世界で三番目に速いジェットコースターってことらしいけど
いきなりあんな高いところまで行くのか…あそこから落下を利用してスピードが出るのかな。
シートは二人ずつ座るタイプか。そうすると葉月ちゃんと美波で座った方がいいかな。
なんて考えていると…
「葉月、バカなお兄ちゃんの隣ですっ」
座席指定されてしまった。恐る恐る美波を見てみると…
「アキ。良かったわね」
全然良くない。その笑顔の瞳に光が点ってない。
僕はこれから起こるであろう惨劇に震えるしか出来なかった。
『安全バーが下がります。お気をつけください』
「くぺっ」
安全バーが下がり始める直前を狙った攻撃だった。
僕の後ろへ座った美波の、首への一撃は的確にヒットし、僕は気を失った。
『お疲れ様でした。お気をつけてお降り下さい』
「ほら、アキ。降りるわよ」
「バカなお兄ちゃん。降りるです」
気が付くと二人に抱えられていた。
「バカなお兄ちゃんはジェットコースター苦手なんですか?ずっと寝てたです」
「ごめんね、葉月ちゃん。今日のことが楽しみで、昨日ちょっと寝られなかったんだよ」
「そんなに葉月とデートするのが楽しみだったなら仕方ないですっ」
まさしく天真爛漫といった笑顔。
「あの状態で寝てられるなんてアキって大物ね」
その大物を一撃で屠る貴方は何様でしょうか。
「さて次は何処に行こうか?」
僕が二人に聞いていると、近くで親子連れがノインとフィーと一緒に花壇の前で写真を撮っていた。
「葉月、バカなお兄ちゃんと一緒に写真撮りたいです」
「ほぇ?僕と?」
僕との写真を欲しがってくれるのか…ちょっと嬉しい。
「携帯でも良いかな?」
そういえばデジカメとか持ってきてなかったな…ムッツリーニなら5、6台くらいはいつも持ってそうだけど。
「はいです。後で写真立てに飾れるようにしてくれればっ」
「じゃあウチが撮るわね」
やれやれ、といった表情で美波が携帯を手にする。
僕と葉月ちゃんだと身長差があるので花壇の縁に葉月ちゃんに立ってもらい
二人並んでる写真を撮ってもらう。
それでもちょっとだけ僕の方が高かった。
「葉月もう一枚写真撮って欲しいですっ」
にこにこしながら笑顔で葉月ちゃんが言ってきた。
うーん。今まで撮ってきたのは普通の写真だから
決定的瞬間みたいな面白い写真でも撮りたいのかな?
それとも…
「お姉ちゃんと一緒に写るのかな?それなら僕が撮るから美波の携帯貸してくれる?」
「違うです。バカなお兄ちゃんと一緒に写るんですっ」
花壇の縁からジャンプして僕の首に抱きついてきた。
「うわっ」
いきなり抱きつかれたのでびっくりしたけど葉月ちゃんを落とさないように抱きかかえた。
「んにゃ~」
頭を撫でてるときみたいに目を細めてる葉月ちゃん。
面白過ぎる。
「お姉ちゃん写真撮ってくださいですっ」
美波を見ると…ここからでも判るくらいワナワナ震えていた。
携帯のカメラって手ブレ補正機能ついてたかな。
これが僕の遺影にならなければ良いけど…
……まったく予想外だった。
葉月ちゃんに抱き付かれてのツーショットの写真撮影の後
てっきりドロップキックからの関節技だとばかり思っていた。
「これでお姉ちゃんから写真借りなくてもいいですっ」
という葉月ちゃんの一言で美波は真っ赤になって動かなくなってしまった。
僕としては助かったんだけど…なんでだろう?
