僕は今
ドイツからの帰国子女で
水の抵抗の少ない体型で
怒ると簡単に人体を破壊して
料理がうまくて
ポニーテールで
笑顔が可愛いクラスメイトの女の子がメイド服を着て作った夕飯を
……メイドさんに食べさせてもらってる。
「あの…美波?」
「なぁに?」
「そろそろ『ダメよ』自分で食べようかなって…却下早すぎないっ!?」
美波の項目に予知能力も追加した方がいいかもしれない。
「アキが風邪を引くなんて滅多に無いんだから色々楽しみたいのよ」
確かに美波がメイド服を着て、あーんをして食べさせてくれるなんて
滅多にどころか、たぶん一生に一回しかないだろうから僕も楽しみたい。
「ウチは玲さんに頼まれたのもあるけど、それだけでアキの看病をしてるんじゃないの」
「そうなの?」
「そうよ。アキが友達になりませんかって言ってくれて、その言葉の意味が判った時からずっと……」
「ずっと?」
「アキに何かしてあげたいって思ってたから」
「……ありがとう」
そうだったのか。なんか今日は、やたらに尽くしてくれるなぁ、と思ってたんだけど…
それなら今日は甘えた方が良いかな。
「それに……」
「それに?」
「アキが風邪治ったら今日の分も含めて……今度はウチが甘えさせてもらうから」
僕も美波に何かしてあげたい……美波が望む事なら何でもしてあげたい。
「うん、僕に出来ることなら」
「ありがと……じゃあ最初は膝枕からね、メイド服着てもらって」
「着ないからねっ!?そこはせめて執事の格好にしてよっ」
前言撤回…せめて服装くらいは選ばせて欲しい。
「ふふっ、冗談よ」
「もぅ、びっくりしたよ…そういえば僕、風邪引いた時って結構良い事があるんだよね」
「そうなの?」
「うん。今は美波がこうやって色々してくれてるじゃない?」
「気にしなくて良いのよ」
「ありがとう。で、前に引いた時は、まだ父さんや母さんが日本に居た頃なんだけど」
「うん」
「その時は母さんが、夕飯なんて作らないで寝てて良いよって言ってくれて」
「うんうん」
「僕が寝たのを見計らって父さんと姉さんを連れて外に食べに行ってたらしいんだよね」
「…………」
「僕がゆっくり休めるようにわざわざ外へ食べに行ってくれるなんて……」
あれ?美波がぼろぼろ泣き出したよ?
そして……僕の頭を優しく抱え込むようにぎゅっと抱きしめて
「違うのっ!!違うのよ、アキ」
「ほぇ?」
「いいの…それは忘れてっ!!今日はウチに一杯甘えていいんだからねっ」
「う、うん…ありがとう?」
良く判らないけど、暖かいから、しばらくこうしててもらおうかな。
しばらくして美波が泣き止んだ頃、また食事を再開して
「それにしてもアキのお母さんって話に聞けば聞くほど、すごい人みたいね」
「確かにすごい人かも…姉さんを三倍くらい凝縮した感じかな」
「玲さんより上ってだけで十分すごいと思うけど…」
「うん、吉井家の頂点だし、力の比率は父さんが2だとすると母さんは8かな」
この前の僕の貴重な生活費の着服の割合だ。
「でも、なんとなくなんだけど…」
「なんとなく?」
「うん、父さんと母さんが僕と美波に似てるなぁと思って」
「似てる?」
「母さんってすごいけど、その分面倒見が良いと言うか…そういうところが美波に似てるなぁと思って」
父さんのちょっと頼りないところが、僕は似てると思う。
でも、あの母さんが信頼していつも一緒に居るあたりは、やる時はやる男なんだろう……たぶん。
「そ、そう?」
「うん。だから僕と美波が結婚したら、父さんと母さんみたいになるのかなって」
あれ?美波、今度は真っ赤になって、そわそわしだしたよ?
「結婚!?アキとウチが結婚……」
「わわっ。みっ、美波。ちょっとペース早くないっ!?」
「アキったら……話急ぎすぎよっ」
美波がすごく嬉しそうに照れながら、残っていた夕飯を
かなりのハイペースで僕の口の中に放り込みはじめた。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
さて、お腹も膨れたし今度こそ病人らしく寝なければ…
「じゃあ、ウチは洗い物してから、お風呂頂こうかな」
「ごめんね、後片付けまでしてもらって…」
「何言ってるのよ。ウチが使ったんだもの、ウチが洗うのが当然でしょ」
「でも僕のために作ってくれてるのに…」
「アキは気にしないで早く寝た方が良いわよ。風邪治さないと」
「そうだね。じゃあ、お言葉に甘えて」
「アキ、おやすみ」
「おやすみ、美波」
さて今度こそ、ちゃんと寝よう。
良い感じに睡魔も来てるし…………
……コンコン……
……ガチャ
「アキ?寝てるかな…」
…………ん?美波?
