「ちょっと待て。あの拷問をお前は調教と言い張るのか!?」
「……そうしないと雄二は私になつかない」
「なんで俺がお前になつかないといけないんだ?」
「……私はこんなに雄二になついているのに?」
「ぎゃぁっ。こんなところでくっついてくるなっ!?」
「……雄二と私は結婚が決まっている二人なんだから問題ない」
「何時?何処で?誰と誰が?結婚するんだ?」
「……今日、ここで、雄二と私が、結婚する」
「翔子、悪いが今日はただの体験だ。本当に入籍まではしないぞ」
「……じゃあ、今日は式だけで明日入籍に行く」
「二日に分けると面倒臭いだろ。それに明日は学校もあるし」
「……じゃあ明日学校が終わってから役所に行こう?」
「悪いがパスだ。明日は補習もあるだろうしな」
「……そんなこと許さない……それは温厚な私でも怒る」
「うぎゃぁぁぁぁ。なっ、なんで俺の顔を摑むっ!?」
「ところで、アキ?」
「なに?」
「さっきの約束ちゃんと覚えてる?」
「さっき?」
何か約束……してたような、してなかったような。
連休の間に美波と色々約束したからなぁ。
「あっきれた……もぅ忘れちゃったの?」
美波がバカを見るような目で見ている。
失礼な。さっきウェディングドレスを着させられたショックで、それ以前の記憶が……
「ああっ!?」
「なっ、何よっ。いきなりビックリするじゃないっ」
「ごめん……そう言えば、お願いを一個聞くって言った気がする」
「気がするんじゃなくて、ちゃんと言ったのよっ!」
美波に頭をつかまれてガクガク揺すられる。
「どう?ちゃんと思い出した?」
「思い出した、思い出したから許して下さい」
「もぅ……アキってば忘れっぽいんだから」
やっと手を離してくれた。
「いたたた……もう少し手加減してくれないと本当に僕の記憶全部無くなっちゃうよ?」
「なによっ、ウチが悪いって言うのっ!?」
「いぇ、僕の記憶力が無いのが悪いんです」
「判れば、いいわ」
今、へたに逆らって無理難題をお願いされるよりは大人しくしてた方が良いよね。
「美波は何をお願いするの?僕に出来る事にしてね」
「うん……」
何か言いにくそうにもじもじしている。
美波がこんなにハッキリしないのは珍しいな。
「今すぐじゃなくても良いよ?」
ひょっとしたら忘れてくれるかもしれない。
先に僕の方が忘れると思うけど。
「あの……その……ウチと……」
「おーい、明久」
「雄二っ、後にしてっ。今、美波と……」
「そうしてやりたいのは山々なんだが、すぐプレゼントクイズ始めたいんだと」
あれ?ちょっと早すぎない?
「なんで急に……」
「さっきのパフェの早食いで時間掛かりすぎたらしくてな」
ああ、結局一番食べたのは、僕たちが半分食べたのが最高で
全員が制限時間一杯使っていたからなぁ。
あんな化学兵器を完食できるのは地球上に一人だけだろう。
「ごめんね。お願い聞くのは後でも良いかな?」
「仕方ないわね」
何処か、ほっとしたような残念なような複雑な表情の美波。
何をお願いしたかったのかな?
