一人になったら、いきなり具合が悪くなったような気がする。
まぁ風邪引いてるのにあんまり寝てない気がするしね。
とりあえず美波に一言言って部屋に戻って大人しくしてるかな。
そう思って立ち上がろうとした時…
「おまたせ、アキ」
お盆にミックスジュースの入ったグラスを二つ載せて美波が戻ってきた。
「頂きます」
「どうぞ、召し上がれ」
うん、口の中に広がるフルーツの甘い味わい。
ほっとするな。
……こんなに美味しい物から、どうやったらあんな刺激的な物が出来るんだろう。
あ、ヤバい。タバスコジュース思い出しちゃった。
床をのたうち回るほどの辛さ…記憶の中の味なのに涙が出てくる。
「ちょっ、ちょっとアキ!?何泣き出してるのよっ」
「ご、ごめん。ちょっとタバスコを思い出して……」
「あ……」
何かを思い出してるかのように美波の動きが止まる。
そして……
「アキ、ごめんね…」
「美波…」
しばし美波と見つめ合い……
美波が申し訳なさそうに……
「刺激が足りなかったのね」
「違うからねっ!?」
「えっ…タバスコの味が忘れられないって」
「思い出したくないんだよっ」
むしろ忘れたいんですがっ…美味しかったジュースの味は覚えていたいけどね。
「違うんだ…」
何か考え込む美波。
そして……
「アキ、じっとしてるのよ」
「はい?」
何をする気だろう?
グラスを傾けてジュースを口に含む美波。
僕の頭を抱え込むようにして頬を染めて顔を近づけてきた。
ちょっと何してんのっ!?
「のぉーーーーっ!!美波っ、何する気なのっ!?」
「?(コクン)玲さんみたいに飲ませて欲しいのかなと思ったのよ」
それは間接じゃなくて直接になっちゃうよっ!?
「ごめん、美波。病人らしく大人しく寝るよ…」
「そう?ゆっくり休んでね」
美波がちょっぴり残念そうな顔をしていた気がした。
さて大人しく寝るかな。
…………ん?
シャンプーの良い匂いがするな。
目を開けてみると……美波と目が合った。
「あっ、アキ、起きちゃった!?」
「ん、美波?」
「さっ、さっきの続きしようとかじゃっ、全っ然ないのよっ」
さっきの続き?僕の口にタバスコでも流し込もうとしてたんだろうか。
とりあえず起きた方が良いかな。
「美波、ちょっと落ち着いて」
「うん」
「お風呂入ってから夕飯食べたいんだけど…」
「あ、お夕飯の支度出来てるわよ」
「ありがとう」
「着替え出してあげるわよ、タンスの中?」
「いいよ、自分で出来るよ」
「遠慮しなくて良いわよ。エッチな本とか出てきたら燃やすだけだから」
ふっ、甘いな美波。そんな判り易い所へ隠すほど僕はバカじゃない。
「じゃあ、上から3番目の引き出しの中に寝巻きが入ってたと思うけど」
「3番目ね」
美波が引き出しを開けて中を見ている。
「ねぇアキ?これは何かしら?」
なんだろう?寝巻き以外は、確か、たいした物は入ってなかったはずだけど…
美波が中の物を手に取って僕に見せる。
なんか黒っぽい水着にアミタイツみたいのが付いてるな。
お尻の所には可愛らしいボンボンみたいな丸い物が付いてる。
……って、バニーガールの衣装っぽいんですが。
「これ、ウチに着ろって言うの?」
いやいやいやいや、明らかに胸のサイズが合わないでしょ…なんて言ったら殺される。
何でそんな物がっ!?
「まだあるわよ」
そう言って次々と衣装を引き出しから出す美波。
メイド服、ナース服などなど…メイド服に至っては色違いで三着もある。
ご丁寧に先ほどのバニーガールのウサギの耳のカチューシャや
メイド服のカチューシャ、ナース服のナースキャップまで。
「いや、僕も全くさっぱり全然判らないんだけどっ!?」
「アキが着るんじゃないの?」
「僕がそんな物着る訳無いじゃないかっ」
「じゃあ誰が…」
一体誰なんだっ。僕に濡れ衣とメイド服を着せようとしているヤツはっ!?
……って、この家には僕と姉さんしか居ない。
僕じゃなければ姉さんだろう…と言うより、こんなことするのは姉さん以外考えられない。
「姉さんしか居ない」
「玲さん?…そういえば最初に会った時、ナース服って言ってたわね」
「全く、姉さんは僕の事なんだと思ってるんだろう」
「可愛くて愛しい一人の異性?」
「美波…それ全くフォローになってないよ」
「でもでもっ…ウチも負けないからっ」
「はっ?」
「なっなんでもないっ」
顔を真っ赤にして手をじたばたさせている美波。
何をそんなに慌てているんだろう。
「そっ、それよりもアキ、お風呂に入るんじゃないの?」
「そうだったね…でも着替え探すから、美波が先に入ってきて良いよ」
「ウチは後で入らせてもらうから今はいいわ。それよりお夕飯の支度するわね」
美波が部屋から出て行く。
とりあえず寝巻きを探すかな……
「あー、良いお湯だった」
バスタオルで頭をガシガシ拭きながらリビングへ入ると……
「お湯加減は如何でしたか、ご主人様」
メイドさんに出迎えられた。
「なっなっなっ……」
声にならない僕。
「ふふっ。どうしたのよ、アキ?…じゃなかった、ご主人様?」
さっきのメイド服を着た美波が居た。
美波って清涼祭の時のチャイナ服もそうだけど
スタイルは良いし、可愛いから何を着ても似合うな。
なんかドキドキが止まらない…これは確実にお風呂や風邪のせいじゃない。
「ご主人様?この格好変かな…じゃない、変でしょうか?」
「えっと……美波」
「なんでしょうか?」
「お願いだから普通に話してもらえないかな」
「そう?格好に合わせてるつもりだったんだけど…」
「なんか他人行儀みたいで寂しいよ」
「そっか、ごめんね」
「わかってくれてありがとう。それと…すごく似合ってて可愛いと思うよ」
「可愛い?ありがとう、ウチ嬉しい」
その場で、くるっと一回転してみせる美波。
今すぐムッツリーニを呼んで写真を撮って欲しいくらい可愛い。
でも他の人には見せたくないと思う自分も居る。
僕ってそんなに小さい人間だったかなぁ。
「じゃあ、お風呂入るまで、この格好でいようかな」
「なんなら持って帰っても良いよ」
「玲さんの許可なく上げちゃっていいの?」
「さすがにまずいか…ところで夕飯貰っても良いかな?」
「今すぐ支度するわね」
キッチンの方へ行く美波。
今回に限り、姉さんの趣味に感謝しよう。