バカとウチと恋心   作:mam

18 / 35
バカとウチと看病part07

 

 

『島田明久様、一番の診察室へどうぞ』

 

「ほら、アキ。呼ばれたわよ?」

「あ、僕か」

 やっぱり島田明久は慣れないな。

 今朝命名されたばかりだから仕方ないと言えば仕方ないけど。

 

「あれ?美波も来るの?」

 僕と一緒に診察室へ入ろうとする美波。

 

「そうよ、保護者としてアキの病状とか何を食べさせれば良いのかとか聞く事一杯あるのよ」

「そっか…よろしくね」

「うん。後、しつけと芸の仕込み方も教わらないと……飼い主として」

「待ってっ、僕ってペット!?」

「大丈夫よ、アキ。チワワよりは可愛いから」

「そっか、チワワより可愛いなら大体のペットよりは可愛いか」

 ちょっと待て。それでいいのか、僕!?

 

 

「「失礼します」」

 結局、美波と二人で診察室へ入る。

 

「こんにちは、今日はどうされましたか?」

 どことなく高橋女史を彷彿とさせる容姿だ。

 頭の良い女性ってタイプが似てくるのかな。

 

「ちょっと風邪が治らなくて…」

「では体温を測ってください」

 体温計を渡される。

 

「体温を測っている間に問診をしますので正直に答えてくださいね」

「はい」

「喉は痛みますか?」

「はい、少し」

「食欲はありますか?」

「はい、少し」

「この女の子は彼女ですか?」

「はい、少し」

 あれ?この質問はおかしくない!?

 

「アキっ!?少しって何よっ」

 美波が涙目で僕の口を引っ張る。

 

「い、いひゃいれふ」

「アキのバカっ」

 すぐ手を放してくれた…問診の途中だったからかな。

 

「あ、あの…それって風邪に関係あるんですか?」

「そうね…」

  PiPiPiPi……

 丁度その時、電子音が鳴った。

 

「体温が計測できたみたいなので体温計を見せてください」

「はい」

 体温計を手渡す。

 

「体温は…と、三十八度ちょうどね。割りと高いわね。ちょっと喉を見せてもらってもいいかしら?」

「はい」

 大きく口を開けて、あーんをする。

 ……さすがに、ここには食べ物は無いので、この先生に食べさせてもらう事は無いだろう。

 代わりに舌を押さえる器具を口に入れられて喉の奥を見られた。

 

 何かをキーボードに打ち込んでいる。今はカルテも全部コンピュータでやってるんだな。

 

「普通……」

 おもむろに先生が言葉を発してきて止めた。

 僕の身体に普通ではありえない、何かを発見してしまったのだろうか!?

 ドキドキしながら先生の言葉を待つと……

 

「こういうところに一緒に来る年頃の男女だと彼氏と彼女って相場が決まってるんだけど」

 それ、僕の風邪に何が関係あるんでしょうか?

 

「貴方たちは違うの?」

 全く関係なかった。

 

「予約された名前と保険証の名前が違う時点で何かおかしいと思ってたのよね」

 僕の風邪はすでに退院してしまったらしい。

 

「貴方、この子と席替わりなさい」

「はい」

 美波を代わりに座らせる。

 

「えっと、僕は…」

「貴方はただの風邪だから薬でも飲んで寝てれば治るわ。この子の方が重症よ」

「ええっ、美波大丈夫っ?」

「後で薬を処方するから貴方は待合室で待ってなさい」

「はい…」

 診察室を出る時、チラッと見た机の上の手書きのカルテには

 『鈍感』とか『バカ』とか走り書きで書かれてた気がしたけど…なんだったんだろうか。

 

 

 待合室で美波を待っていると

 

「ありがとうございました」

 一礼をして美波が診察室から出てくる。

 

「美波、大丈夫だったの?」

 僕より、かなり長い時間診てもらってたみたいだけど…

 

「大丈夫よ。おかげですっきりしたわっ」

 晴れ晴れとした笑顔で答える美波。

 

 

 会計を済ませ、薬も貰った僕と美波は診療所を後にした。

 なんでも美波の話では、あの先生は心療内科というのを専攻していて

 美波の不安を少しでも和らげられれば、と言う事で診てくれてたらしい。

 日本に来て一年以上経つけど美波はまだ不安になる事があるのだろうか。

 でも会計は僕の分しか請求されてなかったから美波はサービスで診てくれてたのか。

 患者さんも結構多かったのに、あの先生すごく良い人なんだな。

 

 ……貰った診察券が『島田明久』になってたけど。

 

「アキ、その診察券どうするの?」

「う-ん、どうしようかな」

 正直、次来る時はたぶん診察券は作り直すだろうし。

 

「あのね、アキが良ければなんだけど……それ、ウチが貰っても良い?」

「うん、いいよ」

「ありがとうっ」

 

 僕の首に抱きついてきて頬をすり寄せる様に喜んでくれる美波。

 

「一生大事にするね…」

 診察券だけじゃない気がしたのは僕の考えすぎかな。

 

 

 

「アキ、お昼どうする?」

「うーん、まだそんなにお腹は空いてないけど…」

 とりあえず貰った薬は一日三回食後にって書いてあったから何か食べないといけないな。

 

