ピンポーン ピンポーン
……ん?雄二達が来たのかな。美波なら鍵を持ってるし。
「はい、今開けます」
ガチャッと玄関のドアを開けると…
「よぅ明久、元気にくたばってるか?」
「雄二の顔見たら具合が悪くなったんだけど…」
「まぁそう言うな。皆も心配して来てくれたんだからな」
雄二以外の皆には素直に心から感謝しよう。
「……吉井、大丈夫?」
「吉井君、歩き回って大丈夫なのかな」
霧島さんと工藤さん、クラスが違うのにお見舞いに来てくれるなんて嬉しいな。
「なんじゃ、明久起きてて大丈夫かの?」
「…………お見舞い。今日撮ったばかり」
そう言って何枚か写真をくれるムッツリーニと秀吉。
秀吉の笑顔と新作の写真を惜しげもなくプレゼントしてくれるムッツリーニ。
来てくれるだけでもありがたいな。
「姫路は今旅行に行ってるから今日は来れないしな」
皆を連れて来てくれたから雄二は、もぅ帰っても良いんだけど。
まぁせっかく来てくれたんだから家の中に案内してやるか。
「じゃあ、中へどうぞ」
「そうじゃな、明久の風邪が悪化しても困るしのぅ」
「「「「お邪魔しまーす」」」」
「さすがに僕の部屋に五人はきついな」
前に皆が来た時は闇鍋をやった時だったっけ。
リビングだったから、そんなに気にならなかったけど…
「リビングの方でも良いかな?」
「ボクたちは何処でも良いけど…吉井君は大丈夫?」
「重ね着して部屋の温度を少し高くしてれば大丈夫じゃないかな」
「じゃあ移動するか」
「適当に座ってて…今コーヒーでも淹れるから」
「…………おかまいなく」
「明久、俺たちは自分の分は買ってきてあるから、お前は無理しないでじっとしてろ」
「……吉井の分もある。あと、これお見舞い」
そう言って花束を渡してくれた。そのまま飾れるみたいだ。
「ありがとう。霧島さん」
「お前、少食だからな。食べ物より、そっちの方が良いだろ」
「そうだね。みんな本当にありがとう」
みんな、そこまで気を使ってくれてるのか。持つべき者は友達だなぁ。
「腹が減ったら食ってもいいぞ。味は保障しないがな」
雄二が今度遊びに来たら、その辺の雑草を引っこ抜いてサラダだと言って食べさせてあげるよ。
「吉井君は紅茶とコーヒーどっちが良いのかな?」
工藤さんがみんなの分の飲み物を用意している。
そういえば、さっき美波にジュースが欲しいって言ったっけ。
美波が戻ってくるまでは我慢するかな。
「僕は大丈夫だよ」
「風邪引いた時は水分取って汗かいた方が良いんじゃないのか」
「さっき、たくさん水分取ったから」
「まぁ明久がそういうのなら良いのじゃが…」
「しかし島田が途中で帰るとは思わなかった」
「?」
「てっきり明久が治るまで看病するもんだと…」
「そうじゃのぅ」
「…………(コクコク)」
「そうだね~。ボクももっとくっ付いてるかと思ってたのに」
みんな、それは妄想だ…と言い切れないのが辛い。
「で、どうなんだ。明久?」
「どうって何がさ?」
「とぼけるな、てめぇ。島田がどんなお見舞いしたかだよ」
「ボクも気になるな~。物凄いラブラブなヤツじゃないのかな~?」
「…………好きなだけ甘えて良いとか」
「例えば、おでこで熱計るとかじゃな」
「……おじやを食べさせてくれるとか」
くっ、秀吉と霧島さんまで…しかも全部本当の事だから反論できないっ。
みんな超能力でも使えるのか。
「その様子だと当たらずとも遠からずって感じだな」
「やっぱりラブラブな事やってたんだ~」
「仲睦まじいのぅ」
「……雄二、風邪引いて」
「むっ無茶言うなっ」
「…………羨ましい」
「それならムッツリーニ君もボクとやってみる?」
「…………くっ」
必死に鼻血を堪えるムッツリーニ。
そこで出血だけは止めて欲しい。御飯が食べにくくなるから。
どうせ出すなら洗い流せる風呂場でお願いします。
「ただいまー」
美波が帰ってきたみたいだ。
「明久の姉貴か?」
「姉さんは今日から海外に行ってるよ」
「じゃあ、誰が…」
ガチャッ…
「アキ、ただいま。ずいぶん大勢来てるのね?」
「しっ、島田っ!?帰ったんじゃないのか?」
「そうよ、坂本。着替えを取りに帰ってたのよ」
雄二は何をそんなにびっくりしてるのだろう?
「島田よ。着替えとは何じゃ?」
「ウチ、玲さんからアキの面倒見るように頼まれてるから、しばらくここに泊まるのよ」
「ええっ、あの姉上殿からじゃとっ!?」
いつもポーカーフェイスか笑顔の秀吉が驚いたのは久しぶりに見た気がする。
まぁ秀吉が驚くのも無理は無いよね…僕も聞いた時、自分の耳を疑ったもの。
「ねぇねぇ、それって吉井君と美波ちゃん、同棲ってこと?」
目を爛々と輝かせて聞いてくる工藤さん。
でもムッツリーニの右腕を抱き締めてて胸が当たってるんじゃないかな。
そろそろムッツリーニも限界そうだ。
「ムッツリーニ、ヤバかったら風呂場でお願い」
「…………(コクコク)」
良かった、ムッツリーニも判ってくれたみたいだ。
ダッシュで風呂場に向かってくれて…そして鼻血が噴出す音が聞こえてきた。
今日はムッツリーニすごく頑張ってたな。
「どっ、同棲って…(ポッ)」
美波が頬を染めて…僕の左腕を捻ってる。
今日は少し頭がボーっとしてるから痛みの感覚が麻痺しかけてるのでそんなに痛くないけど…
逆を言えば、限界が判らないから捻じ切られる前に止めた方が良さそうだ。
「美波、姉さんの部屋を使って欲しいから荷物はそっちに置いて来たら?」
「えっ?あっ、そうね。そうさせてもらうわね」
荷物を持って美波が部屋から出て行った。
良かった、『隻腕の観察処分者』なんていうちょっとかっこいいあだ名を付けられなくて。
僕が、ほっと胸を撫で下ろしていると
「明久っ、てめぇこれはどう言う事だっ!?」
「どうもこうも雄二の変な電話で僕がズボン濡れたままにしていたからだろ」
この際だから風邪を引いたのは雄二のせいにしてしまおう。
「くっ…あの時かっ」
すごく悔しそうな雄二。一体何があったというのだろう?
