おでこがズキズキ痛い……きっと、この痛みは風邪が治りかけているからだろう。
薬のおかげか風邪は回復傾向にある気がするけど、代わりに生傷が増えてる気がする。
とりあえず、お風呂は先に僕が頂いた。
さっきの鉄鍋の傷は風呂から上がってから美波が僕の頭に包帯を巻いてくれた。
ついでに僕の身体にも布団をぐるぐる巻いてくれた。
たぶん僕の風邪を早く治そうと思ってやってくれたんだろう。
「覗いたら殺すわよ」
僕の生命を気遣う、とても優しい言葉も掛けてくれたし。
美波と葉月ちゃんが一緒にお風呂に入ってる間、この状態だ。
TVは良く判らない情報番組をやっている。
この状態だとTVのチャンネルを変えられない。
「良いお湯でしたっ」
ほんのり頬を染めた葉月ちゃん。
「アキ、少しは反省した?」
「はい、反省しました」
「仕方ないわね」
やっとミノムシから卒業できた。
「そういえばお姉ちゃんに聞きたい事があるんです」
「何、葉月?」
「えっと、本当のお医者さんごっこって何ですか?」
えっ!?それ今聞くの?
布団から開放されたと思ったら今度は美波に背中から鯖折りをされた。
背中から仄かに香るシャンプーの良い香り。
でも、それは僕を死へ誘う危険な香りだ。
「アキっ!?アンタ、ウチが居ない間に葉月に何教えてんのよーーっ!?」
いや、何も教えなかったんですがっ。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんは何も教えてくれなかったです」
「全部ウチに押し付ける気っ!?」
そう言って、そのままバックドロップへ……たぶん教えてても結果は一緒の気がした。
今度は後頭部がズキズキ痛い……次は脳天だろうか。
「いたたたた……」
「アキ、ごめんね」
葉月ちゃんがお医者さんごっこと看病を勘違いしていた事は判ってもらえたみたいだ。
葉月ちゃんには、もっと大きくなったら学校で教えてもらえるから、という事で納得してもらった。
ソファに僕の右に美波、左に葉月ちゃんと三人仲良く座ってTVを見ている。
TVは、さっきの情報番組は終わって次は映画みたいだ。
…………凄く嫌な予感がする。
TVの映画の予告が思いっきりホラーなんですけど。
「うっ…ねぇアキ?チャンネル変えない?」
「そっ、そうだね。僕もお笑い番組見たいかなって」
美波の提案に乗っといた方が良さそうだ。
このままだと今晩も抱き枕にされそうな気がする。
「葉月、映画が見たいですっ」
しかし葉月ちゃんは映画が良いらしい。恋愛映画だとすぐ寝ちゃうのに……
「お姉ちゃんが映画見たくないなら葉月はお兄ちゃんと二人で見ますっ」
葉月ちゃん、お願いだから美波を煽らないでっ。
とばっちりは全部僕のところに来るのに。
「いっ、いいわよっ。じゃあ、三人で見ましょっ」
美波も怖いなら無理しない方が良いのに……
「じゃあ、僕は薬が効いてきたみたいだから、そろそろ……」
ガシッ。また頚椎を掴まれた。
「アキも一緒に見るわよね?」
(ウチを見捨てる気っ!?)
もちろん美波を見捨てるつもりも命を捨てるつもりも無いですよ?
「そろそろ映画が見たいかなって……」
「じゃあ、一緒に見るですっ」
ニコニコと楽しそうな葉月ちゃん。
ビクビクしてて怖そうな美波。
その二人にガッチリと両腕を掴まれている僕。
およそ二十分ごとに美波に話しかけて気を紛らわせて腕を緩めてもらう。
腕だからまだ良いけど首だったら一分も持たないな。
葉月ちゃんは怖いシーンでも喜んでいた。
たぶん本物を見たことが無いんだろう。
君のお姉ちゃんは、これより怖いシーンを僕で実演してるんだよ。
無事映画を見終わって午後11時くらい。
そろそろ寝るかな。
「美波、映画終わったよ?」
「そっ、そうね」
「僕、そろそろ寝ようかと……」
「う、うん……」
恐る恐る腕を放してくれる美波。
「お兄ちゃん寝るんですかっ?」
「うん。おやすみ、葉月ちゃん」
「じゃあ、葉月も一緒に寝ますっ」
僕に抱き付いてくる葉月ちゃん。
「ええっ!?僕は一人で寝れるよ」
「ダメに決まってるじゃないっ」
さっき映画を見るって決めた時、強引にでもチャンネルを変えなかったのは
今日は葉月ちゃんが居るから、美波は葉月ちゃんと寝るだろうと思ってたのに……
「でもっ、お兄ちゃん寒くて風邪引いちゃったら大変ですよ?」
すでに風邪引いてるんですが……
「ダメよっ、葉月。風邪とバカが移るわよ」
ひどい言われようだ。
「僕は大丈夫だから葉月ちゃんはお姉ちゃんと一緒に寝てね」
「じゃあ、お姉ちゃんも一緒に寝るですっ」
僕と美波の手を取ってニコニコする葉月ちゃん。
僕はそれを避けたいんだけど……きっと美波も反対するはず。
「しっ、仕方ないわね。それじゃ三人で寝ましょ」
「ほらね、葉月ちゃん。お姉ちゃんの言う事はちゃんと聞かないとね」
「はいですっ」
……って、なんでそうなるのっ!?