「ほれ、明久と島田。後一回だ、頑張れ」
「うん、行ってくるよ」
「ありがと、坂本」
僕と美波がステージに向かって歩きだした時
「ムッツリーニ、ちょっと良いか?頼みたい事があるんだが……」
雄二がムッツリーニに何かお願いをしていた。
「それではただいまより【如月ハイランドウェディング体験】プレゼントクイズ高校生大会を行います」
「Aグループを勝ち抜いた吉井君・島田さんペア」
ステージの上のテーブルの横でぺこりと頭を下げる僕と美波。
「Bグループを勝ち抜いた山田君・鈴木さんペア」
「Cグループを勝ち抜いた林君・武田さんペア」
それぞれのテーブルの横で頭を下げるカップルたち。
「この三組によりプレゼントクイズを行わさせて頂きます」
「このクイズは5問正解したペアの優勝となります」
「優勝致しますと、こちらにいらっしゃいます前回のクイズに当選されました坂本君・霧島さんペアと一緒に」
雄二と霧島さんが少し離れた所にあるテーブルの横で頭を下げる。
「弊社が提供する最高級のウェディングプランを体験して頂けると言うものです!」
「もちろん、ご本人様の希望によってはそのまま入籍と言う事でも問題ありませんが」
僕と美波は、まだまだ早いと思うけど
雄二と霧島さんは入籍しちゃっても良いんじゃないかな、二回目だし。
「それでは【如月ハイランドウェディング体験】プレゼントクイズを始めます」
(美波、頑張ろうね)
(もちろんよ、アキ。絶対優勝よっ)
さっきまでの不安そうな雰囲気が全く無いな。
これならいけるかもしれない……正直、僕は一般的なクイズには自信ないからなぁ。
「では第一問、ドイツで言われる3Bとは?」
ピンポーン
「はい、林君・武田さんペア解答をどうぞ」
「ベートーベン・ブラームス・バッハです」
「正解です……1ポイント入ります」
(残念だったね、せっかくドイツの問題だったのに)
(もぅちょっと生活に密着してる問題だったら良かったのに)
美波が少し悔しそうに言う。
「では第二問、ドイツ語でDas Brechen、日本語に訳すと何?」
ピンポーン
「はい、吉井君・島田さんペア解答をどうぞ」
「調教です」
「正解です……1ポイント獲得です」
(やったね、美波)
(うんっ、この調子で行くわよっ)
でも調教って普通の生活に必要あるのかな?
雄二と霧島さんじゃあるまいし……
…………
………
……
「第六問、日本の味噌汁のように家庭ごとにレシピがあるドイツの家庭料理は?」
ピンポーン
「はい、吉井君・島田さんぺア、この問題を正解すると優勝です……解答をどうぞ」
(アキ、これなら判るわよね?)
(うん、このまえご馳走になったからね)
(一緒に答えましょ)
(了解)
「「アイントプフ」」
「正解です……おめでとうございます!!たった今この瞬間に……」
「やったっ、美波っ!」
「アキっ、やったわっ!」
二人とも思わず立ち上がって両手を取り合って喜んでいると……
「お二人の御結婚が決まりましたっ!」
「「……」」
ステージの上
スポットライトを浴びながら
会場のみんなが見つめる中
僕と美波は両手を握り締めたまま
耳まで真っ赤になりながら顔を見合わせていた。
こっ、こんな大勢の前でっ、なんてことをっ!?
「……失礼致しました。あまりにも、お二人の嬉しさが伝わり過ぎて少し先を急いでしまいました」
すると会場から少しの笑い声と大きな拍手が……
さっきのウェディングドレスの審査の時とは比べ物にならないくらい大きな拍手だった。
「では改めまして優勝おめでとうございます」
そう言って司会者は僕たちに頭を下げた。
僕たちもお返しにと言わんばかりに頭を下げる。
雄二の方を見ると……
霧島さんにアイアンクローをされていた。
うんうん、いつもどおりで微笑ましいよ、雄二。
「美波、みんなのところに戻ろうか」
「そうね、戻ろ」
周りではスタッフの人が片付けを始めている。
その中を邪魔にならないようにちょっとゆっくり歩いて戻った。
……美波と手を繋いで。
「吉井君、島田さんおめでとう」
「明久に島田よ、よかったのぅ」
可愛らしい顔が二つ、少し涙ぐんでいる……
秀吉と木下さん、泣くとどっちがどっちだか判りにくくなるな。
秀吉もスカートはいたら絶対判らないかも?
「吉井君おめでとう、美波ちゃん羨ましいな~」
「…………おめでとう」
工藤さんや木下さんが美波に話しかけてる隙に……
(ムッツリーニ、ちょっとこっち)
(…………?)
こっそりムッツリーニを呼んで……
(お願いがあるんだけど……)
(…………お願い?)
