多量、内臓損傷、栄養失調、その他諸々。かなり深刻ですが、自己治癒も起きています。このまま放置しても、八割方生き残るでしょう」

 

 

 それって、二割は死ぬってことでしょ!?

 なんとかできないの!?

 

 

「無理言わんでください。俺みたいな日陰者には死者の治療はできても、死なせない治療は無理だ。せいぜいが止血程度の応急処置です。」

 

 

 そんな……

 

 

「ですが、春姫お嬢なら話は別だ。患者のお嬢さんは案外しぶとい。生命力を直接与えれば、勝手に全快するでしょう」

 

 

 それは……

 

 

「改めて言いますが、八割方は生存します。初対面の相手なら、助けた時点で義理は果たしてるんじゃないですかい?」

 

 

 それは、そうなんだけど。

 

 

……ねえ、春姫ちゃん。

 

 

「どうなさいましたか?」

 

 

 春姫ちゃん。

 私に助けたい人がいてね。その人を助けるには春姫ちゃんの力が必要でね。でも、その人を助けようとすると春姫ちゃんが傷ついちゃうかもしれないんだ。

 それを分かった上で答えてほしい。

 春姫ちゃん。私を助けてくれないかい?

 

 

「助けます!」

 

 

 ありがとう春姫ちゃん。

 それじゃあ、目を開けてくれるかい?

 

 

「はい!」

 

 

 力強く目を開ける春姫ちゃん。

 うん。春姫ちゃんの様子はとりあえずは大丈夫そうだ。

 

 この娘を助けるためには生命力が必要なんだ。春姫ちゃんの呪文で助けて欲しい!

 

 

「お任せください!――すくすく育て、大きくなーれ!歌う妖精。フェアリーいい曲。全部いい曲。たくさん聴いて、大きく育て【フェアリー・ライフ】」

 

 

 倒れている女の子が、春姫ちゃんの呪文によって優しく暖かい光に包まれる。

 

 曇り無い春姫ちゃんが眩しい。

 私は最低だ。こんな頼み方、断れるはずがない。

 

『クライアントの要望だから、こんな風によろしく』

『この資料急ぎだから明日まで、時間厳守で』

 

 ああ、あんなに苦しんでたのに、あんなに辛かったのに、あんなに嫌いだったのに同じ事をしてしまってる。それも、一番大切な人に。

 

 

「―――世界は神羅によって生まれ、進化の力で満ち溢れる【エボリュート・パワー】」

 

 

 ああ、そしてなんて身勝手なんだ。

 勝手に春姫ちゃんを誘導しといて、私は春姫ちゃんの答えを喜んでしまっている。

 

 

「如何でしょうか?」

 

 

「……ふむ。流石はお嬢だ。良い腕をしている。ちっこいお嬢さんの容態は安定している。じきに目を覚ますでしょう」

 

 

「ありがとうございます!やりましたよ、アヤカシ様!」

 

 

 ごめ……ありがとね春姫ちゃん。私の都合に付き合ってくれて。辛くはなかったかい?

 

 

「いえ!私はアヤカシ様に助けられました。ですから、今度はアヤカシ様を助けられて、とっても嬉しかったです!」

 

 

 春姫ちゃん……!

 知ってたけど、やっぱりすっごく良い娘だ。

 罪悪感がマッハだけど、きっと抱くべきなのはそうじゃなくて感謝の方だろう。だから、感謝の気持ちは行動で示そう。具体的には、今夜の夕食で。

 

 

「……水を差すようで申し訳ありませんが、一段落したところでお耳に入れたいことが」

 

 

 改まってどうしたの?

 遠慮なんか必要ないから、ズバッと言ってちょうだい。

 

 

「緊急性が低かったんでさっきは省略しましたが、そのちっこいお嬢さん、麻薬らしきものを摂取した形跡がありました。このお嬢さんは、その酒を手に入れようとしてこんな目にあったんじゃないでしょうか」

 

 

 ま、麻薬!?麻薬って、あの麻薬だよね!?こんなちっちゃい娘がどうして!?

 

 

「マスター、落ち着いてください。麻薬ではなく、麻薬のようなものです。個人差はありますが、依存性を持ち、致死性や毒性はありません。察するに、異常な完成度の酒ってところでしょう」

 

 

 いや、麻薬レベルの依存性がある酒って充分危険物でしょ!そりゃ、毒が無いなら多少はいいだろうけどさ、全然安心できないよ!?

 それに、日本育ちの倫理観としては、小さい娘の飲酒はそれだけでマズイし。

 なんとかできないかな?例えば、その酒の記憶を消すとかどう?