「じゃあ、葉月、歯磨きしてきますねっ」
洗面所へ行く葉月ちゃん。
「ねぇ、美波?」
「なっ、なによ?」
「なんで三人一緒にって……」
「ここで引き止めても、きっとあの子、夜中にアキの部屋に行くわよ?」
「それはそうかもしれないけど……」
美波も昨日、夜中に僕の部屋に来てたしな……島田家は夜行性なのだろうか。
「そっ、それに…………」
「それに?」
声が小さくて良く聞きとれない。
「ああ、もうっ!アキはウチが夜中に一人寂しく泣いてても良いわけっ!?」
僕の袖を引っ張りながら涙目で訴える美波。
「全然良くありませんっ」
「それならウチも良いわよね?」
「う、うん……」
良く判らない迫力と美波の涙に負けた。
「ただいまですっ」
葉月ちゃんが戻ってきたので続いて美波、最後は僕の順番で洗面所へ。
結局三人仲良く一緒に寝ることに……
僕の部屋のベッドだと少し狭いので姉さんの部屋で寝ることにした。
葉月ちゃんを真ん中に右が美波で左が僕。
「お兄ちゃん、温かいですか?」
「うん。ありがとう、葉月ちゃん」
頭を撫でてあげられないのがちょっと寂しい。
「早く寝ましょ」
「そうだね、おやすみ、美波、葉月ちゃん」
「おやすみです」
「おやすみ、アキ、葉月」
…………すぅすぅ
葉月ちゃんの規則正しい寝息が聞こえる。
美波はこっちを向いているけど目は瞑ってるし
昼間あれだけ動き回ってたんだから疲れて寝てるだろう。
時計を見ると午前1時を過ぎたところか。
やっと自分の部屋に戻れるな。
僕はバカだと思われてるんだろうけど、ちゃんと計画を立てて行動も出来る。
ポイントは二つ。
第一に葉月ちゃんを真ん中に川の字で寝る事によって
僕の逃げ道の確保と美波への逃走時の証拠隠滅を計る。
第二に姉さんの部屋の姉さんの匂いのするベッドで寝る事によって
僕の姉さんへの恐怖を利用し適当な時間まで起きてる事。
美波の良い匂いで少しクラクラしたけど、何とか正気を保つ事が出来た。
完璧だ。
美波も葉月ちゃんも可愛い寝顔だから、おやすみのキスでもしたいところだけど
それでバレたら元も子もないからね。
さて、そっと布団から出て、と……
僕の部屋に戻るかな。
ガクンッ
あ、あれ?身体が、前に進まない……
誰かが僕の首に腕を絡ませ、僕の左腕を捻って背中に押し付けた。
(アキ?ウチに黙って何処へ行くのかしら?)
…………っ!?
(ちょっ、ちょっとトイレに行こうかなと……)
(じゃあ、ウチも怖いから一緒に行っても良いでしょ?)
普通はトイレに用がある人が怖いから一緒に行くのでは……
用の無い人はそのまま寝てれば良い気がするんですがっ!?
(……ごめんなさい。自分の部屋に戻ろうと思ってました)
(最初から素直に言えば良いのよ)
美波が僕を解放してくれる。
(じゃあ僕、自分の部屋に戻るね)
ガクンッ
美波に袖を掴まれてる。
(アキ……さっき言ってくれたよね?)
(な、なにを?)
(ウチが一人で寂しくて……泣いてるのは良くないって)
(うん)
(じゃあじゃあ……ウチも一緒に行って良い?)
(ええっ!?)
(ウチがここで泣いててもアキは気にしないのっ!?)
美波が涙目で訴えてくる……女の子の涙は反則だよ。
(それは気になるけど……判ったよ)
(アキ、ありがとっ)
ぱっと笑顔になる美波。
(その代わり昨日みたいに抱き付いてこないでね)
(うん……アキ?)
(なに?)
(その……手、繋いでも良い?)
(うん)
そっと手を出すと嬉しそうに手を繋いでくれた……美波の手って温かいな。
昨日より眠いから僕の理性も大丈夫だろう……たぶん。