「美波は何か食べたい物はある?」

「ウチは何でも良いわ」

「ショッピングモールも近いし、ハンバーガーでも食べようか」

「うん」

 

 二人でファーストフードのハンバーガーのセットを食べた。

 セットに付いてくるフライドポテトを時々美波にあーんを要求され

 断りきれずに食べさせてもらったりした。

 僕の顔は赤くなってたけど、とりあえず風邪のせいにしておいた。

 

「じゃあ早く帰ってちゃんと寝るかな」

「そうね、帰りにスーパーに寄って夕食の買い物をして行っても良い?」

「うん」

 

 

 帰る道すがら

 

「アキ、今日は何か食べたい物はある?」

「うーん、なるべく手の掛からない物が良いかな」

 美波に悪いし。

 

「ウチの事は気にしなくて良いのよ」

「ありがとう」

 でもさっきお昼食べたばっかりだしなぁ。

 

  Prrr! Prrr!

 誰かの携帯が鳴っている?

 

「ウチの携帯だわ」

 ポケットから携帯を取り出し通話を始める美波。

 

 

 ……ん?あそこに居るのは見た事あるような女の子だな。

 すぐ横の公園のブランコに一人の女の子が座っていた。

 ちょっと近くに行ってみるかな。

 美波は電話中だったので公園を指差し、移動する。

 

 公園内に入って近づいていくと……僕を見て、その女の子は走り寄ってきた。

 

「バカなお兄ちゃんっっ」

 ドンッと僕の鳩尾に的確に突っ込んでくるツーテールの女の子。

 

「はっ、葉月ちゃん。どうしてここに?」

 今の体調だと葉月ちゃんの全力は受け止めきれず、少し後退してしまう。

 

「葉月、お兄ちゃんに会いに来たんですっ」

「ありがとう、葉月ちゃん」

 頭を撫でてあげると目を細めて喜んでくれた。

 

「アキっ」

 電話が終わったのか、美波がこっちにやって来た。

 

「葉月が居なくなったらしいのっ」

「お姉ちゃん、葉月呼びましたか?」

 ひょこっと僕の横から顔を出す葉月ちゃん。

 

「葉月っ!?アンタなんでここにっ?」

「バカなお兄ちゃんに会いに来たんですっ」

「もぅアンタって子は…お母さんに何も言わないで来たでしょ」

「お母さんもお姉ちゃんも葉月に何か隠してるから葉月も隠れてきたんですっ」

 と言って、ぷぅっと膨れる葉月ちゃん。

 

「一人でこんな所まで来たら危ないでしょっ」

「お姉ちゃんこそ葉月に内緒でバカなお兄ちゃんに会いに来てるですっ」

「そっ、それは……アキが風邪引いたからウチは看病しに…」

「お兄ちゃん、風邪引いたんですか?」

「うん、だから葉月ちゃんに移したくないから美波もお母さんも黙ってたんだと思うよ」

「わかりましたっ」

 満面の笑みで返事してくれる葉月ちゃん。

 うんうん、物分りの良い子で嬉しいなぁ。

 

「じゃあ、今から葉月がお兄ちゃんの看病しますねっ」

 ダメだ、全然判ってくれてない。

 

「とりあえず、お母さんに連絡しとくわね」

 携帯をいじる美波。

 

「あのね、葉月ちゃん。今は美波が看病してくれてるから僕は大丈夫だよ」

「じゃあ、お姉ちゃんと葉月が交代ですねっ。今から葉月が看病するんですっ」

 うーん、葉月ちゃんって結構頑固なんだな……困ったな。

 

「お兄ちゃんは葉月のお婿さんなのにどうして葉月が看病しちゃいけないんですか?」

「僕は葉月ちゃんが大切だから風邪を移したくないんだよ」

「お姉ちゃんは大切じゃないんですか?」

 そう来たか………仕方ない。

 チラッと美波の方を見て確認する。

 美波はまだ電話中だな。

 一回深呼吸して…………

(……わかったわ。葉月はウチが引き受けるから。うん、じゃあね)

 パタン

 

 

「美波はね、僕にとって大切な友達より大切なんだ。順番なんて付けられないくらい大切なんだよ」

 

 

「むぅ、葉月はお姉ちゃんより大切じゃないんですかっ」

 またも、ぷぅっと膨れる葉月ちゃん。

 

「葉月ちゃんは大切な友達より大切な人の大切な妹だよ」

「葉月の方がお姉ちゃんより大切が一個多いんですねっ」

 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでる葉月ちゃん。

 葉月ちゃん相手なら簡単に言えるんだけどな。

 

 さて美波は電話終わったのかな。

 

「あ、アキ……あの、その……」

「あ、美波。電話終わったの?」

「う、うん……ちょっとウチ、家に戻るから葉月の面倒みててっ」

 

 俯きながら、いきなり駆け出す美波。

 

 公園に残された葉月ちゃんと僕。

 

「じゃあ葉月ちゃん、僕の家に行こうか」

「はいですっ」

 

 美波の顔が赤かったような気がしたけど……

 気のせいだよね。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。