(うん、ウェディング体験の時の美波と僕のツーショットの写真が欲しいんだ)
(…………雄二に頼まれている極秘任務がある)
(そうなの?)
(…………だが、時間が許す限り撮っておく)
(ありがとう)
(…………気にするな、明久には儲けさせて貰ってる)
(まさかっ、僕のウェディングドレス姿もばら撒く気じゃ!?)
(…………二次配布は禁止する)
(そっか、それなら……って、結局はばら撒くんじゃ!?)
そこへ雄二と霧島さんが戻ってきた。
「おーい、ムッツリーニと秀吉。ちょっとこっちへ来てくれ」
指の痕を残した顔の雄二がムッツリーニと秀吉を呼んでいる。
「なんじゃ?」
「…………」
ムッツリーニが行ってしまった。
入れ替わりに美波がやってきた。
「アキ」
「どうかしたの、美波?」
「今日は本当にありがとう」
「優勝出来て良かったよ。ちゃんと美波との約束も守れそうだし」
優勝出来なかったら美波にウェディングドレスを着させて上げられなかったしね。
普通、高校生が見に行っても試着なんかさせてくれる訳が無いし。
ただ問題は、このままイベントを続けていくと本当に結婚なんて事になりかねない。
「そうね。後はアキがちゃんと言ってくれるかどうか、ね」
「大丈夫だよ。まだ見てないけど、きっと美波なら綺麗だと思うよ」
「はぁ……やっぱりね」
ため息を吐きながら俯く美波。
そして真剣な表情で……
「いい、アキ?ウチが聞きたいのは見た目の話じゃないのよ」
「ふぇ?」
「ウチだってアキに綺麗とか可愛いとか言ってもらえると嬉しいけど……」
両手を染めた頬に当ててもじもじする美波。
そう言えば美波のお母さんも同じような癖があったな。
ひょっとしたら葉月ちゃんも……想像したら、ちょっと可愛かった。
「おーい、明久と島田」
雄二に呼ばれた。
雄二の隣には似非野郎と女性スタッフが二人いる。
「吉井サン、美波サン、この度はオメデトウございマス」
「ウェディング体験の準備があるノデ、翔子サンと美波サンはこちらのスタッフについていってもらえマスか?」
「初めまして。貴女がたのドレスのコーディネイトを担当させて頂きます」
「一生の思い出になるようなイベントにする為、お手伝いさせてください」
美波と霧島さんには女性スタッフが一人ずつ付くみたいだ。
「アキっ、ちゃんと約束は守ってよ?」
「……雄二、ちゃんと待っててね」
そう言って二人はスタッフについていった。
「デハお二人はこちらへドウゾ」
似非野郎についていって僕たちは二人揃ってタキシードへ着替えた。
一応僕たちにもコーディネイトの人は付いていたけど僕と雄二の二人で一人だった。
まぁ女性の方が時間掛かるだろうし……
そして美波たちの着替えが終わるまで控え室の方へ……
「そういえば、雄二?」
「なんだ?」
「このあと、どうするのさ?」
「このあとって?」
「ちゃんと最後まで結婚式やるつもり無いんだろ?」
「当たり前だ。そんな事したら本当に人生決められちまうからな」
「でも霧島さんのことは嫌いじゃないんだよね?」
「ごほっ、げほっ……いきなり何言いやがる!?」
「俺の事より、お前の方はどうなんだよ?」
「僕?」
「ああ。お前は島田と、このまま式を続けたいと思ってるんじゃないのか?」
「なっ、何言ってるのさっ!?」
「図星か」
たぶん僕の顔が真っ赤になっているんだろう。
雄二がニヤニヤした顔で続けてくる。
「誓いの言葉までは待ってても良いんだがな……奴等が大人しくしてればだが」
「奴等?」
「なんでもない、こっちの話だ……それより明久、ものは相談なんだが?」
「なにさ?」
「式を終了させるにあたって、ちょいと時間稼ぎをしたいんだが……」
「どうやって?」
「キスをしてくれな……ゴフッ!」
雄二が言葉を最後まで言い切る前に僕の拳が雄二の顔面にめり込んだ。
雄二の目が覚めたかな?
