ジェットコースター乗り場に着いた。
僕の右ひじは痛いって感覚が無くなってから解放された。
まぁ、お昼御飯食べ終わる頃には治ってるだろうけど。
「やっぱり、ジェットコースターは先頭が良いよな」
「そうだね」
僕と雄二でそんな話をしていると
「お久しぶりデス。吉井サン、坂本サン」
「「アンタ(あなた)は……」」
確か雄二と霧島さんのプレミアムチケット計画の如月グループ側の責任者だった人だ。
裏工作専門みたいで最後まで名前が判らなかったんだけど。
「今度は何を企んでやがる?」
雄二は、この人を全く信用してないみたいだ。
まぁ信用できる要素が全く無いしなぁ。
「イエイエ、そんな事はナイですヨ。トコロでお二人トモ、先頭に乗りたいのデスか?」
「そうですね」
「乗れるならな」
僕たちの前には三人いる。
どうやっても僕たちが割り込むのは無理だろう。
「判りまシタ」
そう言って僕たちの前の客に話し掛ける。
身振り手振りや時々聞こえてくる『海栗』『ザリガニ』『プチプチ』などの単語が少し気になった。
何故なら雄二も青い顔をしていたからだ。どうしたんだろう?
しばらくすると三人とも顔色を変えて列を離れてしまった。一人は慌てて携帯で何か話していた。
「良かったデスね。コレでお二人が先頭デス」
「「ちょっと待て」」
なんか後ろに居る人たちの視線が痛い。
そうこうしてるうちに次のジェットコースターがやってきた。
「サア、お二人サン、とっとと乗ってくだサイ」
強引に僕と雄二が先頭へ……僕たちの後ろに美波と霧島さんが乗り込んだ。
「アキっ!?そんなに坂本が良いのっ!?」
「……雄二、浮気は許さない」
怖くて後ろを見れない僕と雄二。
『安全バーが下がります。お気をつけください』
「「くぺっ」」
またも安全バーが下がり始める直前を狙われた攻撃。
僕と雄二の後ろへ座った美波と霧島さんの僕達への首への一撃は的確にヒットし僕達は気を失った。
『お疲れ様でした。お気をつけてお降り下さい』
今回もジェットコースターに乗った気がしない。
「結局あの人は何をしに来たんだろう……痛い」
「俺たちの様子を見るためじゃないのか。今回も如月グループが動いてるみたいだしな……痛ぇ」
僕は美波と、雄二は霧島さんと仲良く腕を組んでいる様に見える。
実際には二人とも、ひじ関節を決められているんだけど。
「あの……美波さん?」
「なによ?」
物凄く機嫌が悪そうだ……こんな状態じゃ優勝どころか一回戦すら危ない。
僕としては将来のためにもさっさと負けたいけど……
さっきの美波のすごくやる気のある嬉しそうな顔を見ちゃうと……
「ねぇ、美波?」
「なによ?」
大きな吊り目にギロッと睨まれた。
「やっぱりさ、ウェディングドレスって着てみたいって思うの?」
美波は可愛いしスタイルも良いから、きっと綺麗だと思う。
でも将来、隣に立っているのが僕の知らない人だと思うと……考えるのやめよう。
「あっ、当たり前じゃないっ。鈍感なアキには判らないと思うけどねっ」
プイッとそっぽを向く美波。
「あっ、あのさ……僕の看病のお礼って言うには足りないかもしれないけど」
僕の方を向いてくれる美波。
いつの間にか関節も解放してくれたみたいだ。
「美波にウェディングドレス着せてあげたいなって……あんなに着たがってたし」
そして一回で良いから僕が一番近くで見てみたい。
「アキ……それ、ほんと?」
「うん」
「ウチ嬉しいっ」
良かった、笑顔になってくれて……
でも関節を極められてた時より、僕にくっ付いてる気がしてちょっと恥ずかしいな。
「しょっ、翔子っ、いい加減腕をっ、離せぇぇ」
雄二と霧島さんは時計台の下まで、ずっと仲良く関節技だった。
----時計台の下
「12時まで後10分か」
「そうだね」
僕と雄二と美波と霧島さんはジェットコースターに行っただけだったので
12時前には戻ってこれた。
他の四人は何処に行ったのだろう?
