葉月ちゃんが居たのはジャングルの中をトロッコで進んで行くアトラクションだった。
「葉月ちゃんはこれに乗りたいんだね」
「はいですっ。オランウータンさんとか象さんとか見たいですっ」
お昼御飯を食べて元気をチャージした葉月ちゃんは嬉しそうに言った。
「オランウータンか…美波も楽しめそうだね」
たしか美波の人類として前衛的過ぎる恋の相手だ。
「アンタまだ勘違いしてるのっ!?」
美波に怒られた。
「あ、ごめん…チンパンジーだったっけ」
召喚獣を使った肝試しの前日にクラスの中心で叫んでいたな。
「アンタいつまで誤解してるのよ…ウチが本当に好きなのは、すっごいバカだけど人類よ」
美波が泣きそうになりながらポツリと呟いた。
(バカなお兄ちゃん)
くいくいっと袖を引っ張りながら葉月ちゃんが顔を寄せてきた。
(なにかな?)
(前におうちでお勉強したとき、お姉ちゃんの部屋にあったオランウータンさんの写真は葉月のです)
(そうだったの?)
僕はすごい勘違いをしていたな…それなら美波が怒るのは無理もない。
(あのとき葉月がお姉ちゃんの部屋から借りたのは…)
『次の方、こちらへどうぞ~』
次は僕たちだったので葉月ちゃんのお話が最後まで聞けなかった。
うーん。美波は人類って言ってるし、誰の写真だったのか気になるな。
ジャングルの中はロボットや、壁や天井まで使ったCGで動物の息使いまで聞こえてきそうなほど
すごくリアルな感じがした。技術の進歩ってすごいな。
あ、オランウータンが出てきた。ちらっと美波を見ると…すごい形相で睨まれた。
オランウータンは誤解だったと後で謝っておいた方が良いな。
でもチンパンジーは美波が自分で言ってたしなぁ…
今度はチンパンジーが集団で…美波を見るまでもなく物凄い殺気が伝わってくる。
あ、チンパンジーが散り散りに逃げ出した。逃げ出したのはきっと演出で
作り物なのに美波の殺気に驚いて逃げたのではないと信じたい。
葉月ちゃんは象やゴリラなど動物が出てくると嬉しそうに手を伸ばしていた。
そのたびに美波はその左手を、僕は右手を握ってあげていた。
小さな子が手を伸ばしたくらいではトロッコからはみ出ることはないだろう。
安全面では問題ないと思うけど、やっぱり危ないからね。
ジャングルツアーが終わって外に出た。トロッコを降りてから特に気にしてなかったけど
左側が美波で真ん中が葉月ちゃん、僕が右側で三人仲良く手を繋いでいる。
仲良し親子みたいだな…そう思ったら急に顔が火照ってきた気がした。
…あれ?美波も顔が赤いような?
「お姉ちゃん?バカなお兄ちゃん?どうかしたですか?二人ともお顔が真っ赤ですよ?」
「な、なんでもないよ」
「そっ、そうね」
「あ、葉月と手を繋いでるからドキドキしてるんですか?」
にこにこしながら聞いてくる葉月ちゃん。
「そうだね」
出来るだけ笑顔で答える。
「少しこうやって歩きましょ」
「はいですっ」
葉月ちゃんも嬉しそうだった。
しばらく三人で歩いていると廃病院を改造したと言うお化け屋敷が見えてきた。
「お化け屋敷があるですっ」
葉月ちゃんが興味津々といった風に見ている。
この前の肝試しで怖がってしおらしくなっていた美波はすごく可愛かった。
でも僕の腕を壊しかねないくらい怖がってた美波を見るのもちょっと辛かったしな…
美波も妹の手前、姉として恥ずかしいところは見せたくないだろうけど
葉月ちゃんが行きたいと言ったら、たぶん断らないだろう。
「お化け屋敷は暗くて葉月ちゃんの顔がよく見えなくなっちゃうから、あっちの明るいところでクレープでも食べない?」
葉月ちゃんと手を繋いでいる反対の右手で
少し離れたところにある色とりどりの屋根があるところを指差す。
「そうね」
「はいです」
二人とも了承してくれたようだ。
(アキ、ありがと)
美波の笑顔が見れて良かった。
「結構種類があるなぁ」
クレープと一口に言っても種類は様々だ。
「葉月ちゃんは何が食べたいのかな?」
「葉月はイチゴとクリームのが欲しいです」
「ウチはチョコにしようかな…アキは何にするの?」
「ん?僕は良いよ」
今はそんなに甘いものはいらないかな、と思ってたんだけど。
「アキも頼んでくれたら三種類楽しめるのよ」
「そっか」
「バカなお兄ちゃんも頼んでくださいっ」
何がいいのかな。
「葉月ちゃんと美波は何を食べたいのかな?」
とりあえず二人が食べたいものを頼んでおけば間違いないだろう。
「そうね…」
「お待たせしました」
そう言われて僕に出てきたものは…キャラメル掛けバナナと生クリームの蜂蜜掛けチョコレートソースの
シナモンパウダーを振りかけたものにゼリービーンズまでトッピングされている。
たぶん今パーク内にある一番甘い物だろう。
二人の意見を聞いてたら、どんどん追加された。二人の気持ちに涙が止まらない。
「アキ、あーん」
「バカなお兄ちゃん、あーんです」
二人一緒に自分たちのクレープを僕の口元に出してくる。
「えっと…僕は後で良いよ」
「だめっ。先にアキに食べて欲しいの」
「葉月もですっ」
二人とも目が物凄く真剣だ。僕に毒見して欲しいのだろうか。
でも普通のお店のクレープにしか見えないけど…僕のスペシャルを除いて。
ああ、そうか。僕のクレープと、どれくらい甘さが違うか試してみたいのかな。
でも僕が最初に二人のクレープを食べても意味無いな。
「バカなお兄ちゃん、早くですっ」
「アキっ、きっと美味しいわよ」
二人とも目が真剣なんだけど何かを期待しているような感じがするのは僕の考えすぎかな。
とりあえず僕が先に食べないと食べてくれそうにないので…仕方ない。
はむっ…もぐもぐ
うん、イチゴの酸味とクリームのまろやかさが程よくマッチしてる。
はむっ…もぐもぐ
うん、甘すぎないチョコソースと少し甘めのチョコチップの食感が良いな。
「美波のも葉月ちゃんのも美味しいね」
僕は笑顔で、そう答えた。
「「いただきます」」
二人とも食べ始めてくれた。
さて僕も、このスペシャルなヤツを片付けるかな。
「アキ、あーん」
「バカなお兄ちゃん、あーんです」
さっきも聞いた台詞がリピートされた。
どうやら僕が一口食べて自分たちが一口食べてを繰り返すらしい。
美波と葉月ちゃんがお互いのクレープを交換して二人の分が無くなるまで僕に「あーん」は続いた。
結局、僕の分も二人で半分こしてやっぱり「あーん」を交互におねだりされた。
一ヶ月くらい甘い物はいらないと思うけど二人ともすごく嬉しそうだったから良いかな。