…………覚めたなら、二度と覚めなくなるまで殴るよ。
僕たち大親友だもんね。
友達なら間違った事をしようとする友達は自分の命を懸けてでも止めないといけないと思うんだ。
そいつの息の根を。
「すまん。言い方が悪かった……キスをするのはお前と島田だ」
「でっでっ、でで出来る訳無いだろっ!?」
とんでもない事、言い出したよ?
殴る量が足りなかったか。
「そうか?島田もまんざらじゃないと思うんだが」
「だっ、ダメだよっ。もぅ美波を利用するような事をして傷付けたくないんだっ!」
「傷付く?」
「そうだよ。煽る為とか騙す為とか……そんな理由で美波を利用するなんて絶対許さないっ!」
「そうか……悪かった。すまん、この話は忘れてくれ」
「判ってくれたなら良いよ」
「まぁ、お前の頭なら今日の夕飯の時には忘れてると思うがな」
失礼な。明日の朝には覚えてないと思うけど。
「そう言えば雄二は、僕と美波じゃないと優勝出来ないみたいな事言ってたけど……」
「言ったかもな」
「なんで、そんな事言えたのさ?」
「葉書に競技が書いてあるって言っただろ?」
「そうだね」
そう言えば葉書で見たのは見出しだけで内容は見てなかったな。
「競技の名前は書いてあったけど、どういう内容かまでは書いてなかったがな」
「そういえばクイズも問題が全部ドイツ関連だったね……まるで美波に答えてくれと言わんばかりに」
「そりゃそうだろ。俺の時は『わかりません』と答えきる前に正解にするくらいだったからな」
「あっ!じゃあ、似非野郎が雄二の言った事で問題を作っていたのかな?」
確かお昼御飯食べてた時に来て、雄二が似非野郎に何か言ってた気がする。
「俺は独り言を言っただけだぞ。問題を出したのは奴等だからな」
「そうだけど……」
「如月グループとしては文月学園の生徒のカップルなら誰でも良かったんじゃないか?」
「そんなもんかな」
「そんなもんだ」
「坂本サン、吉井サン。お待たせしまシタ」
僕と雄二は控え室を出て似非野郎に付いていく。
舞台に上がる小さな階段前まで来ると……
『それではいよいよ本日のメインイベント、ウェディング体験です!』
『皆様、まずは新郎の入場を拍手でお迎えください!』
先ほどのクイズ会場よりも広いみたいだ。
聞こえてくる拍手の大きさが桁違いだった。
「坂本サン、吉井サン。さァ、どうゾ」
「じゃあ、行こうか雄二」
「ああ、せっかくだ。この雰囲気を楽しむ余裕、見せてやろうじゃねぇか」
僕と雄二は小さな階段を駆け上がった。
ステージに上がると…………
ステージを取り囲むようにある数え切れないスポットライトや
スモークの設備や数々の電飾や大型のテレビなどなど。
『それでは新郎お二人のプロフィールは……時間が勿体無いので省略します』
あれ?なんか雄二だけの時より扱い酷くない?
雄二の時は『省略します』だけだったのに
僕が居ると『時間が勿体無いので』まで言われちゃったよ……
「人の事なんかどうでもいいよな~」
「だよね~」
最前列に座っている人達から、そんな声が聞こえてきた。
声の主は……さっきのお姫様抱っこで失格した茶髪カップルだった。
どうでもいいなら、わざわざ来なくても良いのに。
『他のお客様のご迷惑になりますので大声での私語はご遠慮頂ける様お願い致します』
「これってあたしらのこと言ってんの~?」
「カンケーねぇよ、発言の自由だろ」
調子に乗った下卑た笑い声がしばし続いた。
(雄二もついてないね……また邪魔されそうだよ?)
(気にするな)
眼中に無い、と言った感じの雄二。
『それではいよいよ新婦のご登場です』
次の明久と美波、雄二と翔子のウェディング体験は
同時進行していると思って頂けると幸いです。