「そういえばさ」
「なんだ?」
「確か秀吉とムッツリーニって携帯持ってなかったんだよね?」
「そうだな。だから一応、工藤と木下にはなるべく一緒に居てくれと頼んだんだが」
雄二は顔に似合わず色々考えてるんだな。
「みんな~、おまたせっ」
「…………待たせた」
ムッツリーニと工藤さんが戻ってきた。
「土屋と愛子は何処行ってたの?」
「ボクたちは中央広場にずっと居たよ」
「なんで?」
「ムッツリーニ君がずっとカメラ構えていたけど……ボクの写真を何枚か撮っただけだったね」
「…………新しいカメラのテスト」
プイッとそっぽを向きながら言うムッツリーニ。
きっと決定的瞬間を狙ってる振りをして工藤さんを撮ってたのかな。
なんで雄二と言い、ムッツリーニと言い、素直じゃないんだろう。
「みんな、お待たせ」
「待たせたのぅ」
最後に秀吉と木下さん。
「よし、これで全員揃ったな。さっさと飯にしようぜ」
ずんずん歩いていく雄二。行く場所は決まってるのだろうか。
歩きながら……
「秀吉と木下さんは何処へ行ってたの?」
「わしらは姉上がファンシーショップに行きたいと言ってのぅ」
「可愛い物がないかなと思って」
木下さんの隣に居るじゃないですか。可愛い秀吉が。
5分ほど歩いて噴水がある広場のテーブルを二つ確保した。
お昼御飯を僕たちが用意してるという事で工藤さんたちで飲み物を買ってきてくれた。
僕たちのテーブルの方はサンドイッチ、雄二たちのテーブルは、おにぎりがメインだった。
「「「「いただきまーす」」」」
「はい、アキ。あーん」
紙パックの中からサンドイッチを一切れ取り出し、僕の口へ運ぼうとする美波。
本当にみんなが見てる前でもするのか。
嬉しいけど、恥ずかしいな。
「おっ、島田。うまそうだな」
雄二が美波の手に持ってた紙パックからサンドイッチを一つ取って口へ運ぶ。
くそっ、雄二に負けてたまるかっ。
美波が差し出してくれたサンドイッチをほおばる。
ソフトな食感のパンの裏に塗られたバターの風味が舌の上で踊った後
その舌の上を覆い、完全に味覚を支配する刺激的な……
…………カラシの味わい。
「「かぁらぁぁいぃぃぃぃぃぃぃぃ」」
近くの芝生の上を転がる僕と雄二。
「少しは反省した?」
僕と雄二に言う美波。
反省するのは、この鈍感バカだけだろう。
と思って雄二と睨み合っていると……
「……口直し」
霧島さんがおにぎりの入ったカゴを僕たちに差し出してきた。
中には胡麻がたくさん掛かったおにぎりが入っていた。
「ありがとう」
「すまん」
胡麻の香りが美味しそうだな。
そして一口……
うん、胡麻の香ばしい風味が口の中を駆け抜けて
その後に来るお米の甘みを綺麗さっぱりと洗い流す……
…………ワサビの刺激。
「「かっ、かれぇぇぇぇぇぇ」」
またも芝生の上を転がり回る僕と雄二。
油断したっ。完全に油断してたっ!!
まさか霧島さんまで、この手を使ってくるとは……
美波のサンドイッチには大量のカラシが
霧島さんのおにぎりには大量のワサビが入っていた。
「……雄二と吉井、浮気は許さない」
「ナイスよ、翔子」
「何をやっておるのじゃ、おぬしらは……」
「あははっ、楽しそうだねぇ」
「代表と島田さん。食べ物を粗末にしたらダメでしょう」
木下さん、注意するべき点はそこじゃない。
万が一、僕が美波と、雄二が霧島さんと、このまま結婚したら
絶対僕らの料理スキルは更なる飛躍を見せるだろう。
姫路さんとは別の方向で怖い。
それからは各々普通に食事を…………
僕が美波にあーんをしてもらったり、してあげたり
雄二が霧島さんから口移しで食べさせられるのを逃げていると……
「皆サン、お昼デスか?」
「また来たのか」
「いえいえ、タマタマ通り掛っただけデス」
しつこいな、似非野郎。
僕は雄二とアイコンタクトして頷く。
「「せっかくだから食べていけば?」」
雄二はワサビおにぎりを、僕はカラシサンドイッチを差し出す。
「そうデスか、ワザワザすみまセン」
そう言って両方受け取る似非野郎。
ビックリする顔を見ようと思って見ていると……
「トッテも美味しいデス」
ぺろっと食べちゃったっ!?
「あっ、アンタ大丈夫なのかっ!?」
雄二でなくても驚きだ…両方食べて僕たちは、のたうちまわったというのにっ!
「トテも刺激的な味で美味シかったデス。ご馳走様デス」
この人なら姫路さんの料理でも耐えられるかもしれない。
「そういえば……」
ん?雄二が何か言ってるな。
「そこのイチャついてる明久と島田は俺のクラスメイトでな」
何をいまさら……
「文月学園に入学以来、明久は俺の大の親友で」
ええっ!?それ初めて知ったよっ!?
「島田はドイツからの帰国子女だ」
最初、言葉がなかなか通じなかったのは辛かったけど今となっては懐かしい思い出だ。
……なんで今そんな話を?
「こんなもんで良いか?」
「イエイエ、ご馳走様でシタ。デハ私は仕事に戻りマス」
そう言って似非野郎はエントランスゲートの方へ歩いて行った。
「雄二、何を言ってたの?」
「俺の独り言だ。気にするな」
雄二が口の端を少し持ち上げるような感じで笑ってた。
いつものニヤニヤした笑い方じゃない。
なにか確信を持った感じがする笑い方だった。