「……約束」
そして対照的にすごく嬉しそうな霧島さんがやってきた。
「でもっ、お前あの時、同棲の予定は無いって言ってたよな?」
「同棲と言うか、美波が泊まりで看病してくれるって今朝まで僕も知らなかったんだ」
これは嘘は付いてないな。
「…で、結局どっちなのかな?」
工藤さんが聞いてくる…やっぱり答えないとダメなのかな。
「たぶん同棲じゃないと思うよ。連休中、看病してもらうだけだし」
「そっかー、ちょっぴり残念だな」
なんで工藤さんが残念がるんだろう。
「ほらっ、翔子。明久が、ああ言ってる事だし、この約束はまだ無効だな」
「……雄二、往生際が悪い。そんな風に育てた覚えは無い」
ガシッと雄二の顔を掴む霧島さん。
「うぎゃぁぁぁっ。おっ、俺はお前に育てられた覚えはねぇっ」
「……仕方ない。最大限の譲歩をしてあげる」
「なっ、なんだ?その前に手を離してくれっ。顔が潰れるっ」
ここまで雄二の頭が潰れる音が聞こえてきそうだ。
「……美波の看病と同じ日数だけ一緒に暮らす」
「わっ、判った。その条件で良いっ」
「……あと」
「まっ、まだあるのかっ?」
「……この件で吉井に何かあった場合、即結婚。拒否は認めない」
「そっ、それはっ、最悪の条件じゃねぇかっ。なんでっ?」
「……吉井が風邪を引いたのは雄二のせい。妻の私は夫の責任も負わないといけない」
あ、霧島さんあの嘘信じちゃったんだ…ちょっと雄二に悪い事したな。
まぁ、いつか二人は結婚するだろうし、結果は一緒かな。
「まっ、まだっ、結婚も婚約もしてないのにっなんでお前が妻なんだっ」
雄二、そろそろ諦めないと本当に頭が潰れるよ。
「……雄二、返事は?」
「わっ、判った。その条件で良いっ。だから早く手をっ…」
雄二の顔に指の跡が付いてる。霧島さんの指って細くて綺麗だな。
霧島さんありがとう。
なんて思っていると美波が戻ってきた。
「アキ、ちゃんと寝てなくて大丈夫なの?」
そういえば少し頭がフラフラするかも?
「…………明久、すまない。全部汚れが取れなかった」
ムッツリーニ、ひょっとして今まで風呂場を掃除しててくれたのか。
「大体、血が取れてれば大丈夫だよ。ありがとう」
グッと親指を立てるムッツリーニ。
しかし風呂掃除もこなすなんて本当に多才なヤツだな。
「ほらっ、みんなっ!!そろそろ帰ってくれないとアキが寝られないじゃない」
手をパンパンッと鳴らしながら皆を送り出そうとする美波。
「そうじゃな。せっかく二人っきりになれるのに邪魔をしたら悪いのぅ」
「なっ、木下っ。ウチはべっ、別に二人っきりになりたいって訳じゃ…」
真っ赤になりながら否定する美波。
「そうだね、気が付かなくてゴメンね」
「あっ、愛子までっ」
美波が耳まで真っ赤になってる。
「…………妬ましい」
「ほらっ、ムッツリーニ君っ、二人の邪魔しちゃダメだよっ」
また右腕を抱き締めるようにムッツリーニを連れて行く工藤さん。
ムッツリーニ、今度は外で出してね。掃除しなくて良いから。
「明久っ!!」
「なっ、何?」
僕の両肩をガシッと掴む雄二……目が物凄く真剣だ。
「今回の事は仕方ない。俺にも落ち度があったからな」
「そう言ってもらえると助かるよ」
ちょっとだけ付いた嘘が気になるし。
「だがなっ…もし結婚するなら俺より先にしてくれっ」
「はぁっ!?」
「少なくとも俺の後だけはっ…最初の人生の墓場行きだけは避けたいんだっ」
雄二…そこまで追い詰められてるんだね。
でも僕の知り合いで一番最初に結婚するのは雄二だと思うんだ。
「……雄二、早速一緒に暮らす」
ガシッと雄二の襟首を掴んで引きずっていく霧島さん。
この二人に幸あらん事を。
みんなが居なくなったら寂しくなったな。
いきなり部屋の温度が5度くらい下がったみたいだ。
「アキ?みんなと飲み物飲んでなかったの?」
リビングの後片付けをしてくれてる美波。
そっか、コップの数を見てれば判るか。
「うん、美波が帰ってくるまで待とうかと思って」
「なんで?」
「美波が作ってくれるジュースが飲みたいな、と思ってさ…お願いしてたし」
「ふふっ、バカね。我慢しなくて良いのに…じゃあ、すぐ作ってくるわね」
キッチンの方へ行く美波は嬉しそうだった。