 

 

「マスターもご存知の通り、呪文で記憶を消しても感情は残ります。効果はあるでしょうが、根治には至らないでしょう」

 

 

 それでもやらないよりはマシなんでしょ。だったら私はやるよ!

 えーと、さっきと違って深い記憶を探しだして消さなきゃいけないから……これだね!

 

 

―――2マナ消費して、マインド・リセットを発動!

 

 

 頭の中に膨大な情報が流れ込んでくる。きっとこれがこの娘の記憶だろう。ピーピング成功だ。

 えーと、この娘の名前はリリルカ・アーデちゃんで、職業はサポーター、使用可能な魔法はシンダー・・エラで、……って、思ったより発動中の魔力消費が激しい。ちょっと頭もクラクラする。

 異世界でもピーピングによる遅延行為はご法度って事ですか。世知辛いね。

 

 それじゃあ、私も気張るとしよう!

 私のために春姫ちゃんが頑張ってくれたんだ。ここで私が甘えるのは違うだろう!

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 見つけた。私はついに見つけたぞ。

 神酒ソーマ、ソーマファミリア、これがリリルカちゃんを縛り付けて苦しめている元凶か。

 私は覚えたからな……!

 さあ、神酒の記憶は消去しよう。

 勝手に間違いだと断じて記憶を消すのは、私の独り善がりかもしれない。だが、それならそれでもいい。

 

 今の私は闇文明。死、犠牲、そして、利己を表す文明だ。

 だから、私は私のためにこの娘を助けよう。

 それが正しいか間違っているかは関係ない。

 利己的に傲慢に私が助けたいからリリルカちゃんを助けるんだ。

 

 私のためにリリルカちゃんの中から消えろ。神酒ソーマ!

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「……遅い!」

 

 

 現在の時刻は午後七時。普段、春姫達が帰宅する時間から一時間以上経過している。

 春姫達の帰宅を今か今かと待っていた笑顔はすっかり焦りに取って変わられていた。

 ツインテールがヘスティアの不安や焦燥感に呼応するようにピコピコと忙しなく揺れている。

 

 

「まさか、春姫君達の身に何かあったんじゃ!?」

 

 

 居ても立ってもいられなくなったヘスティアが扉に駆け寄りドアノブを回そうとした時、

 

 

「―――ふぎゅ!?」

 

 

 見計らったように開いた扉がヘスティアの顔面を強打した。

 思考を真っ白に塗りつぶすほどの衝撃にヘスティアは顔を押さえうずくまって呻き声をあげて悶える。

 

 

「はわわわ、ヘスティア様申し訳ありません!大丈夫でございますか!?」

 

 

 頭上から降ってきた声に、ヘスティアはガバッと体を起こす。

 次いで、春姫の姿を確認すると、勢いよく肩をガシッと掴んだ。

 

 

「無事で良かった……!ボクは、春姫君が質の悪い冒険者に襲われたり、アヤカシ君がモンスターに間違われて上級冒険者から退治されたんじゃないかと気が気じゃなかったよ!」

 

 

「心配お掛けして申し訳ありませんでした」

 

 

「良いのさ春姫君。ボクは君達が無事に帰って来てくれたからそれだけで満足さ。冒険に熱中していたのかい?その気持ちも分かるけど、無茶はしないでおくれ。ボクは君達に死なれるとかなりショックだよ。柄にもなく泣いてしまうかもしれない」

 

 

 よよと泣き真似をして冗談めかしてそう言うヘスティアから、春姫は気まずげに顔を反らす。

 心なしか、春姫の隣にいる「アヤカシ」までバツが悪そうにしているようにヘスティアは感じられた。

 三人の間を生ぬるい空気が通り抜ける。

 

 

「おいおい、なんだいその反応は?不安になってくるじゃないか。もしかしてやっちゃったのかい、何か無茶な事を」

 

 

 ヘスティアが引き攣った笑いを浮かべながら向けた問いかけに、「アヤカシ」は、まるで悪戯がバレた子供のような様子で、扉の外から眠っている少女を運んできた。




暗闇に潜む者バット・ドクター

文明 :闇
コスト:3
種族 :ゴースト
パワー:2000

 このクリーチャーが破壊された時、他のクリーチャーを1体、自分の墓地から手札に戻してもよい。


マインド・リセット(呪文)

文明 :闇
コスト:2

相手の手札を見て、その中から呪文を1枚選び、捨てさせる。


エボリュート・パワー(呪文)

文明 :自然
コスト:2

このターン、バトルゾーンにある自分のクリーチャー1体のパワーは+3000され、シールドをさらに1枚ブレイクする。そのクリーチャーが進化クリーチャーであれば、カードを1枚引いてもよい。
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