きっと葉月ちゃんがまだ僕に抱き付いていたからなんだろうな。
次は何処に行こうかなと辺りを見ていると、ふっと時計台が目に入り、時計を見ると午後一時少し前。
「そろそろお腹すかない?」
「おなかぺこぺこですっ」
両手を上げて元気いっぱいアピールする葉月ちゃん。
「あ、お弁当作ってきたのよ」
美波が僕に渡したバッグを指差す。
如月ハイランドは園内にお弁当など持ち込んで食事することも出来る様に
食事用のテーブルが設置されている。
さすがにお昼時なのでテーブルは割りと埋まっていたけど
噴水のそばの広場のテーブルが空いていたのでそこにする。
「なにか飲み物を買ってくるよ。何がいい?」
「葉月ミルクティーが良いです」
「ウチはストレートティーで」
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「おまたせ」
ほどなくペットボトル三本を持って戻り、それぞれ渡す。
「ありがと」
「ありがとうですっ」
テーブルの上は、すでにお弁当が広げられていた。
色とりどりのサンドイッチ、一つづつ摘めるように楊枝が刺してあるウィンナーや唐揚げ
フライやミニトマトなどなど。
「すごくきれいだね」
「ありがと。味のほうは保障しかねるけどね」
「大丈夫だよ。美波の料理は美味しいからね」
美波の料理で危ないのはシューマイと飲み物…どちらも激辛に仕立ててくる。
幸いにして今日はシューマイは見えないし、飲み物はさっき買ってきたもので毒物の混入は不可能。
それに葉月ちゃんもいるから誰に当たるか判らない劇物は混ぜてこないだろう。
「「「いただきまーす」」」
サンドイッチを一つ摘んで口へ運ぶ…うん、美味しい。
「アキ、味はどう?」
「すごく美味しいよ」
「お姉ちゃんの料理はいつも美味しいですっ」
「ありがと」
はにかんだような笑顔の美波。
料理も美味しいけど、この笑顔を見ながら食べるからもっと美味しくなってるんじゃないかな。
「バカなお兄ちゃん、あーんしてですっ」
葉月ちゃんがウィンナーを一つ持って言ってきた。
「あーん」
もぐもぐ…うん、美味しい。
「美味しいよ」
葉月ちゃんに笑顔で答えると…
「アキ。はい、あーん」
美波も唐揚げを持って、あーんをやってきた…ちょっと恥ずかしいけど、せっかくだから
「あーん」
もぐもぐ…ぐっはぁぁぁぁぁ辛いぃぃぃぃぃぃぃ
「みっ美波っ、これっすっごく辛いっよっ」
「うん、それお仕置き用だから」
満面の笑みで答えてくれる美波。
「鶏肉をデスソースに漬け込んで唐揚げ粉にハバネロの粉末を混ぜたのよ」
一気にペットボトルの中身が半分以上消えた。
「まさか昨日会ったのはこれを買うために…」
「なんのことかしらね」
「ひどいよ。美波…」
まだ少し咳き込みながら言うと
(葉月にばっかり甘いアキも悪いのよ)
さっきまでテーブルの上になかった小さい容器を持って小声で言われた。
葉月ちゃんが間違って食べないように分けておいたのか。
でも僕にお仕置きするところまで想定しているとは…やっぱり女の子ってよくわからない。
「「「ごちそうさまでした」」」
ちょっとお仕置きされたけど、それ以外は本当に美味しかった。
「すごく美味しかったよ」
「アキ…ありがと」
テーブルの上を片しながら美波は嬉しそうに返事をしてくれた。
「美波の料理を毎日食べれる人は幸せだよね」
葉月ちゃんを見ながらそう言った…だから葉月ちゃんはあんなに笑顔でいられるのかな。
「なっなっなっなにっなにっいってってるっのよっ」
美波が顔を真っ赤にして、しどろもどろになっていた。
テーブルの上を片付け終わると指をもじもじさせながら真っ赤な顔をして俯きながら美波は聞いてきた。
「ア…アキは、その…ウチの料理を毎日食べたいの?」
「うーん…毎日は悪いから一週間に一度でも食べたいかな」
もちろんお仕置き用じゃないやつをね。
「じゃあ、じゃあ……」
「ん?なに?」
「一週間に一回くらいウチがお弁当作ってあげるって言ったら…アキは嬉しい?」
「うん。嬉しいよ」
「そっか」
なにかを決心したような美波。
ちょうどそのとき少し離れたところで葉月ちゃんに呼ばれた。
「お姉ちゃん、バカなお兄ちゃん、葉月これに乗りたいですー」
「葉月ちゃん待たせちゃ悪いね」
「ふふっ、そうね」
「バッグ持とうか?」
「お弁当なくなって軽くなったから大丈夫よ」
すっと左手を出してくる美波。
「代わりにこっちを持ってくれる?」
いきなり手を握られた…美波を抱えて走れと言うのだろうか。
食後にいきなりきついことを…
「ほら、アキ行くわよ」
美波に引っ張られたので、また手を繋いで葉月ちゃんの方へ走り出した。
なんか今日は美波にドキドキさせられるな。