バカとウチと看病part01
くしゅんっ
やってしまった…美波と約束してたのに。
「アキくん。そわそわしてるみたいですが何かあるのですか?」
「べっ別に何も無いよ…姉さんはまだ出かけなくて大丈夫なの?」
「アキくんが心配で、このままでは出かけられません」
「ただの風邪だから大人しく寝てれば大丈夫だよ…って何で布団に入ろうとしてるの!?」
姉さんが居ない方が早く治る気がしてならない。
PiPiPiPiPi……
あ、携帯が鳴ってる。たぶん美波だろうな。
出かける前に連絡くれるって言ってたし。
「アキ、おはよう」
電話に出たら、やっぱり美波だった。
「おはよう、美波」
「どうしたの?声が少し変よ」
「ごめん、ちょっと風邪引いちゃって…」
「もぅ何やってるのよ」
一応病人なので今は布団で寝てます。
「本当に悪いんだけど移しちゃうといけないから…」
「何、みずくさいこと言ってるのよ。お見舞いに行ってあげる」
「ええっ、うちに来ても僕こんな状態だし…」
「バカね、そんなの気にしないわ。ウチが看病してあげるわよ。何か欲しい物はある?」
少しは気にして欲しい。美波が看病してくれるのは嬉しいけど、こんな姿見せるのは恥ずかしいのに…
「えっと…今は特に無いかな」
「じゃあ一時間後くらいに行くからね。ちゃんと起きて待っててよ、じゃあね」
なんて斬新なお見舞いなんだろう。病人を寝かさないなんて。
さて、そうなると姉さんが居ると、都合と僕の具合が悪くなる気がする。
「アキくん、美波さんからの電話だったのですか?」
「う、うん…でもなんで美波ってわかるの?」
「最初に挨拶してましたからね。それで用件は何だったのでしょうか」
「お見舞いに来てくれるって」
「そうですか。では姉さんは出掛ける支度をしてきますね」
あれ?てっきり不純異性交遊とか言い出すかと思ったんだけど。
さすがにお見舞いだと、そんなこと言ったら失礼になるもんね。せっかく来てくれるのに。
美波は一時間後って言ってたけど、姉さんはそれまでに出掛けてくれるのかな。
なんかボーっとしてきた…………
「……アキくん」
ん…なんか揺さぶられてるな。
「……アキくん。起きないとチュウをしますよ?」
「わぁっ、起きたっ、起きたよっ」
布団を頭まで被る僕。
「アキっ、大丈夫?」
あれ?美波の声?
恐る恐る布団から顔を半分だけ出して見てみると…
美波が心配そうな顔をして立っていた。
「美波、今日はごめん」
「ううん、いいのよ。それより具合はどう?」
「ちょっと頭がボーっとして…少し寒気がするかな」
そっと手を出す美波。
僕のおでこで熱を測ってるみたいだ。
「ちょっとって…すごく熱いわよ。おとなしく寝てないとダメよ」
たぶん美波が触ってるからだと思うんだけど…
それ以外の原因は姉さんが色々とちょっかいを出してくるからなんだけど。
……って姉さんは?
「アキくん…姉さんより美波さんのほうがいいんですか?」
「……布団に入ってこないだけ美波のほうが良いよっ」
背中から声を掛けてくる姉さんにそう言った。
「……アキが添い寝して欲しいって言うなら、ウチ…」
ポッと頬を染めながら、もじもじしている美波。
僕の風邪が美波にも移ったんだろうか。おかしなこと言い出してるよ。
すると僕の背中のすでにおかしなことをしている人が布団から出て
「では私はそろそろ出掛けてきます。美波さん、後のことはよろしく頼みますね」
「はい、後のことは任せてくださいっ」
「後のこと?」
「そうよ。風邪が治るまでアキの面倒はウチが見るのよ」
すごく嬉しそうな笑顔の美波。この笑顔を見ると落ち着くな。
…………ん?なんか変な単語が聞こえたような?