(いつもは写真におやすみのキスしてるんだけど写真が無いから出来れば本人に…)
美波が何か言ってるけど、起き抜けだから声が小さすぎて聞こえないな。
「美波?」
「アキっ!?起きてたの?」
「いや、今目が覚めたんだけど…」
「ウチが何か言ってたの聞こえた?」
「さっぱり…美波がそばまで来た時に起きたから」
ほっとした表情の美波。そういえば……
…………美波のパジャマ姿を見るのは初めてだな。しかも髪を下ろしているし。
「なっ、何よ。じっと見て……恥ずかしいじゃない」
身体を縮こませて、もじもじしてる美波。
「初めて見るけどパジャマ姿も可愛いなと思って」
「あ、ありがと…」
美波の秘密を一つ教えてもらったような気がして少し嬉しい。
「ねぇ、アキ?」
「何?」
「せっかくだから少しお話しない?」
「いいよ…でも、その格好だと寒くない?」
「そうね……アキ、ちょっと詰めてもらっても良い?」
「こう?」
「うん、ありがと」
ベッドに腰を掛けていた僕の横にちょこんと座る美波。
シャンプーの良い匂いがするな。
「毛布借りるわね」
そう言って僕の掛けていた毛布を自分と僕の肩から掛け直した。
「うん、これで大丈夫」
嬉しそうに微笑んでる美波。
心も身体もぽかぽかするな。
「そういえばアキと瑞希って幼馴染なんでしょ?」
「うーん、幼馴染と言うか…小学校の時、一年間だけ一緒のクラスになったくらいかな」
「そうなの?」
「うん。その時は一緒に飼育係やったりしたけど…その後はクラスも別々だったから」
「ふぅん…そっ、その時にあの言葉言ったりしたの?」
「あの言葉?」
「あのっ、その……友達になりませんかって……」
何か怯えたような表情で聞いてくる美波。
「言ってないよ」
「そっか…」
僕の返事を聞いたら安心した表情に変わった。
「日本語でもフランス語でも言ったのは世界中で美波一人だけかな」
たぶんそうだと思う。僕の記憶力だと、かなり怪しいけど。
「世界中で……ウチ一人……ウチのためだけに言ってくれたんだ…」
「そうなるのかな?」
日本語はともかくフランス語を使う機会は、これからも無いと思うけど…
「ありがとう……嬉しい…」
美波が腕を絡めてきて僕の肩に頭を持たれ掛けてきた。
うわっ、すごいドキドキするな……って、堪えろっ僕の理性っ。
何か気を紛らわせる物は無いのか……
ふっと時計を見ると午前二時ちょい前。
「そろそろ丑三つ時か」
「丑三つ時?」
「ああ、美波は知らないかもしれないね。丑三つ時って夜中の二時くらいで…」
「日本の時間の呼び方?」
「うん。大体午前二時過ぎで昔からこれくらいの時間に幽霊や妖怪が良く動き出すって……」
……しまったっ!?僕のバカッ。
とてつもない地雷を踏んだ気がする。
美波の僕の腕を掴む力が強くなってきた。
「ゆっ、幽霊…おっ、お化け…」
「美波?この部屋でお化けは見た事が無いから大丈夫だよ?」
「べっ、別に怖くなんか無いわよっ。ただ枕が替わると寝れないからウチは今日ここで寝るわっ」
へっ?僕の部屋にも美波の家の枕は無いけど…
「アキっ!?おとなしく抱き枕になるのと無理矢理抱き枕にされるのとどっちが良いのっ!?」
おかしい。選択肢が抱き枕しかない。
僕は抱き枕にされるために夜中に起こされたのだろうか。
「とにかくウチはここで寝るからねっ!!」
そう言って僕に抱きついてきて、そのまま鯖折りの状態で布団へ倒れ込む。
まぁ今日は取り合えず毛布は掛かってるから美波も風邪を引く事は無いだろう。
夜中に女の子に抱き締められると言う嬉しい状況のはずなのに…
明日の朝まで生きていられるか心配するなんて…
薄れゆく意識の中でそんな事を考えていた。