治るまでとか面倒とか…
「アキくん。姉さんは、しばらく出掛けてきますが美波さんを困らせてはいけませんよ」
「うん、もちろんだよ……って姉さんが居ない間ずっと美波が居てくれるの?」
「はい。病気のアキくんを残して日本を離れるのは心配だったのですが美波さんに快諾して頂いたので」
「そうよ、アキ。おとなしく看病されなさい」
「美波さん。アキくんに何かあった時は、この番号に電話してください。処理方法の説明をしますので」
……何の処理か聞くと具合が悪くなりそうだ。
「えっと…美波は、うちに泊まるの?」
「そうよ。アキが治るまで…ずっと治らなくても良いわっ」
美波は本当に僕の風邪を治す気があるんだろうか。
「ずっとって言うのは冗談だけど…冗談じゃなくても良いんだけど…」
頬を染めて、もじもじする美波。
さっきから美波の様子がおかしい。
やっぱり僕の風邪が移ったんでは…
「姉さん良いの?」
「良いも何もアキくんの風邪が治るまでです。それともアキくんはその状態で美波さんに変な事をするつもりですか?」
そんな事をしたら、さっきの処理方法の電話番号に連絡が行くだろう。
「それに瑞希さんだけと言うのは不公平ですからね」
なんでここで姫路さん?僕が頭に『?』を浮かべていると
姉さんは美波と僕を交互に見て…
「この前とは状況が違いますが…アキくんはもっと勉強しないといけないですね」
勉強をしなければいけないのは確かだけど風邪を引いてる時くらいは勘弁してくれても良いのでは…
「例えば姉萌えとか」
その勉強をするくらいなら九九の七の段を復習します、お姉様。
「もし美波さんに変な事をしたら姉さんは、すぐ日本に戻ってきてアキくんに……」
「何するのっ?酷い事?とにかく酷い事をするんだねっ」
ガクガクと震えだす僕。風邪のせいで寒いからじゃない。
きっと処理を実践する気なのだろう。
「いいえ……チュウをします。とびっきりすごいのを」
「酷い事のほうがマシだっ」
わざわざ実の弟にチュウをするためだけに外国から日本まで戻って来るなんて…
なんて地球と弟に優しくない姉なんだ。
昔から言った事は実行する人だから本当にするだろう。
麗しき姉弟愛に僕の具合の悪さはピークに達した。
「ちょっと寝るね……」
この一言を言うのが限界だった。
目が覚めたら部屋の中にいるのは美波と僕だけだった。
「あ、アキ。目が覚めた?」
「うん、姉さんは出掛けたの?」
「アキが寝た後すぐ出掛けたわよ」
「そっか…美波、本当にごめん。せっかくの休みなのに」
せっかくの連休なのに僕が風邪を引いたばっかりに美波に迷惑を掛けてしまった。
でも美波は……
「何言ってるのよ、こんな時くらい甘えて良いのよ…本当は、いつでもいいのに」
僕のおでこの髪を優しく払いのけながら、葉月ちゃんをあやしている時と同じ優しい表情。
すごく、ほっとすると同時にドキドキしてる…風邪のせいじゃない気がする。
「最近、美波に迷惑掛けてばかりだね」
「ふふっ、気にしなくて良いわよ。じゃあ風邪が治ったらウチが甘えさせてもらおうかな」
「僕に出来る範囲で良ければ…」
「早く治してね…川に飛び込むとか無理ばっかりしてるから風邪引いたりするのよ」
「えーっと…」
昨日家に帰ってきて---
「ただいまー」
「アキくん、お帰りなさい…どうしたのですか?」
「ちょっと川に飛び込んだんだ」
「姉さんが暖めて上げますね」
「わぁっ、いきなりズボン脱がそうとしないでよっ。普通は川に飛び込んだ理由を聞くんじゃない!?」
「過去を振り返っても現在の状況は変わりません。ならば最善の行動を取るべきだと思うのですが」
「言ってることは正しくても弟のトランクスまで脱がそうとするなーーっ」
姉さんの最善の行動の基準が良く判らない。
「自分で脱げるよっ…さっき電話でお願いしたと思うんだけど、お風呂沸いてるよね?」
「はい。じゃあ姉さんがアキくんを抱っこしてお風呂場まで連れて行ってあげますね」
「すいません。自分で歩けるのでバスタオルを一枚持ってきて頂いてもよろしいでしょうか」
渋々といった感じで姉さんはバスタオルを持ってきてくれた。
「ところで姉さん、今夜出発じゃなかったの?」
「姉さんの勘違いでした。今夜のチケットを取っていたと思ったのですが明日のお昼過ぎでした」
「へぇ、姉さんが勘違いするなんて珍しい…」
えっ!?すごくヤバい。
たぶん美波は明日の午前中に来るだろう…姉さんに美波に膝枕しているのがバレたら
不純異性交遊の現行犯でお仕置きされるだけならまだしも
姉さんにも膝枕をするのを強要されるだろう…僕の少ない平穏な日々が音を立てて崩れていくっ。
「アキくん、どうしたのですか?」
訝しげに僕の顔を見てる姉さん。
カンが鋭い姉さんだから、ここで考え込むのはマズい。とりあえずお風呂に逃げよう。
「なんか寒気がするから、すぐお風呂に行くねっ」
逃げるように風呂場へ駆け込む。
「どうしようかな……」
湯船に浸かりながら考え込む…でも僕の頭だと、いくら考えても何も思いつかない。
…………いけない、意識が飛びそうになってる。ちょっと浸かりすぎたかな。
とりあえず、お風呂から上がってから考えるかな。うーん、頭がボーっとする。
ガラ……
窓を開けてると空気が冷たくて気持ち良いな。
布団の上で考えるかな…………
「……で、気が付いたら窓を開けっ放しで寝てて布団も掛けてなかったみたいだから風邪引いたのかな」
「結果は一緒よっ。アンタがバカだからでしょうがーーっ」
美波の一撃は布団の上からでも僕の意識を刈り取るのに十分な威力だった。
美波は看病に来てくれたのか、僕にトドメを刺しに来たのか、どっちなんだろう…
僕は薄れゆく意識の中でそんなことを考えていた。